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恋なんて関係ない。
1-18 マンダイ騎士団
しおりを挟むそれから数日が経過した。
アンにはヴィニアが捕まるまでは、城に来なくてもいいと伝えた。カラン様はあからさまに安堵して、アンは完全に拗ねていた。
そしてなぜか、一週間に一度は劇団に顔を見せるようにと約束させられた。
実際は三日に一度と言われたが、私はこれ以上城で可笑しな噂を広めたくなかったので、私が休みの日だけに劇団を訪れると、アンを納得させた。
穀物屋に商品を取りにいくことが、業者の間で伝わり、結局すべての業者の商品を取りに行くことになってしまった。
まあ不公平はよくない。
なので、一人ではさすがに無理なので、団員を二名ほど借りて荷車を使って運ぶことにした。私が引いて、二人が後方から押す。いい訓練にもなり、私としては結果的に一石二鳥ではないかと思っている。
業者が城に出入りしないことで、警備の負担を軽減させる、商品を取りにいくことで業者の不満を取り除く。
その上、団員たちは訓練をできるのだ。
一石二鳥どころか、三鳥かもしれない。
団員二人に囲まれて移動する。
おかげで、テランス殿とも顔をあわせることがなかった。
あれから穀物屋にいくとなぜか、テランス殿がいて、袋を持つ持たないでやり合った。本当に疲れる。
彼はどうしてもあんなに袋に執着するのだろう。
荷車を使うことになり、テランス殿は姿を見せなくなった。
やはり、彼は袋を持ちたかったらしい。
彼は少し変わっている。
「団長。あれ、あれ!」
団員に声をかけられ、私は彼女が指している方向を注視する。
そこにいたのは、真っ赤な制服に身を包んだマンダイ騎士団の騎士だった。
いつみても、派手な色だ。あんな色を着こなせる奴らの気がしれない。
奴らは私たちを目の敵にしている。
「無視して進むぞ」
私の言葉に二人は頷き、見なかった振りをして通り過ぎる。
しかし奴らは下卑た笑いを浮かべ、荷車の前に立った。
「何用ですか?」
荷車を止め、目の前の男を睨み付ける。
金髪のもじゃもじゃ頭の男、見覚えがあるような、ないような。
「ジュネ。つれないなあ。女の細腕で大変そうじゃないか。俺たちが運んでやろうか?」
「必要ありません!」
思い出した!こいつは、マンダイ騎士団の第一部隊の隊長バナードだ。
「用事はそれだけですか?それなら私たちはこれで」
奴は以前私に絡んできた男だ。ねちっこい視線が気持ち悪い。
「待った!俺たちと少しお茶でもしようじゃないか。どうせ急いでいないんだろう?」
「急いでいますので」
急いでなくてもお茶なんかするものか。
私は荷車の引き手を再び持つ。
「退いてくれませんか?」
「だめだ。お茶を飲んでくれるまで退かない」
子供か。お前は!
こんな男とお茶なんて、御免だ。だいたい、何を話すんだ。
無理に進むと奴に怪我をさせる。別に奴が傷つこうと構わないが、騎士団に迷惑をかける。
そうなるとお茶か。
まあ、犠牲になるのは私だけでいいか。
「バナード殿」
私があきらめた時、奴を呼ぶ声がした。
奴は不機嫌そうに視線を向けた後、顔を引きつらせた。
「カラン様!」
カラン様?
