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1章 異世界転移
06 普通の王様
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ジャファードが退室した後、江衣子は危機に見舞われていた。
生理現象である。
部屋に戻ってきたミリアに訴えると、部屋の奥に案内され、彼女は愕然とした。予想はしていたが、石造りの小さな小部屋の床に穴があけられており、そこに壺が置いてあった。近くには紙らしくものは見当たらず、葉っぱが置かれていたので、これが紙代わりだと理解した。
大の時は死んでしまうなどと思いながらも、小さいほうをしてから部屋を出ると、水の張った桶を持っていたミリアが傍にいて、彼女は祈りを捧げたくなった。
(ありがとう。ミリア。これで少しはましかもしれない)
手を洗い拭いてから、彼女は椅子に座る。
(ごゆるりとって言われても何もすることないんだけど……。そういえば、経典って文字が書かれているのよね?私、この国の文字が読めるのかな?)
「ミリア。あの、何か本を持ってきてもらってもいい?」
「本ですか?」
「うん。何でもいいわ。文字が書いていれば」
ミリアは腑に落ちない表情を浮かべながらも、本を探しに行ってくれた。
(これで文字読めなかったらシャレにならない。だって文字から勉強しないといけないんだもん。そういえば、要、違った。ジャファードが日本に来た時はどうだったのかな。やっぱり勉強したんだろうな。うわ、たった3週間で異国の言葉をマスターとか、無理すぎるんだけど)
ヤキモキしてまっているとミリアが戻ってきてくれて、本を差しだす。
「読める!」
それは「ルナマイールの歴史」と書かれており、江衣子は喜びのあまり叫んでしまった。
それで、またミリアに不思議そうな顔をされてしまい、一人で照れる。
「あ、ごめんね。本ありがとう。これで時間を潰せそう」
やることもないので、江衣子はその本を読むことにして、本格的に椅子に座り込んだ。
木の実がたくさん入ったパンに、野菜スープに、フルーツという昼食が終わって、わざわざ着替えさせられた。
王が訪ねてくるためと説明され、江衣子の気分が落ち込んだ。
着替えも、江衣子からしたら同じようにしか思えなかったのだが、ワンピースを何枚も着せられ、大神官が来ていたような長い丈の上着を着せられた。
堅苦しく思いながら待っていると、恰幅のある人物が姿を見せた。
「お前が聖女か」
それは貫禄と肥満の間のような体形、くるくるな金色の巻き毛に鼻髭、赤いマントという、絵にかいたような王だった。
「初めてお目にかかります。江衣子(えいこ)です」
苗字は井ノ上だ。しかし要の姓のため、名乗れず、旧姓をつけるも気が進まなかったため、彼女はそう名乗った。
「おお、エイコーという名なのか」
(あ、やばい。忘れていた)
名乗ってしまい後悔したが、今更後悔しても遅いようだった。
「エイコーよ。この度はルナマイールに来てくれて感謝しておるぞ。神隠れの時は国が闇に包まれる。そんな時わし一人の力では足りないのだ。お前が祈りを捧げてくれることで、国が守られる」
(たかが日食なんだと思うんだけど)
王の言葉を聞きながら江衣子はそう思ったが、水を差すのもあれだったので、黙って聞く。
「西の神殿へ明日出発だと聞いている。民衆へ聖女のことを広め、神隠れの祈りの儀式に備えてくれ」
王はそう締めくくり、部屋を出て行く。
あまりにも早いお帰りで、江衣子は呆気にとられたが同時に安堵もしていた。
おかげで、彼女はまたすることもなく本を読み、夕食を取って、部屋で湯あみ。そして就寝という1日を過ごした。
「なんだかんだ。まあ、長い休暇をとってると思えばいいのかな」
就寝には早すぎると思いながらも、江衣子は早めにベッドについた。
一人でゆっくりしたかったせいもある。
何かあればハンドベルを鳴らすということも教えてもらったので、安心してベッドに横になる。
衛生面のことだけが気になるが、あとはかなり気ままな1日を過ごした。
「確かに上げ膳据え膳の生活よね。きらびやかとはちょっと違うけど。要は久々に国に戻ってきて嬉しいでしょうね。……私との生活なんて絶対に思い出さないんだろうなあ」
そう考えると悲しくなるが、江衣子はその考えを頭から追い出す。
「人生のやり直しかあ。16歳から。聖女の仕事が終わったら日本でまた……」
伯父の家に戻ることを考えたらぞっとして、新しい人生も味気のないものに思えてしまう。
「要の馬鹿!人生のやり直しなんて別に望んでなかったのに」
彼のことを考えないようにしているのに、思考はどうもそこへ行きつく。そうすると今度は眠れなくなってしまった。
結局、江衣子は寝不足のまま翌朝を迎えることになった。
生理現象である。
部屋に戻ってきたミリアに訴えると、部屋の奥に案内され、彼女は愕然とした。予想はしていたが、石造りの小さな小部屋の床に穴があけられており、そこに壺が置いてあった。近くには紙らしくものは見当たらず、葉っぱが置かれていたので、これが紙代わりだと理解した。
大の時は死んでしまうなどと思いながらも、小さいほうをしてから部屋を出ると、水の張った桶を持っていたミリアが傍にいて、彼女は祈りを捧げたくなった。
(ありがとう。ミリア。これで少しはましかもしれない)
手を洗い拭いてから、彼女は椅子に座る。
(ごゆるりとって言われても何もすることないんだけど……。そういえば、経典って文字が書かれているのよね?私、この国の文字が読めるのかな?)
