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第三章 暴かれる秘密
07
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リーディアは買い物を終え、屋敷に戻るとするのだが通りに人が立ち並び、中々前に進むことができなかった。
そうしてシアラに言われていたことを思い出す。
――今日は隣国の王女様がいらっしゃるから混むからね。早めに戻ってくるんだよ。
思わず久々に会った果物売りと話し込んでいたら、いつの間にか通りは人で埋め尽くされていた。
(ごめんね。シアラ)
帰りが遅くなりそうな上、こういう時はスリに遭いやすい。
普段は王都には警備兵が随時見回っているため、その確率は低いし、あったとしても警備兵が捕まえてくれる可能性もあった。
けれども、今日は人が溢れ帰り、警備兵は人々が王女一行の邪魔をしないように見張るので精一杯の様子だった。
財布の中身は買い物を終わらせた後なので小額だが、盗まれるのは避けたい。野菜や果物、肉類が入った編み籠を抱え、首元から賭けている財布を籠と胸の間に隠す。
できるだけ早足で進もうとするのだが、興奮した人たちがリーディアの行く手をふさぐ。
「アレナ王女殿下!」
誰が言い出したのかわからないが、一人がそう叫ぶと他の者たちも次々を歓声を上げ始める。
「ア、レ、ナ……」
その名を聞くと頭痛が始まるのは変わらず、何度もその名が歓呼され、リーディアは眩暈を覚えて座り込んでしまった。
群集は興奮状態でしゃがんだ彼女に気がつかない。
そうなると、踏み潰されるのは自然の流れなのだが、一人の男がリーディアの傍に立ち、その危機を救う。
男の年齢は、フラングス男爵と同じ位、立派な顎鬚を携えている。身なりは騎士そのものであったが、エリアスとは様子が異なっていた。それが羽織っているマントの色だと気がつき、隣国の騎士であることに気がついた。
「すみません。ありがとうございます。騎士様」
頭痛に堪えて顔を上げ礼をいうと、男は顔をこわばらせた。
「君の名は、なんというのだ」
名を聞くなら名乗ってから、それが礼儀なのだが、助けてもらったこともあり、リーディアは口を開く。
「私はリーディアでごさいます」
「リーディアか。買い物の途中であったのだな。気をつけて帰るがいい」
いつの間にか王女の一行はかなり進んでいて、歓呼する声も小さくなっていた。おかげで眩暈もしなくなっていた。
「ありがとうございます。騎士様」
「リーディア!」
頭を下げてその場を去ろうとしたところ、エリアスが慌てた様子で駆け寄ってきた。彼女が無事なのを確認した後、その前にいた騎士に目を留める。
「ハランデンの騎士団の方ですね。リーディアが何かしましたか?」
彼がなぜそのような言い方をしたのか、隣国の騎士相手だからと理由はわかっているのだが、リーディアはエリアスに迷惑をかけてしまったかもしれないと俯く。失礼な態度はとっていないと思っているが、彼女はそのまま騎士の返事を待った。
「彼女は何もしてはいない。ただ気分が悪そうにうずくまっていたので声をかけたのだ。あのままだと民衆に踏み潰されていただろうから」
「そうですか。ありがとうございます」
騎士の返答に安堵したのはエリアスも同じで、軽く頭を下げる。リーディアも遅れて慌てて頭を下げた。
「この娘、リーディアは君の使用人なのか?」
「……そうです。あなたは何故、彼女の名前を?知り合いなのですか?」
「いや、先ほど娘に聞いたのだ。失礼したな。殿下の馬車が随分先に行ってしまったようだ。私はこれで」
隣国の騎士は頭を下げると、足早にその場を去る。
エリアスはその騎士の態度に少しばかり引っかかる思いを抱えた。助けた娘の名前などわざわざ聞くだろうか……と。
「リーディア。あの騎士は君に名を名乗ったか」
「いえ」
「それはおかしいな」
名を尋ねる時は、己の名前を先に名乗るのが礼儀だ。それはハランデンも同じのはずだった。
エリアスが目を凝らして騎士の背を追うが、彼はすでに馬上でその姿は瞬く間に視界から消えてしまった。
「エリアス様?」
立ちすくむ彼にリーディアが声をかける。
「なんでもない。さあ、屋敷に戻ろう。殿下のおかげで、リーディアの危機にも間に合ったし、配置替えもよかったかもしれない」
「エリアス様?」
「荷物は俺が持つ」
「それは困ります」
「女性に重いものを持たせるなど、騎士の風上にもおけないだろう」
「それはそうなのですが……」
