顔が醜いから婚約破棄された男爵令嬢は、森で昆虫男爵に出会う。

ありま氷炎

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第二部

解けない魔法4

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 翌日、ジャスティーナは彼の屋敷を訪れた。
 対応したのは、ハンクで、今日は気分が優れないとイーサンに会うことができなかった。病気であれば、尚更見舞いたいと伝えたのが、ハンクはジャスティーナに伝染するかもしれないと、やんわりと断る。
 こんなことは初めてで、ジャスティーナは落胆しつつ屋敷に戻った。モリーは悲しそうな彼女の横顔を眺めつつ、何か別の理由があるはずだと思い、今夜ニコラスをとっちめようと決めていた。

 その夜モリーがニコラスから聞かされた内容は、唖然とするもので、モリーは今すぐデイビス家にいって、イーサンを一発殴ろうかと思ったくらいだった。 
 元の姿に戻ったイーサンが、この姿では会いたくない、嫌われてしまうかもしれないとジャスティーナに会うことを拒否したらしい。 
 今まで散々というか、ずっとその姿でしか会ったことないのに、である。 
 モリーは怒りの捌け口を夫に向け、ニコラスは愛妻から繰り出される愛のパンチを嬉しそうに受け取っていた。



 次の翌日、ジェスティーナが見舞いの手紙を書いたところ、妙な返事が戻ってきた。
 病で臥せっていて会えなかったことのお詫びは理解できる。けれどもその代わりとして、観劇へ誘われた。
 元気になった知らせと思えばよいのだが、ジャスティーナは腑に落ちなかった。
 それで思わず、モリーに手紙を見せてしまう。

「モリー。やっぱりおかしいわよね」

 読み終わった後、そう同意を求めれば、モリーはしっかり頷き、何やら目を爛々と光らせていた。

「どうしたの?モリー?」

 そんな彼女のことが心配になり、ジャスティーナは恐る恐る尋ねる。
 すると、モリーは手紙を綺麗に折り畳み、有無を言わせぬ勢いで口を開いた。

「ジャスティーナ様。私におまかせください。デイビス家に戻り、真意を確かめてきます!」

 胸を叩き、使命感に燃えているモリー。
 ジャスティーナは勢いに押され、彼女に一日の休暇を取らせた。
 本来ならば、実家といっても過言ではないデイビス家にしばらく戻っていないのだから、数日休んでもいいといったのだが、モリーは首を横に振って、すぐ戻ってきますと宣言した。
 こうして、ジャスティーナの返事を待っていたニコラスは、手紙ではなく、モリーをデイビス家に連れ戻すことになった。
 



「旦那様。観劇なんて、どういう風の吹き回しでしょうか?」
「その物言い、ハンクは反対のようだな」
「そんなことはございません。外出されることを大変嬉しく思っております」
「それなら、どうして、不満そうなのだ?」
「私は、旦那様があの怪しげ薬――飴玉を食される気がして心配なのです」
「怪しげか?確かにそうだな。だが効力はある。俺はもちろんあの飴玉を食べる気でいる」
「反対でございます。あのようなもの、どんな副作用があるか。それであれば観劇をやめていただけますか?」

 椅子に座ったイーサンに、ハンクはまっすぐな視線を向けていた。
 彼は、その真摯な視線を真っ向に受けることができず、目を逸らして、手元の書類を眺める。
 心配してくれる気持ちは痛いほどわかる。けれども、あの飴玉の効力はイーサンにとっては念願の代物で、考えを変えることはできなかった。

「旦那様」

 歩み寄ろうとしたハンクに、イーサンは大きく息を吐いた後、顔を上げる。

「ハンク。俺は夢を見ることもできないのか。あの薬のおかげで、俺はジャスティーナと街を歩き、店に入ることもできた。この姿では無理な話だ。観劇には昔から行きたかった。ジャスティーナとともに、劇を見てその楽しさを分かち合う。普通の男女ではよくあることだろう?俺は、それをしたい。俺は普通の男としてジャスティーナと出かけたいんだ。そのためには俺は、姿を変える必要がある。あの薬のどこが悪い。たった一日、俺に夢を見せてくれる。気分も悪くならないし、何が悪いんだ」
「旦那様……」

 溢れる感情のまま言葉をのせ、イーサンは我に返る。そうしてハンクからともいえ同情されるのが嫌で、椅子を回して、彼に背を向ける。

「ハンク。悪いが一人にしてくれ。頼む」
「……畏まりました」

 背中に痛いほどの視線を感じたが、一人になりたくて退室を命じた。応じる声がして、静かに扉が閉じられる。

「すまないな。ハンク」

 彼の詫びは執事に届かないまま。
 けれども、イーサンは外に出かけ、人々に侮蔑ではなく好意的な視線を向けられる感覚が忘れられなかった。

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