カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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3『過去の聖戦』

3 第五章第七十一話「最期の笑顔」

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ゼノ

「《嘘、でしょ……》」

絶望を、シロが震えた声で形にする。セインから、痛みが伝わる。

心が悲鳴を上げていた。ボロボロな身体よりも痛い。

痛いんだ。

受け止められない。

目の前から、一瞬でエイラとフィグルがいなくなった。

呻くベグリフの左腕から闇が膨張するように溢れたと思ったら、その先を全て飲み込んだ。

飲み込まれる寸前、エイラがこちらを見て手を伸ばそうとしていた。

その手を掴めなかった。この眼で闇に飲み込まれる二人を見た。

あれ程の容量が放たれたことは今まで一度もなかった。

フィグルに嵌められた指輪の封印力をベグリフは利用したのだ。自分が操れる容量以上の《魔》の紋章を解き放っても、封印力が制御してくれるから。

一瞬でも容量を超えた最大威力で放つことが出来た。

ただ、それはベグリフにとっても諸刃の剣だった。容量以上の《魔》を解き放つ代わりに、溢れ多分封印の展開が速くなった。

……っ。

今すぐ二人の生死を確かめたい。急いで二人の姿を見つけたい。

だけど。

「ああああああああああっ!」

あらんかぎり叫ぶ。

痛む心を慰めるように。

痛む心を奮い立たせる為に。

今俺がやらなくちゃならない事は。

 

ここで立ち尽くすことじゃない。

 

支えてくれていたセラの腕から飛び出す。

動かないセラに伝えなくちゃ。

二人が生きているか分からないけれど。

俺達には繋げなくちゃならないものがあることを。

信じて、繋げるんだ。

零れる涙を無視して、ぎゅっとセインを握りしめる。

「《ゼノ……!》」

俺の心がシロに伝わったのか、セインが紅く光った。

「あああああああああああああっ」

四つん這いに倒れているベグリフへセインを振り下ろした。

咄嗟に張られたシールドも斬り伏せる。

一撃、ベグリフに与えることが出来た。

だが、シールドを張りながら奴は背後に飛んでいたようで、致命傷には至らない。

地面を転がりながら、俺から距離を取るベグリフ。

苦悶の表情を浮かべる奴の胴に刻まれた一筋の傷からは。

とめどなく鮮血が溢れ出ていた。

 

再生、しない。

 

もう、ベグリフに《魔》の紋章の力はない。

「くっ……!」

傷口にベグリフが触れる。指の間からどんどん滴る鮮血。

だが、やがてそれも止まるだろう。

魔力自体は、まだ奴に残っているのだから。

時間を与えては回復してしまう。

「ここで動かなきゃ! セラァ!」

叫びながら前に飛び出す。

ここで動かなきゃ。

二人の想いが無駄になる。

絶対そんなことにはさせない。

ここで終わらせる!

ベグリフへと一気に距離を詰めるが、

「《怒渡岩礁》」

次の瞬間、周囲の地面がもの凄い勢いでせり上がった。

「っ」

勢いに負けて地面に身体を叩きつける。それでも上昇は続いていく。

上からの重力を押しのけるように飛び出す岩礁に、身体が圧し潰されそうだ。

途端に岩礁が動きを止める。慣性のまま勢いよく上に放り出される俺の身体。

「《黒雷》」

ベグリフから目の前を簡単に埋める程大量の黒い稲妻が放たれた。

赤黒い稲妻が音を置き去りにして一瞬で目の前に到達する。

すぐにセインを構えたが、再び身体が悲鳴を上げる。

身体は限界をとうに超えていた。

「《ゼノ!》」

「っ、らぁ!!」

それでもセインを振って、どうにか稲妻を掻き消す。

激痛が全身を駆け抜け、身体が固まる。

その後ろから黒炎が目一杯に広がって来た。

怒涛の魔法攻撃。これまで残していた余力を奴は全てぶつけてきている。

ここまでして漸く、同じ土俵に立ったばかりなのだ

くそっ。

身体が思ったように動かない。全身に何十キロも錘をつけているようだ。

間に、合え……!

