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チェス大会
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カリーナ様に手紙を書いたら、すぐに返事が来た。
とても綺麗な字で、これはもう王妃決定ね。
私、字が汚いのよね。もちろん、ものすごいゆっくり書いたら、そこそこ読める字にはなるけど。
一度目の人生で、ユーゴ殿下であれアダン殿下であれ、王太子妃になる可能性が高かった。本当、大それたことを考えたわね。私。
カリーナ様の手紙からアダン殿下への好意がちらちら見えて微笑ましかったわ。
私の計画はきっとカリーナ様にとってもいいことになる。
また対局したいって書かれていて、ユーゴ様にちょっとお願いしようかしら。
でもこちらから連絡取る方法が見当たらないのよね。
そんなことを考えて過ごしていると、ユーゴ殿下がひょっこりお屋敷に現れた。
お父様は泡を吹いて倒れそうだし、お母様は謎の笑みを浮かべていたわ。
っていうか、アダン殿下の婚約者候補になって欲しいと思うなら、こちらに来るのは良くない気がするのだけど。
きっとバレないように上手く抜け出してるに違いないけど。
「マノン。次の機会が決まったよ。チェス大会だ。だから、僕が特訓してあげよう」
「え?」
部屋に来て早々、ユーゴ殿下はそうおっしゃった。というか、今日も部屋で二人っきりなのですが、十二歳とはいえ、男女を二人っきりにしてもいいのかしら?お母様?
まあ、元婚約者同士といえども、何もあるわけないですけど。私なんて殺人犯ですし。
それよりもチェス大会?特訓?
「兄上がカリーナ嬢とチェスをするのがとても楽しかったみたいなんだ。それを聞いて王妃陛下が思いついたのがチェス大会。十二歳から十五歳の貴族の子女を集めてチェスを競わせる。今朝参加案内を送ったところだ。参加締め切り一週間後。開催は二週間後だ」
「唐突ですね」
「面白いよね。王妃陛下は」
ユーゴ殿下は目を細めて懐かしむような表情をしていた。
本当に慕っているのね。だからこそ、王妃様が事故で亡くなることを防ぎたいのよね。アダン殿下への影響よりもそっちのほうが本命かもしれないわね。
「で、マノン。この大会で上位に入れば、兄上にぐんと近づくと思うよ。この間、ヴァラリー嬢と勝負していただろう。集中すれば結構君は強いと思うんだ」
「そう、そうですか?」
ちょっと嬉しい。
っていうか、見られてないと思ったら、見てくださっていたのだわ。
びっくり。
「そう、可能性があるのだから僕が手伝うよ。今日から特訓しよう。参考になる本も持ってきたから、大会までこの問題集を解いて頭で練習してね」
うわあ。
なんていうか、勉強好きじゃないのに。
私の嫌そうな顔は表に出ていたみたいで、ユーゴ殿下は悲しそうな顔をされる。
「僕は、今度こそは殺されたくないんだ。だから、王妃陛下に存命してもらう必要があるし、兄上はそのまま健やかに即位してほしいと思っている。だから、マノン」
「わかりました!」
「ありがとう」
ユーゴ殿下はにっこり笑ってくれたけど、これって、もしかして嵌められた?
でも、前の人生で私は彼に借りがある。
殺人はよくない。
うん。
「じゃあ、まずは僕と対局してみようか」
パンパンと彼が手のひらを叩くと、侍女がチェス盤を持ってきた。
あれ?ここ、うちだよね?
どうして、ユーゴ殿下が主みたいになっているの?
まあ、王族だからね。
仕方ない。
そうして、ユーゴ殿下は私と一戦を交えた後、問題集を私の手にねじ込んで帰っていった。
夕方届いた参加状にすぐ返事をして、その夜は問題集を解いていく。
最初は頭が痛かったけど、慣れてくると楽しくなった。
そうして、大会まで私は毎晩問題集と睨み合う。
時折お父様とも対戦して、最初は負けていたけど、五日過ぎるとお父様の手が読めるようになって負け知らずに。
私って天才?
