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第三章
懊悩
僕は取り乱した。
「僕は妊娠しないはずなんです」
そんなことまで口走った。でも、本当に僕は妊娠しないはずなのだった。
僕は一度、あのトマス・オービリーの子を妊娠したことがある。その時、堕胎費用をケチったトマスがやぶ医者を雇ったせいで、僕の子宮はひどく傷つき、もう子供を持つのは難しいだろうと言われたのだ。それを聞いたトマスは大喜びで、妊娠可能性の高い発情期にも僕を抱くようになったが、それでも僕は一度も妊娠しなかった。そのことを医者に告げると、「そういう奇跡みたいなことは、時々起きますよ」と言われた。でもそういう事情があるなら、安定して子を育むのは難しいかもしれないから、よくよく体には気を付けないといけないと言った。
医者はパニックになっている僕をなだめすかし、こう言い含めた。
「まずはご主人様とよく相談して、今後のことを決めなさい。君のところは奥様も良い人そうだし、奉公人に子供を育てさせているご家庭もありますよ」
この医者は前のやぶ医者と違っていい人そうだった。でも言っていることが能天気すぎる。奉公人に子どもを育てさせる貴族なんてほんの一握りだし、「オメガの奉公人の子供」というレッテルを張られた人間がまともな人生を歩めると思っているなら大間違いだ。オメガの奉公人の妊娠なんて、誰にも喜ばれない。「奇跡」なんて、そんないいものじゃない。
僕は呆然としたままヘンリーに連れて帰られ、ベッドに寝かされた。医者がヘンリーに僕の妊娠を告げなかったので、彼は僕がなにか大きな病気にかかったのではないかと心配していた。
「本当にたいしたことはないの?」
ヘンリーに聞かれて、僕は言葉に詰まった。
「言いたくないならいいけれど……」
ヘンリーは僕のベッドに手をついて、言葉を探しながら言った。
「治療が必要なら一緒に考えよう。確かに僕たちはまだそんなにお金がないけど、意外とお金って、何とかなるものだよ。一緒に考えれば、きっといい案が浮かぶと思うよ」
僕はもう、どうしたらいいか分からなくなって、勝手に目から涙が溢れてきた。ヘンリーはそんな僕の頭をぽんぽんと撫でた。
「ちょっと疲れちゃったよね。エドワードは少し休んでて。僕ちょっとお買い物に行ってくるから、留守番よろしくね」
出ていくヘンリーの後ろ姿を見ながら、ひとりにしてくれたのだと気づく。このアパートは一間しかないから、ひとりになる場所がないのだ。静かな部屋で鼻をすすりながら、僕は考えた。グラニフ公爵の子。もちろん、産むなんて許されるわけがない。でもきっと、この子を失ったら、僕はもう子ども授かることなんてできないだろう。それに堕胎手術そのものへの恐怖もあった。あの激痛の記憶。そして、再び僕の身体が傷つけられるかもしれないという恐怖。今、たしかに僕のお腹には子供が宿っているのに。あの気高いアルファ、グラニフ公ジェームス・クラークと僕の子を宿しているのに、僕はその子を産むことが許されない! 僕の体は僕のものではないのだ、僕には僕の体に対する決定権がないのだ!
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章立てを変更し、「僕の新しいご主人様」から第三章としております。
「僕は妊娠しないはずなんです」
そんなことまで口走った。でも、本当に僕は妊娠しないはずなのだった。
僕は一度、あのトマス・オービリーの子を妊娠したことがある。その時、堕胎費用をケチったトマスがやぶ医者を雇ったせいで、僕の子宮はひどく傷つき、もう子供を持つのは難しいだろうと言われたのだ。それを聞いたトマスは大喜びで、妊娠可能性の高い発情期にも僕を抱くようになったが、それでも僕は一度も妊娠しなかった。そのことを医者に告げると、「そういう奇跡みたいなことは、時々起きますよ」と言われた。でもそういう事情があるなら、安定して子を育むのは難しいかもしれないから、よくよく体には気を付けないといけないと言った。
医者はパニックになっている僕をなだめすかし、こう言い含めた。
「まずはご主人様とよく相談して、今後のことを決めなさい。君のところは奥様も良い人そうだし、奉公人に子供を育てさせているご家庭もありますよ」
この医者は前のやぶ医者と違っていい人そうだった。でも言っていることが能天気すぎる。奉公人に子どもを育てさせる貴族なんてほんの一握りだし、「オメガの奉公人の子供」というレッテルを張られた人間がまともな人生を歩めると思っているなら大間違いだ。オメガの奉公人の妊娠なんて、誰にも喜ばれない。「奇跡」なんて、そんないいものじゃない。
僕は呆然としたままヘンリーに連れて帰られ、ベッドに寝かされた。医者がヘンリーに僕の妊娠を告げなかったので、彼は僕がなにか大きな病気にかかったのではないかと心配していた。
「本当にたいしたことはないの?」
ヘンリーに聞かれて、僕は言葉に詰まった。
「言いたくないならいいけれど……」
ヘンリーは僕のベッドに手をついて、言葉を探しながら言った。
「治療が必要なら一緒に考えよう。確かに僕たちはまだそんなにお金がないけど、意外とお金って、何とかなるものだよ。一緒に考えれば、きっといい案が浮かぶと思うよ」
僕はもう、どうしたらいいか分からなくなって、勝手に目から涙が溢れてきた。ヘンリーはそんな僕の頭をぽんぽんと撫でた。
「ちょっと疲れちゃったよね。エドワードは少し休んでて。僕ちょっとお買い物に行ってくるから、留守番よろしくね」
出ていくヘンリーの後ろ姿を見ながら、ひとりにしてくれたのだと気づく。このアパートは一間しかないから、ひとりになる場所がないのだ。静かな部屋で鼻をすすりながら、僕は考えた。グラニフ公爵の子。もちろん、産むなんて許されるわけがない。でもきっと、この子を失ったら、僕はもう子ども授かることなんてできないだろう。それに堕胎手術そのものへの恐怖もあった。あの激痛の記憶。そして、再び僕の身体が傷つけられるかもしれないという恐怖。今、たしかに僕のお腹には子供が宿っているのに。あの気高いアルファ、グラニフ公ジェームス・クラークと僕の子を宿しているのに、僕はその子を産むことが許されない! 僕の体は僕のものではないのだ、僕には僕の体に対する決定権がないのだ!
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章立てを変更し、「僕の新しいご主人様」から第三章としております。
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