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序章
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ハランデンの王妃は一つ罪を犯した。
それは嫉妬に駆られて、王の子を宿した身重の使用人を城から追い出したこと。
表向きは、使用人自身が己の意志で辞職し、城から姿を消したことにして……。
その腹に子がすでに宿っているなど王自身は知らないこともあり、王妃の手前、悲嘆にくれるだけであった。
使用人の手引きをした騎士は引退間際の男で、王妃から莫大な報酬を得て田舎に篭ったはずだった。
けれども八年後、死ぬ間際で男はこの秘密を甥――ボフミル・アデミツに漏らした。
その秘密に出世の匂いを嗅ぎ取った甥の下級騎士は、使用人を探し出す事に将来をかけた。
使用人探しは難航し隣国サシュセまで足を伸ばして彼は、やっと足取りを掴んだ。
「この指輪を首からかけていた赤子、それが君の妹なんだね」
「うん」
使用人が最後に辿り着いた街で、ボフミルは偶然、王が彼女に贈ったとされる指輪らしきものを身につけた少女を見つけた。蜂蜜色の髪に青い瞳の少女は貧しい服を着ていたが、容姿は整っており、話に聞いた使用人に類似していた。
けれども確かめてみると、指輪の持ち主は彼女ではなく、その妹だという。
「私が本当の子なのに、お母さんも、お父さんもいつもあの子のことばっかり。不公平よ。あの子は拾った子なのに」
飴玉を渡された彼女は、饒舌に家のことを語る。
どうやら使用人は産後すぐに息を引き取り、その後彼女の両親がその子を引き取ったらしい。
彼女は現在八歳、その子は七歳。
姉には厳しく、妹にはすこし優しくなるのはどこの家庭でもよくあることなのだが、彼女はそれが不満らしい。この指輪も妹に黙って持ってきたと彼女は少し自慢げだ。
ボフミルは、彼女になぜか好意を持った。それは同類の匂いというものかもしれなかった。
彼女に頼み、家に連れて行ってもらったとき、それは確信にかわった。
優しい穏やかな家族の中で、彼女だけが異質だった。
ボフミルは、この優しい家族の雰囲気がいやで、用事を早く終わらせたいと思った。
指輪の持ち主である彼女の妹が、実は隣国ハランデンの王女であること。
王が帰りを待ちかねているから、連れて戻りたいと伝えると、家族はすぐに同意しなかった。
七歳の少女は姉と違って大人しく、ただ両親の後ろに隠れているだけでその意志は見えなかった。ただ姉の彼女は妹が王女だと聞き、とても嫌な顔をしていた。
彼女の両親は、王女の迎えがボフミルだけなことに疑問を持っているようだった。
その通り、王女の話は王はまだ知らない。
先に王に知らせると、王命になりボフミルではなく、別のものが派遣され王女を見つけられてしまう。だから、彼は手柄を自分だけのものにするために、一人で使用人の行方を追っていたのだ。
どうにか両親を説き伏せ、彼らも連れてハランデンへ戻ることになった。
馬車を借り、隣国への道すがらボフミルの苛立ちは高まる一方だった。善良な家族、疑うことを知らない純粋な妹。一緒にいるだけで虫唾が走ったのだが、そんな中ただ姉だけはボフミルの癒しだった。自分ではなく妹が王女だということ、その旅に同行していることの苛立ち。
人間らしい、影の醜い感情、それがボフミルには心地よかった。
この娘が本当に王女だったら、どんなに気が楽だろう。
共に手を取り合い、彼女は王女になるという幸福を、そして彼は王女にもっとも信頼される騎士という身分を手に入れる。八年も隠されていた王女はさぞかし王に可愛がられ、彼女は愛情を、そして彼は王に重用されるようになるだろう。
そんなことを考えるようになったボフミルは、道中とても醜い顔をしており、車内の空気は緊張していく。
彼の中で、願望が、渇望に変わり、目の前に座る家族たちが邪魔でしかなくなった。彼が必要なのはただ、姉のラウラだけであった。
「そうだ。ラウラを王女にすればいい」
彼の呟きはとても小さくて誰にも聞こえないものだった。
――数週間後、ハランデンでは王妃が病気療養のため王宮を離れ、王女アレナが王宮へ迎えられた。
