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監獄のへや
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はしがない会社員。某S社で働いている。だが、会社員といってもやることは雑用ばかりだ。今だってコピーした書類を第2会議室に運んでる最中だ。
(…いつまでこんなことやってるんだろう)
自分で嫌になる。毎日朝7:00に起き、身支度をし、8:00には出社。あとはいつもお決まりのルーティンワーク。なんども同じことの繰り返し。変化のない同じことの連続…。でもそれに慣れてしまっている自分。変わろうとしない自分…。変わりたいとまでは言わない。ただ何か刺激が欲しい…。
ああ…今はそれよりもこの資料を第2会議室に運ばなければ。
この廊下の先の…この扉だ!
「失礼します。」
ノックをして中に入る…。
「やあ、はじめまして。ごきげんよう…。」
…あれ?聞き慣れない声だ。顔をあげると、そこには見慣れない初老の男性がソファに座っていた。
「あの…どちら様ですか?」
「私かい?私はこの部屋の住人だよ。」
「いや、そうじゃなくて…。ここはS社のビル内のはずなのに、どうしてここにその…。」
「部外者がいるのかと?」
「ええ…。」
しかもこの部屋。会社の一室ではない。男の座っているソファも然り、その他にも本棚、
キッチン、ベッドなど…。まるでここに生活しているかのようだ。
「きちんと説明いただかないと、場合によっては警備員を呼びますよ。」
「これはどうも…あなたは勘違いをされているようだ。よろしい。説明させていただきましょう。」
初老の男はソファに座ったまま、コーヒーを啜った、。
「まずここはS社ではありません。ここはどこでもない。いわば異次元の部屋。」
「なんだって!?」
異次元だと。そんな馬鹿な話があるか。
「冗談じゃない。俺はこれから大事な書類を届けないといけないんだ。悪いが失礼するよ。」
俺は振り返り、元来た扉を開けた。だが…。
「やあ。こんにちは。」
さっきの男だ。まったく同じ部屋に入っている。
「ど、どういうことだ…。」
「だから言ったでしょう。異次元だと。」
「嘘だ!俺は信じないぞ!」
それからその部屋にある、ありとあらゆる出口から出てみた。だが結果は同じ。全てこの部屋に出て来てしまった。
「そ、そんな馬鹿な…。」
「諦めなさい。私も色んな方法を試したが、結局出られなかった。」
「嘘だ…。嘘だ…!」
ついさっきまで、いつも通り会社で働いていたんだ。定時になったら上がり、家に帰り飯わを食って風呂に入って寝る。そしていつもの朝を迎える…はずだった。それがいきなり、こんな形で奪われるなんて…!
「そう落ち込まないで。ここでの生活も悪くない。物は常に揃っているし、なぜか腹も減らないんだ。」
男が慰める。だが今はどんな言葉も気休めにもなりそうにない。
「…なあ。あんたはどれくらいの間、ここにいるんだ?」
何の気なしに聞いてみた。さっきの言葉が気にかかったんだ。
「あんた、色んな方法を試したと言ったな。ということはあんたもここに迷い込んできたクチじゃないのか?」
「ええ、そうですよ。私も元々はただの会社員でした。それが突然この部屋に迷い込んでしまったのです。ここに来てから随分になりますが、住めば都といいますか、なかなか快適に暮らしていますよ。」
「どのくらい住んでるんだ?」
「さあ…?何せここには時計がないものでね。」
そういえばそうだ。色んな家具は置いているが、時計だけはない。
「そうだ。携帯…。」
携帯のカレンダーから、住んだ期間が割り出せるんじゃないか?
「あ、あれ…?」
取り出した携帯のカレンダーを見て愕然とした。
【2672年48月52日31時79分】
「な、なんだ、これ…。無茶苦茶だ。」
「やはり、そうなりましたか。ここにはね、時間という概念がないんですよ。」
なんて事だ…。出口もない。時間の経過もない。これはつまり…この部屋で永遠に生きろということか。
冗談じゃない。こんなところで閉じ込められるのはゴメンだ。何とか…何とか出る方法があるはずだ。
そうだ…。俺に一つ仮説が浮かんだ。時間の経過がない、つまりこの部屋のものが何も変化しないのならば、この部屋のものを壊してしまえば、何かしら変化はあるんじゃないか?住人がいなくなればこの部屋自体がなくなるんじゃないか?