そんな風に奢っていたら、ユーゴ殿下がふらりとまたきて対局。前は手加減していたみたいで、コテンパンにやっつけられた。
そうしてすっかり鼻を折られた私は、新しく借りた問題集と向き合い、当日を迎えた。
「マノン。お前ならできるぞ」
「そうよ。マノン」
両親に伴われて王宮へ向かう。
庭園が会場に変わっていて、何十ものテーブルと椅子があって、その上にチェス盤が置かれていた。
組み合わせはすでに決まっていて、建物の壁に貼られた紙に対局表が載っている。
参加者は六十四人。八グループに分かれて競うけど、敗者復活なしで、一回負けたらそれで終わり。
「ああ、よかった」
カリーナが最初の相手だったら私の計画が無駄になってしまうとハラハラしていたけど、違った。
グループが違うので、カリーナと戦うとしたら四回戦ね。
ユーゴ殿下もアダン殿下も違うグループ。ヴァラリーも。
さあ、頑張らなきゃ。
三回勝てば、八位以内。最低でもそこまで残る必要がある。
私の目標は、ここね。
参加者は、それぞれ指定のテーブルに着く。
しばらくすると、陛下と王妃様がアダン様とユーゴ様を伴って登場した。マルゴ妃殿下も今日は姿を見せている。ユーゴ殿下によく似た平凡な顔立ち。けれども雰囲気は全く異なる。化粧もちょっと濃い感じがする。なんとなく嫌な感じで、目をそらしてしまった。ちらっとユーゴ殿下と目があった気がしたのだけど、反応はない。
気のせい?
首を傾げていると、陛下の開会の挨拶が始まった。
陛下は美形とは言い難い容姿だけど、とても優しそう。ユーゴ殿下と雰囲気が似ている。瞳はアダン殿下とユーゴ殿下と同じ琥珀色をしている。
「それでは始めよ」
陛下の挨拶が終わり、ラッパが鳴らされる。
それが開始の合図だった。
第一戦と第二戦までの各対局の制限時間は三時間。
第三戦以降は時間制限がない。
私の最初の対局相手は、眼鏡をかけた令息。名前を聞いてもよくわからなかったので、眼鏡令息と呼ぶことにするわ。
とても綺麗な字で、これはもう王妃決定ね。
私、字が汚いのよね。もちろん、ものすごいゆっくり書いたら、そこそこ読める字にはなるけど。
一度目の人生で、ユーゴ殿下であれアダン殿下であれ、王太子妃になる可能性が高かった。本当、大それたことを考えたわね。私。
カリーナ様の手紙からアダン殿下への好意がちらちら見えて微笑ましかったわ。
私の計画はきっとカリーナ様にとってもいいことになる。
また対局したいって書かれていて、ユーゴ様にちょっとお願いしようかしら。
でもこちらから連絡取る方法が見当たらないのよね。
そんなことを考えて過ごしていると、ユーゴ殿下がひょっこりお屋敷に現れた。
お父様は泡を吹いて倒れそうだし、お母様は謎の笑みを浮かべていたわ。
っていうか、アダン殿下の婚約者候補になって欲しいと思うなら、こちらに来るのは良くない気がするのだけど。
きっとバレないように上手く抜け出してるに違いないけど。
「マノン。次の機会が決まったよ。チェス大会だ。だから、僕が特訓してあげよう」
「え?」
部屋に来て早々、ユーゴ殿下はそうおっしゃった。というか、今日も部屋で二人っきりなのですが、十二歳とはいえ、男女を二人っきりにしてもいいのかしら?お母様?
まあ、元婚約者同士といえども、何もあるわけないですけど。私なんて殺人犯ですし。
それよりもチェス大会?特訓?
