監獄の部屋

hyui

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こけし

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K大生のF君は、連休を利用して地方の一人旅を楽しんでいた。
都会にはない自然の美しい風景や、地元の郷土料理を堪能し、帰ろうと思っていた矢先、困ったことに道に迷ってしまった。
「携帯の充電も無くなってきた…。参ったな。どうしよう。」
次第に日も暮れてきて、辺りは暗くなっていく一方。止むを得ず、F君は民家に泊めてもらうことにした。


民家の一つを見つけたF君は、早速頼んでみることにした。
「すいません。すいませーん。」
しばらくして、中から老婆が顔を出した。
「…はい?」
「あのぅ、実は道に迷ってしまって、ここに一晩泊めて頂きたいのですが…。」
「…ちょっと待ってくださいな。」
そういって、老婆は一度中に入っていった。

(やっぱり、いきなり来て泊めてくれ、なんて無茶かな…。)
しばらくして、また老婆が出て来た。
「…どうぞ。」
「え?いいんですか?」
「構いませんよぉ…。どうぞ…。」
「あ、ありがとうございます!」

(助かった!とりあえず今日のところはなんとかなりそうだ!休みもあと1日あるし、なんとかなる!)
F君はホッと胸を撫で下ろして、民家に入っていった。

中は昔の日本家屋の風景そのものだった。
納屋には鍬などの農機具が吊るされ、近くで採れたのだろう野菜が転がっていた。
奥に進むと囲炉裏があり、パチパチと音を立てて鍋を煮込んでいた。
「あのう…、ここにはおばあさん一人で住んでらっしゃるんですか?」
「ああ、そうですじゃ…。」
「お子さんや、お孫さんは…?」
「息子が3人おりましたが、いなくなってしまいましたぁ…。」
「そうでしたか…。すいません。」
「いいえぇ…。じゃから今ではたまに来る旅人さんが息子の様に思えましてなぁ…。」

…と、F君は部屋の奥に3体のこけしが立っているのに気づいた。
(息子さんの形見なのかな…。)

「さあさ、お腹も空かれたでしょう。どうぞ、食べていってくださいな…。」
「あ、ありがとうございます。」
老婆が囲炉裏で煮込まれていた鍋のフタをあけると、中から色とりどりの野菜と肉が顔を覗かせた。老婆はお椀に鍋の具材を入れてF君に差し出した。
「さあ、どうぞ…。」
「いただきます。」
鍋料理は極上の味だった。野菜はそれぞれの甘みが引き出され、肉は下の上でとろける様なうまさだった。

「う、美味い!郷土料理はいくつも食べたけど、こんなに美味いのは初めてだ!」
「気に入ってもらえて何よりですじゃ。さあさ、とんとおあがんなさい…。」
F君は夢中で料理を平らげてしまった。

「ごちそう様でした!」
「はいはい…。いやしかし、お若い方は食べっぷりが宜しいこと…。」
「あ、いやすいません…。美味しかったものでつい…。」
「いいんですよぉ…。さあ、じゃあ寝床に案内します。どうぞ…。」
そういって、老婆はF君を囲炉裏の奥の部屋に案内した。

「…寝床はここを使ってくださいな。」
「どうもすみません。何から何まで…。」
「いいんですよぉ…。ゆっくりお休みなさい…。」
そういって老婆はいずこかへ行ってしまった。

部屋に入ったF君は仰天した。
…無数のこけしがびっしりと並べられているのだ。真っ暗な部屋で薄笑いを浮かべるこけしの様が一層不気味さを醸し出していた。

(きっと、寂しいからこんなに作ったんだ。うん、そうだ。そうに違いない。)
無理やり自分自身を納得させて床につくが…、一向に眠れない。止むを得ず、暇つぶしのために駅前で買った娯楽本を開いた。

【日本のしきたり】
「……こけしは一説には『子消し』と呼ばれ、口減らしのために子を殺した母親が、その死を悼むために作られたとよばれています。しかし、実際は単に子供の遊具として作られたという説が有力で…」


……シャーコ……シャーコ……シャーコ……


…何かを研ぐような音で、F君は目覚めた。どうやら眠ってしまったようだ。

(…!動けない!)
みると、F君は木の板に磔にされていた。何かを研ぐ音は襖の向こうから聞こえる…。
「おやぁ…。目が覚めてしまぃましたかぁ…。」
襖から老婆が顔をぬるりと出してきた。

「な、何をするんですか!?離して下さいよ!」
「そういうわけには、いきませんねぇ…。今迄もおんなじように言われましたがねえ…。」
そういって老婆はさっきまで研いでいたであろう出刃包丁を取り出した。

「肉がねぇ…食べたいんですよ…。人の肉がねぇ…。」
「人の肉って…。まさかさっきの鍋に入っていた肉は…!」
「美味かったでしょう…?わしもやめられんかった。始めは口減らしのため、子供一人をさばくつもりが、気づけば息子三人とも、さばいてしもうた…。せめてもの供養にとこけしを作りましたが…。」
老婆は包丁を構えた。その眼はもはや猛禽のように妖しく光り、血走っていた。

「あの味が忘れられん…!忘れられんのじゃあ…!喰っても、喰っても!だから、この辺りを通る旅人は息子のように思えてならん…!息子のような美味い肉にしか見えん…!」
やがて老婆の包丁は、F君の喉を縦に割いた。F君は声もたてられず、空気の抜けるような音がするのみだった。

「大丈夫ですよう…。あんたの肉もかけらも余さず、喰ろうてやるでなぁ…!詫びにこけしも作ってやるでなぁ…!勘弁してくれや…!イヒヒヒヒヒヒ……!」
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