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第一章 ざまぁの子は魔犬に拾われる。
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しおりを挟む「よし、休んでいいぞ」
「まだまだ!」
「休め」
セインはメルヒに言われて仕方なく剣を下ろす。
メルヒは、彼を拾って魔の国へ連れてきた黒い魔犬だ。今はセインに稽古をつけるため、人型に変化している。耳と尻尾以外は人間と同じだ。耳は犬型と同じ少し垂れた耳、尻尾は黒いフサフサで感情的になると激しく動く。性別が雌のため、人型になると体は成人女性と同じものになる。なので、メルヒは動きやすさも考慮して男の服を纏っていた。
セインは細身の剣をまだ持ったままで、不満そうにメルヒを見上げる。
魔の国に来てから1年が経とうとしていた。
6歳になるセインはまだまだ背が低く、メルヒの胸のあたりまでの背丈だ。
人と魔族は現在では平和協定が結ばれているため、戦争はしていないが、
国境辺りではまだいがみ合いが続いている。
2年前まで、両軍は争っており、お互いへの憎しみはまだくすぶっている状態だ。そんな状態なので、メルヒは魔の国でも比較的に魔物が住んでいない場所にセインを連れてきていた。森が近くにあり、狩りもしやすく果物も手に入りやすい。したがってセインの健康状態はよくなっており、人の国にいた時よりも、健やかに育っていた。
「メルヒ。僕はもっと強くならないといけない。あいつらに復讐するために」
「ああ、だから、休むんだよ。ずっと訓練したからって強くなるわけじゃない。大体、お前はまだ子供だ。まだ戦力にならない」
「だからだよ!」
セインは悔しそうにいって、剣で地面を叩きつける。
すると、その衝撃で手がしびれたらしく、柄から手を離した。
「ば、っかだなあ」
「うるさい」
怒鳴り返す彼を見ながら、メルヒの胸中は複雑だ。
今から15年前、まだ彼女が小さかった頃、人によって拐われ酷い目にあった。死にかけながらどうにか逃げ出し、傷だらけの彼女を助けてくれた人が、セインの父のカイルだった。
セインはカイルに外見がよく似ており、彼を見るとカイルを思い出した。
魔の国にいても、人の、それも王族の話であれば耳に入る。
彼が城から追放された話を聞いた時、助けに行こうかと思った。しかし、妻がいるという話を知り、魔の国に留まった。気になって彼らを見に行ったことがあったが、貧しいが家族として幸せそうに見えたので彼女は何もしなかった。
その後もやはり気になって彼らの様子を探っていて、妻が殺された話を聞いて、嫌な予感がした。そして人の国へ入り、彼が死んだことをしった。子がいたことを思い出して、探していたら死にかけていたセインを見つけたのだ。
――人が憎い。
その想いが強くなった。
そうして、王族であったカイルが貧しい生活を送ることになった原因である、第三王子トールとその妻ジョセフィーヌを憎んだ。
セインにその事実を話し、彼女は彼を復讐に駆り立てた。
魔族と人の戦いが激しくなったのは、王太子が魔族に殺されたことが起因だ。激怒した王が宣戦布告して戦いが始まった。それが終わったのは、王が病死、第三王子トールが王位に就いてからだ。
彼は王になるとすぐに魔の国へ休戦を申し出た。
――憎しみは消えない。
メルヒの人への憎しみは消えておらず、セインの父カイルのことでそれは激しくなる一方だった。
人に殺された親、友、恋人を持つ魔族たちも同様の怒りを抱えており、メルヒはそれを集め王国へ殴り込もうとしていた。
そのための旗印として、メルヒはセインを選んだ。
ある意味皮肉のようなものだ。
――我ながら汚いとは思うけど。
「……どうした?メルヒ?」
意外にも長く考えことに耽っていたらしい。
セインが近くに来ており、仰ぎ見られる。
「なんでもない。さあ、セイン。訓練を再開するぞ」
「おお!」
メルヒの呼びかけに、彼は答え、二人は再び訓練を始めた。
☆
「なんだと、連れて行かない?」
「セインは、まだ小さい」
「だが、そのために連れてきたのだろう?」
メルヒの元へ珍しくお客が来ていた。
客は人型であるが、一つ目の男だった。髪は茶色で一つ結びにして、背中にそのまま垂れ流していた。背丈はメルヒより頭二つ分ほど大きい。
セインはすっかり寝入っていて、二人は朝方まで話し込む。
「私たちの目的は復讐だ。人の国の支配ではないはずだ」
「だが、」
「計画はセインなしで実行する」
メルヒがそう言い切って話は終わる。彼女の堅い決意を感じて一つ目の男は不満そうな顔をしながらも諦めようだった。計画通りにと最後に言って、壁に立てかけている大振りの剣を持つと大人しく帰っていった。
数日後、メルヒたちは計画を実行する。本来ならばセインを連れて行く予定だった戦いだ。
その後、彼の元へ訃報が届けられる。
届けたのは、あの晩、彼女と話していた一つ目の男だ。
男はヴァンと名乗り、人の城を襲撃したが失敗して、メルヒが殺されたことを伝えた。
嘆き悲しむセインにヴァンは語り掛ける。
「セイン。メルヒの仇を討つぞ。人の王を殺して、お前が代わりに王になるんだ」
「僕が、王に?」
「そうだ。メルヒはそれを望んでいた」
もし、あの晩、彼が起きていればそれが嘘だとわかっただろう。
けれどもセインは幼すぎて、ヴァンの嘘を見抜けなかった。ただ彼を信じ、己の両親だけではなく、メルヒまで死に追いやった人の王トールとその妻で王妃のジョセフィーヌを憎んだ。
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