「兄上がカリーナ嬢とチェスをするのがとても楽しかったみたいなんだ。それを聞いて王妃陛下が思いついたのがチェス大会。十二歳から十五歳の貴族の子女を集めてチェスを競わせる。今朝参加案内を送ったところだ。参加締め切り一週間後。開催は二週間後だ」
「唐突ですね」
「面白いよね。王妃陛下は」
ユーゴ殿下は目を細めて懐かしむような表情をしていた。
本当に慕っているのね。だからこそ、王妃様が事故で亡くなることを防ぎたいのよね。アダン殿下への影響よりもそっちのほうが本命かもしれないわね。
「で、マノン。この大会で上位に入れば、兄上にぐんと近づくと思うよ。この間、ヴァラリー嬢と勝負していただろう。集中すれば結構君は強いと思うんだ」
「そう、そうですか?」
ちょっと嬉しい。
っていうか、見られてないと思ったら、見てくださっていたのだわ。
びっくり。
「そう、可能性があるのだから僕が手伝うよ。今日から特訓しよう。参考になる本も持ってきたから、大会までこの問題集を解いて頭で練習してね」
うわあ。
なんていうか、勉強好きじゃないのに。
私の嫌そうな顔は表に出ていたみたいで、ユーゴ殿下は悲しそうな顔をされる。
「僕は、今度こそは殺されたくないんだ。だから、王妃陛下に存命してもらう必要があるし、兄上はそのまま健やかに即位してほしいと思っている。だから、マノン」
「わかりました!」
「ありがとう」
ユーゴ殿下はにっこり笑ってくれたけど、これって、もしかして嵌められた?
でも、前の人生で私は彼に借りがある。
殺人はよくない。
うん。
「じゃあ、まずは僕と対局してみようか」
パンパンと彼が手のひらを叩くと、侍女がチェス盤を持ってきた。
あれ?ここ、うちだよね?
どうして、ユーゴ殿下が主みたいになっているの?
まあ、王族だからね。
仕方ない。
そうして、ユーゴ殿下は私と一戦を交えた後、問題集を私の手にねじ込んで帰っていった。
夕方届いた参加状にすぐ返事をして、その夜は問題集を解いていく。
最初は頭が痛かったけど、慣れてくると楽しくなった。
そうして、大会まで私は毎晩問題集と睨み合う。
時折お父様とも対戦して、最初は負けていたけど、五日過ぎるとお父様の手が読めるようになって負け知らずに。
私って天才?
そんな風に奢っていたら、ユーゴ殿下がふらりとまたきて対局。前は手加減していたみたいで、コテンパンにやっつけられた。
そうしてすっかり鼻を折られた私は、新しく借りた問題集と向き合い、当日を迎えた。
「マノン。お前ならできるぞ」
「そうよ。マノン」
両親に伴われて王宮へ向かう。
庭園が会場に変わっていて、何十ものテーブルと椅子があって、その上にチェス盤が置かれていた。
組み合わせはすでに決まっていて、建物の壁に貼られた紙に対局表が載っている。
参加者は六十四人。八グループに分かれて競うけど、敗者復活なしで、一回負けたらそれで終わり。
「ああ、よかった」
カリーナが最初の相手だったら私の計画が無駄になってしまうとハラハラしていたけど、違った。
グループが違うので、カリーナと戦うとしたら四回戦ね。
ユーゴ殿下もアダン殿下も違うグループ。ヴァラリーも。
さあ、頑張らなきゃ。
三回勝てば、八位以内。最低でもそこまで残る必要がある。
私の目標は、ここね。
参加者は、それぞれ指定のテーブルに着く。
しばらくすると、陛下と王妃様がアダン様とユーゴ様を伴って登場した。マルゴ妃殿下も今日は姿を見せている。ユーゴ殿下によく似た平凡な顔立ち。けれども雰囲気は全く異なる。化粧もちょっと濃い感じがする。なんとなく嫌な感じで、目をそらしてしまった。ちらっとユーゴ殿下と目があった気がしたのだけど、反応はない。
気のせい?
首を傾げていると、陛下の開会の挨拶が始まった。
陛下は美形とは言い難い容姿だけど、とても優しそう。ユーゴ殿下と雰囲気が似ている。瞳はアダン殿下とユーゴ殿下と同じ琥珀色をしている。
「それでは始めよ」
陛下の挨拶が終わり、ラッパが鳴らされる。
それが開始の合図だった。
第一戦と第二戦までの各対局の制限時間は三時間。
第三戦以降は時間制限がない。
私の最初の対局相手は、眼鏡をかけた令息。名前を聞いてもよくわからなかったので、眼鏡令息と呼ぶことにするわ。
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