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第17話 最終話
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「私は本当に愚かで最低な男でした。本当に申し訳ありません」
「旦那様」
項垂れる軍務大臣に、うろたえるオレックス。
屋敷に戻って軍務大臣は私たちを彼の書斎に招き、説明した。
副団長はずっと私の傍にいてくれて、この三週間、私はどれくらい自分が疲れていたのかに気が付いた。
けれども気を奮い立てて、話を聞いた。
私がオレックスによって屋敷を連れ出された後、カルメンが軍務大臣に連絡。副団長は庭師であった間者からの連絡が途切れたのがわかって、屋敷にすぐにやってきたみたい。
そこで軍務大臣と副団長が鉢合わせして、お互いの情報を交換したみたい。
どうやって穏便に話が進んだのか、本当に謎だけど。
オレックスもそうみたいで首を捻っていた。
殴られたりしたから、すっかりオレックスには不信感しかないけど、この時ばかりは仲間意識が生まれた。
軍務大臣は私の母が殺された本当の経緯をしり、すぐに動いて、それに副団長もついて行ってみたい。
「私はずっと勘違いをしてました。まさか実の弟が殺していたなんて。しかも娘まで手に掛けようとしていたなんて……」
凌辱されかかったんだけど、と思ったのだけど、副団長がそこまで話さなかったみたい。
それなら私も黙っているのが正解だ。
「アノン。本当にすまなかった。この償いは必ずする」
「それでは、戦争を中止してください。お願いします」
私の目的はそれだ。
「もちろん、それは私の命に代えてもする。それ以外のことで何かできることはないか?」
「ありません」
私の願いは戦争中止だ。
それ以外にない。
「ありますわ」
副団長はすっかりいつもの口調だ。
商人ライアットであった副団長と話した事があるオレックスは口をぽかんと開けている。
確かに副団長の変装技術はすごい。
「アノン君を正式にあなたの娘にしてくれないかしら?」
「え?」
「それは嬉しいことですが、アノンは……」
「私は全く望んでません」
「私はあなたが貴族になってくれることを願ってるわ。そうすると結婚するのも楽でしょう?敵だった国の貴族同士が結びつくなんて、ロマンチックでしょう?」
「ふ、副団長?!」
思わずそう呼んでしまった。
「え?お前は副団長のギル・エルガートか」
「そうよ?会えて嬉しい?」
「いや、それなら納得するわ。本当、女みたいなしゃべり方すんだな」
「そうよ。悪いかしら?」
「いや、悪くないけど」
まだ戦争は続いている。
敵同士だ。
それなのにこんな会話。
おかしくなってくる。
「アノン。君はそれを望むのですか?」
「そ、それって」
「このギルとの結婚です」
「えっと、あの、考えたことがなくて」
「そうなの?だったら、今考えて?」
「ギル。それは急ぎすぎです。アノンが望めば私は彼女を娘として貴族登録します。望まなくてもそうしたいのですが、まだ難しいでしょう」
軍務大臣はやはりいい人みたいだ。
カルメンたちが信じたように。
私はずっとこの人を殺すことしか考えていなかった。
「じゃあ、とりあえず国に戻りましょ」
「え、副団長?あの任務は?」
「大成功でしょ?戦争中止よ。そうよね?お義父様(おとうさま)」
「お、お義父様(おとうさま)?!」
私の声と軍務大臣の声が重なってしまう。
「……カルメンの言った通り、確かに似てる」
オレックスがそうつぶやく。
周りのみんなは軍務大臣を私の父だと認めているようだけど、私は複雑な心境だ。憎悪の感情はなくなったけど、どう接していいのか、わからない。大体、お母さんは本当にこの人が好きだったのかな。お母さんはお父さんは死んでしまったとしか言わなかったから。
「アノン君。家に帰ったら見せたいものがあるの。中身は私もまだ見ていないけど、想像通りだとアノン君も気持ちが変わるかも」
