監獄の部屋

hyui

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お願い事

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「てーるてーるぼうーずー♪     てーるぼうーずー♩
あーした   てんきに   しておーくれ♫」
ーー病院のとある一室。てるてる坊主を吊るす一人の少女がいた。
「上手くできた?葵ちゃん。」
「うんっ!」
看護婦の問いに、少女は元気に答えた。
「一生懸命作ったねぇ。こんなにいっぱい。」
「明日、どうしてもお天気になってほしいの。」
「あら?どうして?」
「明日、パパとママが遊園地に連れて行ってくれるの。だから、明日お天気になってほしいの。」
「そう……。」
看護婦は外の雨の様子を窓越しに覗いた。激しい雨が窓ガラスを叩いていた。
「明日…、晴れるといいね。」
「うん。」

ーーところ変わって、天国。統制局。
下界の人間達のため、神と天使たちが今日も大忙しだ。
「神よ!ご報告します!また人間たちが戦争を起こそうとしています!ご指示を!」
「神よ!北欧で疫病が蔓延しています!ご指示を!」
数多くの天使たちが、その日に下界で起こったことを神にレポートで報告する。
「戦争の首謀者とその経緯を至急調査し、判明次第再度報告しろ。疫病は発生元を探せ。発生源の近辺の人間に天啓を与え、解決に当たらせろ。」
無数のレポートを見ながら、神は天使一人一人に指示を出し続けていた。
「神よ。今日の世界の為替レートです。明日はいかがされますか。」
「そうだな…。」
明日の世界の動向を決定する。これも神の重要な仕事だ。
「まだしばらく低迷のままにしよう。人類の進歩には試練が必要だ。」
「かしこまりました。」
「神よ。明日の天気についてなのですが……。」
「どうした?」
「お願い致します!どうか明日だけは晴れにしていただけませんか!?」
突然の天使の依頼に、神は眉をひそめた。
「何故だ?」
「今日、明日の晴れを望む声が多数寄せられているのです!お願い致します!どうか!」
「天使よ…。例え人間がどれだけ願っても、我々は関与してはならないことは知っているだろう?今までどれだけ人間達が身勝手な願いをしてきたか…。それらを全て聞いてしまえば、人間は努力することをやめてしまう。」
「しかし!」
「私は人間達に対して公正かつ厳粛でなければならない。明日は予定に変更なく雨だ。これは人間達の命に関わることでもあるのだ。」
「しかし、その願いの中に、ある少女の願いもあるのです!余命いくばくもない、少女の願いが!」
「ーーなんだと?」
天使の叫びに神は立ち上がった。
「それは本当か。」
「はい!余命わずか二カ月ももたない少女が明日、最後の思い出にと、家族との旅行を楽しみにしていたそうです。明日を逃せば、もう二度と行くことは叶わないかもしれません!どうか…!」
「……。」
神はしばらく思い悩んでいたが、やがて口を開いた。
「ーーわかった。明日は晴れに変更しよう。」
「神よ…!ありがとうございます!」
「ただし明日だけだ。以降は予定通り雨とする。いいな?」
「はい!」
「少し疲れた…。しばらく休憩する。皆も休んでいてくれ。」
「はい!お疲れ様です!神よ!」

ーー神の自室。
神は一人、神妙な面持ちでタバコを吸っていた。タバコには「HOPE」の文字が書かれている。
コンコン、とノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「私よ。」
「お前か…。どうぞ。入って。」
一人の女性が入ってきた。神の妻だ。
「聞いたわ…。明日の天気のこと。」
「軽薄だと、叱りに来たか?」
「いいえ。やっぱりあなたは優しいと思って。」
「それは皮肉かい?」
「本心よ。どうして?」
「私は優しくなんかない。明日を晴れにする少女の願いは叶えても、少女に生きてもらいたい両親の願いは叶えられないんだ。死は皆に平等だ。死をなくすことはできない。人間は死に対して立ち向かい、生きることについて常に考え続けねばならない。私はそれに関与してはならないんだ。」
「わかっているわ。それであなたがどんなに心を痛めているのかも。でも、今日あなたは一人の命のために明日の予定を変えた。そうでしょう?」
「……。1日くらい晴れに変えても、バチは当たらないだろ?」
「あなたにバチを当てる人なんている?」
「……それもそうだな。」
妻の言葉に、神は苦笑した。


ーー翌日の下界。
「晴れた!」
その日は昨日の大雨が嘘のように、空は快晴となった。
「本当…。よかったわね。葵ちゃん。」
「うん!」
「葵ちゃーん!パパとママが来てるわよー!」
「はーい!」
少女は元気に病室を飛び出した。

外は快晴。雲ひとつない、どこまでも澄み切った青空だった…。
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