破滅の足音

hyui

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舌切り雀

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むかしむかし
あるところに、すずという娘がおりました。
このすずは働きもので気立てもよく、皆から愛されておりました。

ある日、すずは庄屋に奉公に出ることになりました。奉公先の主であるおじいさんは、このすずを大層気に入り、実の娘のように接しました。しかし、その妻であるおばあさんはすずのことが気にくわない様子。

「なんだい。若いからってちやほやされて、いい気になってるんじゃないよ。」

おばあさんは他の女中に、すずに飯を食わせぬように命じました。さすがの女中たちも反対しましたが、逆らえば自分たちも同様に飯抜きにする、と言われると従うしかありませんでした。

飯も食えず、みるみるやせ細っていくすずを見かねて、ある日おじいさんが問いました。
「すずや。ここのところ元気がないようじゃが、どうしたんじゃい。」
「…心配いただき、ありがとうございます。しかし、私は大丈夫ですので…。」
力なく微笑むすず。いたたまれなくなったおじいさんは女中に命じて飯を作らせました。
「…つらかったろうて。すまんのう。すずや…。」
「いいえ。ありがとうございます…!ありがとうございます…!」
涙ながらに久しぶりの食事にありつけたすず。しかし、おばあさんはそれを見逃しませんでした。
「なんて卑しいんだろうねえ。おじいさんをたぶらかして、この庄屋を乗っ取るつもりだよ、この娘は。みんな、こんな小娘と口を聞いちゃいけないよ。なにをたらし込まれるかわかったもんじゃない。」
おばあさんの命令で、その日からすずは誰とも口を聞けなくなりました。話しかけても無視ばかり。そんな日が続いたため、すずはやがて本当に口がきけなくなりました。あたかも舌を切られでもしたように…。

この有様を見かねたおじいさんは、すずを親元に返すことにしました。
「すまんかった…!お前さんには、本当に苦労をかけてしまった。これからは親元で幸せに暮らしておくれ…。」
涙しながら謝るおじいさんに一礼すると、すずは親元へと帰っていきました。


すずを親元に送って数ヶ月。
おじいさんはすずが元気にやっているかが気にかかり、折を見て親元へ訪ねました。

「ああ、旦那様!お久しゅうございます。」
「おお…!すずや。すっかり元気になって。」
数ヶ月の間に、すずの心身は回復し、しゃべることもできるようになっておりました。それからすずはおじいさんにあの時のお礼と宴の席を設け、手厚くもてなしました。
と、おじいさんはすっかり日が暮れた事に気がつき、急いで帰らねばならない旨をすずに伝えました。
「それならば、おみやげにこちらをお持ち帰りください。我が家に伝わる宝でございます。」
そう言って、すずは小さいつづらと大きいつづらを持ってきました。
「さあ、どうぞ。いずれか好きな方をお持ち帰りください。」
「おお、ありがとうや。すず。しかし、わしはこんな老いぼれじゃ。大きい方はとても持ってかえれん。小さい方を頂くよ。」
そう言って、おじいさんは小さいつづらを持って、すずの親元を去っていきました。

家に帰ってつづらを開けたおじいさんはびっくり。中には金銀財宝がぎっしり詰まっているではありませんか。
「おやまあ、おじいさん。そんな宝物、どこで見つけたんだね?」
「ああ、ばあさんや。これはすずにもらってなあ…。」
おじいさんはおばあさんに、すずの親元に行った事、帰りしに小さいつづらと大きいつづらのいずれか一方を持って帰るよう言われたこと、自分はそのうちの小さいつづらを選んだことを話しました。
「バカだねえ。おじいさん、なんで大きいつづらを選ばなかったんだい。」
「いや、わしはもう歳じゃからな。大きい方はとても運べん。それにすずのやつが元気にやっておれば、わしはそれでいいんじゃ。」
「つくづくお人好しなじいさんだねえ…、貰えるもんは徹底的にもらわなきゃ。」


後日、おばあさんもすずの親元へいきました。
「やあ、すずや。久しぶりだねぇ。」
「…!奥方様…。」
「おやまあ、口がきけるようになったんだねぇ。まあ、そんなことはどうでもいい。昨日、あんた旦那にみやげを持たせたそうじゃないか。」
「…はい。確かに。」
「まさか、同じように世話を焼いてやった私にはみやげは渡さないなんてことはないだろうねえ。」
「…いいえ。もちろん奥方様にも用意しております。奥方様には大変お世話になりましたので…。」

そうして、おじいさんと同様にすずは大きいつづらと小さいつづらを用意した。
「…どうぞ。お好きな方を持って帰ってくださいまし。」
「ふん。それでいいんだよ。わかってるじゃないか。」
そう言って、おばあさんは大きいつづらを持ち上げた。
「私はこっちを頂くよ。文句はないね。」
「…とんでもございません。どうぞ。」
その言葉を聞いたおばあさんは大喜びで大きいつづらを持って帰りました。



帰りの道中、おばあさんはこのつづらの中身が気になりました。中でなにやら物音がするのです。
「まあ、中を見ただけでバチはあたらんわな。」
おばあさんは背負っていたつづらを下ろし、中を覗き込もうとしました。しかし、大きい荷物を担いでいたのに疲れたのか、おばあさんは誤ってつづらの中に頭を突っ込むように倒れてしまいました。
「うっ!…ギャアアア…!」
途端におばあさんは悲鳴をあげました。つづらの中には蜘蛛や、蠍、蛇など、ありとあらゆる毒虫がぎっしりと詰まっていたのです。つづらの中の毒虫はたちまちおばあさんの全身に群がりました。
薄れゆく意識の中、おばあさんは思いました。
(おのれ。あの時、小さいつづらを選んでおれば…!)

「小さいつづらを選んでおけば良かった…、などと今頃考えてらっしゃるんですかねぇ。奥方様は…。」
すずは自宅にて、先ほどおばあさんが残した小さいつづらを杖で叩きました。すると中から猛毒の塗られた仕込みばりが四方に飛び出してきました。
「どちらを選んでも、あなたに宝なんてあげるはずがないじゃありませんか。あなたにはとてもお世話になったのですから…。」

クスクス……。

すずの嘲り笑う声が、その日は一晩中続いたそうな…。
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