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聖なる夜に…
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…冬の夜は辛い。体が凍てつく。
俺は街の片隅で、ひっそりと身体を震わせていた。
いつから、こんな体たらくになってしまったのか…。
一昔前、俺は社長だった。といっても、ベンチャー企業の、だが。
小さいながらも、それなりに儲かっていた。多分、そこいらの会社員よりも金は持っていたはずだ。
だが…、不況の波と時代の流れについていけず、会社は倒産。多額の借金を抱える羽目になった。
今ではもう帰る家も、頼るあてもない。俺はいわゆるホームレスに成り下がっていた。
…今、街はカップルや家族連れで賑わっている。サンタやトナカイの格好をした店員が必死にそいつらを呼び込んでいる。
…そうか。いつの間にか12月になっていたのか。
宿無しになってから、もう今が何月で何曜日なのかも分からなくなってしまった。
だが、もうそれすらどうでもいい。私にはこの一年を越すこともどうやら難しいようだ。…もう、目が霞んできた…。
と、体に冷たい感触が触れた。
見上げると曇天から雪がこぼれている。
…ああ、ホワイトクリスマスだな。
街を歩くカップルたちは騒いでいる。ただ雪が降ったというだけでこの騒ぎだ。
ホワイトクリスマスは奇跡の象徴のような、そんな扱いらしい。
奇跡か…。俺には今、一番縁遠い言葉だな。
何せ、もうくたばる寸前のホームレスだ。こんな男を救うことがあればまさしく奇跡だが、こんな男の命など誰も救うまい。
ああ、瞼が落ちる…。願わくば、もう一度あいつらに出会いたかった…。
「森江さん?森江さんじゃないですか!?」
聞き覚えのある声がした…。この声は…!
「…あ…逢沢か…?」
「お久しぶりです!どうしたんですか?こんなところで。」
「…成れの果てだよ。今は事業に失敗して家族からも逃げて、行き場をなくした哀れな男さ。」
「そんな…。森江さんらしくないですよ!事業の立ち上げに誘ってくれたの、森江さんじゃないですか!あの時みたいにまた、誘ってくださいよ!」
…そうだった。俺は彼をビジネスパートナーとして誘ったんだ。元会社の同僚でこいつとはウマがあった。こいつとなら、うまくやれそうな気がしてたんだ。それなのに…。
「…逢沢。すまなかった。俺はお前を見捨ててしまった…。」
「見捨てたって、何がです?」
「お前が会社の経営を何とかしようとしていたのに、俺は会社をお前に押し付け、逃げ出したんだ…。」
「……。」
「すまなかった。本当にすまなかった…!」
「森江さん、頭を上げてください。会社は無くなっちゃいましたけど、僕らふたりでやればきっとまた盛り返せますよ。僕ら最強コンビじゃないですか!」
「逢沢…。」
涙で目の前がボヤける。ぐしぐしと、俺は服の袖で涙を拭いた。
「…そうだな。また俺たちふたりで…。」そう言って目をもう一度開けると、さっきまでいたはずの逢沢がいなかった。
……?幻でも見たんだろうか。
もしこれが神の気まぐれなら粋なことをするもんだ。おかげで会いたかったやつの一人に会えた。
できればもう一人…いや二人か、あいつらにも会いたいもんだなあ…
「あなた?」「パパ!パパだ!」
虚空を見つめているとまた声をかけられた。この声は…!
「良子!良子か!?ああ、卓も…」
…なんて事だ…!別れたはずの良子と息子の卓があの日と変わらぬ姿で目の前に立っている。懐かしい…。
「…今、どうしてるんだ?」
「あなたの方こそ。そんな格好でどうしたのよ。」
「…見ればわかるだろう?ホームレスだよ。」
「あら、そう。」
…やっぱり怒ってるんだろうか。10年前、俺と良子は離婚した。借金を家に残したまま。その後は連絡もとってなかった…。あのあとどうなったのか、知る由はなかった。
「…俺が、憎いか?」
「憎い?何を勘違いしてんのよ。私は怒ってはいても、憎んでなんかいないわ。」
「…でも、怒っているんだな。」
「当たり前よ。何の相談もなしに勝手に飛び出して行っちゃって。一人で全部抱え込んで…!どれだけ心配したか…!」
「良子…。」
「卓もパパと遊びたいって聞かなかったのよ。」
「卓…。」
またしても、涙。今日はなんて日だ…。
「すまなかった!良子、卓。心配かけて…!」
「もういいわよ。こうして会えたんだから。さあ、久しぶりに会えた事だし、どこかに食べにでも行きましょう。」
「え、いや、しかし…。」
「格好が気になるって?いいじゃない。あなたはあなたよ。」
「良子…。」
「パパ!ごはんが終わったらキャッチボールやろ!僕、遠くまで投げれるようになったんだよ!」
「ああ、いっぱい遊ぼう。今までできなかった分、うんと、うんとな…!」
雪の降る寒空の下、俺は家族3人と再会ができた。金がなくなっても、俺には大事な絆が残っていたんだ…!今は、今だけはこの聖夜に感謝できる。
メリー…クリスマス…。
深夜を巡回中の二人の警官が、雪に埋もれているホームレスを発見した。
「…こりゃあ、もう手遅れだな。可哀想に…。」
「いや、そりゃどうですかねぇ。」
「? どういう意味だ?」