リーディアは抱え込むように籠をもっていたが、エリアスは軽々とその籠を手に取る。そうして歩き出してしまったので、彼女は慌てて追うしかなかった。
そうしてシアラに言われていたことを思い出す。
――今日は隣国の王女様がいらっしゃるから混むからね。早めに戻ってくるんだよ。
思わず久々に会った果物売りと話し込んでいたら、いつの間にか通りは人で埋め尽くされていた。
(ごめんね。シアラ)
帰りが遅くなりそうな上、こういう時はスリに遭いやすい。
普段は王都には警備兵が随時見回っているため、その確率は低いし、あったとしても警備兵が捕まえてくれる可能性もあった。
けれども、今日は人が溢れ帰り、警備兵は人々が王女一行の邪魔をしないように見張るので精一杯の様子だった。
財布の中身は買い物を終わらせた後なので小額だが、盗まれるのは避けたい。野菜や果物、肉類が入った編み籠を抱え、首元から賭けている財布を籠と胸の間に隠す。
できるだけ早足で進もうとするのだが、興奮した人たちがリーディアの行く手をふさぐ。
「アレナ王女殿下!」
誰が言い出したのかわからないが、一人がそう叫ぶと他の者たちも次々を歓声を上げ始める。
「ア、レ、ナ……」
その名を聞くと頭痛が始まるのは変わらず、何度もその名が歓呼され、リーディアは眩暈を覚えて座り込んでしまった。
群集は興奮状態でしゃがんだ彼女に気がつかない。
そうなると、踏み潰されるのは自然の流れなのだが、一人の男がリーディアの傍に立ち、その危機を救う。
男の年齢は、フラングス男爵と同じ位、立派な顎鬚を携えている。身なりは騎士そのものであったが、エリアスとは様子が異なっていた。それが羽織っているマントの色だと気がつき、隣国の騎士であることに気がついた。
「すみません。ありがとうございます。騎士様」
頭痛に堪えて顔を上げ礼をいうと、男は顔をこわばらせた。
「君の名は、なんというのだ」
名を聞くなら名乗ってから、それが礼儀なのだが、助けてもらったこともあり、リーディアは口を開く。
「私はリーディアでごさいます」
「リーディアか。買い物の途中であったのだな。気をつけて帰るがいい」
いつの間にか王女の一行はかなり進んでいて、歓呼する声も小さくなっていた。おかげで眩暈もしなくなっていた。
「ありがとうございます。騎士様」
「リーディア!」
頭を下げてその場を去ろうとしたところ、エリアスが慌てた様子で駆け寄ってきた。彼女が無事なのを確認した後、その前にいた騎士に目を留める。
「ハランデンの騎士団の方ですね。リーディアが何かしましたか?」
彼がなぜそのような言い方をしたのか、隣国の騎士相手だからと理由はわかっているのだが、リーディアはエリアスに迷惑をかけてしまったかもしれないと俯く。失礼な態度はとっていないと思っているが、彼女はそのまま騎士の返事を待った。
「彼女は何もしてはいない。ただ気分が悪そうにうずくまっていたので声をかけたのだ。あのままだと民衆に踏み潰されていただろうから」
「そうですか。ありがとうございます」
騎士の返答に安堵したのはエリアスも同じで、軽く頭を下げる。リーディアも遅れて慌てて頭を下げた。
「この娘、リーディアは君の使用人なのか?」
「……そうです。あなたは何故、彼女の名前を?知り合いなのですか?」
「いや、先ほど娘に聞いたのだ。失礼したな。殿下の馬車が随分先に行ってしまったようだ。私はこれで」
隣国の騎士は頭を下げると、足早にその場を去る。
エリアスはその騎士の態度に少しばかり引っかかる思いを抱えた。助けた娘の名前などわざわざ聞くだろうか……と。
「リーディア。あの騎士は君に名を名乗ったか」
「いえ」
「それはおかしいな」
名を尋ねる時は、己の名前を先に名乗るのが礼儀だ。それはハランデンも同じのはずだった。
エリアスが目を凝らして騎士の背を追うが、彼はすでに馬上でその姿は瞬く間に視界から消えてしまった。
「エリアス様?」
立ちすくむ彼にリーディアが声をかける。
「なんでもない。さあ、屋敷に戻ろう。殿下のおかげで、リーディアの危機にも間に合ったし、配置替えもよかったかもしれない」
「エリアス様?」
「荷物は俺が持つ」
「それは困ります」
「女性に重いものを持たせるなど、騎士の風上にもおけないだろう」
「それはそうなのですが……」
リーディアは抱え込むように籠をもっていたが、エリアスは軽々とその籠を手に取る。そうして歩き出してしまったので、彼女は慌てて追うしかなかった。
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