記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
109 / 188
人形師編

集う男たち 西馬と秋山とヒカル

しおりを挟む
所変わって、秋山宅。
俺はヒカルと秋山を顔合せすべくここに来ていた。対穴取に向け、三人で奴についての情報を共有して対策を練るのが今回の目的だ。「打倒穴取」…もう完全に探偵の領分を超えてる気がするが、これも相棒の仇のためだ。もはや何も言うまい。
だがそれよりも秋山とヒカルが顔を合わせるにあたって、「ある問題」があることに俺は不安を覚えていた。それは…。
「西馬君。何を考え込んでるんだい?」
「…あんたと秋山の事で悩んでんだよ。」
そう。このボスことヒカルは、以前りえちゃんに催眠をかけて死なせかけている。辛うじて一命は取り留めたものの、それが原因で失語症を発症し、それが現在も続いている…。
ただでさえ、秋山は仇討ちで気がたっている渦中だ。この上、りえちゃんの仇まで出てきたら…まずいことになる。ここはヒカルに素性を伏せてもらった方がいいな…。
「なあ、ヒカル。悪いんだけど…。」

「よう。西馬!来たのか!」
絶妙なタイミングで秋山が割り込んで来た。ああ、なんてこった…。
「よ、よう。秋山。悪いな。急に押しかけて…。」
「なに。気にするな。穴取の奴を一緒にやっつけてくれる仲間を紹介してくれるんだろう?」
「ああ。まあ…。」
「さ、中に入った!入った!」
秋山は強引に俺とヒカルを中に招き入れた。

そうして俺とヒカルの二人は、秋山宅の居間へと連れられた。秋山がニコニコ顔でお茶を持ってくる。…元気が戻って何よりなんだが、今はその笑顔が怖い。
「いや~。あんたが西馬の言っていた助っ人か!」
「ヒカルと言います。どうぞ宜しく。」
「ああ!よろしくな!俺は秋山だ!いや~、今は一人でもが増えると助かるよ!」
「いやこちらこそ。あなたのような人が味方にいるというのは実に心強い。」
…両者が歓談している間、俺はいつヒカルの素性がバレるかヒヤヒヤしていた。
「ところで、ヒカルさんはどうして奴を追ってるんだ?」
「ああ、実は僕は闇クラブの元…。」
「だあぁぁ!待って!ストップ!ストップ!」
…言わんこっちゃない。ヒカルの奴は自分の素性を語るのに何の躊躇もないらしい。こりゃ、早いとこ本題に入らんと一悶着起こりそうだ。
「や、奴を追う理由なんか後で聞いたっていいだろ?今は奴をどうやって追い詰めるかを考えよう!な!?」
「……?別に構わんがそんな焦らんでも……。」 
「もしかして、僕が何かまずいこと言ったのかな?」
…もしかして、じゃない。がっつりまずいことを言おうとしていたよ。

そうして俺はヒカルに伝えたように、秋山にも穴取がどうやら廃遊園地にいるらしいことを伝えた。
「遊園地か…。なんだってそんなところを別荘にしやがったんだ。奴は。」
「それはわからないが…、とにかく奴がここにいる可能性が極めて高い。だから乗り込む前にこの三人で今現地点で、俺が奴についてわかっている事を共有しておきたい。」
「おや?穴取についてわかっているのは居場所だけじゃなかったのかい?」
「ああ。実は奴についてまだ報告していない点がある。それを今この場で二人に話すよ。」
…という訳で、俺は穴取について以前須田から報告された内容を二人に伝えた。
奴の被害者の何人かに、麻酔銃の弾丸が検出されたこと。そして遺体の側に動物の挿絵が置かれていること…。
「…俺たちが調べた結果はこんな感じだ。」
「…麻酔銃か…。厄介な物を使ってきやがったな。しかし奴は以前麻酔銃を犯行で一度も使ってないはずだが…。」
「恐らく奴には仲間がいるんだよ。狙撃銃を扱える仲間が。 」
俺の言葉を受けて、ヒカルが口を開いた。
「だろうね。だから手口が違うことにも説明がつく。だがここで問題が一つ。」
「?」
「少なくとも、奴らは狙撃銃程度の武装をしてくるという事だ。のこのこ正面から行けば多分、蜂の巣にされる。」
「ああ、まあ…。」
「正面からの接近は危険。となると、狙撃手の死角をついて穴取の居場所に接近しないといけない。遊園地に潜入するなら、裏口からだな。」 
…さすがにだ。そういえばこいつはこれまでに3つの闇クラブに単身潜入してきた。その潜入経路もこうやって計画してきたんだろうか…。
さらにヒカルは続ける。
「次にこの挿絵についてなんだが、これは恐らく…。」
「え?この絵に何か意味があるのか?」
「もちろんさ。穴取は意味のないことをする奴じゃない。この行為には、奴なりの狙いがある。」
「…俺も同感だな。10年間手がかりを残してこなかった殺人鬼が今になってこんなことをしてくるなんて…。何か意図があるに違いないぜ。」
と、秋山もうなづく。
「しかし、この動物の挿絵に一体どんな意図があるっていうんだ?」
「この動物たちね…。ある共通項があるんだ。」
「共通項?」

「彼らは全て、"七つの大罪"に関係するんだよ。」
「…なんだって!?」

俺は写真に写る動物たちをもう一度まじまじと見つめ返した。
「ヤギに蛇に狐、蝿、牛、コウモリ…。これらが全て?」
「そうさ。七つの大罪は中世にそれぞれ悪魔と関連付けられたんだが、著作の中には動物と関連づけされたものもあった。すなわち、色欲はヤギ、嫉妬は蛇、強欲は狐、暴食は蝿、怠惰は牛、傲慢はコウモリ、と言った具合さ。」
「なるほど…。ん?でも待てよ。それじゃあまだ一つ足りないじゃないか。」
「うん。憤怒に当たる動物、狼が足りないね。恐らく奴はもう一人をつもりなんだろう。そして君が話してくれた内容から察するに、奴がまだ手に入れていないパーツがある。」
「まだ手に入れていないパーツ……。」
俺はしばらく考えていたが、秋山はサッと答えを出した。
「……眼だ。奴はまだ眼を手に入れていない。」
「その通り。奴は最後のパーツ、眼をなんとか手に入れようとしている。こんな回りくどいやり方をしているのも、全ては最後のパーツを持つ"ターゲット"をおびき寄せる為にやっていると見たね。」
「そのターゲットって?」
「多分…僕だよ。僕をおびき寄せる為に、こんな挑発とも取れる犯行をしているんだ。」

…穴取がヒカルを殺しのターゲットにしようとしている?穴取はボスに接近されるのが恐ろしくないのだろうか?それとも余程の秘策があると言うことなのか?

「まあ…何にせよ。喧嘩を売られたからには買ってやろうじゃないか。どんな策があるにせよ、幸い穴取は西馬君と秋山君のことを知らない。不意を突くチャンスはあると思うよ。」
「おお…。あんた見かけによらず度胸あんなぁ!気に入った!絶対奴をぶっ倒してやろう!」
「うん。二人とも宜しく頼むよ。」
「任しとけぃ!よぉし!なら早速作戦会議だ!西馬!」
「あ、ああ…!」
…やれやれ。とりあえず秋山にヒカルの素性はバレなかったようだ。とはいえ、バレるのも時間の問題の気もするが…。
まあともかく、今は奴を追い詰めることを考えよう。バレた時は…その時だ。
しおりを挟む

処理中です...