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1章 異世界転移
07 西の神殿へ
しおりを挟む翌朝朝食を終え、服装を整えると早速出立になった。
一行は馬車一台と荷馬車一台、騎馬兵数十といった構成で、映画のセットのような一団を江衣子は呆然と眺めた。
馬車に乗るのは江衣子と侍女たちで、神官も馬車に乗って移動するようだった。長い黒髪を一つにまとめ、馬に乗るジャファードの姿はとてもかっこよく見えてしまい、江衣子はなんだか悔しくて明後日の方向に顔を向けた。すると、見たことがない人に手を振られ驚く。
(金髪碧眼の王子様ルックス。苦手なタイプ……)
江衣子はそんな感想を持ち、興味がないので一応手を振り返したが、すぐに自分が乗る予定の馬車に足を向ける。甲斐甲斐しくミリアが準備をしており、やはりいい侍女だと感心してしまった。
「ミリア。ありがとう」
「とんでもございません。聖女エイコー様」
「聖女様。お手を」
先ほどまで遠い距離にいたはずなのに、王子様ルックスのチェスターがすぐそばにいて、江衣子は体を強張らせる。
しかも手を取るように言われ、戸惑いしかない。
それを照れていると勘違いしたのか、チャスターが自ら手を取り、江衣子を馬車へ案内した。
微笑みを浮かべられ、隣にいたミリアなどは顔を真っ赤にしているが、彼女自身はまったく心が動かなかった。それよりもチェスターの背後のジャファードを気にしていたのだが、彼はチェスターが彼女の手を取ったのを見ると、どこかへ行ってしまった。
(本当に、私たちの結婚生活はなんだったの?気にしないの?全然?)
その事ばかりを気にしていて、彼女はチェスターの笑顔などまったく記憶に残らなかった。
江衣子が馬車に乗って一行は西の神殿に向かって出発する。
かなりの人数なので、3夜とも天幕を張って野宿で過ごす予定だった。4日後には西の神殿に到着、そちらで1泊してから大神殿に戻る行程だ。
*
聖女一行の一団が動き出して、ジャファードも馬を操りその行列に着く。
先頭と後尾は騎士団が務め、神官が二手に分かれ、聖女の乗る馬車を前後で守りながら移動する。今回の神官は馬に乗れ、中級以上の神官が警護についているのだが、ジャファードとチェスターは特別だった。
ジャファードは江衣子の指名なのだが、チェスターはどうやら貴族という立場を利用して警護の神官の中に入り込んだようだった。
チェスターのような軽い神官は稀であり、他の神官たちは寡黙に馬を操る。
「ジャファード」
にやにや笑いながら馬を寄せてきて、ジャファードは迷惑そうな顔を必死に隠して彼に向き直った。
「聖女様。可愛いじゃんか」
「そうですか?」
「なんか擦れていない感じでよかった。大人しいし」
チェスターの江衣子へのコメントを、ジャファードは聞き流す。
しかし、擦れていない、大人しいには心の中で反論していた。
「でもさあ、やっぱりお前を見てたよな。あっちの世界の何かあったのか?」
「別に何も」
疑われないように答えたつもりだけど、チェスターはじっとジャファードを見ていた。
「まあ、あっちの世界から一緒に来たことで頼ってるかもしれないな。まあ、そんな感じで冷たくしてもらったら、俺にチャンスがあるのでよろしく」
チェスターは肩を叩くと、馬を離し騎士団の背後に加わった。
「冷たいか……」
チェスターの言葉を繰り返す。
(怒らせてばっかりだよな。昨日から。でも、俺は彼女の夫じゃないし。もう何も関係ないんだから、これが普通だ。下手に前みたいに接するのはおかしい。俺から言い出したんだし)
彼女から寄せられる視線を浴びていると、ふと前のように接したくなった。
けれども、「何もなかった事にしてくれ」と頼んだのがジャファードであり、それは彼女の新しい人生の邪魔になる。
(このままの態度を続ける)
彼は手綱を握り、前を向いた。
聖女の一行は大神殿を囲む森を抜けようとしており、西の神殿への旅が始まろとしていた。
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