顔が醜いから婚約破棄された男爵令嬢は、森で昆虫男爵に出会う。

ありま氷炎

文字の大きさ
26 / 56
第一部

男爵令嬢の決意

しおりを挟む
「旦那様」
「なんだ」

 書斎でお茶を飲んでいたイーサンは顔を上げた。

「旦那様が問題と思っているのはジャスティーナ様の顔でしょうか?」
「何を突然聞くんだ?」

 彼はハンクの質問の意味というか、意図がわからず、聞き返す。

「詳しくは聞いておりませんが、お送りした馬車の中でイザベラ様がジャスティーナ様に何か相談をもちかけたようでした」
「まさか、」
「そのまさかがないと限りません。旦那様は、ジャスティーナ様の顔がまた変わってしまうことに賛成ですか。そうなれば、ジャスティーナ様を、その気持ちを受けいれますか?」
「何を馬鹿なことを。まさか、呪いを受けるなど」
「旦那様。お忘れになってますか?ホッパー家の複雑な事情を。もしジャスティーナ様が知ってしまったら」
「ハンク!モリーに連絡を。あとニコラスに沼の魔女の動向を探ってもらってくれ」
「はい、旦那様」

 ハンクは一礼すると、踵を返し退室する。

 ――ジャス、ジャスティーナ。あなたのその美しい顔は、あなたのものだ。誰かのために変えるなど馬鹿な考えはやめてくれ。

 イーサンがそんなことを請うのは間違っている。
 けれども、そう請わずにはいられなかった。



「ジャスティーナ。喜ぶのだ。明日は来てもいいと、ルーベル公爵から手紙をいただいたぞ」
「それは嬉しいわ。沼の魔女もいらっしゃるのかしら?」
「ああ。そうだ」

 夕食時間、ホッパー男爵は顔を綻ばせジャスティーナに明日の訪問のことを伝えた。
 彼女はテーブルの下ではドレスをきゅっと掴んでいたが、笑顔を浮かべ答える。
 アビゲイルは気分が悪いということで、夕食には同席してしない。

 男爵は娘の本当の気持ちなど少しも理解しようとせず、明日のことを嬉しそうに話し続けた。それを彼女は聞き流し、自身の明日の行動について考える。
 
 ――間違っていることかもしれない。そう、多分間違っている。だけど、私はもうこの顔で生きていきたくない。今度顔が変わったら、婚約は確実に破棄されるわ。向こうから。だから、家には迷惑がかからない。ただ、魔法ではなく、前のように呪いとしてかけてもらう必要がある。イザベラ様なら協力してくれるはず。私のこの顔を対価に、「呪い」として顔を変えてもらうわ。

 ジャスティーナは、イーサンのこと想う。
 この事で彼に軽蔑されることは予想できた。けれども、彼女はこの顔で生きていくことに耐えられそうもなかった。

 ――ごめんなさい。イーサン様。あなたには絶対迷惑をかけないから。何があっても、森に逃げ込まないから。

 そう決めて、彼女は味気のない夕食を終えた。
 モリーが部屋にやってきたのは寝る直前で、彼女をひどく心配していた。

 ――これからすることは誰にも言わない。

 そう決めているジャスティーナは、モリーを安心させようと強がって見せた。彼女がやろうとしていることを知られると止められる、そう考えたからだ。

「モリー。大丈夫だから。心配しないで。こんな私を心配してくれてありがとう」
「ジャス様。こんな私とか言わないでください。本当に、この家の人たちはジャス様に対して酷すぎます。この屋敷を出たくなったらいつでも言ってくださいね!」
「ありがとう。本当」

 モリーの言葉に目頭が熱くなる。けれども、ジャスティーナはそれを耐え、精一杯微笑んだ。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。 面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。 一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。 隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。 王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった ルビー・エルヴェール。 彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。 評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配―― 一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。 噂に揺れ、信頼が試され、 「正しさ」と「速さ」、 「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。 それでもルビーは、問い続ける。 ――制度は、誰のためにあるのか。 ――信頼とは、守るものか、耐えるものか。 ――改革者は、いつ去るべきなのか。 やがて彼女は、自らが築いた制度が 自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。 残されたのは、名前の残らない改革。 英雄のいない成功。 だが確かに「生き続ける仕組み」。 これは、 誰かが称えられるための物語ではない。 考えることを許し、責任を分かち合う―― その文化を残すための、40話の改革譚。 静かで、重く、そして誠実な “大人のための王宮改革ファンタジー”。

処理中です...