軍務大臣に見送られ、私たちは馬車に乗って国境へ向かう。
彼が発行した書類を見せれば問題なく国境を越えられた。
それから任務終了の報告のため、本部に向かう。
馬車の中で不覚にも私は寝てしまって、副団長に起こされた。
口調は副団長だけど、格好は野性的な商人のままだから不思議だ。
報告は、大隊長にではなく、団長に直接だった。
団長なんて、一回しか会ったことがなくて、緊張した。副団長が全部説明してくれて助かった。
そうしてヘロヘロで、家に帰った。
「今日はもう休みましょう。明日話しましょうね」
副団長に言われ、ほっとして自室へ戻る。
一か月近く不在だったので、少し埃っぽかったけど、疲れて過ぎていて、どうでもよかった。
ベッドに飛び込むと、すぐに意識が飛ぶ。
目覚めたのは副団長の驚いた声だった。
「副団長?!」
声がした場所に走ると、焦げたベーコンがのったフライパンを持っている副団長がいた。
「アノン君。起きちゃったの?!ああ、私、料理なんてしたことないから」
「副団長!私がしますから」
「あら。今は二人だからギルと呼んでね」
「は、はい。ギル様。ではこちらに座ってください」
フライパンの上のベーコンは黒くて炭みたいになっていた。
まだ火があるうちに作った方がいいと思って、私は照れることもなく副団長の名前を呼んで、準備を始める。
犠牲になったのがベーコンだけでよかった。
安堵して、卵を焼いた後に、厚めに切ったベーコンを焼く。
「アノン君。うまいわねぇ。やっぱり」
「ありがとうございます」
焼くだけなので、料理ともいえない気がするけど、まあ、いいや。
そうしてパンを発見して、あぶってからお皿に載せた。
「副団長は先に食べていてください。私は顔を洗ってきます」
身支度を整えて台所に戻ってきても副団長はまだ食べてなかった。
「すみません。お待たせしたみたいで」
「一緒に食べたほうが美味しいから。私、アノン君の食べる姿も好きなの」
副団長から言われる好き。
何度言われても慣れない。
そう言えば、結婚の話してたよね。あれって……。やっぱり偽装なのかな?結婚したほうが家族から追及がないからかな。
「アノン君。考え事?私はあなたが何を考えているかわかるわよ。勘違いしてるでしょ?私はあなたを好きよ。それは愛しているの意味。伴侶にしたいわ」
「は、伴侶。でもあの」
「うーん。私ね。はっきり言って、人って嫌いなのよ。特に女が嫌いだった。十代の頃が付きまとわれたりしたから。でもこういう話し方をするようになったり、軍隊で誘われるから遊んでいると、女から絡まれなくなったのよね。それはせいせいしたわ。私が男としていたのは本当」
し、刺激が強すぎる。
うん、知っていたいけど。
「私、女としたことがないのよ。それでもいい?」
「へ?」
「私の初めての相手になってくれる?」
「えええ?」
いや、いや、副団長。
なんていうか、刺激が強すぎて死にそう。
「ごめん。焦りすぎたわ。これじゃあ、絶対に結婚許可が下りないわね。お義父上から」
「お義父上」
「アノン君。朝食終わったら渡すものがあるわ。私は中身を読んでないわ」
「読む?」
朝食が終わって、渡された者は一冊の本だった。
それは日記で、母の日記だった。
母が殺されたのは私が六歳の時。
おぼろげだけど、日記をつけていたのを覚えている。
隣国の兵士に侵略されて村も被害にあったから、全部燃えてると思ったけど、残っていたんだ。
「遅くなってごめんね。それを入手したのはたまたまなの。最初の一ページは読んじゃったわ。何かわからなかったから」
日記の最初のページは、
『愛しい私の家族。トニーとアノンへ』
と書かれていた。
そこには軍務大臣……父と出会った経緯、母の恋心、別れ、などが書かれていて、日々募る彼への想いが書かれていた。
母は父を待っていたんだ。
でも父は……。
軍務大臣を父と認める。
だけど、やっぱり許せない。
なんで、母を迎えにこなかったの?
