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笑顔の人
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いつもニコニコと笑顔の人がいた。
知らない人でも、知ってる人でも、男の人でも、女の人でも、子供に対しても、老人に対しても、とにかく誰に対しても笑顔だった。
彼に会った人は皆好印象を持った。あいさつもニコニコ。何気ない会話でもニコニコ。嫌な顔一つしないのだから。
彼の噂は街中に広まり、いつしか彼はちょっとした有名人になった。
しかし、有名になるにつれ、それを快く思わないものもいた。
「ちやほやされやがって。あんなにニコニコ笑ってるのは何か裏があるに違いない。」
この彼は別に皆から嫌われていたわけではない。だが好かれてもいない。存在すら知られていない、ただの男だ。それ故に、ただニコニコしているだけで街の有名人になった彼が許せなかったのだ。
「おい、あんた。いつもニコニコしてて気持ち悪いんだよ。」
「はぁ…。すみません。」
街を歩く彼を見つけた男は、早速問いただす事にした。というよりはただ相手を煽るだけなのだが。
しかし男のヤジにも動じず、彼はニコニコと答えた。
「頭がおかしいんじゃないか?ヘラヘラ笑いやがって。ヤクでもやってんだろ。」
「いえ…。そんなことはありませんよ。」
「おまえがいつも笑ってるのは、何かを隠すためだ。そうじゃなきゃ、いつも笑ってなんかいられるものか。人間常に笑って生きるなんて無理なんだからよ。
な?なんか隠してんだろ?」
「まあ…、そうですね。」
この言葉を男は聞き逃さなかった。
「やっぱりそうか!なんか隠してたんだな!お前は詐欺師だ!ペテン師だ!そうやって笑顔で人を欺いていたんだ!」
「……。」
「どうした?何も言えないのか?ええ?」
得意げな男を前に、ニコニコと笑っていた男は俯いてしまった。
彼らの周りにいた人達も、何事かと近づいてきた。
「あの、何かあったんですか?」
「ああ、いや。この男を問いただしていたんですよ。何か隠してるんだろうと。そしたらこいつ、とんでもない悪党でね…。」
「おい!あんた!どうしたんだ!」
勝ち誇る男を尻目に、群衆はニコニコと笑っていた男の方に集まっていた。あの男が倒れてしまったのだ。
「気を失ってる!救急車を呼べ!」
「そ、そんな…。なぜ…。俺はこんなつもりじゃ…。」
しばらくして、近くの病院に搬送された男は死亡が確認された。
「誠に残念ですが…。」
「そ、そんな…。死因は何だったんですか?」
「病気ですよ。それも未だ見たことのない奇病です。」
「奇病?」
「ええ…。"笑顔症候群"とでも言いましょうか。」
「"笑顔症候群"?なんですか?それは?」
「笑顔を絶やしてしまうと死んでしまうのです。彼は常にニコニコと笑っていなければいけなかった。それが何らかの原因で笑顔が絶えてしまい、死んでしまった。」
「そ、そんな…。俺は…なんて事を…。」
彼の隠し事とはこの事だったのだ。悔やむ男に医師は語りかけた。
「何があったのかは知りませんが、気になさらないでください。この社会を常に笑顔で生きるなんて不可能なんですから。遅かれ早かれ、彼はこうなっていたでしょう。」
「…。」
「思えば、彼は一番不幸だったのかもしれません。一切の感情を出すこともできず、常に笑っていなければいけなかったのですから。」
「…。」
「あなたもあまり気を病まないで。それでは…。」
そう言うと医師は去っていった。
ニコニコ笑う男の死は街中の話題となった。彼には身寄りがないということだったので、街を挙げて葬儀を行おうということになった。
葬儀では彼にゆかりのあった人が、一人一人彼を振り返るスピーチをしていた。皆、常に笑顔を絶やさなかった彼を懐かしんで、泣いた。
そのスピーチに、あの男も参加した。
「…私は彼に謝らなければいけません。彼を殺したのは私です。」
男のスピーチに会場からはどよめきが湧く。
「私は彼が気に入らなかった。ただ笑っているだけでちやほやされる彼が、羨ましかった。だからヤジを飛ばしたんです。ヤク中だ、詐欺師だと…。それがこんなことになるなんて……!」
男は彼の棺に向かって、土下座をした。