その容姿は八年前に消えた使用人と同じ、蜂蜜色の髪に青い瞳をしていたという。
それは嫉妬に駆られて、王の子を宿した身重の使用人を城から追い出したこと。
表向きは、使用人自身が己の意志で辞職し、城から姿を消したことにして……。
その腹に子がすでに宿っているなど王自身は知らないこともあり、王妃の手前、悲嘆にくれるだけであった。
使用人の手引きをした騎士は引退間際の男で、王妃から莫大な報酬を得て田舎に篭ったはずだった。
けれども八年後、死ぬ間際で男はこの秘密を甥――ボフミル・アデミツに漏らした。
その秘密に出世の匂いを嗅ぎ取った甥の下級騎士は、使用人を探し出す事に将来をかけた。
使用人探しは難航し隣国サシュセまで足を伸ばして彼は、やっと足取りを掴んだ。
「この指輪を首からかけていた赤子、それが君の妹なんだね」
「うん」
使用人が最後に辿り着いた街で、ボフミルは偶然、王が彼女に贈ったとされる指輪らしきものを身につけた少女を見つけた。蜂蜜色の髪に青い瞳の少女は貧しい服を着ていたが、容姿は整っており、話に聞いた使用人に類似していた。
けれども確かめてみると、指輪の持ち主は彼女ではなく、その妹だという。
「私が本当の子なのに、お母さんも、お父さんもいつもあの子のことばっかり。不公平よ。あの子は拾った子なのに」
飴玉を渡された彼女は、饒舌に家のことを語る。
どうやら使用人は産後すぐに息を引き取り、その後彼女の両親がその子を引き取ったらしい。
彼女は現在八歳、その子は七歳。
姉には厳しく、妹にはすこし優しくなるのはどこの家庭でもよくあることなのだが、彼女はそれが不満らしい。この指輪も妹に黙って持ってきたと彼女は少し自慢げだ。
ボフミルは、彼女になぜか好意を持った。それは同類の匂いというものかもしれなかった。
彼女に頼み、家に連れて行ってもらったとき、それは確信にかわった。
優しい穏やかな家族の中で、彼女だけが異質だった。
ボフミルは、この優しい家族の雰囲気がいやで、用事を早く終わらせたいと思った。
指輪の持ち主である彼女の妹が、実は隣国ハランデンの王女であること。
王が帰りを待ちかねているから、連れて戻りたいと伝えると、家族はすぐに同意しなかった。
七歳の少女は姉と違って大人しく、ただ両親の後ろに隠れているだけでその意志は見えなかった。ただ姉の彼女は妹が王女だと聞き、とても嫌な顔をしていた。
彼女の両親は、王女の迎えがボフミルだけなことに疑問を持っているようだった。
その通り、王女の話は王はまだ知らない。
先に王に知らせると、王命になりボフミルではなく、別のものが派遣され王女を見つけられてしまう。だから、彼は手柄を自分だけのものにするために、一人で使用人の行方を追っていたのだ。
どうにか両親を説き伏せ、彼らも連れてハランデンへ戻ることになった。
馬車を借り、隣国への道すがらボフミルの苛立ちは高まる一方だった。善良な家族、疑うことを知らない純粋な妹。一緒にいるだけで虫唾が走ったのだが、そんな中ただ姉だけはボフミルの癒しだった。自分ではなく妹が王女だということ、その旅に同行していることの苛立ち。
人間らしい、影の醜い感情、それがボフミルには心地よかった。
この娘が本当に王女だったら、どんなに気が楽だろう。
共に手を取り合い、彼女は王女になるという幸福を、そして彼は王女にもっとも信頼される騎士という身分を手に入れる。八年も隠されていた王女はさぞかし王に可愛がられ、彼女は愛情を、そして彼は王に重用されるようになるだろう。
そんなことを考えるようになったボフミルは、道中とても醜い顔をしており、車内の空気は緊張していく。
彼の中で、願望が、渇望に変わり、目の前に座る家族たちが邪魔でしかなくなった。彼が必要なのはただ、姉のラウラだけであった。
「そうだ。ラウラを王女にすればいい」
彼の呟きはとても小さくて誰にも聞こえないものだった。
――数週間後、ハランデンでは王妃が病気療養のため王宮を離れ、王女アレナが王宮へ迎えられた。
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