六年も。
「和平が結ばれるでしょ。それが成立したら、会いに行きましょう」
「はい」
☆
「待っていましたよ。アノン、ギル」
和平条約が結ばれ、私は一か月後に父に会いに行った。
もちろん、母の日記をもって。
まずは父に日記を読んでもらった。
その間、別れの挨拶ができてなかったから、カルメンたちに挨拶に行った。カルメンたちは結局戻ることをやめたらしい。彼女たちの背景は色々複雑で、この屋敷にいたほうが心地よいと感じる者が多かったからだ。
副団長はいつもの様子で、その話し方でちょっと引かれていたけど、その後は仲良くなったみたい。
ううん。なんか戦っていたような……。
副団長は相変わらず女性には厳しい。
私も女なんだけど……。
不思議な気持ちだ。
「アノン」
部屋に戻ると、父が泣いていた。
「すまない。本当にすまない。なんてこと」
父は謝ってばかりだ。
「どうして六年も」
背景は知っている。
父の父、私の祖父に当たる人が亡くなって大変だったみたいだ。その後、アスリエル教との調整もあったりして。
分かってる。
だけど、私は母が苦労していたのを知っている。
あの日記で母はずっと父のことを想っていた。
「すまない」
過ぎたことはしかたない。
ただ悲しい。
「私は許せません。だけど、あなたが私の父であることは認めます。母がこんなにあなたを愛していた。だから母は私を愛してくれた。あなたの子でもあるから」
涙が出てくる。
母は父のことを語らなかった。
死んだと言った。
だけど、本当はこんなに愛して、帰りを待っていた。
私に死んだと伝えたのは、諦めたかったからかもしれない。
「私は絶対にあなたのようなことをしないわ。シュナイド卿」
「ああ、頼む」
副団長はいつも私を見守ってくれている。
困ったときはいつも助けてくれる。
父に母の日記を託して、私と副団長は国へ戻った。
また来ると父には約束した。
和平条約が結ばれ、戦争は中止された。
けれども軍は必要だ。
私はそのまま軍に所属した。
女性として。
力は男性には劣るけど、弓などは私の方ができたりする。
いざ戦争が再開した時に女性も自ら身を守る必要がある。
私は女性に身を学ぶ術を取得してほしかった。
副団長とはまだ一緒に暮らしている。
いつ、結婚するって聞かれるけど、まだわからない。
副団長のことは好きだと思う。
だけど、なんていうか、そういうことをしたいとか、そういう気持ちがわからない。だから、そういう気分になるまで、結婚はしない。
結婚って子供を作るものだよね?
だからそういうものだよね?
副団長に同意を求めたのだけど、答えてもらえなかった。
でも笑って、いつまでも待つと言われた。
父には半年に一度会いに行っている。
いまだに複雑だけど、会うとやっぱり嬉しい。
次は父が来る予定だ。
軍務大臣は和平条約が落ち着くまでは務めると言っていた。
やっぱりアスリエル教の動きは逐次監視する必要があるみたいた。オレックスは軍に入って、監視役になっているみたい。
適任だ。
ちなみオレックスとカルメンは結婚した。
私も結婚式には参加して、花束をもらった。
それは乾燥して家に飾っている。
私は毎日が楽しい。
副団長に襲われてびっくりしたけど、今思えば副団長に襲われてよかったなあと思ってる。それじゃないと私は今頃生きていないだろうから。
(完)
「旦那様」
項垂れる軍務大臣に、うろたえるオレックス。
屋敷に戻って軍務大臣は私たちを彼の書斎に招き、説明した。
副団長はずっと私の傍にいてくれて、この三週間、私はどれくらい自分が疲れていたのかに気が付いた。
けれども気を奮い立てて、話を聞いた。
私がオレックスによって屋敷を連れ出された後、カルメンが軍務大臣に連絡。副団長は庭師であった間者からの連絡が途切れたのがわかって、屋敷にすぐにやってきたみたい。
そこで軍務大臣と副団長が鉢合わせして、お互いの情報を交換したみたい。
どうやって穏便に話が進んだのか、本当に謎だけど。
オレックスもそうみたいで首を捻っていた。
殴られたりしたから、すっかりオレックスには不信感しかないけど、この時ばかりは仲間意識が生まれた。
軍務大臣は私の母が殺された本当の経緯をしり、すぐに動いて、それに副団長もついて行ってみたい。
「私はずっと勘違いをしてました。まさか実の弟が殺していたなんて。しかも娘まで手に掛けようとしていたなんて……」
凌辱されかかったんだけど、と思ったのだけど、副団長がそこまで話さなかったみたい。
それなら私も黙っているのが正解だ。
「アノン。本当にすまなかった。この償いは必ずする」
「それでは、戦争を中止してください。お願いします」
私の目的はそれだ。
「もちろん、それは私の命に代えてもする。それ以外のことで何かできることはないか?」
「ありません」
私の願いは戦争中止だ。
それ以外にない。
「ありますわ」
副団長はすっかりいつもの口調だ。
商人ライアットであった副団長と話した事があるオレックスは口をぽかんと開けている。
確かに副団長の変装技術はすごい。
「アノン君を正式にあなたの娘にしてくれないかしら?」
「え?」
「それは嬉しいことですが、アノンは……」
「私は全く望んでません」
「私はあなたが貴族になってくれることを願ってるわ。そうすると結婚するのも楽でしょう?敵だった国の貴族同士が結びつくなんて、ロマンチックでしょう?」
「ふ、副団長?!」
思わずそう呼んでしまった。
「え?お前は副団長のギル・エルガートか」