私も驚いてそちらの方を見ると、彼はアンを伴っていた。
アンはにこりと微笑んだ後、バナードに冷たい視線を投げかける。
「マンダイ騎士団の騎士は暇なのかな。制服を着ているところを見ると、勤務中だと思うけど」
カラン様は軽口を叩くように話しかけた。
「いえ。その、」
カラン様は王宮騎士団の騎士だ。王直属で、マンダイ騎士団など彼からしてみると、田舎の騎士に過ぎず、取るに足らない存在だ。
それはバナードも理解しており、かなり低姿勢だ。
「今すぐ屋敷に戻ったらどうだ。忙しいだろう?」
「は、はい!いくぞ!」
彼はカラン様に頭をさげ、私を粘っこい目を一瞬だけ向けると、仲間とともに足早に去る。
「助かりました。カラン様」
お茶なんか行っていたら、もしかしたら殴っていたかもしれない。
それくらい、奴は気持ち悪い。
穏便に物事をすまされて、私はカラン様に礼を述べる。
「いやいや。本当、マンダイ騎士団か。いつみても碌なものじゃないな」
「本当。嫌な連中だよ。ジュネ様に絡んじゃってさあ」
アンとカラン様の二人はゆったりと歩いてくる。
カラン様は王宮騎士団の制服姿。アンは女装姿ではなく、男物の服を着ており、髪もひとつに結んでいた。
「ナ、カラン様。あいつどうにかできないの?」
「私には無理だな。でも、あなたなら、」
「カラン様!」
カラン様がそう言い掛け、アンが鋭い声で彼を止めた。
「私から上に報告しておく。地方は地方に任せているから、効果があるかはわからないけどね」
なんだろう。このやり取り。
裏があるな。絶対に。
「ネスマン殿、仕事中悪かったね。荷物を運ぶ途中だろう。私たちはたまたま通りかかっただけなんだ。彼は劇団に篭るのがいやみたいでね」
「いえ。助けてもらったのはこちらなので。それでは。私たちは。アン。またな」
釈然としなかったが、荷物は午前中に運び込んだほうがいい。私は団員二人を促し、カラン様に頭を下げると再び荷車を引いた。
「ジュネ様。今週日曜忘れないでね」
「ああ、わかってる」
団員には聞かれたくなかったが、秘密にするわけにもいかない。
私はそう答えてアンに手を振る。
彼は魅力的な笑顔を浮かべており、私に釣られて後ろを振り返った団員二人は顔を真っ赤にしていた。
若い団員だ。
アンに誘惑しないように伝えておこう。
☆
「これで全部だ。後は大丈夫か?」
野菜、穀物、肉等を台所に降ろして、朝食用のパンとチーズ、スープを二人分貰い、私は庭園に向かう。
目的はミラナが休んでいる小屋だ。ハリアリ草の中毒から完全に抜けるまで、彼女を隔離することにした。警備も一人置いている。
これは、彼女を監視するためではなく、外からの刺激から彼女を守るためだ。
毒は完全に抜けているが、ミラナを元の給仕係戻すが、まだ処遇が決まっていない。
人の噂はすぐに広まる。
アンに毒を持ったこと、ハリアリ草を服用していたことはすぐに城の者の多くが知ることになった。
城にはアンのファンも多い。その反感をミラナが買うのは当然の流れで、嫌がらせを受けるのは目に見えていた。
傷を負った女性が集まっているのに、その中でまた傷つけあう。私には理解できないのだが、実際に起きているのだから、仕方がない。
「当たり前じゃない。人を貶めることで幸せを感じる。そんな人間もいるのよ。ジュネ」
諍いが起きる度に頭を抱える私にファリエス様はよくそう言っていた。
警備の者に軽く敬礼して、私は扉を叩く。
すると静かに扉が開けられた。
今日のミラナの顔色もさえない。
ハリアリ草のせいではなく、最近の彼女はいつもこんな顔をしていた。
「ジュネ様」
彼女は人が変ったように寂しく笑う。
「今日は朝食を一緒に食べようと思って。まだ食べていないだろう?」
彼女の食は細くなっていて、私が無理に誘わないと食べない日もあるようだった。
ベリジュも気になって、たまに様子を見に来てくれるが、彼女は城の医師でありミラナに付きっ切りになるわけにいかない。
「食べたくないです」
「でも食べるんだ」
「嫌です」
「口を無理やり抉じ開けてでも食べてもらう」
彼女はそれっきり黙ってしまい、私は持ってきたパンとチーズ、スープの入った器を机の上に並べる。
「冷める前に食べるぞ」
私はそう言って、食べ始める。
ミラナは私の向かいの椅子には座ったが、スプーンすら持とうとしなかった。
「ミラナ。食べろ」
私は彼女のスプーンを持ち、スープを救うと彼女の口に運ぶ。
「飲みたくない」
「だったら無理やり食べさせる」
立ち上がった私に彼女は観念して、パンを手にとった。
私はほっとして座り直す。
やせてしまった彼女。
表情も失ってしまった。
私のせいだ。彼女を裏切ったから。浮かれたつもりなんてなかった……。
でも妙な感情が沸き起こることは止められなかった。
それが浮かれている、という状態なのかはわからない。
でもミラナにはそう見えていたのだろう。
「ジュネ様。ごめんなさい。だけどもう構わないでください」
彼女の瞳から大きな涙が零れ落ちる。それは止め処もなく流れ落ち、机をぬらしていく。
「ミラナ。お前のせいじゃないから。泣くな」
私は立ち上がり、彼女を抱きしめた。
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