クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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一年后

飲み会

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「ありがとう」
 結局俺は紀原くんの傘にいれてもらい、運転手に乗り込んだ。
 男同士で、相合傘もしょうがないときはあるんだから。
 気にする方がおかしい。

 俺はそう自分に言い聞かせて、エンジンをかける。
「紀原くん、濡れた?大丈夫?」
 助手席に乗り込んだ彼に俺はそう問いかける。 
 彼の傘だ。
 彼が濡れたんじゃ、元も子もない。
「大丈夫です」
 心配する俺に彼はにこりと笑い、俺はほっと胸を撫で下ろした。


「実田くん~。今晩暇?」
 会社に戻り、今日の報告書を書いていると、三木本さんがひょこりと顔をのぞかせた。
「暇ですけど」
「よかった。暇なんだ。今日谷口先輩と飲むんだけど、実田くんもどうかなって思って」
「え、俺ですか?別にいいですけど。他のみんなも一緒ですか?」
「誘ったんけど、今日はみんな都合が悪いみたいなのよ」
「みんな?俺、誘われてませんよ!」
 隣の席の彼がふいに俺達の会話に割り込む。
「あ、紀原くん。ごめん。忘れてた」
 忘れてた?
 それはないよな。三木本さんっ。
「忘れていたって、三木本先輩酷いですよ!」
 俺がそう思ったくらいだ。当事者の紀原くんは口を尖らせて不服そうな顔を見せる。
「ごめん、ごめん。だったら、紀原くんも来ていいから」
「来ていいからって酷いですよ」
 確かにその言い方はないかもな。
 三木本さんはなぜか彼に対しては妙に冷たい。
 あからさまじゃないから、俺しか気づいてないみたいだけど。
 なんでだろう?
 悪い奴じゃないのに。
「ははは。ごめん、ごめん」
 彼女がそう言い、結局俺達は一緒に飲むことになった。


「谷口先輩。お久しぶりです。すみません~。結局、実田くんと新人くんしか都合がつかなかったです」
「はは。いいわよ。突然だったし」
 半年ぶりに会う谷口先輩は、前よりも若くなっているような感じだった。肌も艶々に光っていて結婚生活の幸せぶりが伝わってきた。
「これが噂の新人くんね」
「噂?!」
 紀原くんが谷口先輩の台詞に顔をしかめる。
「悪い噂じゃないわよ。遊び人風の新人が入って来たっていうだけだから」
「遊び人ってそれって十分悪い噂じゃないですか!」
「ははは!」
 紀原くんのリアクションに谷口先輩は笑いだし、飲み会は始まる。


「いやあ、本当に君。22歳?どうみても30歳にしか見えないわよ?」
 ずけずけ言っても傷つく様子を見せない紀原くんに谷口先輩は攻撃を仕掛ける。
 いや、痛いこというような。
 俺だったら、結構傷つく。
 しかし、紀原くんは笑いながら応対していた。
「昔からこんな顔と身長なんで、子供の時から大人料金とか結構酷い目に会いましたね。遊園地行って、変な顔されたり大変でした」
「いやあ、それは大変!紀原くんって結構苦労人なのね」 
 ふむふむと谷口先輩の横で三木本さんが同情のまなざしで頷く。
 俺も思わず同様に頷いた。
 俺の場合、どっちかっていうと童顔だから20歳過ぎてお酒飲んでて変な顔されたりしたことあるなあ。
 童顔の方が、老け顔より得か。
 俺は妙なことを考え、一人で納得する。
「そういえば、王さん。中国でどうしてるのかな?」
「!」 
 ふいに谷口先輩に聞かれ、俺は思わず持っていたビールジョッキを落としそうになる。
「実田先輩!大丈夫ですか?」
 それを見た紀原くんがまじまじと俺を見つめた。
 後輩に心配されるなんて、馬鹿だな。俺。
「大丈夫、はは。酔ったかな」
 俺はから笑いするとジョッキをテーブルの上に置く。
「多分元気でやってるんじゃないですか?会社辞めてから誰もどうしてるかわからないみたいですけど」
 俺は動揺を必死にごまかしながらそう答えた。
 そう、彼は去年7月会社を辞めた。 
 だから、誰にも今の彼のことはわからない。
「そうなんだ。いやいや、ごめんね。聞いちゃって」
 谷口先輩は少し引きつった笑いと浮かべるとそう言い、生ビールの残りを飲んだ。

 結局それから、雰囲気がまずくなり、飲み会はお開きとなった。

「じゃあ、私達一緒に帰るから」
 二人は店の外でそそくさそう言うと、ひらひらと手を振って繁華街に消える。
 時間はまだ8時、時間あるもんな。二人で飲むかもな。
 なら最初から二人で飲めばよかったのに。

 秀雄(シュウシュン)のことを聞かれ、嫌な気持ちになった俺はそんなことを思ってしまう。

「実田先輩、これから俺と飲みなおしませんか?」
 駅に歩き出そうとした俺に、紀原くんがにこりと笑ってそう聞いてくる。
「えっと、」
 どうしようか。
 明日も仕事があるし、嫌な気分のまま飲む気になれない。
 終電があるうちに帰りたいし……
「1時間くらい付き合ってください」
 かなり深刻な表情でそう言われ、俺は頷くしかなかった。
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