そして、黒炎に飲み込まれる。

結局、間に合わなかった。けれど、熱くはない。

目の前に、守ってくれる存在が映った。

「セラ……!」

セラが涙を大量に流しながらも、シールドを張って守ってくれていた。

腕を突き出し、必死に黒炎を退けてくれていた。

「来て、くれたんだな……!」

もう、心が前を向かないかもしれないと思っていた。

立ち向かうことはもう出来ないかもしれないと。

それでも、セラは来てくれた。

「隣で支えるって決めたんです……!」

彼女が必死に張るシールドも、だんだんと高熱に溶かされていく。

圧倒的にベグリフとの実力差が埋まらない。

それに抗うように、彼女は叫んだ。

「二人の分も、私が支えるんです!!」

セラがこじ開けるように突き出した両手を広げる。

すると、黒炎の中にシールドの道が出来た。

セラ……。

セラも、ちゃんと想いを受け取っている。

想いが、原動力になることをちゃんと知っている。

動かない身体に、また力が溢れていく。

大丈夫だ。

想いは、たとえ傍にいなくたって。

ちゃんと繋がっている。

シールドは徐々に解け始めるが、今の俺には十分すぎた。

「ありがとう、セラ!」

空を蹴って、シールドの中を駆け抜けていく。

その先でベグリフが漆黒の剣を構える。先程与えた傷口からはもう出血していなかった。

少しでも時間を与えたら魔力で回復される。

もう、時間は与えない……!

セラと二人で、ベグリフへと飛び出した。

 

 

※※※※※

 エイラ

身体の感覚がない。

身体に力が入らない。入らないどころか、どんどん力が抜けている気もする。

霞みがかった意識では、身体は動かないのだろうか。

重たい瞼をゆっくりとこじ開ける。右目は動かないから左目だけ

ここは……。

まず視界に映ったのは深い藍色。視界がぼやけていてそれが何なのか分からない。ところどころ何かが光っているようにも見えるが、何なのだろう。

……。

だんだん意識が暗くなる。意識だけじゃない。もっと大切な何かも持って行かれる感覚。

意識だけは手放してはいけない気がした。

「ヒュー……ヒュー……」

か細い笛のような音がする。

右耳から音は全く聞こえないけれど、左耳が微かに受け取る。

それが自分の呼吸音だと気付いたのはすぐ後だ。

肺が潰されているのか、肺に何かが突き刺さっているのか。痛みがなく、苦しさも感じないけれど、どちらかなのだろう。

そういえば、ベグリフの闇に飲まれたんでしたっけ。咄嗟に張った防御魔法のお陰で現状辛うじて生きている、というところですかね。

今になって現状を把握する。ということは、今私は地面に寝そべっているのだろう。視界に映っているのは夜空で光っているのは星辺りか。

……死ぬんでしょうね。

痛みも感じない程に、命の灯は消えようとしている。

死にたくない。けれど、何故か諦めが先にくる。

きっと、ベグリフの事はゼノがどうしてくれる。……最後にゼノの唇くらい奪えたら幸せだったかもしれませんね。いや、セラ様とシロが怒るかもしれません。

三人の事を思い出して、笑った。笑えているかどうか分からないけれど、心が笑っている。

本当に、会えて良かった。

でも、あの三人に会えたのは。

私の人生がこんなにも彩ったのは。

 

