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しおりを挟む幼馴染のイザークは女の子みたいに可愛かった。
私と同じ年なんだけど、成長期がまだきてないみたいで、身長が私より随分低くて妹みたいな存在だった。男の子からイジメを受けることも多くて、私はいつも守ってあげていた。
「ハラッタ村のイザーク。女王様より後宮に入ることを許された。喜べ」
ある日、村に役人がやってきた。
私たちの住んでいる国は代々女王が治めている。
なんでも女系にしか神力が伝わらないので、王は女じゃなければならないらしい。
そうなると、女王には夫が必要になる。
一人でいいのに、現在の女王はたくさんの夫を抱えて後宮(ハーレム)を築いて、見栄えのいい若者を集めていると聞いていたけど、まさかイザークが!
「お役人様。イザークはまだ14歳になったばかり、そんな年で女王様のお役に立てるとは思いません」
イザークは可哀想に私の後ろで震えているのに、誰も意見をしない。だから私は言ってやった。
「村娘よ。14歳といえば立派な男よ。なあ」
それに対して役人が嫌らしい目つきで村を見渡す。
誰も彼もが視線を彼から逸らし、私は役人を睨みつけた。
「イザークはまだ子どもです。だから!」
「アレイト!」
食い下がると役人は容赦なく私を殴りつけた。
イザークが駆け寄ってきて、心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫。大丈夫だから」
「アレイト、僕は後宮に入るよ。だから、これ以上抵抗しないで」
「イザーク!」
「よい心がけだ。ほら、代金だ」
役人はイザークの首根っこを掴みと引きずるように連れて行く。代わりに投げられたのは金貨の入った袋だ。
金貨は散乱し、村人が騒ぐ。だけど、私は連れて行かれるイザークをずっと見ていた。
☆
「アレイくん、こちらへ」
男性にして少し高い声で呼ばれ、面接会場に入る。
今日は役人になるために面接試験の日だった。
いたいけなイザークが後宮で酷い目にあっているかもしれない、気が気ではなかった私は禁じ手に出た。男として役人になるための試験を受けたのだ。
元から背は高かったし、声も女にしては高くない。
両親は反対したけど、どうにか説得して試験を受けさせてもらった。勉強したかいがあって、見事に合格。今日は近くの街で面接試験で、私は緊張して扉を開けた。
面接官は、女性みたいな中性的な顔をしていて、眼鏡をかけていた。
「……ハラッタ村といえば、イザークと同じ村の出身ですか」
「は、はい」
嘘をつくわけにはいかず、動揺しながらも返事をした。
だって、突然イザークの名前が出てくるんだもん。イザークって後宮で有名なのかな。確かに物凄い可愛いからなあ。
1年たってるから、身長も伸びてるかもしれない。
役人になる試験は1年に1回で、私は勉強しながら1年待った。
1年は長い。
イザークは今頃どうしているのかな。こうして名前が出るってことは……いじめれていないんだよね。それともいじめられているから?
「あの、イザークは俺の幼馴染なのです。元気にしてますか」
なるべく男っぽい口調を心がけて聞いて見た。
面接官は何かよくわからないけど、じっと私を見た後、溜息を付く。
「アレイトで、アレイですか。単純すぎる……」
「な、何か言いました?」
小さい声でよく聞こえなかった。
名前を呼ばれた気はしたけど。
「面倒事は嫌いですけど、女王様の命令ですからね。あなたは合格です。明日王都に出発するので荷物をまとめて、この宿に再度来てください」
「あ、ありがとうございます!」
よく分からない面接だったけど、どうやら受かったみたい。
私はイザークに会える日が近いと浮かれて、村に帰った。
☆
翌日、面接官――ユーリさんと一緒に王都に向う。
同じ馬車に乗せてもらった。
この地区から選ばれたのは私だけみたいで、性別を偽っているという罪悪感はあったけど、誇らしかった。
「なんですか」
ユーリさんは眼鏡をくいっと指で押して、睨んできた。
「なんでもないです」
慌てて答えて、窓のほうを向く。
