12 / 48
恋なんて関係ない。
1-12 私は騎士だ。
しおりを挟む
――ジュネ・ネスマン様の団長解任の件について
彼女はカサンドラ騎士団の団長でありながら、私情で役者の護衛を勤めている。これは団長職務の放棄ではないのか。彼女の団長職の解任を求める。
強い口調で書かれた青色の投書を受け取ったのは、それから一週間後だった。
あれから、アンが城に来る際は私が護衛についた。騎士を借り出すのは危険を伴う可能性もあったし、当番であれば警備に穴を開け、非番であれば休日を削ることになると考えたからだ。
「私情か……」
私はその青い紙を机の上に置き、天井を仰ぐ。
確かにアンを「友人」と心配している。だから、私情と言われればそうなのか。
それから私は、アンが来る日は休みをとって、休日として彼の警護に当たることにした。
アンを迎えるために劇団に足を運ぶと、必ずカラン様がいる。帰りもだ。これが三週間続いていて、さすがにおかしいとしか思えなかった。
アン曰く、カラン様がアンの熱烈なファンとか。
信じられない。
三週間以上も王宮騎士団から休暇をもらっていることになるし、カラン様はどうみても演劇を楽しむようには見えなかったからだ。
「アン。くっつきすぎじゃないか?」
「そうですか?」
アンは私に腕を絡ませ歩いている。
同じ背丈で、触れ合う部分が温かい。気持ち悪くはないが、なんだが落ち着かなくした。
その上、なにやら、周囲から黄色い声が聞こえてくる。
「ほら、いつ襲われるかわからないじゃないですか?だから」
「腕は組まなくてもいいだろう?」
そう。
女装したアンと騎士の私。腕を組むのはおかしい。一応私たちは男女だ。男女が腕を組むというのは、親子か兄弟もしくは恋人同士だろう。
そう考えて、私は慌てて強引に彼の腕を振り解く。
アンには一応告白されている。彼の態度も変わってきている。だから、腕を組むのはおかしい!
しかし、すぐにアンが腕を絡ませてきて、私は再びその腕から逃れる。
「だめですよ。ちゃんと警備してもらわないと」
「腕を組むのは関係ないだろう?」
だいたい、腕を組んでいたら守れないだろうに!
だけど彼は譲らず、私たちはそのやり取りを繰り返しながら、帰路に着いた。
「お帰り」
城からアンと共に、宿舎に戻ると今日もカラン様がいた。その隣にテランス殿がいて、驚く。
「どうしてあなたが?」
アンは低く唸る様にテランス殿に噛み付く。
「アン。その言い方はないだろう」
テランス殿も心配しているのだ。
私がそう言うと、アンは口を尖らす。
「僕の警護はジュネ様だけで十分です。お引取りいただけますか?」
「まあ。アン。そう怒らなくても。ユアンは報告に来たのだからね」
カラン様がアンを宥めるようにそう言い、アンは子供みたいに顔を背ける。
いや、その対応はどうなのか?
