【中編版】「愛している」と言われたのに、前世の事を話したとたん、冷たくなりました。

ありま氷炎

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一章 愛している

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(どうしてこんなことに!)

 二回目の茶会、ローズはハイゼランド公爵夫人と対面した。緊張していたがどうにか挨拶もして、後は他の参加者と話をしようかと思っていたのだが、ローズは夫人に捕まった。彼女の母も同様で、如何にも親密な関係に周りには見えていたはずだった。

(これじゃ、誰も話しかけてくれないわ。いえ、話しかけてきたとしてもハイゼランド様関連。私に求婚の事でとか、そういうのは絶対無理だわ)

 ローズは母と共に屋敷に戻った後、部屋に籠った。
 予定通り行かず、淑女にあるまじき行為だと思いながらも、気持ちを持て余して手に持っていたクッションを壁に投げつける。

(ハイゼランド様は、本当に私に好意をもっているの?そうよね。そうじゃないとこの状況おかしいもの。それとも、何か理由があって私に好意を持っていると思わせたいのか)

 後者の場合は、前世関連にしか思えず、ローズの気持ちはとことん落ちこんでしまった。
 悶々として過ごしていると、ケヴィンから手紙が届く。
 王都で話題の薔薇園への誘いで、ローズはどうにか断れないとかと思案した。けれども両親に背中を押され、仕方なく了承の返事をするしかなかった。
 着ていくドレスもないのにと思っていると、ローズの元にドレスが届く。
 それはケヴィンからますます頭を抱えることになった。

「私の贈ったドレスを身に付けてくれて嬉しいよ」
「本当に何から何までありがとうございます」

 ローズは戸惑いいっぱいで迎えにきたケヴィンに言葉を返す。
 彼はジェイスと同じ顔を喜びで満たして微笑む。

(胸が痛い)

 前世で彼(ジェイス)をいつも怒らせ、眉間に皺を寄せた顔したみたことがなかった。
 こんな顔を見せつけられ、ローズの胸が痛む。

(別人。別人なんだから。顔が似てるだけ)

 そう言い聞かせて、ローズはエスコートをする彼に任せ馬車へ乗り込んだ。
 三十分ほど馬車に揺られ、薔薇園に到着する。
 車内でもニコニコと微笑まれ、ローズは居た堪れなかった。到着した時はほっとして安堵の息を吐きそうになり、それを噛み殺したくらいだった。

 薔薇園というだけあって、園内ではさまざまな色、種類、大きさの薔薇が咲き誇っていた。

「これを君に」

 棘処理がされた一輪の真っ赤な薔薇をケヴィンが彼女に差し出す。
 彼女が驚くよりも先に、周りが湧いて彼は苦笑して場所を移すように彼女を誘導した。そこは明らかに人払いされた場所で、四阿(あずまや)があり、ケヴィンはハンカチを取り出すと椅子の一つに敷き、彼女に座るように促す。自身のほうが身分が下で戸惑ったが、女性を優先にするのが普通だと考え腰掛けた。ケヴィンは安堵してからその前に座った。

「あまりにもうれしくて周りも気にせず薔薇を渡してしまった。改めてこの薔薇を君に」
「あ、ありがとうございます」
「君の髪にさしてもいいか?」
「え、あの」
「初めて会った時、君はまるで森の妖精のようだった。あの時も花を髪に飾っていただろう?」
「ええ……」

 髪飾りを買う余裕がなくて、庭の花を摘んで髪に飾ったことを思い出し、ローズは引き攣った笑みを浮かべてしまった。

(妖精のように……。貧祖だとは思われてなかったのね)

 ドレスも予算が会わなくて派手なものは購入できなかった。あの場にふさわしい格好ができたはずだが、他の令嬢に比べて衣装が劣っていたのは確かだった。
 ケヴィンから妖精のようと例えられ、絵本の中の簡素なワンピースを着た妖精を思い出してしまったが、よい意味で受け取ることにした。
 そうこうローズが考えている間に、薔薇を髪に飾り終えたケヴィンは満足げに彼女を見ていた。髪に触れていたためか、ダンスをするくらい近い距離に彼がいて、思わず俯いてしまった。

「ローズ。顔を上げて」

 そう言われれば顔を上げるしかない彼女はケヴィンを仰ぐ。
 どこからどうみても、やっぱりメガネをかけていないジェイスにしか見えない彼は、優しい青い瞳を彼女に向けていた。

「ローズ・ウィットリー。私はあなたに恋をしてしまったようだ。あなたの隣はまだ空いているか?」

(私の……隣……)

 ふと前世でロイとして共に戦っていた時を思い出し、ローズは目を閉じた。
 そして再び目を開く。

(違う。そうじゃない)

 彼の青い瞳に写っているのはローズだった。
 ローズ・ウィットリー。十六歳の美しい令嬢だ。
 そして彼はジェイスではなく、ハイゼランド公爵令息のケヴィンだ。

 見つめ合い、沈黙が流れる。
 それを破ったのは小さな鳴き声だった。

「猫?」

 先に反応したのはケヴィンだった。
 小さな黒猫が二人に近づいてきていた。

「野良猫か?」
「可愛いですね」

 ケヴィンが先に動き猫に近づいてく。ローズは助かったとばかり、その動きに追随した。彼はしゃがみこんで猫の頭を撫でていた。

「猫、好きなのですか?」

(ジェイスは猫を飼っていたことがあった)

 そんなことを思い出しながらローズは尋ねる。
 すると一瞬彼が顔を顰め、彼女は驚いた。

「嫌いだな」

 (やっぱり、この人はジェイスじゃない。よかった)

 ジェイスが猫を拾って、可愛いと話していたのをロイの記憶として覚えている。
 しかし、ケヴィンは猫の頭を撫でたまま。
 
「す、すみません!」

 不意に声がして庭師と思われる青年が現れた。

「ああ、ミィ。ここにいたのか。本当すみません!」

 どうやら青年は飼い主のようで黒猫を抱くとぺこぺこと頭を下げる。

「ああ、君が飼い主か。それはよかった」
「ご迷惑おかけしました」
「そんなことは。まあ、大切にしたほうがいい」
「はい。ありがとうございます」

(嫌いだって言ったわ。なのに)

 ケヴィンの様子は少しおかしかった。

「……猫は嫌いなんだ。すぐに死んでしまうから。昔、少し家を離れた間に猫が死んでいたことがあって。それ以来猫は嫌いだ」

 彼は猫の飼い主から視線を外すと、それまでの彼とはまったく異なった様子でそう口にした。

(ジェイス。そう、ジェイスは任務で三日ほど家を開けた。野良猫だった猫なんだからと乾いた餌を家に置いて出かけたと言っていた。そしたら、家で猫は死んでいた。外傷はなかったらしい)

「変な話をしてしまった。ちょっと昔を思い出して」

 ケヴィンの困ったような笑み、それはジェイスにしか思えなかった。

(ああ、きっと、彼はジェイスだ。そして彼は知らない。私がロイの生まれ変わりなことを。だからこそ、好意を持ってくれている)

 彼はそれから告白まがいのことを蒸し返すことはなかった。 
 それはローズにとっては嬉しいはずなのに、胸が痛かった。
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