ユーリさんは、本当に女性みたいで、線が細かった。声も年齢からして声変わりしているはずなのに高いし……。
そんなことを考えていたら、思わず見つめてしまい、ユーリさんにまた睨まれた。
ごめんなさい。
イザークも女の子みたいだって言ったらちょっといやそうな顔してたし。
そうだよね。
無言のまま、馬車は走り続け、夕方には王都に辿り着く。
その日のうちに後宮に案内してもらってびっくりした。
女王様の趣味なのか、後宮内で見かける役人がみんな線が細くて女性的だったから。
まあ、私も筋肉だるま系よりも、イザークみたいな可愛い男の子のほうが好きだもんね。気持ちは分かる気がする。
「さて、ここがあなたの部屋です。その荷物を置いたら食事にしましょう」
「一人部屋ですか」
「そうです。湯浴みの時間なども決まっているので、その時間に湯浴みをするように」
湯浴みの時間も……。それは困るなあ。だって女ってばれるんだけど。
「あの、」
「大丈夫です。後宮で働く役人は一人一人湯浴みの時間が決まっていて、その時間は他の者が利用できないようになってい、ます」
「え、そうなんですか。助かります」
「助かる?」
「いえいえ、なんでも」
思わず本音を漏らしてしまって、慌てて誤魔化す。
でも湯浴み時間が決まっているって面白いなあ。男の人って湯浴みって物凄い短いから、大まかな時間が決まっていて、その中でごっちゃになって浴びるって思っていたけど。
「アレイくん。まずは食事にしましょう」
ちょっと考え込んでるとユーリさんはそう言って先に行こうとする。
「ユーリさん。待ってください」
私は荷物……服と下着しか入っていない袋を置くと彼を追った。
食堂に行くと、そこは不思議な光景が広がっていた。
役人は皆男性……のはず。
けれども、どうみても女性にしか見えない人が混じっている。っていうか、男っぽい人がいなくて、ユーリさんを思わず振り返ってしまった。
「皆さん。今日から後宮つき役人になったアレイくんです。イザークと同じ村の出身です」
「イザークくん?!」
「うわあ。これは波乱の予感」
「なんか普通ぽいね」
ユーリさんの言葉で一斉に食堂にいた人たちが私を見た。その後に囁かれる台詞は意味不明なものが多くて、ユーリさんをまた見てしまった。彼女が咳払いをすると、おしゃべりがやんで、私は肩を叩かれた。
「アレイくん。皆さんに挨拶を」
「初めまして。ハラッタ村のアレイです。よろしくお願いします」
最初の挨拶が肝心だとできるだけ大声で言ってから頭を下げる。
「よろしく~~」
「がんばってね~~」
返される言葉は、なんていうか軽いノリが多すぎて拍子抜けしてしまった。
っていうか、なんで皆さん、そんなに声が高いんですか?
「それじゃ、アレイくん。次はあなたの湯浴みの番だよ」
どうやら湯浴みは終わった人が次の人の部屋に知らせにいく事になっていた。私は今日が初日だということで、一番最後。その人――ラングさんに案内してもらって、湯浴みの場所へ辿り着く。
帰りは一人で部屋に帰れるかな。
少しだけ不安になったけど、女々しいことは言ってられない。
イザークに会うまでは女ってばれるわけにもいかないし、頑張るぞ。
脱衣所で服を脱いでから、湯浴みの場に足を踏み入れた。備えてある石鹸で体を髪を洗っていると、何か音がした。私は胸を手が隠してから振り返る。
「こんにちは。子猫ちゃん」
「お、」
なんでこんなところに男の人が!
声を上げそうになった私の口を押さえたのはその人だった。
物凄い美形、イザークより美形で中性的なんだけど、上半身裸なので、そのちょっと鍛えられた胸の筋肉が凄かった。いや見惚れている場合じゃない。っていうか、私も裸!
この怪しい人をどうにかしなきゃ!
「何してるんですか!!」
必死に乳を押さえ、もがえていると聞き覚えのある声が聞こえて、口から手が離れる。
どかって音がした気もするけど。
「アレイト、大丈夫?」
助けてくれたのは、少しだけ大人っぽくなったイザークだった。
「イザーク!」
思わず抱きついてしまった私だけど、イザークの体温が高くてその耳が赤く染まったことで、気がついた。
私、裸だ!