「そうよ?会えて嬉しい?」
「いや、それなら納得するわ。本当、女みたいなしゃべり方すんだな」
「そうよ。悪いかしら?」
「いや、悪くないけど」
まだ戦争は続いている。
敵同士だ。
それなのにこんな会話。
おかしくなってくる。
「アノン。君はそれを望むのですか?」
「そ、それって」
「このギルとの結婚です」
「えっと、あの、考えたことがなくて」
「そうなの?だったら、今考えて?」
「ギル。それは急ぎすぎです。アノンが望めば私は彼女を娘として貴族登録します。望まなくてもそうしたいのですが、まだ難しいでしょう」
軍務大臣はやはりいい人みたいだ。
カルメンたちが信じたように。
私はずっとこの人を殺すことしか考えていなかった。
「じゃあ、とりあえず国に戻りましょ」
「え、副団長?あの任務は?」
「大成功でしょ?戦争中止よ。そうよね?お義父様(おとうさま)」
「お、お義父様(おとうさま)?!」
私の声と軍務大臣の声が重なってしまう。
「……カルメンの言った通り、確かに似てる」
オレックスがそうつぶやく。
周りのみんなは軍務大臣を私の父だと認めているようだけど、私は複雑な心境だ。憎悪の感情はなくなったけど、どう接していいのか、わからない。大体、お母さんは本当にこの人が好きだったのかな。お母さんはお父さんは死んでしまったとしか言わなかったから。
「アノン君。家に帰ったら見せたいものがあるの。中身は私もまだ見ていないけど、想像通りだとアノン君も気持ちが変わるかも」
軍務大臣に見送られ、私たちは馬車に乗って国境へ向かう。
彼が発行した書類を見せれば問題なく国境を越えられた。
それから任務終了の報告のため、本部に向かう。
馬車の中で不覚にも私は寝てしまって、副団長に起こされた。
口調は副団長だけど、格好は野性的な商人のままだから不思議だ。
報告は、大隊長にではなく、団長に直接だった。
団長なんて、一回しか会ったことがなくて、緊張した。副団長が全部説明してくれて助かった。
そうしてヘロヘロで、家に帰った。
「今日はもう休みましょう。明日話しましょうね」
副団長に言われ、ほっとして自室へ戻る。
一か月近く不在だったので、少し埃っぽかったけど、疲れて過ぎていて、どうでもよかった。
ベッドに飛び込むと、すぐに意識が飛ぶ。
目覚めたのは副団長の驚いた声だった。
「副団長?!」
声がした場所に走ると、焦げたベーコンがのったフライパンを持っている副団長がいた。
「アノン君。起きちゃったの?!ああ、私、料理なんてしたことないから」
「副団長!私がしますから」
「あら。今は二人だからギルと呼んでね」
「は、はい。ギル様。ではこちらに座ってください」
フライパンの上のベーコンは黒くて炭みたいになっていた。
まだ火があるうちに作った方がいいと思って、私は照れることもなく副団長の名前を呼んで、準備を始める。
犠牲になったのがベーコンだけでよかった。
安堵して、卵を焼いた後に、厚めに切ったベーコンを焼く。
「アノン君。うまいわねぇ。やっぱり」
「ありがとうございます」
焼くだけなので、料理ともいえない気がするけど、まあ、いいや。
そうしてパンを発見して、あぶってからお皿に載せた。
「副団長は先に食べていてください。私は顔を洗ってきます」
身支度を整えて台所に戻ってきても副団長はまだ食べてなかった。
「すみません。お待たせしたみたいで」
「一緒に食べたほうが美味しいから。私、アノン君の食べる姿も好きなの」
副団長から言われる好き。
何度言われても慣れない。
そう言えば、結婚の話してたよね。あれって……。やっぱり偽装なのかな?結婚したほうが家族から追及がないからかな。
「アノン君。考え事?私はあなたが何を考えているかわかるわよ。勘違いしてるでしょ?私はあなたを好きよ。それは愛しているの意味。伴侶にしたいわ」
「は、伴侶。でもあの」
「うーん。私ね。はっきり言って、人って嫌いなのよ。特に女が嫌いだった。十代の頃が付きまとわれたりしたから。でもこういう話し方をするようになったり、軍隊で誘われるから遊んでいると、女から絡まれなくなったのよね。それはせいせいしたわ。私が男としていたのは本当」
し、刺激が強すぎる。
うん、知っていたいけど。
「私、女としたことがないのよ。それでもいい?」
「へ?」
「私の初めての相手になってくれる?」
「えええ?」
いや、いや、副団長。
なんていうか、刺激が強すぎて死にそう。
「ごめん。焦りすぎたわ。これじゃあ、絶対に結婚許可が下りないわね。お義父上から」
「お義父上」
「アノン君。朝食終わったら渡すものがあるわ。私は中身を読んでないわ」
「読む?」
朝食が終わって、渡された者は一冊の本だった。
それは日記で、母の日記だった。
母が殺されたのは私が六歳の時。
おぼろげだけど、日記をつけていたのを覚えている。
隣国の兵士に侵略されて村も被害にあったから、全部燃えてると思ったけど、残っていたんだ。
「遅くなってごめんね。それを入手したのはたまたまなの。最初の一ページは読んじゃったわ。何かわからなかったから」
日記の最初のページは、
『愛しい私の家族。トニーとアノンへ』
と書かれていた。
そこには軍務大臣……父と出会った経緯、母の恋心、別れ、などが書かれていて、日々募る彼への想いが書かれていた。
母は父を待っていたんだ。
でも父は……。
軍務大臣を父と認める。
だけど、やっぱり許せない。
なんで、母を迎えにこなかったの?
