記憶探偵の面倒な事件簿

人形師編

謀る人形師

鬱蒼とした暗闇。吸い込まれるような果ての見えない暗黒。時折聞こえてくる風の音は、獣の咆哮か。あるいは誰かの啼き声か。
そんな中で彼…穴取結城は自身の作品たちを一体一体愛でまわしていた。
「…美しいねぇ。まったく美しいよ。君たちは。」
暗闇に浮かぶ人形達は、物言わぬ眼で穴取を見つめ返す。光を失った彼女らの眼には一切の感情が消えていた。怨みも、怒りも、悲しみも。この人形達は、穴取によって姿を変えられてしまった元人間である。しかも他人の身体を接ぎ合わせた、歪な人の形である。だがそんな事は穴取は意に介さない。彼にとって美しければそれでいいのだ。
そんな彼の人形達の最奥。一体だけ眼の無いものがある。彼の今手掛けている“最新作”だ。穴取はその最新作の前に立つと、より一層愛おしげにそれを撫で始めた。
「もう少しの辛抱だ。もうすぐここを嗅ぎつけてボスがやってくる。いかにボスと言えど、彼らを相手に生きてはおれまい。万一生き延びてここにたどり着いたとしても、ここでは魔眼は使えない。ボスはただの男同然だ。殺すのは造作もない事…。」
そうして彼はクク…と嗤う。
「男のパーツを私の作品に使うのは私の主義に反するが、彼は特別だ。ずっと憧れていた、あれ程の美しい眼は他の何物にも代え難い。もしボスの眼がこの人形にはめることができたなら…この人形は私の最高の作品になるだろう…！」
肚から溢れでる感情を抑えきれず、暗闇の中で一人高嗤う穴取。と、その嗤い声をかき消すように着信音が鳴り出した。
「…私だが。」
『穴取様。“鷹”からの連絡です。ボスがこちらに向かっていると。』
「そうか…！ついに来たか…！」
『ボスが到着次第、手筈通りに作戦を実行致します。宜しいですか？』
「聞くまでもない。お前も連絡が終わったらさっさと準備をしろ。いいな？眼は絶対に傷つけるな。ほんの少しでも傷つけたら、今度はお前たちを粛正するぞ。いいな？」
『…かしこまりました。』

穴取は無線を切ると、また不敵に笑いだした。
「…いよいよだ。『魔眼狩り』の開始だ…！」