☆
「こ、この人、いや、この方が女王様?!」
あの後ユーリさんが駆けつけてくれて、気を失っている半分裸の男の人を回収した。私はイザークが羽織っていたシャツを借りて脱衣所に真っ直ぐ向ってからやっと服をきた。
そうして落ち着いたところで、ユーリさんが再びやってきた。そうして王室に案内される。
王室へ到着すると人払いがされ、女王様が登場……。
その顔は、あの怪しい半裸の美形と同じ顔で卒倒するかと思った。
「アレイト。女王様は実は男性なんだ。君が後宮に来てくれたのは嬉しかったけど、陛下の毒牙にかかるかもしれないって心配だった」
「ど、毒牙?」
毒牙ってなんだろう。
裸は見られたけど。
そんなイザークに陛下がにやっと笑う。
「イザーク。そんなに自信がなかったのか」
「ええ。散々見てきましたから」
散々とはなんだろう?
まあ、それは置いといて、どうやら現女王様は本当は男性なんだけど、女装して女王をやっているらしい。王族には現在女性がいなくて、陛下は娘をもうけるまでのつなぎらしい。今までの歴史の中で男性が王位を継いだことはなく、しかも神力を持たない男性が王位を継ぐと、何かと問題になるということで、陛下は女装して女王になるしかなかった。
誰かが陛下の娘を産んだら、その娘に王位を渡して引退する予定ということだ。
後宮(ハーレム)を作るのは、男装した役人を隠すための擬態のようなものらしい。その表向き後宮の裏に男装した女性を集めた隠れ後宮を作っている。後宮の役人という名だけど、皆裏後宮の構成員らしい。
それならば私もその「裏後宮」に選ばれたってことなの?
心配になった私だけどユーリさんが答えてくれた。
「あなたは特別ですよ。陛下のおも、いえいえ、お気に入りのイザークがあなたのことばかり話すので、もし役人の面接に来るようだったら、後宮に入れるように陛下から指示があったのです」
イザークが私のことばかり……。それは嬉しいけど。
横目で見ると彼は少し頬を赤らめている。
「イザーク。好きな女性を守るためだとはいえ、陛下に怪我をさせるところでした。その罰は受けてもらいますよ」
「ユーリ。許してやれ。イザークに罰を与えるということは、私が起こした事も明るみになるのだろう。それでは意味がない。まあ、私もからかいすぎたよ。アレイト、すまないな」
「えっと、はい」
裸を見られたことは忘れられないが、陛下にこう言われたら仕方ない。
「陛下がそうおっしゃるのであれば、今回は不問にしましょう。けれども、陛下、お戯れもこれで最後にしてくださいね。候補の者も十分集まりました。そろそろ本腰を入れて」
「本腰か……。確かにそうだな」
陛下はユーリさんに対して、色気たっぷりの視線を向ける。
「よくもまあ、集めたな。ユーリ。そんなに嫌か」
「嫌です」
二人だけの話が始まってしまい、イザークがそっと囁く。
「陛下は最初からユーリさんを「妻」にしたかった。だけど、ユーリさんが嫌がって、こんな後宮作戦を立てたんだ」
「……物凄い迷惑……」
「そうだよね。でも後宮は面白いよ。剣術も習えるし、村ではできないような学問を学べるし。僕は後宮にきてよかったと思ってる」
「そうなんだ」
なんだか私は少し悲しくなってしまう。
イザークはこの1年さびしくなかったのかな。
私は後宮に入ってイザークに会う為に、村から街に通って本を借りて勉強したりしたけれど。
「アレイト。来てくれてありがとう。僕は後宮で立派な男になって、君を迎えにいくつもりだったんだ。ユーリさんは嫌がってるけど、時間の問題だしね。生まれた子が女の子なら、後宮は閉鎖となる。僕のような後宮構成員は、事情を知っていることもあって、役職に付くことが約束されてるんだ。君のために家も買えるんだよ」
「家?!」
「僕付きの役人になってもらうからね。そうしたらいつでも一緒だよ」
「あ、うん」
輝かんばかりの笑顔で言われ、私はこくんと頷く。
二年後、陛下は娘をもうけられた。実際はユーリさんが産んだんだけど。
後宮と裏後宮は閉鎖になって、十六歳になったイザークに結婚を申し込まれて、男装役人だったことをどうにか誤魔化して結婚した。
子どもが産まれ、イザークそっくりの男の子だったらどうしようと思っていたら、案の定、女王様に見初められて王配になってしまったりするんだけど、それはまた別の話で。
(おしまい)
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