偽りの王女と真の王女

ありま氷炎

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終章

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「お姉ちゃん!」

 九年ぶりに再会した姉は、やはり美しく、リーディアは直ぐに彼女に抱き着く。

「ア、アレナ!」
 
 ラウラが戸惑っているのが伝わってきたが、彼女は先ほどの不安を打ち消すように姉を強く抱きしめた。

「……リーディア。気持ちはわかるけど、そろそろラウラを開放してくれないかな」

 それを止めたのは飽きれ顔のヴィートで、エリアスはリーディアのこのような行動にただ茫然としてしまっていた。
 彼の制止でやっとおかしな雰囲気に気が付いたリーディアは慌ててラウラから離れる。

「ごめんなさい。お姉ちゃん。あまりにも嬉しくて」
「謝らなくていいのよ。アレナ。謝るのは私のほうなのだから」

 ラウラは、彼女が幼い時のように微笑んでくれる。けれどもその微笑みに影が見えて、リーディアは胸を痛めた。
 怒りはボフミルに向かい、あの高笑いを再び思い出した。

(お姉ちゃんを救う。それは私を庇ってくれたお母さんが最後まで望んだことなのだから)

 リーディア自身、姉のことを大切に思っているが、それ以上に母の言葉は彼女の気持ちを駆り立てる。思えばそれがあったからこそ、リーディアは足を踏み出し、ドミニクたちに見つけてもらうことにつながった。
 あのまま崖の下にいたならば、後始末を任された男たちに消されたかもしれない。

「リーディア」

 黙ってしまった彼女にエリアスが声をかける。

「ごめんなさい。少し考え事をしてしまって」
「積もる話があるみたいだけど、時間がない。とりあえず今後の方針を話すのを先にしようか」

 重苦しい雰囲気を打ち破るようにヴィートがそう言って、これから起こるべきだろうことを話し始めた。
 リーディアが王女として帰還した今、ラウラとボフミルの処罰について裁きが行われるはずであり、そこでラウラがボフミルに利用されただけだと主張することが重要と、ヴィートは語る。
 セシュセですでにリーディア、エリアス、ヴィート達は話していたことなので、お互いに確認するように頷いた。けれども、ラウラだけは何か痛みに堪えるような表情をしていた。
 気が付いたヴィートが彼女に話を振ったが、ラウラは何も言わない。

「ラウラ。君にお願いがある。ボフミルの意図には絶対に乗らないで。彼は君を道連れにするつもりだ」
「お姉ちゃん!私からもお願い。絶対に否定して。彼はお姉ちゃんを共犯に仕立てるつもりなのだから」

 ヴィートの言葉を受け、ボフミルの高笑いが脳裏に蘇り、リーディアも必死にそう訴える。けれどもラウラは口を開かなかった。

「ラウラ。俺からも頼む。リーディアはあなたを救うためにここまで必死にやってきた。目覚めた彼女が一番気にしていたことも、あなたのことなんだ。だから頼む」
 
 黙っていたエリアスも口を挟む。
 そうしてラウラはやっと話した。

「ありがとう。でも、私はやはり罪を背負うべきなのよ。お父さんとお母さんを見殺しにして、アレナ……。あなたのことも。私が王女になりたいと願った気持ちは否定できないわ」

 彼女の青い瞳から涙がこぼれ、それは頬を伝って床に落ちる。

「ラウラ!」
「お姉ちゃん!」

 ヴィートが、リーディアが、抗議をするように名を呼ぶが、ラウラは首を横に振った。

「ごめんなさい。本当に……」
「ラウラ。だめだ。絶対にボフミルの言葉に同意してはいけないよ」
「お姉ちゃん。お母さんは最後までお姉ちゃんのことを心配してた。王女になりたい。そんなの誰だって思うことなの」

 リーディアが記憶を取り戻し、ずっと片隅にあって、否定したかった思い。それはエリアスへの想いだ。王女という立場を得て、彼女は今エリアスに釣り合う立場にある。想う事すら許されないかもと否定しそうになったこともあった。けれども今は違う。
 彼は手の届く存在になり、その恋心は強くなる一方だった。
 王女という立場によって可能になった事、可能になることは無限にあるだろう。だからこそ、今はラウラが王女になりたかったという気持ちがわかる。

「お姉ちゃんはただ願っただけ。願うことは罪じゃない」
「アレナ……。でも私は……」
「お姉ちゃん。お願い。生きて。お父さんとお母さんの願いでもあるの」
「アレナ……」
「お姉ちゃん。罪とか考えなくてもいいの。私はもうアレナという名は捨てるつもり。リーディアとして幸せになりたい。だから、お姉ちゃんも、ね」

 リーディアは必死に姉を説得しようとした。
 アレナという名は不幸を呼ぶ。
 姉も自分もアレナという名から解き放たれ、前に向かって進むべきだと考えていた。

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