1 / 2
前編
しおりを挟む
「まぁ、そんな緊張しなくていいからさ。素直に答えてよ」
大男は評価シートを挟んだバインダ―を左手に持ち、右手でボールペンを回しながらそう言った。
「わかりました」
俺は気怠そうに面接を始める大男に、呟くようにそう言った。
「まず初めに、粉川くんはどうして我が社、漆黒建設に就職しようとおもったんだい」
正直に親父の知人から向いていると声を掛けられたからと言っていいものなのか、そもそもこの会社が建築系であることしか俺は知らない。
「私は、、、」
俺は模範とされる回答を事前に考え、それを述べて言った。
数分後
「じゃあ、最後に伝えておきたいことや質問はある?」
「いえ、ありません」
「なら面接はこれ以上!お疲れ様、気をつけて帰れよ」
そう言いながら大男は部屋を出て行った。
面接では知人から聞いていた事しか聞かれなかった。そのため、事前に用意していた回答しか答えずに済んだ。
俺が帰りの支度をしていると、
「言い忘れてた、書類とかは二週間以内に送るから忘れずに提出してくれよ」
先程面接をしていた大男が部屋の扉から顔をだしながら言った。
「なんの書類ですか?」
「なんのって、内定受諾所だよ。再発行するの面倒くさいから気を付けてくれよ」
後日、書類は自宅に郵送された。
多くの生徒が順々に、タイミングよく改札に交通系ICをかざしながら駅のホームに向かう。そのリズミカルな音の中に違う音が混ざった。
ペンポーン
それと同時にリズミカルであった音は止まり、後ろから異様な圧を感じ始める。
「すいません」
俺、粉川康太朗は身を縮めるように何度も頭を下げながらその場を去る。
「どうして入れないんだ?いつもは定期ですんなり入れるのに」
自身の定期を確認すると、期間が3月31日までと記載されており現在は4月6日でああった。
「定期の更新するの忘れてた...」
どうやら交通系ICの残高でギリギリ登校できていたらしい。
「仕方ない切符を買って帰るか」
財布の中には10円ガムの当たり券と5円が入っていた。
「歩いて帰るか」
ここから自宅まで7.1キロ、徒歩Ⅰ時間半の旅が始まった。
しばらく歩いていると小さな公園があった。今日は始業式だけだったので、学校も早く終わっている。
「平日のこの時間から公園のブランコに乗るって、背徳感あっていいかもな」
自身のカバンを膝に乗せブランコに乗る。
「いつぶりだろうブランコに乗るなんて、子供の頃はブランコを見るだけでテンションが上がれたっけな」
しばらく俺はブランコに揺られながら、何も考えずにボーとしていた。すると、ボロボロでとても汚れた作業着を着た一人の男性が、今にも倒れそうな状態で公園に入ってきた。男は公園の水飲み場を見つけるや否やそこに駆け寄り、顔を濡らす勢いで飲み始めた。
「凄いな、戦いの後みたいだ」
だいぶ水を飲んだその男と、俺は目が合ってしまった。
「気まず、平日にブランコになんて乗るんじゃなかった。サボってるとでも思われてそうだな」
男は下に目線をそらした。少し気まずそうな顔を浮かべながら、頭の後ろをポリポリかきながら後溜息を吐いた。そしてノソノソと歩きながらこちらに近づき、俺の座るブランコの隣に座ったのである。
なんで座るんだ?俺が学校をサボってここにいると勘違いして、さては説教でも始めるのか?こんな時間に制服を着て、一人で公園のブランコに乗っているのは確かにおかしい。
しかし男は何も喋らなかった。それどころか酷く疲れている様子であり、今にも崩れてしまいそうに見えた。俺はその姿に恐怖を感じた、人は何をすればここまで疲労するのか。その男の疲労感は、体だけでなく心まで疲労しているように感じた。
「君は、高校生かな?」
かすれた声で、男は下を向きながら俺に言った。
「はい、」
「何年生かな?」
「3年です」
「そっか、じゃあ最後の年だね」
男の声から、優しさと哀愁が伝わってくる。
「こんな知らない人に聞かれても困るかもしれないけど、君の進路は決まっているのかい?」
深いった質問を突然したことに驚きつつも、素直に答えた。
「一様、建築業界の内定をもらっています」
男は少し目を開きながらこちらを向いた。そしてまた下を向いて言った。