「本当に…!本当にすみませんでした…!」
咽び泣く彼を、死んだ男の遺影が優しげに、あのいつものニコニコ顔で見下ろしていた…。
知らない人でも、知ってる人でも、男の人でも、女の人でも、子供に対しても、老人に対しても、とにかく誰に対しても笑顔だった。
彼に会った人は皆好印象を持った。あいさつもニコニコ。何気ない会話でもニコニコ。嫌な顔一つしないのだから。
彼の噂は街中に広まり、いつしか彼はちょっとした有名人になった。
しかし、有名になるにつれ、それを快く思わないものもいた。
「ちやほやされやがって。あんなにニコニコ笑ってるのは何か裏があるに違いない。」
この彼は別に皆から嫌われていたわけではない。だが好かれてもいない。存在すら知られていない、ただの男だ。それ故に、ただニコニコしているだけで街の有名人になった彼が許せなかったのだ。
「おい、あんた。いつもニコニコしてて気持ち悪いんだよ。」
「はぁ…。すみません。」
街を歩く彼を見つけた男は、早速問いただす事にした。というよりはただ相手を煽るだけなのだが。
しかし男のヤジにも動じず、彼はニコニコと答えた。
「頭がおかしいんじゃないか?ヘラヘラ笑いやがって。ヤクでもやってんだろ。」
「いえ…。そんなことはありませんよ。」
「おまえがいつも笑ってるのは、何かを隠すためだ。そうじゃなきゃ、いつも笑ってなんかいられるものか。人間常に笑って生きるなんて無理なんだからよ。
な?なんか隠してんだろ?」
「まあ…、そうですね。」
この言葉を男は聞き逃さなかった。
「やっぱりそうか!なんか隠してたんだな!お前は詐欺師だ!ペテン師だ!そうやって笑顔で人を欺いていたんだ!」
「……。」
「どうした?何も言えないのか?ええ?」
得意げな男を前に、ニコニコと笑っていた男は俯いてしまった。
彼らの周りにいた人達も、何事かと近づいてきた。
「あの、何かあったんですか?」
「ああ、いや。この男を問いただしていたんですよ。何か隠してるんだろうと。そしたらこいつ、とんでもない悪党でね…。」
「おい!あんた!どうしたんだ!」
勝ち誇る男を尻目に、群衆はニコニコと笑っていた男の方に集まっていた。あの男が倒れてしまったのだ。
「気を失ってる!救急車を呼べ!」
「そ、そんな…。なぜ…。俺はこんなつもりじゃ…。」
しばらくして、近くの病院に搬送された男は死亡が確認された。
「誠に残念ですが…。」
「そ、そんな…。死因は何だったんですか?」
「病気ですよ。それも未だ見たことのない奇病です。」
「奇病?」
「ええ…。"笑顔症候群"とでも言いましょうか。」
「"笑顔症候群"?なんですか?それは?」
「笑顔を絶やしてしまうと死んでしまうのです。彼は常にニコニコと笑っていなければいけなかった。それが何らかの原因で笑顔が絶えてしまい、死んでしまった。」
「そ、そんな…。俺は…なんて事を…。」
彼の隠し事とはこの事だったのだ。悔やむ男に医師は語りかけた。
「何があったのかは知りませんが、気になさらないでください。この社会を常に笑顔で生きるなんて不可能なんですから。遅かれ早かれ、彼はこうなっていたでしょう。」
「…。」
「思えば、彼は一番不幸だったのかもしれません。一切の感情を出すこともできず、常に笑っていなければいけなかったのですから。」
「…。」
「あなたもあまり気を病まないで。それでは…。」
そう言うと医師は去っていった。
ニコニコ笑う男の死は街中の話題となった。彼には身寄りがないということだったので、街を挙げて葬儀を行おうということになった。
葬儀では彼にゆかりのあった人が、一人一人彼を振り返るスピーチをしていた。皆、常に笑顔を絶やさなかった彼を懐かしんで、泣いた。
そのスピーチに、あの男も参加した。
「…私は彼に謝らなければいけません。彼を殺したのは私です。」
男のスピーチに会場からはどよめきが湧く。
「私は彼が気に入らなかった。ただ笑っているだけでちやほやされる彼が、羨ましかった。だからヤジを飛ばしたんです。ヤク中だ、詐欺師だと…。それがこんなことになるなんて……!」
男は彼の棺に向かって、土下座をした。
「本当に…!本当にすみませんでした…!」
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