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第三部
第二王子の誕生祝賀会
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十日後、第二王子ケイデンの誕生祝賀会の日がやってきた。
イーサンがジャスティーナを迎え、ニコラスの御する馬車で王宮へ向かう。
マデリーンが新調したのは濃い緑色のジレだ。ジャスティーナは森をイメージしたドレスを着るつもりだったので、それに合わせて作ってくれた。
目立つのはよくないので、ジュストコールとズボンは黒色にまとめている。
彼女が元々持っていた緑色のドレスは、裁縫好きのアビゲイルが仕立て直している。対となるように、マデリーンがホッパー家を訪れたり、念入りに二人で話し合いを進め、作り上げたジレとドレスだ。
「イーサン様?」
一見落ち着いているようでも動揺しているのがその目を見てわかり、ジャスティーナは声をかけた。
「すまないな」
彼は恥ずかしそうに笑う。
「堂々と行きましょう。誰にも文句は言わせないわ」
「当たり前だ。一応王賓という扱いらしいからな」
「そうなの?」
「ああ」
「知らなかった」
ジャスティーナは頭を殴られたような衝撃を受けるが、思えば二人とも男爵の身分だ。王賓でもない限り、第二王子の誕生祝賀会などに呼ばれるわけがない。
「俺のせいで誹謗を受けるかもしれないが」
「そんなことないわ。そんな馬鹿なこと言う人がいたら、森の魔女様に呪われてしまうでしょう」
「森の魔女か。言うな」
「そうよ。多分みんなそう思うわ。心配なのは王賓ってことなのだけど」
「それは大丈夫だ。そこは安心してくれ。あなたに恥は欠かせない」
イーサンはしっかりと頷き、その大きな瞳に見つめられ、ジャスティーナは照れてしまった。
そんな彼女を愛しそうに眺めた後、彼は顔を上げた。
昆虫男爵として、化け物とも呼ばれたことがある。
それを卑屈に思ってきたが、今日はその劣等感を忘れ、ジャスティーナの側で堂々と振舞うつもりだった。
ひそかにニコラスに訓練してもらって、マナーは完璧に習得していた。出席者の顔ぶれ、名前、背景も全て頭に叩き込んでいる。
徐々に馬車の速度が落ち少し大きく揺れ、止まった。
「さあ、行こうか。ジャスティーナ」
「ええ」
イーサンが先に降り、ジャスティーナに手を貸す。その手を重ね、彼女はゆっくりと馬車を降りた。
目の前には煌煌と輝く王宮。優雅な音楽が流れ、人々の話し声が漏れてくる。
二人は自然と腕を重ね、大広間に向かった。
流石に第二王子の誕生祝賀会、男爵と子爵クラスの貴族は呼ばれておらず、上位の貴族が集まっていた。
昆虫男爵とその婚約者が特別に招かれていることは周知の事実で、驚いた顔しているものはいない。けれども、視線が集まっていることは肌で感じるほどで、緊張のためかジャスティーナが小刻みに震えているのがわかる。イーサンは腕ではなく、彼女を包むように背中に手をまわした。
「大丈夫だ」
「ええ。イーサン様は平気?」
「ああ」
人々の視線を浴びることは好きではない。
なので本当は平気ではなかったがイーサンは頷き、周りを気にしないようにただ前を向く。
ジャスティーナもそれに習い、まっすぐに姿勢を正した。
「イーサン、ホッパー男爵令嬢」
人々の間を縫うようにして、ウィリアム・ハンズ伯爵が駆け足でやってくる。
「二人の装いはとてもいいな。初々しい」
それは褒め言葉なのか、よくわからない感想を述べられて、二人は引きつった笑いを浮かべる。
「褒めているんだ。今日は本当に肩が凝るパーティだから。君たちの存在が私の癒しだよ」
ウィリアムは二人だけに聞こえるように小声で言うと、また人々の元へ戻っていった。
それが合図になったように、二人に対して、貴族たちが話しかけてくる。最初は、屋敷を訪ねてきたことがある面識のある貴族であったが、遠巻きに見ていた者も近づいてきて、二人を中心に輪ができる。
三ヶ月前のイーサンが顔を変えた時の状況と似ているのだが、あの時のような高揚感はなかった。緊張が身を包むが、彼はジャスティーナに恥をかかせてはいけない、また彼女を不安にさせないため、必死に対応する。
最初はただ傍にいるだけの彼女だったのだが、イーサンの隣で彼を補助するように会話に加わるようになった。
二人が慣れてきたころ、王族登場の合図のラッパが吹き鳴らされ、人々が静まり返える。
