監獄の部屋

hyui

文字の大きさ
5 / 32

お願い事

しおりを挟む
「てーるてーるぼうーずー♪     てーるぼうーずー♩
あーした   てんきに   しておーくれ♫」
ーー病院のとある一室。てるてる坊主を吊るす一人の少女がいた。
「上手くできた?葵ちゃん。」
「うんっ!」
看護婦の問いに、少女は元気に答えた。
「一生懸命作ったねぇ。こんなにいっぱい。」
「明日、どうしてもお天気になってほしいの。」
「あら?どうして?」
「明日、パパとママが遊園地に連れて行ってくれるの。だから、明日お天気になってほしいの。」
「そう……。」
看護婦は外の雨の様子を窓越しに覗いた。激しい雨が窓ガラスを叩いていた。
「明日…、晴れるといいね。」
「うん。」

ーーところ変わって、天国。統制局。
下界の人間達のため、神と天使たちが今日も大忙しだ。
「神よ!ご報告します!また人間たちが戦争を起こそうとしています!ご指示を!」
「神よ!北欧で疫病が蔓延しています!ご指示を!」
数多くの天使たちが、その日に下界で起こったことを神にレポートで報告する。
「戦争の首謀者とその経緯を至急調査し、判明次第再度報告しろ。疫病は発生元を探せ。発生源の近辺の人間に天啓を与え、解決に当たらせろ。」
無数のレポートを見ながら、神は天使一人一人に指示を出し続けていた。
「神よ。今日の世界の為替レートです。明日はいかがされますか。」
「そうだな…。」
明日の世界の動向を決定する。これも神の重要な仕事だ。
「まだしばらく低迷のままにしよう。人類の進歩には試練が必要だ。」
「かしこまりました。」
「神よ。明日の天気についてなのですが……。」
「どうした?」
「お願い致します!どうか明日だけは晴れにしていただけませんか!?」
突然の天使の依頼に、神は眉をひそめた。
「何故だ?」
「今日、明日の晴れを望む声が多数寄せられているのです!お願い致します!どうか!」
「天使よ…。例え人間がどれだけ願っても、我々は関与してはならないことは知っているだろう?今までどれだけ人間達が身勝手な願いをしてきたか…。それらを全て聞いてしまえば、人間は努力することをやめてしまう。」
「しかし!」
「私は人間達に対して公正かつ厳粛でなければならない。明日は予定に変更なく雨だ。これは人間達の命に関わることでもあるのだ。」
「しかし、その願いの中に、ある少女の願いもあるのです!余命いくばくもない、少女の願いが!」
「ーーなんだと?」
天使の叫びに神は立ち上がった。
「それは本当か。」
「はい!余命わずか二カ月ももたない少女が明日、最後の思い出にと、家族との旅行を楽しみにしていたそうです。明日を逃せば、もう二度と行くことは叶わないかもしれません!どうか…!」
「……。」
神はしばらく思い悩んでいたが、やがて口を開いた。
「ーーわかった。明日は晴れに変更しよう。」
「神よ…!ありがとうございます!」
「ただし明日だけだ。以降は予定通り雨とする。いいな?」
「はい!」
「少し疲れた…。しばらく休憩する。皆も休んでいてくれ。」
「はい!お疲れ様です!神よ!」

ーー神の自室。
神は一人、神妙な面持ちでタバコを吸っていた。タバコには「HOPE」の文字が書かれている。
コンコン、とノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「私よ。」
「お前か…。どうぞ。入って。」
一人の女性が入ってきた。神の妻だ。
「聞いたわ…。明日の天気のこと。」
「軽薄だと、叱りに来たか?」
「いいえ。やっぱりあなたは優しいと思って。」
「それは皮肉かい?」
「本心よ。どうして?」
「私は優しくなんかない。明日を晴れにする少女の願いは叶えても、少女に生きてもらいたい両親の願いは叶えられないんだ。死は皆に平等だ。死をなくすことはできない。人間は死に対して立ち向かい、生きることについて常に考え続けねばならない。私はそれに関与してはならないんだ。」
「わかっているわ。それであなたがどんなに心を痛めているのかも。でも、今日あなたは一人の命のために明日の予定を変えた。そうでしょう?」
「……。1日くらい晴れに変えても、バチは当たらないだろ?」
「あなたにバチを当てる人なんている?」
「……それもそうだな。」
妻の言葉に、神は苦笑した。


ーー翌日の下界。
「晴れた!」
その日は昨日の大雨が嘘のように、空は快晴となった。
「本当…。よかったわね。葵ちゃん。」
「うん!」
「葵ちゃーん!パパとママが来てるわよー!」
「はーい!」
少女は元気に病室を飛び出した。

外は快晴。雲ひとつない、どこまでも澄み切った青空だった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...