破滅の足音

hyui

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手頃なアルバイト

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「はぁ。なんか楽に稼げるバイトないかなぁ…。」

A君は今、気軽に稼げるバイトを探していた。
今日も大学の食堂でバイトの求人雑誌を広げてにらめっこしている。
「う~ん。飲食もいいけど、きつそうだし、コンビニは楽だけど稼げないし…。」
悩むA君の元に、白衣を着た男がやってきた。
「君、アルバイト探してるの?」
「あ、はい。そうですけど…。あなたは?」
「ああ、失礼。僕はこういうものです。」
白衣の男は懐から名刺を取り出した。


『最新医療研究学教授          B』



「最新医療研究学?何ですか?それ。」
「知らないのも無理はない。大学内でも一部の人しか知らないようなマイナーな学問だからね。僕はいちおうそこの教授をさせてもらってるんだよ。」
「へー…。で、教授が一体僕になんの用ですか?」
「実は今、ある研究でのバイトを募集してるんだよ。良かったら来てくれないかな、と思って。」
「大学でのバイトですか?」

A君は悩んだ。大学内のバイトってあまり聞いたことがない。もしあったとしても、ろくな給料じゃないんじゃなかろうか。
「そのバイトって時給どれくらいですか?」
思い切って聞いてみた。学生にとっては切実な問題である。
「ああ、これは時給計算じゃないんだ。日雇いの仕事で、1日100万円出そう。」

…100万円!

A君は思わず飛び上がりそうになった。

「で、でも100万円だなんて…!なんか難しい事とかするんじゃないですか?」
「そんな事はないよ。難しい知識も技術もいらない。元気な身体一つあれば十分さ。」
「じゃあ危険な仕事、とか…。」
「…仕事に危険はつきものさ。大なり小なりね。でも、これは社会の役に立つ仕事だよ。どうだい?やるかい?」

A君はしばらく考えた。給料は美味しい。でも仕事内容がわからない。しかし、この機会を逃せば100万円は手に入らない。だけど危険な仕事かもしれない…。

「…分かりました。それ、やらせて下さい。」
A君は結局やることに決めた。100万円のバイト代が魅力的だったのだ。多少危険でも、命を落とすようなことはあるまい、とたかもくくっていた。

「ありがとう!助かるよ!さあ、じゃあ早速仕事に入ろう。ついて来てくれ。」
白衣の男BはA君を大学の研究棟に案内した。


2人が来たのは研究棟の中でも隅の隅。全く人気のない研究室の一室だった。
「さあ、そこに横になってくれ。」
研究室はそこら中に医薬品らしき瓶が置かれており、中央には手術台があった。A君はその手術台に仰向けに寝転がった。
「じゃあ次は体を縛らせてもらうよ。」
Bは仰向けに寝ているA君を、ロープで縛り付けた。
「あ、あのう…。これからどんな仕事をするんですか?」
「ん?実験だよ。新薬の実験。」
さも当たり前のように、Bはさらっと言った。
「し、新薬の実験だって!?聞いてないぞ!」
「言ったろ?仕事には危険が大なり小なりつきものだって。」
「い、一体なんの新薬の実験なんだ…!」
「不治の病に効く治療薬の実験さ。まずは君にウイルスを投与し、発症させる。その後で治療薬を処方して経過を観察する…。」
「や、やめてくれ…!そんな、無茶苦茶だ…!」
A君は必死に暴れたが、ロープは解けない。
「ちくしょう…!100万円なんて嘘だったんだな…!」
「嘘じゃないさ。ちゃんと生きて帰れたら払うつもりさ。治療薬が完成すれば、多くの人が助かるんだからね。」
「も、もし死んだら…?」
「その時は残念。でも安心したまえ。もし死んでも、君の臓器は病院にいく。君はドナーとして社会の役に立てるんだ。」
A君は己の軽率さを呪った。気楽に稼げる仕事なんてなかったんだと、必ず其れ相応の見返りがあるんだと、わかっているべきだった。報酬なんかに目が眩んだ自分が馬鹿だった…。

「さあ、始めようか。」
腕にチクリとした痛みと共に、何かを流れてくる感覚がする。例の病原菌が今、体内に入っていっている…。
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