「どうして建築業界に就職する道を選んだのかな?ごめんね、さっきから図々しく聞いてしまって」
「いえ、構いませんよ。建築業界に就職したのは、ただ親父の知人から声を掛けられたからです。何かしたいことも無かったので」
「そう、なんだ。教えてくれてありがとう。」
それ以上男は何も質問してこなかった。次は俺がこの人に質問する番だ、先ほどから図々しくも聞いてきたのだから、少しくらい無礼な質問をしても構わないだろう。
「おじさんは、どうしてそこまで疲れているんですか?」
「おじさんって、僕と君はそんなに歳は離れてないよ」
「ホントですか?」
「僕はまだ20歳だからね」
「え?冗談ですよね…」
どうやら冗談ではないらしい、それほどまでに窶れて分からなくなってしまっている。
「仕事がね、辛いんだよね」
男は魂の抜けるような声でそう言った。
「どんなお仕事を?」
「君の将来と同じ建設業だよ。どうだい、驚いたかい?」
「何となく恰好でそうなんじゃないかって予想はしていました」
男はかるく笑った。
「でも建築業界にも沢山あるからね、君と同じ業務ではないと思うよ。朝5時半に起きて7時から出社、帰れるのは23時頃。それでもって休みが月に一度あれば良い方だから、こうやってサボってでもいないと僕は続けられなくてね」
「どうしてそこまで辛いのに辞めないんですか?」
言った後で、流石に失礼な事を言ったのだと気づいた。
「辞めたくても辞められないのが本音かな、転職する時にどうして退職したのか聞かれるし、あまり早くに辞めてしまうとそれだけで悪印象を持たれてしまうからね。だからこそ、進路にしても就職にしてもきちんと考えた方がいいよ。僕みたいになってしまうからね。そろそろ僕は戻るよ、サボっているのがバレたら怒られるからね。ありがとう、話に付き合ってくれて。大分元気になれたよ」
「いえ、むしろこちらこそ失礼な事を度々言ってしまいすみません。話せて参考になりました」
男は軽くこちらに手を振った後、足早に公園を去っていった。
俺は気づいてしまった、男の作業着に漆黒建設のロゴがプリントされていたことに。
大男は評価シートを挟んだバインダ―を左手に持ち、右手でボールペンを回しながらそう言った。
「わかりました」
俺は気怠そうに面接を始める大男に、呟くようにそう言った。
「まず初めに、粉川くんはどうして我が社、漆黒建設に就職しようとおもったんだい」
正直に親父の知人から向いていると声を掛けられたからと言っていいものなのか、そもそもこの会社が建築系であることしか俺は知らない。
「私は、、、」
俺は模範とされる回答を事前に考え、それを述べて言った。
数分後
「じゃあ、最後に伝えておきたいことや質問はある?」
「いえ、ありません」
「なら面接はこれ以上!お疲れ様、気をつけて帰れよ」
そう言いながら大男は部屋を出て行った。
面接では知人から聞いていた事しか聞かれなかった。そのため、事前に用意していた回答しか答えずに済んだ。
俺が帰りの支度をしていると、
「言い忘れてた、書類とかは二週間以内に送るから忘れずに提出してくれよ」
先程面接をしていた大男が部屋の扉から顔をだしながら言った。
「なんの書類ですか?」
「なんのって、内定受諾所だよ。再発行するの面倒くさいから気を付けてくれよ」
後日、書類は自宅に郵送された。
多くの生徒が順々に、タイミングよく改札に交通系ICをかざしながら駅のホームに向かう。そのリズミカルな音の中に違う音が混ざった。
ペンポーン
それと同時にリズミカルであった音は止まり、後ろから異様な圧を感じ始める。
「すいません」
俺、粉川康太朗は身を縮めるように何度も頭を下げながらその場を去る。
「どうして入れないんだ?いつもは定期ですんなり入れるのに」
自身の定期を確認すると、期間が3月31日までと記載されており現在は4月6日でああった。
「定期の更新するの忘れてた...」
どうやら交通系ICの残高でギリギリ登校できていたらしい。
「仕方ない切符を買って帰るか」
財布の中には10円ガムの当たり券と5円が入っていた。
「歩いて帰るか」
ここから自宅まで7.1キロ、徒歩Ⅰ時間半の旅が始まった。
しばらく歩いていると小さな公園があった。今日は始業式だけだったので、学校も早く終わっている。
