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第三章
見果てぬ夢
天井をにらんで、僕は泣き叫んだ。やがて泣き疲れていつの間にか寝てしまったらしい。次に目が覚めたらヘンリーがいて、台所で何かをぐつぐつと煮ていた。真新しいエプロンをつけて、お料理するヘンリーは幸せそうだった。彼は旦那様に愛されて、やがてかわいらしい子供を産むだろう。それはそう遠い未来ではないはずだ。僕はなんだか少しいじわるな気持ちになって、―‐言うのなら今だと思った。
「ヘンリー」
呼びかけるとヘンリーは僕の方を振り向いて笑った。
「あ、起きたの? 今ね……」
「僕、妊娠したんだ」
すぐには理解できなかったようで、ヘンリーは少し頭を傾けて一瞬黙った。
「僕、グラニフ公の子供を妊娠したんだよ」
ヘンリーは動揺した。
「ど、どうするの?」
僕は答えなかった。だって、どうするか決めるのは僕じゃないから。僕の所有者はウィリアムだから、どうするか決められるのはウィリアムとヘンリーだ。僕は自分から堕ろすとは言わない。言いにくいだろう「堕ろして」ということばを、ヘンリーの口から言わせたかった。
だけどヘンリーの口から出てきた言葉は僕が想像したような言葉じゃなかった。ヘンリーはボロボロと目から大粒の涙をこぼした。
「悔しい……!」
エプロンの裾を引きちぎらんばかりに握りしめて彼は言った。
「あの男、エドワードの人生めちゃくちゃにしやがって……!」
そしてヘンリーはもう一度僕に聞いた。
「エドワードはどうしたいの?」
それは、僕に「堕ろす」と言わせて、自分の罪悪感を半減させたいというような、そういうズルい問いかけではなかった。もし僕が産みたいと言ったなら、なんとか産ませてやろうという決意のこもった問いかけだった。だから僕は答えられなかった。堕胎以外の道はないと思っていたから。そうじゃない道を考えてもいなかったから。でも、その僕の沈黙を、ヘンリーは「産みたい」という意味にとらえたようだった。
「分かった。僕も考えるからね」
ヘンリーはエプロンで乱暴に涙をぬぐった。パリッと糊が効いて美しかったヘンリーのエプロンはしわくちゃになってしまった。
「まずはご飯食べよ! 今日のスープは自信作だから!」
その日は具沢山のヘンリーのスープを飲んで、僕たちは布団を並べて眠った。ヘンリーは何度も寝返りを打って、眠れないようだった。時々すすり泣くような声も聞こえて、僕も眠れなかった。僕は子供を産んだ場合のことをいろいろ考えた。きっとグラニフ公に似た、とても美しい子が生まれるだろう。きっと頭もよいから、少し成長してくると僕に生意気な口を利くこともあるかもしれない。反抗期なんかもあったりして。それでもきっと最後には立派な大人に育ち、僕の自慢の子供になるだろう。
でもどんなに優秀でも、オメガの奉公人の子供というだけで、将来の選択肢はぐっと狭まる。もしかしたらウィリアムが力添えをしてくれるかもしれないが、そうすると僕の子供は一生ウィリアムの加護を受けて生きるしかなくなる。それって、自由な人生と言えるんだろうか。
現実問題として、オメガの奉公人の子供が幸せに生きる方法なんてないのだ。
僕は、僕の子供を幸せにできない。
僕はいつの間にか眠りに落ちていた。夢の中で、僕はグラニフ公によく似た自分の子供を育てていた。僕の隣にはグラニフ公がいて、慈しみのこもった目で子供を見つめていた。とてもとても幸せな夢。僕には永遠に手の届かない美しい夢だった。
「ヘンリー」
呼びかけるとヘンリーは僕の方を振り向いて笑った。
「あ、起きたの? 今ね……」
「僕、妊娠したんだ」
すぐには理解できなかったようで、ヘンリーは少し頭を傾けて一瞬黙った。
「僕、グラニフ公の子供を妊娠したんだよ」
ヘンリーは動揺した。
「ど、どうするの?」
僕は答えなかった。だって、どうするか決めるのは僕じゃないから。僕の所有者はウィリアムだから、どうするか決められるのはウィリアムとヘンリーだ。僕は自分から堕ろすとは言わない。言いにくいだろう「堕ろして」ということばを、ヘンリーの口から言わせたかった。
だけどヘンリーの口から出てきた言葉は僕が想像したような言葉じゃなかった。ヘンリーはボロボロと目から大粒の涙をこぼした。
「悔しい……!」
エプロンの裾を引きちぎらんばかりに握りしめて彼は言った。
「あの男、エドワードの人生めちゃくちゃにしやがって……!」
そしてヘンリーはもう一度僕に聞いた。
「エドワードはどうしたいの?」
それは、僕に「堕ろす」と言わせて、自分の罪悪感を半減させたいというような、そういうズルい問いかけではなかった。もし僕が産みたいと言ったなら、なんとか産ませてやろうという決意のこもった問いかけだった。だから僕は答えられなかった。堕胎以外の道はないと思っていたから。そうじゃない道を考えてもいなかったから。でも、その僕の沈黙を、ヘンリーは「産みたい」という意味にとらえたようだった。
「分かった。僕も考えるからね」
ヘンリーはエプロンで乱暴に涙をぬぐった。パリッと糊が効いて美しかったヘンリーのエプロンはしわくちゃになってしまった。
「まずはご飯食べよ! 今日のスープは自信作だから!」
その日は具沢山のヘンリーのスープを飲んで、僕たちは布団を並べて眠った。ヘンリーは何度も寝返りを打って、眠れないようだった。時々すすり泣くような声も聞こえて、僕も眠れなかった。僕は子供を産んだ場合のことをいろいろ考えた。きっとグラニフ公に似た、とても美しい子が生まれるだろう。きっと頭もよいから、少し成長してくると僕に生意気な口を利くこともあるかもしれない。反抗期なんかもあったりして。それでもきっと最後には立派な大人に育ち、僕の自慢の子供になるだろう。
でもどんなに優秀でも、オメガの奉公人の子供というだけで、将来の選択肢はぐっと狭まる。もしかしたらウィリアムが力添えをしてくれるかもしれないが、そうすると僕の子供は一生ウィリアムの加護を受けて生きるしかなくなる。それって、自由な人生と言えるんだろうか。
現実問題として、オメガの奉公人の子供が幸せに生きる方法なんてないのだ。
僕は、僕の子供を幸せにできない。
僕はいつの間にか眠りに落ちていた。夢の中で、僕はグラニフ公によく似た自分の子供を育てていた。僕の隣にはグラニフ公がいて、慈しみのこもった目で子供を見つめていた。とてもとても幸せな夢。僕には永遠に手の届かない美しい夢だった。
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