まかり間違っても、カラン様は貴族。しかも王宮騎士団に所属している方だぞ。私も以前は噛み付きたい勢いだったが、彼の身分を知ってからはできるだけ、おとなしくするようにしている。
「アン」
「いいから。ネスマン殿。私は気にしていない」
彼の態度を咎めようとした私をカラン様がすかさず止め、私は口を噤む。
まあ、カラン様がかまわなければ。
でもどうしたんだろう。
アンはこんな無作法なやつではないのに。
「ネスマン殿。今日はありがとう。後は私達がアンを警護するから。君は帰っていいぞ」
「え?テランス殿から報告があるんですよね?」
多分あの傭兵達のことだろうと私もその報告を聞きたかった。いや、聞く権利はあると思う。
「え、まあ」
カラン様が口を濁し、アンに視線を向けた。
「ジュネ様も聞きたいの?」
「勿論。三週間も逃げている傭兵達だ。何か進展があったのか知りたい。それによっては今後の警備も変わるからな」
四六時中の警備で警備兵団にかなり負担がかかっているはずだ。
「いいよ。だったら」
アンはふわりと笑い、私の腕に彼の腕を絡めた。
「アン!」
「僕の部屋で話そう。玄関先ですむような話ではないですから」
「そうだね。ユアンもそれでいいだろう」
カラン殿が苦笑し、隣の引きつった顔のテランス殿を肘で突付いていた。
二人は本当に仲がいいんだな。
でも微妙は表情なのはなぜだろう。
「さあ、ジュネ様。僕の部屋へ。初めてだね」
報告を聞きたいし、事を荒げてもしょうがないので、私は腕を引かれるまま、彼の部屋に足を運んだ。
「さて、ジュネ様。ここね。カラン様とテランス様はそちらの椅子へ」
彼の部屋は汚れていなかったが、簡素なものだった。テーブルとベッド、そして引き戸がある棚。
それだけで、椅子も二つしかなかったので、私とアンがベッドに並んで座り、その向かいの椅子にカラン様とテランス殿が腰掛ける。
季節は秋。涼しいはずなのに、窓も開いているのに、部屋が蒸し暑く感じるのはなぜだろう。
嬉しそうなアン、苦笑したままのカラン様、そしてかなり不機嫌そうなテランス殿。居心地が悪すぎて、帰っていればよかったと後悔したほどだ。
「さて、ユアン。報告を聞かせてもらおう」
重苦しい雰囲気、私がそう思っているだけかもしれないが……。
それを打ち破って口を開いたのはカラン様だった。
恨めしそうな視線を彼に向けた後、テランス殿は話し始めた。
「傭兵は隣国のイッサルの者たちだった。一人を捕まえたが、自害した。その服装と持ち物からイッサル出身と判断した。あと、傭兵には仲間が数人いるようだ。これは、アン……」
そこで一旦テランス殿が話を止め、アンを見た。なぜか彼は首を振り、テランス殿は軽く頷く。
なんだ?
自分だけが除け者にされているようで気持ち悪い。
しかし、そんな子供っぽいことを主張することもはばかられ、私は話の続きを待つ。
「傭兵の狙いはアンだ。しかも部隊で動いている。だから、継続して警護は続けるが、ネスマン殿」
「はい?」
「今度は、警備兵団とマンダイ騎士団がアンの警護に当たる。だから、あなたは通常業務にもどっていい」
「は?」
なんだそれは。
「どうしてですか?アンは城に通ってもらってるし。別に私も休日を利用しているので、そんな」
「ジュネ様。僕、知ってるんです。僕の警護をしてることで内部で問題起きてますよね?僕のためにジュネ様が嫌な思いをされるのは避けたいのです」
「アン。それは違う」
「違わない。僕は、あなたの警護はいらない」
「アン!」
はっきり彼に断られ、私は傷ついた。
彼の気持ちはわかる。だが必要ないと言われて、いい気持ちはしない。