「平日のこの時間から公園のブランコに乗るって、背徳感あっていいかもな」
自身のカバンを膝に乗せブランコに乗る。
「いつぶりだろうブランコに乗るなんて、子供の頃はブランコを見るだけでテンションが上がれたっけな」
しばらく俺はブランコに揺られながら、何も考えずにボーとしていた。すると、ボロボロでとても汚れた作業着を着た一人の男性が、今にも倒れそうな状態で公園に入ってきた。男は公園の水飲み場を見つけるや否やそこに駆け寄り、顔を濡らす勢いで飲み始めた。
「凄いな、戦いの後みたいだ」
だいぶ水を飲んだその男と、俺は目が合ってしまった。
「気まず、平日にブランコになんて乗るんじゃなかった。サボってるとでも思われてそうだな」
男は下に目線をそらした。少し気まずそうな顔を浮かべながら、頭の後ろをポリポリかきながら後溜息を吐いた。そしてノソノソと歩きながらこちらに近づき、俺の座るブランコの隣に座ったのである。
なんで座るんだ?俺が学校をサボってここにいると勘違いして、さては説教でも始めるのか?こんな時間に制服を着て、一人で公園のブランコに乗っているのは確かにおかしい。
しかし男は何も喋らなかった。それどころか酷く疲れている様子であり、今にも崩れてしまいそうに見えた。俺はその姿に恐怖を感じた、人は何をすればここまで疲労するのか。その男の疲労感は、体だけでなく心まで疲労しているように感じた。
「君は、高校生かな?」
かすれた声で、男は下を向きながら俺に言った。
「はい、」
「何年生かな?」
「3年です」
「そっか、じゃあ最後の年だね」
男の声から、優しさと哀愁が伝わってくる。
「こんな知らない人に聞かれても困るかもしれないけど、君の進路は決まっているのかい?」
深いった質問を突然したことに驚きつつも、素直に答えた。
「一様、建築業界の内定をもらっています」
男は少し目を開きながらこちらを向いた。そしてまた下を向いて言った。
「どうして建築業界に就職する道を選んだのかな?ごめんね、さっきから図々しく聞いてしまって」
「いえ、構いませんよ。建築業界に就職したのは、ただ親父の知人から声を掛けられたからです。何かしたいことも無かったので」
「そう、なんだ。教えてくれてありがとう。」
それ以上男は何も質問してこなかった。次は俺がこの人に質問する番だ、先ほどから図々しくも聞いてきたのだから、少しくらい無礼な質問をしても構わないだろう。
「おじさんは、どうしてそこまで疲れているんですか?」
「おじさんって、僕と君はそんなに歳は離れてないよ」
「ホントですか?」
「僕はまだ20歳だからね」
「え?冗談ですよね…」
どうやら冗談ではないらしい、それほどまでに窶れて分からなくなってしまっている。
「仕事がね、辛いんだよね」
男は魂の抜けるような声でそう言った。
「どんなお仕事を?」
「君の将来と同じ建設業だよ。どうだい、驚いたかい?」
「何となく恰好でそうなんじゃないかって予想はしていました」
男はかるく笑った。
「でも建築業界にも沢山あるからね、君と同じ業務ではないと思うよ。朝5時半に起きて7時から出社、帰れるのは23時頃。それでもって休みが月に一度あれば良い方だから、こうやってサボってでもいないと僕は続けられなくてね」
「どうしてそこまで辛いのに辞めないんですか?」
言った後で、流石に失礼な事を言ったのだと気づいた。
「辞めたくても辞められないのが本音かな、転職する時にどうして退職したのか聞かれるし、あまり早くに辞めてしまうとそれだけで悪印象を持たれてしまうからね。だからこそ、進路にしても就職にしてもきちんと考えた方がいいよ。僕みたいになってしまうからね。そろそろ僕は戻るよ、サボっているのがバレたら怒られるからね。ありがとう、話に付き合ってくれて。大分元気になれたよ」
「いえ、むしろこちらこそ失礼な事を度々言ってしまいすみません。話せて参考になりました」
男は軽くこちらに手を振った後、足早に公園を去っていった。
俺は気づいてしまった、男の作業着に漆黒建設のロゴがプリントされていたことに。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる