やり直し?毒殺した王太子も一緒なんて聞いてません。

ありま氷炎

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様子のおかしなユーゴ殿下

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 私たち婚約者候補は、侍女見習いとして作法やお茶の入れ方などを教えてもらう。ヴァラリーは悔しいけどそこらへんは完璧で、王妃様に誉められて照れたフリをしている。
 本当、フリ。
 王妃様はわかっているのかな?
 ヴァラリーが本来の勝ち気で傲慢な性格を現したのは、王妃様が亡くなってから。
 きっと王妃様はヴァラリーの表の顔にずっと騙されていたんだわ。
 というか、今も、でしょうね。

 カリーナは大人しいので、目立たない。
 卒なくこなしているけど、うーん。
 どうやって王妃様のお眼鏡にかなうようにすればいいのかな。

「あ、ユーゴ殿下」
「どこ?」
「いなくなってしまわれた」

 カリーナと一緒に廊下を歩いていると、彼女は目ざとくユーゴ殿下を見つけたようだ。でもいなくなったって。

「どこに消えたのかわかる?」
「あそこよ」
「カリーナ。ちょっと私寄り道してから、王妃様のところへ戻る。少し誤魔化してもらってもいい?」
「え、うん。わかった」

 実はカリーナは私がずっとユーゴ殿下に会いたがっているのを知っていて、時折情報をくれた。でも私が会おうとするとその場所にいないことが多いのだけど。
 今日も本当なら真っ直ぐ王妃様のところへ戻らないといけないところを誤魔化してくれるみたい。
 持つべきものは友達よ。
 初めての友達だけど。

「気をつけてね」
「うん」

 あまりうろちょろすると騎士に咎められるので、さりげない感じでユーゴ殿下の後を追うつもり。多分私の姿を見つけて、逃げたと思うから。
 婚約者候補になって一ヶ月、いつもこんな感じでユーゴ殿下とは会えていない。だから今日こそはちゃんと会いたかった。本人が嫌がっていてもね。嫌われているのはわかっているけど、今後のことを話すことは必要だと思うのよ!

 駆け出しそうになる自分を抑えて、ユーゴ殿下が消えた場所へ向かう。
 行き止まりになっているけれども、窓枠を乗り越えたら中庭に出れる。高さはない。それであれば……。

「やめたほうがいいよ」

 呆れたような声がして、ユーゴ殿下が姿を見せた。

「本当、しつこいね」

 ひょいっと窓枠を越えて、廊下に降り立つ。

「当たり前です!なんですか、いきなり避けるようになって!」
「悪かったよ。で、ここで話すと目立つのだけど?」
「すみません。でも、避けるのはやめてください。お話ししたいこともあるので」
「うん。そうする。ごめん。じゃあ、また手紙でも書くから」

 ユーゴ殿下は微笑んでいたけど、目は私に向けなかった。でも声を荒げては本末転倒。私はアダン殿下の婚約者候補だ。ひらひらと手を振っていなくなる背を私はただ見るしかできなかった。
 会って言葉を交わすこともできた。
 けれども、なんとも言えない気持ち。
 もやもやしたけど、ぼさっと立っている場合ではないと、慌てて王妃様の部屋へ向かった。
 かなり遅れたのだけど、王妃様は何を咎めることもなく、私は侍女について王妃様の支度を手伝う。カリーナに後から言い訳をきいたら、体調が悪く休憩室で少し休んでいるということにしたそうだった。

 ☆

 ユーゴ殿下との遭遇から一週間経ったのだけど、連絡はまったくなかった。
 そんなある日、私だけが王妃様の部屋に呼ばれた。
 侍女すら側にいない。二人だけの空間。
 少し顔を強張らせて、王妃様はお尋ねになられた。

「マノンがユーゴと懇意にしているという話は本当なの?」
「わ、私がですか?!」

 公式の場で私がユーゴ殿下と二人で一緒にいたことはほとんどないはず。
 だからそんな話が出ることがおかしかった。
 家にユーゴ殿下が来たこととか、昨日少しだけ話していたところとか、王妃様に話した人がいるのかしら?

「あのね。本当なら教えて欲しいの」

 王妃様は少し上目遣いで、じっと見る。
 懇意にしているということはない。
 私の役目は王妃様の側にいること。そして事故を防ぐこと。ここでユーゴ様と懇意にしていることにしたら、婚約者候補から外れてしまう。それは避けなければ。

「いいえ。事実ではありません。王妃陛下はそのような話を誰から聞かされたのでしょうか?」

 否定をした後、聞き返してみたけど、王妃様が答えてくれることはなかった。

 ☆

 それからなんとなく、私は侍女達から疎外されるようになってしまった。
 カリーナが気にしてくれたけど、ヴァラリーは嬉しそうに鼻で笑う。もちろん、王妃様の前ではおとなしくしていたけどね。ヴァラリーはブレない。
 そんな中で、ヴァラリーよりもあからさまに私を嫌う侍女が一人いた。
 もちろん、普段はそんな態度まったく見せなくて、私以外誰もいないところで嫌味を言ってきたり。

「マノン。大丈夫?何か辛かったら言ってね」

 カリーナは慰めてくれる。
 けれども、ユーゴ殿下と懇意にしていると思われて嫌味を言われているなどと言えるわけもなく、私は耐えた。
 王妃様の事故がある十月まではなんとでも耐えなければ。

「君は少し休んだほうがいいよ」
「ユーゴ殿下」

 廊下を歩いていると声がして、周りを見渡してみた。
 けれども廊下には人影は見当たらない。 
 また外にいるのかと歩きかけて、ユーゴ殿下の声で止められた。

「私と一緒のところを見られるとまずいんだよね。だったらこのまま聞いて。マノン。王妃陛下の事故は十月だ。それまでまだ時間がある。少し休んだら、どう?」
「いえ」

 私が休んだら、ヴァラリーがカリーナに何をするかわからない。
 アダン殿下の婚約者にはヴァラリーではなく、カリーナが相応しい。
 あの優しいカリーナの心を折るようなことをヴァラリーはしそうだもの。

「そう。君は、」

 ユーゴ殿下の言葉がそこで詰まり、沈黙が訪れる。

「なんでもない。気をつけて」

 それが最後にユーゴ殿下の声は聞こえなくなってしまった。
 しばらく突っ立って周りを見渡した後、私は諦めて歩き出した。




 
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