「コホン。アン、はあなたを心配しているんだ。俺も、あなたが今後も警備を続けることに反対する。危険だ」
「テランス殿!」
それで、私はアンとテランス殿の本当の意図に気がついた。
傭兵、しかも熟練の傭兵部隊が動いている。
私の腕では守り切れないということか。
ふん。そんな風に思われているなんて。
「失礼極まりないな。私が傭兵ごときに劣るとでも?私はあなたの警備兵団の団員と互角に戦える。マンダイの騎士団より劣ると思われているなんて、心外だ!」
私は怒りのあまり、立ち上がり、テランス殿、そしてアンを睨み付ける。
「まあ、まあ。ネスマン殿。落ち着きなよ。別にユアンは君を侮っているわけではなくて、君の身をだな」
「それが侮りというものなんです。私は警備をやめませんから。また来週迎えにきます」
怒りで頭の中が煮えたぎっているようだった。
毎日訓練を欠かさずに、騎士として腕を磨いてきたつもりだった。
しかし、こんな風に弱者扱いされるなんて。
アン、テランス殿、カラン様に呼び止められたが、私は振り向くこともなく宿舎から出て行った。
門番にいぶかしげに見られたが、そんなことはどうでもいい。
帰りはむしゃくしゃしすぎて、そこら辺の男へ喧嘩を吹っかけたくなるくらいだった。
翌日、カラン様に言われてか、ファリエス様がいらして、昨日と同じ事を言われた。だが私は断固として、警備役を降りることを拒否した。
そうして、一週間がすぎ、アンを迎えるため劇団に向かった。カラン様がいつものようにいたが、何も言わず見送られた。
しっかし、やはり府に落ちない。これで四週間目だ。彼は王宮騎士団をやめる気なのだろうか。
「ジュネ様。この間はごめんなさい。あなたの気持ちも考えずに」
「……心配してくれるのはうれしい。だけど、私だって騎士だ。それを忘れないでほしい」
「うん。わかってる。でもごめんね」
なぜか謝られ、わからなかったが、私はアンと共に街を歩く。
「城に行くことも、来月も続けるから。僕を待っている人もいるしね。簡単にやめるのは彼女たちに失礼だと気がついた」
「ありがとう。あの、お前の告白についてだけど」
「返事はまだいらない。欲しくない。ジュネ様」
そう返され、私は黙るしかなかった。
告白のことは、はっきり言って受け入れられなかった。
恋なんて、私には必要ないからだ。
だから断ろうと思ったのに。
「ジュネ様」
悩んでいる私に彼が腕を絡ませてくる。
「アン!」
だからやめろっていってるのに。
「腕を組むだけですよ。それも駄目なの?」
そう言って微笑まれ、私は足を止めてしまった。くらくらしそうなくらいの色気で、眩暈がする。
「ジュネ様。行きますよ」
呆然とする私の腕を引き、彼は再び歩き出した。
街を抜け、城への道が続く。
ここは人気が一気になくなる。そして、妙な雰囲気が漂う。空気が緊張していた。
私は彼の腕から自分の腕を引き抜く。彼は抵抗することもなく素直に私の腕を放した。
アンにも緊張感が伝わったのだろう。彼の表情は硬かった。
人の影は見えないが、何か気配を感じる。部隊が動いていると言葉を思い出し、私は腰の剣にいつでも手を伸ばせるように警戒しながら、歩く。
「アン。君のことは絶対に守る」
「守る……か。なんだか、悲しいけどね」
「アン?」
私の言葉に彼がそう答え、どうしてなのか問おうとしたが、時間がなかった。
木の陰から傭兵が三人現れた。
どれも、筋肉隆々な男どもだ。
「あったりだな」
「そうだな。上物だ。殺すだけじゃもったいない」
「黙れ。二人とも」
男たちは口々にそう言い、剣を抜く。
剣の形からイッサルの傭兵であることを確信する。
「アン。私の後ろに」
アンは頷くが、視線は私の前方、男たちの後方を見ている。
なんだ?