フィグルのお陰。



フィグルは無事でしょうか。

どうにか視線だけを動かしてみるが、その中にフィグルの姿は見えない。そもそも首が動かないせいで見える範囲にも限界がある。

フィグルも闇に飲まれていた、と思う。大丈夫だろうか。

生きていて欲しいなぁ。

私が駄目でも、彼女には生きていて欲しいと強く思う。

フィグルが居なきゃ、今の私がいない。

力任せに他者を拒絶していた独りぼっちの私に寄り添ってくれた。

拒絶したのに、繋がってくれた。

彼女が私を孤独から救ってくれなきゃ、今の私はいないんだ。

きっと、これからフィグルはもっと沢山のものを繋いでいく。そう確信できる。

世界に彼女は必要な存在だと思うから。

どうか、生きて。

彼女の事を思い浮かべて安堵したのか。それとももう終わりだからか。

意識を手放してしまいそう。

ゆっくりと瞼が落ちていく。

頑張ってください。皆。

この世界を、どうか。

繋げてください。

「……ラ、…イラ!」

左から声が聞こえた。

この世界に私を繋ぐ声が聞こえた。

何とか瞼を開く。

私に影が差していた。

「エイラ、エイラ!」

その声音に、安堵する。

ちゃんと生きていたんですね。

「フィ……――っ」

「無理して喋らないでください!」

フィグルが辛そうに叫ぶ。

思うように言葉が発せない。肺が上手く機能していないせいで、空気が足りないのかもしれない。

「私を、助けようとしたせいで……!」

あのフィグルが悲観している。

フィグルから見ても助からないのかもしれませんね。

それでもいい。

フィグルが生きていてくれた。それを確認出来ただけで十分だ。

ぼやけているけれど、彼女を最後に見れて良かった。

そう思ったのに。

「ガフッ、ゴボッ……!」

フィグルが何かを吐く。喉に勢いよく込み上げてきたそれは、空気を震わせて酷い音と共に飛び出す。

ぼやけていても分かる。それ程の量。

あれは血だ。

眼の前で、フィグルが凄まじい量の血を吐いた。

びちゃびちゃと音を立てて、地面に血が降り注ぐ。

その量は、明らかに異常だ。

目を見開く私へ、血を拭いながら困ったように彼女が笑う。

「私達、然程長くはないですね」

「フ……――」

「私の下半身も、エイラの右半身と同じように潰されてしまったようです」

明かる気にフィグルは言うけれど、信じられなかった。

ただ、私の右目が動かないのも右耳が聞こえないのも、右半身が潰されているからだと思えば、決してフィグルの言葉が嘘ではないと思えてしまう。現に左目左耳は使えるのだ。

それでも信じられなくて、動かない首を必死に曲げてみる。

そして見えたものは。

 

かろうじて上半身と繋がっている、フィグルの潰れた下半身だった。

 

潰れた下半身は見るも無残で、あんなに綺麗だったフィグルの両脚は今や肉塊と化していた。

上半身は下半身から引き千切られたようで、その間に見える腸が唯一二つを繋いでいるようだった。

フィグルの背後には大きな血だまりがあり、そこから這って来たような血の跡がある。

魔法で止めたのだろう、彼女の上半身から出血していないけれど吐血した様子から長くは持ちそうにない。あのフィグル程の治癒魔法でありながら、限界はすぐそこまで来ていた。

そんな……! 生きていてくれると思ったのに……!

このままでは、フィグルも死んでしまう。

何か、方法はないかと必死にもがこうとするが身体は動かない。生きている左半身すら、思ったように動かすことが出来ない。

ただ、フィグルを見つめることしか出来ない。

死ぬ寸前だと言うのに、彼女は笑っていた。

ただその瞳に映っているのは、絶望ではなく希望だった。

ふぅ、と大きく息を吐く彼女。

そして、フィグルは私の身体へ両手をかざした。

すると、私の身体に何かの刻印が刻まれていく。

これは……!

慌ててフィグルを見る。そういえば、フィグルの完全な致命傷を前にアレが発動していない。

コーネル島の時は三日も起きなかったのに。下半身が潰されたことで刻印が消されたとでもいうのか。

私の身体に刻まれていく刻印。

これは。

 

自動回復魔法だ。

 

身体に致命傷を負った時に自動的に発動する魔法。魔力が尽きるまで自動で回復する魔法。

なんで私に……!

