元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。

ありま氷炎

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第四章 ざまぁの子は魔犬と再会する。

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「やはりか」

 魔王からの書簡を読み終わり、国王トールはつぶやいた。
 宰相は遅れて、その書簡を目にした。
 魔の国からの伝達係ーー使者は騎士たちに警戒されながらも、トールから少し離れた位置にかしずいている。
 魔の国との戦争が終わり、すでに11年が経過しているが、友好関係に至るまでに距離は縮まっていない。こうして使者が人の国を訪れるのも数年ぶりであった。

「いかがいたしましょうか」
「私の答えはお前が知ってのとおり。だが、返事をする前に会議で大臣たちに説明する必要があるだろう。使者よ。返事はこちらから使者を出す。戻るがいい」

 トールの返事を予想していたのか、馬のように鼻が長く、小さな茶色の耳をした使者は『畏まりました』と返事をした後、再度首を垂れると退出した。
 国境までは、騎士が数人同行する予定だ。
 王が大臣に伝えなくても、魔の国から使者が来たことはすぐに伝わるだろう。

「宰相ステファン。早朝大臣に会議を開くことを伝達。それから、対策を考えようか」
「はい」

 疑問を挟むこともなく、ステファンは返事をするとすぐに退出した。

「セインか……。金色の髪に、琥珀色の瞳。兄上そっくりなんだろうな」

 トールは、16年前のことを思い出す。
 彼がミエルのことを糾弾しても、カイルは守るように彼女を抱きずっと反論し続けた。それが彼は許せなかった。
 第三王子である彼は、第二王子カイルと1歳しかかわらない。
 ジョセフィーヌに恋したのはトールが先だった。けれども、彼女はカイルと婚約を結ぶ。想うことはあきらめていたが、カイルは別の女性を好きになった。しかも、王子にはふさわしくない女性だ。
 ミエルは街で身に着けた技巧か、無邪気に振る舞い、男たちの庇護欲を掻き立てた。彼女を守ろうと動いた騎士や文官がおり、ジョセフィーヌの立場悪くなっていく。
 トールはカイルに助言をしたが、彼は聞き入れてくれなかった。

 ーーカイル、兄上が悪いのだ。

 トールは輝きがない、くすんだ茶色の髪をかき上げ、目を閉じた。



 
「ヴァンの行方?」
「探していただろう?人の国へ戻る前に、けりをつけてきたら?」

 誕生日から5日を経過しても、ザイネルは動こうとせず、セインは痺れを切らしていた。催促しても、『もう少し待って』という返事ばかり。
 今朝も同じ答えだろうと思い、今日こそ力づくでもと思ったところで、魔王から意外な提案がされた。

「人の国へ手紙をだした。返事は数日内にくるだろう。その前に、君はヴァンの決着をつけてきたら?人の国に行ったら戻って来れないよ。まあ、戻って来てもいいけどね」

 ザイネルはそう言いながら、手に持った茶色の紙を弄ぶように机に置いたり、掴んだりを繰り返している。

「教えて。決着をつけてくる」

 前回、ヴァンは逃げなかった。ただうまく投げ飛ばされてしまったが。
 今回はへまはしないと、セインは心に決めるとザイネルから紙を受け取った。

「まあ、楽しんで。いろいろ大変だと思うけど」

 魔王はにやにやと笑い、その笑みに腹を立てながらも素直に彼は紙に書かれた場所へ旅立った、
 

「裏切り者の、人め!」

 ヴァルのところへ辿り着きたいのに、5日前の祝賀会のせいで、黒頭巾を被っているにも関わらず彼が人間であることは知れ渡っていた。
 道の途中で、街に入ってから、魔族に襲われる。
 ヴァルから剣技、ザイネルから魔法と体術を教えてもらった彼は一般な魔族相手なら問題なく押しのけることができる。けれども、彼を襲う魔族の数は半端ではなかった。
 魔の城で彼が襲われないのは、ザイネルがそのようには配下に伝えていたからだった。それをセインは心の底から感じて、同時になぜ今は襲われているか考える。
 
 ――今は襲っていいとでも伝達したのか?それなら本当に悪趣味だ。
 
 4年、彼の元にいたセインは魔王の享楽主義を知っていた。

「死んでもいいのか?僕が?僕は協力者だぞ」

 そう詰るが、それは独り言にすぎない。魔族はひっきりなしに襲い掛かってきて、彼は必死に応戦するしかなかった。

ーーこれは、不味いかもしれない。

 体力と同様、魔力にも限度がある。
 風で豚の魔族を数匹吹き飛ばしてから、セインは駆け出す。
 魔族の血も人同様赤い。真っ赤な血糊で濡れた剣を拭う暇もなく、背中の鞘に入れてただ逃げる。

 逃げるなんて矜持が許せないなどと、思っている場合ではなかった。
 復讐を目前にして、メルヒとも再会できる日が近づいている。

 ーーこんなところで死ぬわけにはいかない。

「僕は生きるんだ!」
「おう、威勢がいいなあ」
「ヴァン!」

 立ちふさがるように一つ目の男が彼の進路の先にいた。
 大きな剣はすでに抜かれ、構えを取っている。
 ただでさえ、ヴァンは勝てる相手かわからない。今は体力も魔力も限界に近く、セインは絶望感を覚えた。けれども立ち止まり、魔法陣の描かれた手袋を嵌めた掌を彼に向けた。
 風がセインの傍は吹き通り、彼の黒い外套が靡く。
 後方から悲鳴が上がって振り向くと、茶色の猪の姿に変化した魔族たち十数匹が地面に伏して血を流していた。

「豚どもにてこずるとは、セインはまだまだ青いなあ」
「煩い!」
「おっと、新手がきた。おい、逃げるぞ。話は後でだ!」

 まるで仲間だった時のように呼び掛けられて、一瞬戸惑うが、セインは逃げるヴァンを追って森へ逃げこんだ。
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