しかし、私がそれを考える余裕がなかった。
次々を繰り出される剣を捌き、奴らに攻撃を仕掛ける。
悔しいが私の力は熟練の傭兵にはかなわない。しかし、それは腕力であって、技術はそれの上を行く。
私は意を決すると仕掛けた。
速さを生かし、奴らの動きを止めていく。足の腱を切り、顎に拳を叩きつけ、最後に後頭部を柄で殴る。
命を奪うつもりはなく、戦闘不能にするのが目的だ。男たちは地面に臥し、腱を切った男は私を罵る。
「アン。そこで待ってろ」
私はもしもの時を考えて用意していた縄で彼らを縛り、木に括り付ける。
騒ぎを聞きつけてか、後方からテランス殿を初めとした警備兵団が走ってきていた。
「ジュネ様。怪我は、ない、ですよね?」
「ああ、心配ない。こいつらを警備兵団に預ければ何らかの情報が得られるだろう」
私は傭兵達が自害しないように、口の中に布を詰めていく。
「さあ、行こうか」
テランス殿が目前まで来ていたが、侮られたことの怒りはまだ消えていない。私はアンを促し、城への道を急いだ。
彼女はカサンドラ騎士団の団長でありながら、私情で役者の護衛を勤めている。これは団長職務の放棄ではないのか。彼女の団長職の解任を求める。
強い口調で書かれた青色の投書を受け取ったのは、それから一週間後だった。
あれから、アンが城に来る際は私が護衛についた。騎士を借り出すのは危険を伴う可能性もあったし、当番であれば警備に穴を開け、非番であれば休日を削ることになると考えたからだ。
「私情か……」
私はその青い紙を机の上に置き、天井を仰ぐ。
確かにアンを「友人」と心配している。だから、私情と言われればそうなのか。
それから私は、アンが来る日は休みをとって、休日として彼の警護に当たることにした。
アンを迎えるために劇団に足を運ぶと、必ずカラン様がいる。帰りもだ。これが三週間続いていて、さすがにおかしいとしか思えなかった。
アン曰く、カラン様がアンの熱烈なファンとか。
信じられない。
三週間以上も王宮騎士団から休暇をもらっていることになるし、カラン様はどうみても演劇を楽しむようには見えなかったからだ。
「アン。くっつきすぎじゃないか?」
「そうですか?」
アンは私に腕を絡ませ歩いている。
同じ背丈で、触れ合う部分が温かい。気持ち悪くはないが、なんだが落ち着かなくした。
その上、なにやら、周囲から黄色い声が聞こえてくる。
「ほら、いつ襲われるかわからないじゃないですか?だから」
「腕は組まなくてもいいだろう?」
そう。
女装したアンと騎士の私。腕を組むのはおかしい。一応私たちは男女だ。男女が腕を組むというのは、親子か兄弟もしくは恋人同士だろう。
そう考えて、私は慌てて強引に彼の腕を振り解く。
アンには一応告白されている。彼の態度も変わってきている。だから、腕を組むのはおかしい!
しかし、すぐにアンが腕を絡ませてきて、私は再びその腕から逃れる。
「だめですよ。ちゃんと警備してもらわないと」
「腕を組むのは関係ないだろう?」
だいたい、腕を組んでいたら守れないだろうに!
だけど彼は譲らず、私たちはそのやり取りを繰り返しながら、帰路に着いた。
「お帰り」
城からアンと共に、宿舎に戻ると今日もカラン様がいた。その隣にテランス殿がいて、驚く。
「どうしてあなたが?」
アンは低く唸る様にテランス殿に噛み付く。
「アン。その言い方はないだろう」
テランス殿も心配しているのだ。
私がそう言うと、アンは口を尖らす。
「僕の警護はジュネ様だけで十分です。お引取りいただけますか?」
「まあ。アン。そう怒らなくても。ユアンは報告に来たのだからね」
カラン様がアンを宥めるようにそう言い、アンは子供みたいに顔を背ける。
いや、その対応はどうなのか?
まかり間違っても、カラン様は貴族。しかも王宮騎士団に所属している方だぞ。私も以前は噛み付きたい勢いだったが、彼の身分を知ってからはできるだけ、おとなしくするようにしている。
「アン」
「いいから。ネスマン殿。私は気にしていない」
彼の態度を咎めようとした私をカラン様がすかさず止め、私は口を噤む。
まあ、カラン様がかまわなければ。
でもどうしたんだろう。
アンはこんな無作法なやつではないのに。
「ネスマン殿。今日はありがとう。後は私達がアンを警護するから。君は帰っていいぞ」
「え?テランス殿から報告があるんですよね?」