「だってこのホームレス、こんな穏やかな顔で死んでるんですよ。何があったか知らないけど、いいことあったんじゃないですか?」
「…きっと、幸せな夢を見て死んだんだろう。この日はそんなことがあっても不思議じゃない。何たってクリスマスだからな。」
俺は街の片隅で、ひっそりと身体を震わせていた。
いつから、こんな体たらくになってしまったのか…。
一昔前、俺は社長だった。といっても、ベンチャー企業の、だが。
小さいながらも、それなりに儲かっていた。多分、そこいらの会社員よりも金は持っていたはずだ。
だが…、不況の波と時代の流れについていけず、会社は倒産。多額の借金を抱える羽目になった。
今ではもう帰る家も、頼るあてもない。俺はいわゆるホームレスに成り下がっていた。
…今、街はカップルや家族連れで賑わっている。サンタやトナカイの格好をした店員が必死にそいつらを呼び込んでいる。
…そうか。いつの間にか12月になっていたのか。
宿無しになってから、もう今が何月で何曜日なのかも分からなくなってしまった。
だが、もうそれすらどうでもいい。私にはこの一年を越すこともどうやら難しいようだ。…もう、目が霞んできた…。
と、体に冷たい感触が触れた。
見上げると曇天から雪がこぼれている。
…ああ、ホワイトクリスマスだな。
街を歩くカップルたちは騒いでいる。ただ雪が降ったというだけでこの騒ぎだ。
ホワイトクリスマスは奇跡の象徴のような、そんな扱いらしい。
奇跡か…。俺には今、一番縁遠い言葉だな。
何せ、もうくたばる寸前のホームレスだ。こんな男を救うことがあればまさしく奇跡だが、こんな男の命など誰も救うまい。
ああ、瞼が落ちる…。願わくば、もう一度あいつらに出会いたかった…。
「森江さん?森江さんじゃないですか!?」
聞き覚えのある声がした…。この声は…!
「…あ…逢沢か…?」
「お久しぶりです!どうしたんですか?こんなところで。」
「…成れの果てだよ。今は事業に失敗して家族からも逃げて、行き場をなくした哀れな男さ。」
「そんな…。森江さんらしくないですよ!事業の立ち上げに誘ってくれたの、森江さんじゃないですか!あの時みたいにまた、誘ってくださいよ!」
…そうだった。俺は彼をビジネスパートナーとして誘ったんだ。元会社の同僚でこいつとはウマがあった。こいつとなら、うまくやれそうな気がしてたんだ。それなのに…。
「…逢沢。すまなかった。俺はお前を見捨ててしまった…。」
「見捨てたって、何がです?」
「お前が会社の経営を何とかしようとしていたのに、俺は会社をお前に押し付け、逃げ出したんだ…。」
「……。」
「すまなかった。本当にすまなかった…!」
「森江さん、頭を上げてください。会社は無くなっちゃいましたけど、僕らふたりでやればきっとまた盛り返せますよ。僕ら最強コンビじゃないですか!」
「逢沢…。」
涙で目の前がボヤける。ぐしぐしと、俺は服の袖で涙を拭いた。
「…そうだな。また俺たちふたりで…。」そう言って目をもう一度開けると、さっきまでいたはずの逢沢がいなかった。
……?幻でも見たんだろうか。
もしこれが神の気まぐれなら粋なことをするもんだ。おかげで会いたかったやつの一人に会えた。
できればもう一人…いや二人か、あいつらにも会いたいもんだなあ…
「あなた?」「パパ!パパだ!」
虚空を見つめているとまた声をかけられた。この声は…!
「良子!良子か!?ああ、卓も…」
…なんて事だ…!別れたはずの良子と息子の卓があの日と変わらぬ姿で目の前に立っている。懐かしい…。
「…今、どうしてるんだ?」
「あなたの方こそ。そんな格好でどうしたのよ。」
「…見ればわかるだろう?ホームレスだよ。」
「あら、そう。」
…やっぱり怒ってるんだろうか。10年前、俺と良子は離婚した。借金を家に残したまま。その後は連絡もとってなかった…。あのあとどうなったのか、知る由はなかった。
「…俺が、憎いか?」
「憎い?何を勘違いしてんのよ。私は怒ってはいても、憎んでなんかいないわ。」
「…でも、怒っているんだな。」
「当たり前よ。何の相談もなしに勝手に飛び出して行っちゃって。一人で全部抱え込んで…!どれだけ心配したか…!」
「良子…。」
「卓もパパと遊びたいって聞かなかったのよ。」
「卓…。」
またしても、涙。今日はなんて日だ…。
「すまなかった!良子、卓。心配かけて…!」
「もういいわよ。こうして会えたんだから。さあ、久しぶりに会えた事だし、どこかに食べにでも行きましょう。」
「え、いや、しかし…。」
「格好が気になるって?いいじゃない。あなたはあなたよ。」
「良子…。」
「パパ!ごはんが終わったらキャッチボールやろ!僕、遠くまで投げれるようになったんだよ!」
「ああ、いっぱい遊ぼう。今までできなかった分、うんと、うんとな…!」
雪の降る寒空の下、俺は家族3人と再会ができた。金がなくなっても、俺には大事な絆が残っていたんだ…!今は、今だけはこの聖夜に感謝できる。
メリー…クリスマス…。
深夜を巡回中の二人の警官が、雪に埋もれているホームレスを発見した。
「…こりゃあ、もう手遅れだな。可哀想に…。」
「いや、そりゃどうですかねぇ。」
「? どういう意味だ?」
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