無茶苦茶な仮説だ。そんなことは分かっている。だがやってみるしかない。この仮説にしがみつきたい。
「どうしました?気分でも悪いのですか?」
この野郎…。さっきから紳士面でベラベラさ喋りやがって…。不意に目の前の男に殺意が湧いて来た。
気が付けば俺はテーブルの上の灰皿を手に持っていた。その灰皿で男の頭を思いっきり殴った。
一発、二発、三発と…。
一発殴るごとにぐちゃりと嫌な感覚が手に伝わる。ガラス製の透明な灰皿は真っ赤に染まってしまった。
男はしばらくよろよろと立っていたが、やがて耐えきれず、倒れ込んだ。
「…やはり、こう…なりましたか…。」
「…あ?」
血だらけの男が何か言っている。
「私もね…殺したんですよ…。ここの前の住人をね…。あなたと同じく、ここから抜け出したい一心で…。でも出られなかった…。」
「…ふん。最後の負け惜しみか…。悪いが俺はどんなことをやってでも出てやるぞ。」
「いいや…。あなたは出られない…。ここから抜け出るには、こうやって誰かに殺されるしかない…。前の住人もそう言っていた。きっとその前も…、その前の前も…。」
男はた血だらけになりながらも優しげに語っていた。何かから解放される事に安堵したかのように、…。
「おめでとう…。あなたも我々の仲間入りだ…。」
それがその男の最後の言葉だった。男のあ遺体はまるで吸い込まれるように消えていった。
程なくして、男の言っていた意味がわかった。あんなに自由に開いていた扉がびくともしないのだ。もうこの部屋から出る事も叶わない。
あのいつもの風景が今になって恋しくなった。働く場があり、帰る家がある。気晴らしに仲間と飲みに行ったり、旅行に行ったり…。それももう出来ない。
確かに俺は日常の変化を望んだ。だが、もうこれ以上、何も変化はしない。いつまでも、何も変わらないこの部屋で、誰かに殺されるのを待つ。それだけが今の望みだなんて…なんとも皮肉な話じゃないか。
きっといつか、誰かがあの扉を開けて入って来る日が来るだろう。その時は俺もこう言ってやる。
憐れみと期待を込めて…。
「やあ。はじめまして。ごきげんよう…。」
(…いつまでこんなことやってるんだろう)
自分で嫌になる。毎日朝7:00に起き、身支度をし、8:00には出社。あとはいつもお決まりのルーティンワーク。なんども同じことの繰り返し。変化のない同じことの連続…。でもそれに慣れてしまっている自分。変わろうとしない自分…。変わりたいとまでは言わない。ただ何か刺激が欲しい…。
ああ…今はそれよりもこの資料を第2会議室に運ばなければ。
この廊下の先の…この扉だ!
「失礼します。」
ノックをして中に入る…。
「やあ、はじめまして。ごきげんよう…。」
…あれ?聞き慣れない声だ。顔をあげると、そこには見慣れない初老の男性がソファに座っていた。
「あの…どちら様ですか?」
「私かい?私はこの部屋の住人だよ。」
「いや、そうじゃなくて…。ここはS社のビル内のはずなのに、どうしてここにその…。」
「部外者がいるのかと?」
「ええ…。」
しかもこの部屋。会社の一室ではない。男の座っているソファも然り、その他にも本棚、
キッチン、ベッドなど…。まるでここに生活しているかのようだ。
「きちんと説明いただかないと、場合によっては警備員を呼びますよ。」
「これはどうも…あなたは勘違いをされているようだ。よろしい。説明させていただきましょう。」
初老の男はソファに座ったまま、コーヒーを啜った、。
「まずここはS社ではありません。ここはどこでもない。いわば異次元の部屋。」
「なんだって!?」
異次元だと。そんな馬鹿な話があるか。
「冗談じゃない。俺はこれから大事な書類を届けないといけないんだ。悪いが失礼するよ。」
俺は振り返り、元来た扉を開けた。だが…。
「やあ。こんにちは。」
さっきの男だ。まったく同じ部屋に入っている。
「ど、どういうことだ…。」
「だから言ったでしょう。異次元だと。」
「嘘だ!俺は信じないぞ!」
それからその部屋にある、ありとあらゆる出口から出てみた。だが結果は同じ。全てこの部屋に出て来てしまった。
「そ、そんな馬鹿な…。」
「諦めなさい。私も色んな方法を試したが、結局出られなかった。」
「嘘だ…。嘘だ…!」
ついさっきまで、いつも通り会社で働いていたんだ。定時になったら上がり、家に帰り飯わを食って風呂に入って寝る。そしていつもの朝を迎える…はずだった。それがいきなり、こんな形で奪われるなんて…!