何故彼女自身にそれが発動していないんだ。

フィグルは優しく告げた。

「これ程の怪我では、いくら自動回復魔法といえど助かりません……一人分の魔力では」

言葉を紡ぎながら、どんどん私の身体に刻印が刻まれていく。

拒絶したくても、身体が動かない。

「……―――!」

何かを言おうとする私へ、彼女は変わらず笑顔を向ける。

「私とエイラの残りの魔力があれば、何とか一人は助かるはずなんです」

やめてと叫びたいのに、声が出ない。

生きてと伝えたいのに、溢れるのは涙だけ。

フィグルは自動回復魔法で助からないと気付いた時点で解除したのだろう。どちらか一方を生かすために。

 

自身を犠牲にして、私を生かすために。

 

「助けに来てくれて、ありがとうございました。とっても嬉しかったです」

違う。助けられていない。それどころか今助けられているのは私じゃないか。

「思えば、エイラには本当に支えてもらいました」

違う、ずっと支えられていたのは私だ。

「魔王軍に入りたいと言った私に、あなたは嫌がらずついてきてくれました。四魔将になってくださいという私の我が儘を、あなたは叶えてくれました」

違う、違うんです。フィグル。

「エイラの存在がとても私の支えになっていたんです。小さい頃から一緒にいたあなたの存在が、私を救ってくれていたんです」

首を振りたくても振ることが出来ない。

否定したいのに。

ずっと救われていたのは私だった。独りぼっちだった私を、あなたが救ってくれた。何もない私に生きる力をくれた。

「何気ないあなたとの時間が、何より大切でした」

私も同じだ。

同じだから、もうやめて。

支えていたわけじゃない。ずっと私があなたの傍にいたかったから。だから頑張れた。

あなたが居なかったら私は……!

「後悔……がないと言ったら嘘になりますね。もっとエイラとお話ししたかった。他愛のないことで笑って泣いて怒って。そこへゼノ達も参加してくれたりして。想像するだけで楽しそうですよね……っ」

紡ぐ彼女の言葉が震える。その手に、雫が零れていく。

震える手を必死に堪えようとしているのが伝わる。

「もっと……ベグリフと繋がりたかったっ」

フィグルが吐き出す。

後悔を、死への恐怖を。

死にたくないという感情が涙になって溢れていく。

動けない私は、ただ涙を流し続けることしか出来なかった。

それでも、フィグルは魔法を止めることはない。

鼻を啜り、また彼女が笑う。

「でも私の想いは残り続けます。エイラの中に、ゼノ達の中に、あの指輪の中に生き続けます。たとえ、私がいなくなってもその想いは、繋がっていきます……だからっ」

そして、自動回復魔法が完成する。

段々と私の中に残っている魔力が自動で回復へあてられていく。

回復を優先させる為か、だんだんと眠気が回って来た。

ボーっとする意識の中、フィグルが私の左頬へ手を添える。

彼女が零した涙が私の顔に流れて行く。

やがて、フィグルは優しく私の額へ彼女のそれを当てた。

「だから、悲しまないでください。強く生きてください。私はずっとあなたの傍にいます。ずっと、私達は繋がっていますから……!」

「フィ…グル……――!」

勝手に閉じていく瞳。

それに最後に映ったのは。

 

「ずっと大好きですよっ」

 

泣きながらも、元気に笑顔を見せるフィグルの最期だった。

 

 