多分あの傭兵達のことだろうと私もその報告を聞きたかった。いや、聞く権利はあると思う。
「え、まあ」
カラン様が口を濁し、アンに視線を向けた。
「ジュネ様も聞きたいの?」
「勿論。三週間も逃げている傭兵達だ。何か進展があったのか知りたい。それによっては今後の警備も変わるからな」
四六時中の警備で警備兵団にかなり負担がかかっているはずだ。
「いいよ。だったら」
アンはふわりと笑い、私の腕に彼の腕を絡めた。
「アン!」
「僕の部屋で話そう。玄関先ですむような話ではないですから」
「そうだね。ユアンもそれでいいだろう」
カラン殿が苦笑し、隣の引きつった顔のテランス殿を肘で突付いていた。
二人は本当に仲がいいんだな。
でも微妙は表情なのはなぜだろう。
「さあ、ジュネ様。僕の部屋へ。初めてだね」
報告を聞きたいし、事を荒げてもしょうがないので、私は腕を引かれるまま、彼の部屋に足を運んだ。
「さて、ジュネ様。ここね。カラン様とテランス様はそちらの椅子へ」
彼の部屋は汚れていなかったが、簡素なものだった。テーブルとベッド、そして引き戸がある棚。
それだけで、椅子も二つしかなかったので、私とアンがベッドに並んで座り、その向かいの椅子にカラン様とテランス殿が腰掛ける。
季節は秋。涼しいはずなのに、窓も開いているのに、部屋が蒸し暑く感じるのはなぜだろう。
嬉しそうなアン、苦笑したままのカラン様、そしてかなり不機嫌そうなテランス殿。居心地が悪すぎて、帰っていればよかったと後悔したほどだ。
「さて、ユアン。報告を聞かせてもらおう」
重苦しい雰囲気、私がそう思っているだけかもしれないが……。
それを打ち破って口を開いたのはカラン様だった。
恨めしそうな視線を彼に向けた後、テランス殿は話し始めた。
「傭兵は隣国のイッサルの者たちだった。一人を捕まえたが、自害した。その服装と持ち物からイッサル出身と判断した。あと、傭兵には仲間が数人いるようだ。これは、アン……」
そこで一旦テランス殿が話を止め、アンを見た。なぜか彼は首を振り、テランス殿は軽く頷く。
なんだ?
自分だけが除け者にされているようで気持ち悪い。
しかし、そんな子供っぽいことを主張することもはばかられ、私は話の続きを待つ。
「傭兵の狙いはアンだ。しかも部隊で動いている。だから、継続して警護は続けるが、ネスマン殿」
「はい?」
「今度は、警備兵団とマンダイ騎士団がアンの警護に当たる。だから、あなたは通常業務にもどっていい」
「は?」
なんだそれは。
「どうしてですか?アンは城に通ってもらってるし。別に私も休日を利用しているので、そんな」
「ジュネ様。僕、知ってるんです。僕の警護をしてることで内部で問題起きてますよね?僕のためにジュネ様が嫌な思いをされるのは避けたいのです」
「アン。それは違う」
「違わない。僕は、あなたの警護はいらない」
「アン!」
はっきり彼に断られ、私は傷ついた。
彼の気持ちはわかる。だが必要ないと言われて、いい気持ちはしない。
「コホン。アン、はあなたを心配しているんだ。俺も、あなたが今後も警備を続けることに反対する。危険だ」
「テランス殿!」
それで、私はアンとテランス殿の本当の意図に気がついた。
傭兵、しかも熟練の傭兵部隊が動いている。
私の腕では守り切れないということか。
ふん。そんな風に思われているなんて。
「失礼極まりないな。私が傭兵ごときに劣るとでも?私はあなたの警備兵団の団員と互角に戦える。マンダイの騎士団より劣ると思われているなんて、心外だ!」
私は怒りのあまり、立ち上がり、テランス殿、そしてアンを睨み付ける。
「まあ、まあ。ネスマン殿。落ち着きなよ。別にユアンは君を侮っているわけではなくて、君の身をだな」
「それが侮りというものなんです。私は警備をやめませんから。また来週迎えにきます」
怒りで頭の中が煮えたぎっているようだった。
毎日訓練を欠かさずに、騎士として腕を磨いてきたつもりだった。
しかし、こんな風に弱者扱いされるなんて。
アン、テランス殿、カラン様に呼び止められたが、私は振り向くこともなく宿舎から出て行った。
門番にいぶかしげに見られたが、そんなことはどうでもいい。
帰りはむしゃくしゃしすぎて、そこら辺の男へ喧嘩を吹っかけたくなるくらいだった。
翌日、カラン様に言われてか、ファリエス様がいらして、昨日と同じ事を言われた。だが私は断固として、警備役を降りることを拒否した。