「そう落ち込まないで。ここでの生活も悪くない。物は常に揃っているし、なぜか腹も減らないんだ。」
男が慰める。だが今はどんな言葉も気休めにもなりそうにない。
「…なあ。あんたはどれくらいの間、ここにいるんだ?」
何の気なしに聞いてみた。さっきの言葉が気にかかったんだ。
「あんた、色んな方法を試したと言ったな。ということはあんたもここに迷い込んできたクチじゃないのか?」
「ええ、そうですよ。私も元々はただの会社員でした。それが突然この部屋に迷い込んでしまったのです。ここに来てから随分になりますが、住めば都といいますか、なかなか快適に暮らしていますよ。」
「どのくらい住んでるんだ?」
「さあ…?何せここには時計がないものでね。」
そういえばそうだ。色んな家具は置いているが、時計だけはない。
「そうだ。携帯…。」
携帯のカレンダーから、住んだ期間が割り出せるんじゃないか?
「あ、あれ…?」
取り出した携帯のカレンダーを見て愕然とした。
【2672年48月52日31時79分】
「な、なんだ、これ…。無茶苦茶だ。」
「やはり、そうなりましたか。ここにはね、時間という概念がないんですよ。」
なんて事だ…。出口もない。時間の経過もない。これはつまり…この部屋で永遠に生きろということか。
冗談じゃない。こんなところで閉じ込められるのはゴメンだ。何とか…何とか出る方法があるはずだ。
そうだ…。俺に一つ仮説が浮かんだ。時間の経過がない、つまりこの部屋のものが何も変化しないのならば、この部屋のものを壊してしまえば、何かしら変化はあるんじゃないか?住人がいなくなればこの部屋自体がなくなるんじゃないか?
無茶苦茶な仮説だ。そんなことは分かっている。だがやってみるしかない。この仮説にしがみつきたい。
「どうしました?気分でも悪いのですか?」
この野郎…。さっきから紳士面でベラベラさ喋りやがって…。不意に目の前の男に殺意が湧いて来た。
気が付けば俺はテーブルの上の灰皿を手に持っていた。その灰皿で男の頭を思いっきり殴った。
一発、二発、三発と…。
一発殴るごとにぐちゃりと嫌な感覚が手に伝わる。ガラス製の透明な灰皿は真っ赤に染まってしまった。
男はしばらくよろよろと立っていたが、やがて耐えきれず、倒れ込んだ。
「…やはり、こう…なりましたか…。」
「…あ?」
血だらけの男が何か言っている。
「私もね…殺したんですよ…。ここの前の住人をね…。あなたと同じく、ここから抜け出したい一心で…。でも出られなかった…。」
「…ふん。最後の負け惜しみか…。悪いが俺はどんなことをやってでも出てやるぞ。」
「いいや…。あなたは出られない…。ここから抜け出るには、こうやって誰かに殺されるしかない…。前の住人もそう言っていた。きっとその前も…、その前の前も…。」
男はた血だらけになりながらも優しげに語っていた。何かから解放される事に安堵したかのように、…。
「おめでとう…。あなたも我々の仲間入りだ…。」
それがその男の最後の言葉だった。男のあ遺体はまるで吸い込まれるように消えていった。
程なくして、男の言っていた意味がわかった。あんなに自由に開いていた扉がびくともしないのだ。もうこの部屋から出る事も叶わない。
あのいつもの風景が今になって恋しくなった。働く場があり、帰る家がある。気晴らしに仲間と飲みに行ったり、旅行に行ったり…。それももう出来ない。
確かに俺は日常の変化を望んだ。だが、もうこれ以上、何も変化はしない。いつまでも、何も変わらないこの部屋で、誰かに殺されるのを待つ。それだけが今の望みだなんて…なんとも皮肉な話じゃないか。
きっといつか、誰かがあの扉を開けて入って来る日が来るだろう。その時は俺もこう言ってやる。
憐れみと期待を込めて…。
「やあ。はじめまして。ごきげんよう…。」
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