破滅の足音

hyui

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はんにゃれお

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「なあ、『はんにゃれお』のことなんだけどさ…。」
「は?」
突然同僚に話しかけられたA。だがなんのことかさっぱりわからない。
(はんにゃれお?なんだそりゃ?)
「お前…。まさか『はんにゃれお』知らないのか?」
「『はんにゃれお』…。」

(な、なんか知らんが、こいつは知ってる風だぞ。周りのやつらも『うわ、マジか。こいつ。』みたいな目で見てくるし。知らない、なんて言ったら恥なんじゃないか…?)

「『はんにゃれお』ね。ああ、知ってる!知ってるとも!」
「だよな?びっくりしたぜ。知らない風だったからさ。」
「知ってるに決まってるだろ?嫌だなぁ。ははは…。で?『はんにゃれお』がどうしたんだよ。」
「なんと今近くに来てるらしいぜ。」
同僚が語った途端、周りが驚き、ざわめきだした。中には急いで荷物をまとめる者もいる。

(『はんにゃれお』って、なんか危ないやつなのか?台風みたいな?)

「そ、そりゃヤバイな…。」
「え?ヤバいか?」
同僚の思わぬ反応に、Aは少し咳払いした。
「…ごほん。いや、ヤバくないな。うん。全然ヤバくない。」
「お!そうか。お前も気づいたか!」

(え?なにが?)

「あいつの弱点だよ!いゃ~、俺以外にわかるやつがいるとはなー。」
「あ、ああ!弱点な!そうそう俺もわかったんだよ!あいつの弱点!」

(弱点って…。なんだ?『はんにゃれお』って誰かのあだ名か?)
もしそうなら、随分嫌われてるんだな、とAは思った。

「お前も知ってるんなら、話は早い!一緒にとっちめに行こうぜ!」
「…いや、悪い。今日は俺は帰るわ。」
「なんだよ!びびったのか!?」
「悪いな。最近残業続きで疲れててさ。お前だけで行ってくれ。」
「お、『はんにゃれお』より、残業の疲れの方が怖いと来ましたか。言うねぇ~。じゃあ、俺一人で行ってくるわ!じゃあな!」
そう言って、同僚も出ていった。

(正直、『はんにゃれお』がなんなのか気になるが、俺にとっちゃ休暇の方が大事だ…。)
そう思いながら帰り支度を始めるA。
と、その時、バタバタと慌ただしい音がした。
「すいません!あなたはAさんですか!?」
全身迷彩服を着た男が話しかけてきた。見た目は自衛隊のようだが…。
「あ、あのなんの用でしょう?」
「話は後で!さあ、こっちへ!」
わけのわからないまま、Aは部屋から連れ出された。



「隊長!発見しました!Aです!」
「おお、いたか!よく見つけてくれた!」
隊長らしき人物に報告する自衛隊男。その後ろでAは居心地悪そうにしていた。
「あ、あのう、なんの用でしょうか?俺もう帰りたいんですが…。」
「何をおっしゃる!あなた、『はんにゃれお』の弱点を知ってるんでしょう!?」
「え?」
また『はんにゃれお』だ。
「あの、『はんにゃれお』ってなんなんですか?」
「とぼけないでください!あれですよ!」

隊長の指差した方向に化け物が見えた。人間の顏に獅子の様な体。そして何より異様なのが大きさだった。見上げる高さの筈の高層ビル群が、まるで林の様にしか見えない。

「あの『般若レオ』を倒すためについ先ほど、おたくの同僚さんが勇敢にも突撃したんです。我々は止めたのですが、弱点を見つけた、とそう言って聞かなかったのです。」
「あいつが…。それでなんで俺が?」
「俺以外に弱点を知ってる奴がいる、俺がもししくじったらそいつを呼んでくれ。あの方はそう言っていたんです。」
(ああ、なるほどね…。)
「それで、俺の同僚は…。」
「…奮闘虚しく、一撃でやられてしまいました。結局弱点がなんなのかもわからずじまいです…。」
「かくなる上は、あなたが最後の希望です!どうか、ご武運を!」
(なんかもう戦うことになってるんですけど…。)
彼らの前で今更「知りませんでした」なんて言えないAであった。
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