※※※※※

 セラ

逃げるようにその場から離れる。危うく爆発に巻き込まれる所だ。

距離を取った私の元へ、ゼノが転がり込んでくる。

「はぁ……はぁ……」

息も絶え絶えで今にも倒れそうだ。

あれから二人で十分も戦い続けている。

これまでの怪我の蓄積を鑑みれば、立っているのが不思議なほどだ。

一方で、ベグリフもまた息を上がらせていた。

闇の力で再生出来なくなった彼は、自身の魔力での治癒に切り替えた。

だが、今のゼノの力はベグリフをも凌駕していたのだ。

今のゼノには魔力だけではない、どんな原理かセインとなったシロの想いの力も上乗せされている。

ゆえに、次々とベグリフに傷が刻まれていく。回復も追い付かない程に。

それでも一歩。致命傷を与えられていないのは、ベグリフの持つ流石の魔力量と、ゼノの体力に限界が来ているから。

「大丈夫ですか!」

「よ、余裕よ……!」

ゼノはそう言うけれど、苦し気に言われても説得力がない。

状況は五分五分。

ゼノが一撃、致命傷をベグリフへ与えるか。

ゼノの体力が尽きるか。

一つ力を奪っても、ベグリフはまだしぶとかった。

「くっ、フィグルめ……!」

ベグリフが左手の薬指に嵌められたはずの指輪へ視線を向ける。

そこに、あるはずの指輪はなかった。

いつの間にか、指輪は薬指に溶けるように混ざって消えていた。

指輪の所在が分からなくなった時点で、ベグリフはたとえ左腕を斬っても指輪の封印から解放されることはなかった。

ベグリフが嵌められた箇所を切り捨てることもフィグルは考慮していたのだろう。

どんなことをしても、フィグルの想いはベグリフの元を離れない。

ゼノが、真っすぐにベグリフを見つめて叫ぶ。

「そろそろ、終わりだ……!」

「《ありったけを込めるわよ!》」

言下、段々とセインが紅い光を纏わせ始める。刃をなぞるように集まるその光は、やがて長剣を大剣へと変化させていた。

「この、世界がな……!」

ベグリフもまた漆黒の剣を構え、そこへ魔力を集めていく。刃に映る闇は深淵を映していた。

苛立ちからなのか、ベグリフもここで終わらせるつもりらしい。ここまで追い詰められた事実が許せないのかもしれない。

今私が出来るのは、ゼノの援護だけ。

ゼノの一撃を、ベグリフへ届けること。

大きく息を吐き、前を見据える。

そして、前へ飛び出そうとして気付いた。

私だけじゃない。

ゼノも、あのベグリフでさえも動きを止めている。

「何だ……!?」

「え……!?」

「……――!?」

おかしい。

あり得ない。

周囲を見て、驚愕する。

 

時が、止まっている。

 

舞い上がる砂塵や土埃が全く微動だにしない。

何もかもが動かない。

信じれないけれど。

この世から音が消えていた。

アイの使う時魔法かとも思ったが、何かが違う。

まるで、この世界全ての時が完全に止まってしまったような感覚。

この世界に私達三人しかいないような感覚。

魔法を無効化するベグリフでさえ、この状況に対応することが出来ていなかった。

「まさか……!」

唯一、ベグリフだけが心当たりがあるように呟く。

そんな私達を飲み込むように、突如として一筋の巨大な光の柱が降り注いだ。

「……っ!?」

夜空から唐突もなく現れた光の柱。

容易く王都アタレスを飲み込むほど巨大な光に、私達三人は身体を飲み込まれる。

何が起きているのか分からない。

光なのに、眩しいという感覚がない。

何というか、普段から当たり前に見ているような感覚すらある。

まるで、この世の根源とでもいうような……。

世界が止まっているというのに。

 

「選びなさい」

 

……!

降り注ぐ光のように、頭上から声が聞こえて来た。

見上げる視界の先、ゆっくりと巨大な何かが降りてくる。

「この世界を滅ぼすか」

私達と同じような姿なのに、その大きさは余りに大きい。タイタスのように巨躯で、姿はどこか半透明だ。

純白のベールのようなものに身体を包み、鮮やかな金髪を靡かせている。

「この世界を分かつか」

大きな瞳は全てが光っているように真っ白だが、何故かこちらを見ていることは分かった。

世界を滅ぼすか、分かつか?

何を言っているのか分からず。

目の前のそれが何なのかも分からない。

人のようでいて、異様なそれ。

「そうか、お前が―――」

唯一心当たりがあるようなベグリフが一言。

 

 

「この世界の神か」

 

 

そう呟いたのだった。


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