大広間の奥の扉がゆっくり開かれ、王女ケイリー、第二王子ケイデン、第一王子エヴァン、王妃、そして最後に王アレンが姿を見せた。
イーサンがジャスティーナを迎え、ニコラスの御する馬車で王宮へ向かう。
マデリーンが新調したのは濃い緑色のジレだ。ジャスティーナは森をイメージしたドレスを着るつもりだったので、それに合わせて作ってくれた。
目立つのはよくないので、ジュストコールとズボンは黒色にまとめている。
彼女が元々持っていた緑色のドレスは、裁縫好きのアビゲイルが仕立て直している。対となるように、マデリーンがホッパー家を訪れたり、念入りに二人で話し合いを進め、作り上げたジレとドレスだ。
「イーサン様?」
一見落ち着いているようでも動揺しているのがその目を見てわかり、ジャスティーナは声をかけた。
「すまないな」
彼は恥ずかしそうに笑う。
「堂々と行きましょう。誰にも文句は言わせないわ」
「当たり前だ。一応王賓という扱いらしいからな」
「そうなの?」
「ああ」
「知らなかった」
ジャスティーナは頭を殴られたような衝撃を受けるが、思えば二人とも男爵の身分だ。王賓でもない限り、第二王子の誕生祝賀会などに呼ばれるわけがない。
「俺のせいで誹謗を受けるかもしれないが」
「そんなことないわ。そんな馬鹿なこと言う人がいたら、森の魔女様に呪われてしまうでしょう」
「森の魔女か。言うな」
「そうよ。多分みんなそう思うわ。心配なのは王賓ってことなのだけど」
「それは大丈夫だ。そこは安心してくれ。あなたに恥は欠かせない」
イーサンはしっかりと頷き、その大きな瞳に見つめられ、ジャスティーナは照れてしまった。
そんな彼女を愛しそうに眺めた後、彼は顔を上げた。
昆虫男爵として、化け物とも呼ばれたことがある。
それを卑屈に思ってきたが、今日はその劣等感を忘れ、ジャスティーナの側で堂々と振舞うつもりだった。
ひそかにニコラスに訓練してもらって、マナーは完璧に習得していた。出席者の顔ぶれ、名前、背景も全て頭に叩き込んでいる。
徐々に馬車の速度が落ち少し大きく揺れ、止まった。
「さあ、行こうか。ジャスティーナ」
「ええ」
イーサンが先に降り、ジャスティーナに手を貸す。その手を重ね、彼女はゆっくりと馬車を降りた。
目の前には煌煌と輝く王宮。優雅な音楽が流れ、人々の話し声が漏れてくる。
二人は自然と腕を重ね、大広間に向かった。
流石に第二王子の誕生祝賀会、男爵と子爵クラスの貴族は呼ばれておらず、上位の貴族が集まっていた。
昆虫男爵とその婚約者が特別に招かれていることは周知の事実で、驚いた顔しているものはいない。けれども、視線が集まっていることは肌で感じるほどで、緊張のためかジャスティーナが小刻みに震えているのがわかる。イーサンは腕ではなく、彼女を包むように背中に手をまわした。
「大丈夫だ」
「ええ。イーサン様は平気?」
「ああ」
人々の視線を浴びることは好きではない。
なので本当は平気ではなかったがイーサンは頷き、周りを気にしないようにただ前を向く。
ジャスティーナもそれに習い、まっすぐに姿勢を正した。
「イーサン、ホッパー男爵令嬢」
人々の間を縫うようにして、ウィリアム・ハンズ伯爵が駆け足でやってくる。
「二人の装いはとてもいいな。初々しい」
それは褒め言葉なのか、よくわからない感想を述べられて、二人は引きつった笑いを浮かべる。
「褒めているんだ。今日は本当に肩が凝るパーティだから。君たちの存在が私の癒しだよ」
ウィリアムは二人だけに聞こえるように小声で言うと、また人々の元へ戻っていった。
それが合図になったように、二人に対して、貴族たちが話しかけてくる。最初は、屋敷を訪ねてきたことがある面識のある貴族であったが、遠巻きに見ていた者も近づいてきて、二人を中心に輪ができる。
三ヶ月前のイーサンが顔を変えた時の状況と似ているのだが、あの時のような高揚感はなかった。緊張が身を包むが、彼はジャスティーナに恥をかかせてはいけない、また彼女を不安にさせないため、必死に対応する。
最初はただ傍にいるだけの彼女だったのだが、イーサンの隣で彼を補助するように会話に加わるようになった。
二人が慣れてきたころ、王族登場の合図のラッパが吹き鳴らされ、人々が静まり返える。
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