監獄の部屋

hyui

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ロボットプロジェクト

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「この度、我が社に試験用の最新鋭ロボットが導入されることとなった。ついてはこのロボットを現場で使ってもらい、その能力がどれ程のものかを報告してもらいたい。」
某S社での会議。各課長にプロジェクトが発表された。課長の一人が手を挙げた。
「部長。そのロボットはどのようなものですか?」
「人工知能を備えた人型ロボットだ。会計、通信など様々な機能に加えて学習機能も搭載している。新しい事柄も学習していき、状況に応じて成長していくということだ。」
「おお…!それはすごい…!」
「だがまだ試験段階らしい。そこで我々に実験として、ロボットを各課に一台ずつ配備し、3ヶ月間一緒に働いてもらうというのが今回のプロジェクトの内容だ。」
「分かりました!」
「報告を期待しているぞ。それでは解散する。」


会議室から出た課長達は皆色めき立っていた。
「いや~、ロボットも働く時代か。すごい時代になったね。」
「人手不足もこれで解消ですな。」
「しかしどんなロボットがくるんだろ。」
「来週には配備されるようだ。それまでの楽しみだな。」

ーー翌週。営業部第一課に例のロボットが配備された。
「か、課長。なんですか?それ。」
「ああ、今度試験的に配備されたロボットだ。これからみんなと働くことになる。よろしくしてやってくれ。」
「ヨロシクオネガイシマス。」
「おお…!喋った…!」
皆一様にどよめきたつ。
配備されたロボットは、極めて人間に近い容姿だった。表情、仕草に違和感はあるものの、見た目はまるで人間だ。
「このロボット、名前はあるんですか?」
「さあな。YTR-10型というそうだが…。」
「それじゃあ、呼びにくいな…。ゆうたろうなんてどうでしょう?」
「いやしかし、三ヶ月の間いるだけだから…。」
「いいんじゃない?ゆうたろう。それにしましょうよ。」
「決まり!君の名前はゆうたろうだ!」
「ハイ。カシコマリマシタ。ミナサン、ヨロシクオネガイシマス。」

ーー一ヶ月目。
「おい。ゆうたろう。この会計データ間違ってるぞ。」
「カクニンイタシマス。」
ピピッ、とゆうたろうは指定されたデータをプログラムで読み取った。
「カクニンイタシマシタ。データニマチガイハカクニンサレマセンデシタ。」
「なんだと?そんなはずはない。この俺が間違ってると言ったんだ。私に逆らうのか?」
「デスガ…。」
「もういい。会計は他のものにたのむ。お前はお茶汲みでもやっていろ。」
「…カシコマリマシタ。」

ゆうたろうは言われるままに、お茶を沸かしに行った。
「酷いわ。K課長。機械が計算して出した会計データが間違ってるはずないのに。」
「自分が間違ってると言われたのを認めたくないんだよ。機械相手でもね…。」
「うわ。サイテーね。」
「おいっ!何ゴチャゴチャ言ってる!仕事をせんか!仕事を!」
K課長の怒声が響き渡った。
「は、はい!失礼しました~!」

二ヶ月目ーー。
「ぬるい!」
K課長がゆうたろうにお茶を投げつけた。
「お前はお茶汲みも満足にできんのか!」
「モウシワケゴザイマセン。」
「まったく上もとんでもないものをよこしたもんだ。高性能どころか、なにもできんただのポンコツじゃないか!」
「モウシワケゴザイマセン。」
「お前はそれしか言えんのか!」
「モウシワケゴザイマセン。」
「もういい!消えろ!」
ゆうたろうはまたK課長からおとなしく引き下がった。
「K課長の当たり方、日に日に酷くなってるな…。」
「八つ当たりも甚だしいわよ。仕事があまりうまくすすんでないからって…。」
おい!そこ!またしゃべっとんのか!」
また課長がどなる。
「わっ!すみません!」
「まったくコリン奴らだ!」

三ヶ月目ーー。
「おい。あのポンコツはどこいった?」
「ゆうたろうですか?さあーー。」
「まったく今月に返却せにゃならんのに、あのポンコツが。」
「オヨビ…デショウカ…?」
ゆうたろうが部屋の陰から出てきた。
「『お呼びでしょうか?』じゃない!どこに行っていたんだ!」
「カチョウノメイレイドオリ、マドギワデタイキシテオリマシタ。」
「そんなことは言った覚えはない!」
「デスガ…。」
「ええい、いまいましい!」
K課長はゆうたろうを思い切り蹴飛ばした。
「なんの仕事もせんくせに、口ごたえするのか!このカスが!」
「モウシワケゴザイマセン…。」
「ふん。お前の面も今日までだ。明日には上に返却するからな。いいか。余計なことは喋るんじゃないぞ。わかったな。」
「…カシコマリマシタ…。」


「…録音データは以上です。」
「…わかりました。なんてことだ…。」
会議室の一室。部長と一人の男が話し合っていた。周りには回収されたロボットたちが並んでいる。
「いや、ひどいものだ。第一課は以前から退職者が絶えなかったのだが、これで理由がわかった。」
「他の課でも問題があったようですね。第二課では内部の人間から無視されています。第三課では過剰な業務命令もなされていますね。」
「課長たちの報告では、揃いも揃って問題なしの一点張りだ。よくも言えたものだ、こいつら…。」
部長の前には、各課長から提出されたレポートが並んでいた。
「その点、第四課ではきちんとコミュニケーションもとり、適度な仕事を任せていたようですね。業績も良くなっています。」
「うむ。第四課のT課長には昇進を検討してみよう。いや、ありがとう。今回は助かりましたよ。」
「こちらも我が社のプログラムを採用していただいて、嬉しい限りです。」

「しかし、うまいことを考えましたな。ロボットの現地実験と偽って、実際は内情の調査とは。」
「いえいえ。実はこのロボットたち、元々は、本当に人間に成り代わって働いてもらうように開発されたものなんです。ですが4,50代には使用法がいまいちわからなかったらしく、今回のようにロボットに対する攻撃が見受けられました。開発陣は当初失敗だと思ったそうです。」
「まあ、そうでしょうな。」
「しかし我々は、この現象を逆に利用できないかと考えました。その結果がこのプログラムなのです。」
「なるほど。」
「今では数社の幹部の方々から好評いただいております。」
「それは結構ですな。」
そう言って、部長は回収されたロボットを一体一体見渡した。


「…本当に、上司によってこうも扱いが変わってしまうとは。うまく扱えないところはもうボロボロだ。これが人間だったとしたら、ゾッとしますよ。」
「機械も人間も同じです。その能力を引き出すのも駄目にするのも、結局は扱う人間次第なんです。」
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