「ミリア。あの、何か本を持ってきてもらってもいい?」
「本ですか?」
「うん。何でもいいわ。文字が書いていれば」
ミリアは腑に落ちない表情を浮かべながらも、本を探しに行ってくれた。
(これで文字読めなかったらシャレにならない。だって文字から勉強しないといけないんだもん。そういえば、要、違った。ジャファードが日本に来た時はどうだったのかな。やっぱり勉強したんだろうな。うわ、たった3週間で異国の言葉をマスターとか、無理すぎるんだけど)
ヤキモキしてまっているとミリアが戻ってきてくれて、本を差しだす。
「読める!」
それは「ルナマイールの歴史」と書かれており、江衣子は喜びのあまり叫んでしまった。
それで、またミリアに不思議そうな顔をされてしまい、一人で照れる。
「あ、ごめんね。本ありがとう。これで時間を潰せそう」
やることもないので、江衣子はその本を読むことにして、本格的に椅子に座り込んだ。
木の実がたくさん入ったパンに、野菜スープに、フルーツという昼食が終わって、わざわざ着替えさせられた。
王が訪ねてくるためと説明され、江衣子の気分が落ち込んだ。
着替えも、江衣子からしたら同じようにしか思えなかったのだが、ワンピースを何枚も着せられ、大神官が来ていたような長い丈の上着を着せられた。
堅苦しく思いながら待っていると、恰幅のある人物が姿を見せた。
「お前が聖女か」
それは貫禄と肥満の間のような体形、くるくるな金色の巻き毛に鼻髭、赤いマントという、絵にかいたような王だった。
「初めてお目にかかります。江衣子(えいこ)です」
苗字は井ノ上だ。しかし要の姓のため、名乗れず、旧姓をつけるも気が進まなかったため、彼女はそう名乗った。
「おお、エイコーという名なのか」
(あ、やばい。忘れていた)
名乗ってしまい後悔したが、今更後悔しても遅いようだった。
「エイコーよ。この度はルナマイールに来てくれて感謝しておるぞ。神隠れの時は国が闇に包まれる。そんな時わし一人の力では足りないのだ。お前が祈りを捧げてくれることで、国が守られる」
(たかが日食なんだと思うんだけど)
王の言葉を聞きながら江衣子はそう思ったが、水を差すのもあれだったので、黙って聞く。
「西の神殿へ明日出発だと聞いている。民衆へ聖女のことを広め、神隠れの祈りの儀式に備えてくれ」
王はそう締めくくり、部屋を出て行く。
あまりにも早いお帰りで、江衣子は呆気にとられたが同時に安堵もしていた。
おかげで、彼女はまたすることもなく本を読み、夕食を取って、部屋で湯あみ。そして就寝という1日を過ごした。
「なんだかんだ。まあ、長い休暇をとってると思えばいいのかな」
就寝には早すぎると思いながらも、江衣子は早めにベッドについた。
一人でゆっくりしたかったせいもある。
何かあればハンドベルを鳴らすということも教えてもらったので、安心してベッドに横になる。
衛生面のことだけが気になるが、あとはかなり気ままな1日を過ごした。
「確かに上げ膳据え膳の生活よね。きらびやかとはちょっと違うけど。要は久々に国に戻ってきて嬉しいでしょうね。……私との生活なんて絶対に思い出さないんだろうなあ」
そう考えると悲しくなるが、江衣子はその考えを頭から追い出す。
「人生のやり直しかあ。16歳から。聖女の仕事が終わったら日本でまた……」
伯父の家に戻ることを考えたらぞっとして、新しい人生も味気のないものに思えてしまう。
「要の馬鹿!人生のやり直しなんて別に望んでなかったのに」
彼のことを考えないようにしているのに、思考はどうもそこへ行きつく。そうすると今度は眠れなくなってしまった。
結局、江衣子は寝不足のまま翌朝を迎えることになった。
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