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第三章 ざまぁの子は魔王の配下になる。
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しおりを挟む「……もう9年か」
かつて第三王子、現国王であるトールは大樹を前にして、つぶやく。
城の中心に位置する大樹は、この世界の創造主の仮の姿だと伝えられ、リグレージュ様とも呼ばれている。
王になる者は、その声を聞くことができる……。
そう伝えられているが、現国王トールはリグレージュの声をまだ聞くことができなかった。
父である前国王すら、即位の際はその声を聞いたというのに。
しかし、即位のその一度きりで、魔族との戦争という大きな過ちを犯した前国王が、リグレージュの声を聞いたという話をトールは信じていなかった。
代々即位の際に聞くというリグレージュの声、それは王にしか聞こえないという。
なので、彼はこれが単なる儀式であり、代々の王は本当は皆聞こえていなかったのではと彼は考えていた。
だからこそ、11年前に即位した時に、リグレージュの声が聞こえないことも想定内。けれども王である彼は、リグレージュの神託を受けたと国民に知らせた。
「嘘」をついたことで、神(リグレージュ)の罰が下るわけでもなく、トールはやはり大樹は大樹に過ぎないと思っていた。
9年前、城は魔族の反乱分子に攻撃をうけ、その魔の手はトールのすぐそばまで迫った。優秀な魔法使いでもある王妃ジョセフィーヌの善戦もあり、賊は壊滅、敗走した。
賊の頭領の魔犬に降伏を促すが、どこまでも抵抗した。その者は、カイル、セインという、トールとジョセフィーヌの罪悪感を煽る名を口にして、兵に攻撃を止めさせた。けれども、その者は抵抗をやめず、襲い掛かってくる。
トールが剣を構えたところで、意外なことが起きた。
窓から枝が伸びてきて、魔犬を包んだのだ。そして、その身を連れ去り、大樹に取り込んだ。幹には魔犬ではなく、人の形をした女性の姿が浮き彫りになった。兵士たちは動揺して、トールは直ぐに緘口令を引く。
大樹には元から王の直系しか近づけないことになっている。なので、不気味にも見える大樹の姿が人々にさらされることはなかった。
そうして9年が過ぎても、大樹の幹には女性の姿がくっきりと浮き出たままだった。
「この女性は、魔族……でしょうね。恐らくあの魔犬の真の姿かもしれません」
「お前もそう思うか?ジョセフィーヌ」
「ええ。犬のような耳と尻尾が見えますわ」
「リグレージュ様は何をもって、魔犬を取り込んだのか」
「……カイル様のことでしょうか」
トールは妻であるジョセフィーヌの答えに顔を顰める。
兄であり、元第二王子。かつては妻の婚約者だった者。娼婦あがりの成り上がりの女性にのぼせて、道を誤った愚かな王子。
「私は、間違ってはいない。カイルは……兄は、断罪されるべきだった」
「申し訳ありません」
「ジョセフィーヌ。君が謝ることではない」
トールは俯いてしまった妻の方を抱き、大樹を仰ぐ。
「リグレージュ様。あなたは私の行為を責めているのか。けれども、兄は行動を誤った。私は正したまでのこと……」
窓から風が微かに入り、大樹の葉を少しだけ揺らす。
ただそれだけで、トールは目を閉じて、妻の温もりに助けを求めた。
☆
「素直に投降しろ。そうじゃないと」
黒い外套に、同色の頭巾。
手には魔法陣を描いた手袋を嵌め、セインはまずは投降を促す。
15歳になった彼は、魔王の配下として、反乱分子を狩る仕事を受け持っていた。この4年で、彼は魔法を身に着け、体をさらに鍛えた。背丈はヴァンより少し低いが、魔王の背と同じくらいまでに伸びていた。
魔王の片腕とまでにはいかないが、こうして反乱分子を追う仕事を請け負うまでには成長している。
「裏切り者が!」
最近は聞かなくなった言葉、以前は心を揺らした言葉だったが、今や笑って聞き流せるようにもなっていた。
「さあ、どうする?戦うか?投降するか?」
返事は攻撃。
セインは息を小さく吐くと、手袋に書かれた魔法陣に魔力を込める。つむじ風が発生して目の前まで迫った魔族たちを吹き飛ばした。
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