六年も。
「和平が結ばれるでしょ。それが成立したら、会いに行きましょう」
「はい」
☆
「待っていましたよ。アノン、ギル」
和平条約が結ばれ、私は一か月後に父に会いに行った。
もちろん、母の日記をもって。
まずは父に日記を読んでもらった。
その間、別れの挨拶ができてなかったから、カルメンたちに挨拶に行った。カルメンたちは結局戻ることをやめたらしい。彼女たちの背景は色々複雑で、この屋敷にいたほうが心地よいと感じる者が多かったからだ。
副団長はいつもの様子で、その話し方でちょっと引かれていたけど、その後は仲良くなったみたい。
ううん。なんか戦っていたような……。
副団長は相変わらず女性には厳しい。
私も女なんだけど……。
不思議な気持ちだ。
「アノン」
部屋に戻ると、父が泣いていた。
「すまない。本当にすまない。なんてこと」
父は謝ってばかりだ。
「どうして六年も」
背景は知っている。
父の父、私の祖父に当たる人が亡くなって大変だったみたいだ。その後、アスリエル教との調整もあったりして。
分かってる。
だけど、私は母が苦労していたのを知っている。
あの日記で母はずっと父のことを想っていた。
「すまない」
過ぎたことはしかたない。
ただ悲しい。
「私は許せません。だけど、あなたが私の父であることは認めます。母がこんなにあなたを愛していた。だから母は私を愛してくれた。あなたの子でもあるから」
涙が出てくる。
母は父のことを語らなかった。
死んだと言った。
だけど、本当はこんなに愛して、帰りを待っていた。
私に死んだと伝えたのは、諦めたかったからかもしれない。
「私は絶対にあなたのようなことをしないわ。シュナイド卿」
「ああ、頼む」
副団長はいつも私を見守ってくれている。
困ったときはいつも助けてくれる。
父に母の日記を託して、私と副団長は国へ戻った。
また来ると父には約束した。
和平条約が結ばれ、戦争は中止された。
けれども軍は必要だ。
私はそのまま軍に所属した。
女性として。
力は男性には劣るけど、弓などは私の方ができたりする。
いざ戦争が再開した時に女性も自ら身を守る必要がある。
私は女性に身を学ぶ術を取得してほしかった。
副団長とはまだ一緒に暮らしている。
いつ、結婚するって聞かれるけど、まだわからない。
副団長のことは好きだと思う。
だけど、なんていうか、そういうことをしたいとか、そういう気持ちがわからない。だから、そういう気分になるまで、結婚はしない。
結婚って子供を作るものだよね?
だからそういうものだよね?
副団長に同意を求めたのだけど、答えてもらえなかった。
でも笑って、いつまでも待つと言われた。
父には半年に一度会いに行っている。
いまだに複雑だけど、会うとやっぱり嬉しい。
次は父が来る予定だ。
軍務大臣は和平条約が落ち着くまでは務めると言っていた。
やっぱりアスリエル教の動きは逐次監視する必要があるみたいた。オレックスは軍に入って、監視役になっているみたい。
適任だ。
ちなみオレックスとカルメンは結婚した。
私も結婚式には参加して、花束をもらった。
それは乾燥して家に飾っている。
私は毎日が楽しい。
副団長に襲われてびっくりしたけど、今思えば副団長に襲われてよかったなあと思ってる。それじゃないと私は今頃生きていないだろうから。
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