そうして、一週間がすぎ、アンを迎えるため劇団に向かった。カラン様がいつものようにいたが、何も言わず見送られた。
しっかし、やはり府に落ちない。これで四週間目だ。彼は王宮騎士団をやめる気なのだろうか。
「ジュネ様。この間はごめんなさい。あなたの気持ちも考えずに」
「……心配してくれるのはうれしい。だけど、私だって騎士だ。それを忘れないでほしい」
「うん。わかってる。でもごめんね」
なぜか謝られ、わからなかったが、私はアンと共に街を歩く。
「城に行くことも、来月も続けるから。僕を待っている人もいるしね。簡単にやめるのは彼女たちに失礼だと気がついた」
「ありがとう。あの、お前の告白についてだけど」
「返事はまだいらない。欲しくない。ジュネ様」
そう返され、私は黙るしかなかった。
告白のことは、はっきり言って受け入れられなかった。
恋なんて、私には必要ないからだ。
だから断ろうと思ったのに。
「ジュネ様」
悩んでいる私に彼が腕を絡ませてくる。
「アン!」
だからやめろっていってるのに。
「腕を組むだけですよ。それも駄目なの?」
そう言って微笑まれ、私は足を止めてしまった。くらくらしそうなくらいの色気で、眩暈がする。
「ジュネ様。行きますよ」
呆然とする私の腕を引き、彼は再び歩き出した。
街を抜け、城への道が続く。
ここは人気が一気になくなる。そして、妙な雰囲気が漂う。空気が緊張していた。
私は彼の腕から自分の腕を引き抜く。彼は抵抗することもなく素直に私の腕を放した。
アンにも緊張感が伝わったのだろう。彼の表情は硬かった。
人の影は見えないが、何か気配を感じる。部隊が動いていると言葉を思い出し、私は腰の剣にいつでも手を伸ばせるように警戒しながら、歩く。
「アン。君のことは絶対に守る」
「守る……か。なんだか、悲しいけどね」
「アン?」
私の言葉に彼がそう答え、どうしてなのか問おうとしたが、時間がなかった。
木の陰から傭兵が三人現れた。
どれも、筋肉隆々な男どもだ。
「あったりだな」
「そうだな。上物だ。殺すだけじゃもったいない」
「黙れ。二人とも」
男たちは口々にそう言い、剣を抜く。
剣の形からイッサルの傭兵であることを確信する。
「アン。私の後ろに」
アンは頷くが、視線は私の前方、男たちの後方を見ている。
なんだ?
しかし、私がそれを考える余裕がなかった。
次々を繰り出される剣を捌き、奴らに攻撃を仕掛ける。
悔しいが私の力は熟練の傭兵にはかなわない。しかし、それは腕力であって、技術はそれの上を行く。
私は意を決すると仕掛けた。
速さを生かし、奴らの動きを止めていく。足の腱を切り、顎に拳を叩きつけ、最後に後頭部を柄で殴る。
命を奪うつもりはなく、戦闘不能にするのが目的だ。男たちは地面に臥し、腱を切った男は私を罵る。
「アン。そこで待ってろ」
私はもしもの時を考えて用意していた縄で彼らを縛り、木に括り付ける。
騒ぎを聞きつけてか、後方からテランス殿を初めとした警備兵団が走ってきていた。
「ジュネ様。怪我は、ない、ですよね?」
「ああ、心配ない。こいつらを警備兵団に預ければ何らかの情報が得られるだろう」
私は傭兵達が自害しないように、口の中に布を詰めていく。
「さあ、行こうか」
テランス殿が目前まで来ていたが、侮られたことの怒りはまだ消えていない。私はアンを促し、城への道を急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです
ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。
そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、
ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。
誰にも触れられなかった王子の手が、
初めて触れたやさしさに出会ったとき、
ふたりの物語が始まる。
これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、
触れることから始まる恋と癒やしの物語
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる