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少年ジャックは面喰らっておりました。
いつもの日常がいつものように終わろうとしていた頃、部屋に突然夢物語に登場するドラゴンがやって来てその上唐突に喋り出したのですから。
しかもそのドラゴン、どうも人違いをしているようで、自分の事をジャッキーと呼び、更には冒険に行こうなどと言い出す始末。あまりの出来事の連続で10歳の少年はただただ混乱するばかりでした。
「…ええと……あの……僕……。」
ひとまず名前の事だけでも訂正しよう。
ジャックはそう思い立って口を開きましたが、そんなことなど御構い無しに、ドラゴンはその尻尾でジャックをヒョイと持ち上げると自分の背中に乗せて今にも飛び立とうと翼を広げ始めました。
「あ……!ちょ、ちょっと……!」
「ほらほら。早く行こう!親父が待ってるんだ!」
「親父……?」
ドラゴンはジャックの言葉などどこ吹く風で、元来たタンスの中へジャックを乗せて勢いよく飛び出しました。
ドラゴンのやって来たタンスの向こうには、ジャックの知らない世界が拡がっていました。照りつける太陽、肌に心地よく触れる暖かな風、砂と波が輝く美しい浜辺が見えたかと思うと、ドラゴンは翼を一度大きくはためかせ、空高く飛び上がりました。
「う…うわ……。」
ジャックは思わず目をつぶり、ドラゴンの背中にしがみつきました。周りの空気は肌を切るように冷たく、体はまるで宙に浮いたように頼りなげに感じます。どれもジャックが今までに感じたことの無い感覚でした。
そうして必死の思いでドラゴンにしがみついていると、何やら笑い声が聞こえてきます。
笑い声の主がドラゴンと分かると、ジャックはカッとなって言いました。
「な……何がおかしいんだよ!」
「いやいやだってさ、今更何を怖がってるんだろって思ってさ。慣れたもんだろ?こんなの。」
相変わらずこのドラゴンは自分を誰かと勘違いしているらしい。
そう思ったジャックは一層声を張り上げました。
「あの……!僕はこういうのは初めてで……!」
「え?何?聞こえない。」
「だから!僕は……!」
叫んだ拍子に、ジャックは目を見開きました。すると……。
「………わぁ……。」
今度は目の前の光景に思わず溜息が漏れたのでした。
ジャックの目の前には、先程一瞬見えた砂浜は無く、代わりに海のように拡がる雲とどこまでも澄んだ紺碧の空が、自分達を挟んでいるのでした。
「ここは……どこ?」
「雲の上さ。オイラの最近のお気に入りスポットなんだ。どうだい?綺麗だろ?」
「うん……。すごく綺麗……。」
ジャックは今まで、暗くて狭い世界しか知りませんでした。家も、町も、学校も、ジャックの取り囲む世界はただただ暗く、狭く、自分を押し潰してしまいそうな、そんなものばかりでした。
しかし今、目の前に拡がるこの雲海と大空のコントラストの美しさは、そんな少年の世界観を吹き飛ばしてしまいそうでした。世界はなんと広く、綺麗なのかと、ジャックはただただ感嘆せずにはおれませんでした。
「……凄いね。」
「気に入ってくれたかい?」
「うん。僕、こんなの初めてみたよ。」
「そいつは良かった。……あ、そうだ。自己紹介がまだだったよな?オイラ、パフィってんだ。よろしくな!」
「パフィ?」
「そう。アンタの相棒、“パフ”の息子のパフィさ。」
「そ、そっか。よろしく。……ええと、僕の名前はね、ジャッ……。」
「おっと、それじゃそろそろ下に降りるよ。」
「え?下に?」
「言ったろ?親父が待ってるって。そろそろ親父のいる洞窟の上空なんだ。」
「あ、ちょ、待って!僕の名前は……!」
ジャックの訴えも虚しく、そのドラゴン、パフィは地上へ向かって一直線に急降下を始めました。
「う、うわああぁぁぁ!」
突然、足場を失った感覚に襲われたジャックは悲鳴を上げましたが、その声は風に掻き消されてパフィには聞こえません。終いには右へ左へと激しく動き始めたものだからもう堪りません。
(い……一生で、一度でいいから、父さんとジェットコースターってやつに乗りたい、なんて思ってたけど……、もう一生乗らない……。)
薄れゆく意識の中、ジャックは心の中で固く決意するのでした。
いつもの日常がいつものように終わろうとしていた頃、部屋に突然夢物語に登場するドラゴンがやって来てその上唐突に喋り出したのですから。
しかもそのドラゴン、どうも人違いをしているようで、自分の事をジャッキーと呼び、更には冒険に行こうなどと言い出す始末。あまりの出来事の連続で10歳の少年はただただ混乱するばかりでした。
「…ええと……あの……僕……。」
ひとまず名前の事だけでも訂正しよう。
ジャックはそう思い立って口を開きましたが、そんなことなど御構い無しに、ドラゴンはその尻尾でジャックをヒョイと持ち上げると自分の背中に乗せて今にも飛び立とうと翼を広げ始めました。
「あ……!ちょ、ちょっと……!」
「ほらほら。早く行こう!親父が待ってるんだ!」
「親父……?」
ドラゴンはジャックの言葉などどこ吹く風で、元来たタンスの中へジャックを乗せて勢いよく飛び出しました。
ドラゴンのやって来たタンスの向こうには、ジャックの知らない世界が拡がっていました。照りつける太陽、肌に心地よく触れる暖かな風、砂と波が輝く美しい浜辺が見えたかと思うと、ドラゴンは翼を一度大きくはためかせ、空高く飛び上がりました。
「う…うわ……。」
ジャックは思わず目をつぶり、ドラゴンの背中にしがみつきました。周りの空気は肌を切るように冷たく、体はまるで宙に浮いたように頼りなげに感じます。どれもジャックが今までに感じたことの無い感覚でした。
そうして必死の思いでドラゴンにしがみついていると、何やら笑い声が聞こえてきます。
笑い声の主がドラゴンと分かると、ジャックはカッとなって言いました。
「な……何がおかしいんだよ!」
「いやいやだってさ、今更何を怖がってるんだろって思ってさ。慣れたもんだろ?こんなの。」
相変わらずこのドラゴンは自分を誰かと勘違いしているらしい。
そう思ったジャックは一層声を張り上げました。
「あの……!僕はこういうのは初めてで……!」
「え?何?聞こえない。」
「だから!僕は……!」
叫んだ拍子に、ジャックは目を見開きました。すると……。
「………わぁ……。」
今度は目の前の光景に思わず溜息が漏れたのでした。
ジャックの目の前には、先程一瞬見えた砂浜は無く、代わりに海のように拡がる雲とどこまでも澄んだ紺碧の空が、自分達を挟んでいるのでした。
「ここは……どこ?」
「雲の上さ。オイラの最近のお気に入りスポットなんだ。どうだい?綺麗だろ?」
「うん……。すごく綺麗……。」
ジャックは今まで、暗くて狭い世界しか知りませんでした。家も、町も、学校も、ジャックの取り囲む世界はただただ暗く、狭く、自分を押し潰してしまいそうな、そんなものばかりでした。
しかし今、目の前に拡がるこの雲海と大空のコントラストの美しさは、そんな少年の世界観を吹き飛ばしてしまいそうでした。世界はなんと広く、綺麗なのかと、ジャックはただただ感嘆せずにはおれませんでした。
「……凄いね。」
「気に入ってくれたかい?」
「うん。僕、こんなの初めてみたよ。」
「そいつは良かった。……あ、そうだ。自己紹介がまだだったよな?オイラ、パフィってんだ。よろしくな!」
「パフィ?」
「そう。アンタの相棒、“パフ”の息子のパフィさ。」
「そ、そっか。よろしく。……ええと、僕の名前はね、ジャッ……。」
「おっと、それじゃそろそろ下に降りるよ。」
「え?下に?」
「言ったろ?親父が待ってるって。そろそろ親父のいる洞窟の上空なんだ。」
「あ、ちょ、待って!僕の名前は……!」
ジャックの訴えも虚しく、そのドラゴン、パフィは地上へ向かって一直線に急降下を始めました。
「う、うわああぁぁぁ!」
突然、足場を失った感覚に襲われたジャックは悲鳴を上げましたが、その声は風に掻き消されてパフィには聞こえません。終いには右へ左へと激しく動き始めたものだからもう堪りません。
(い……一生で、一度でいいから、父さんとジェットコースターってやつに乗りたい、なんて思ってたけど……、もう一生乗らない……。)
薄れゆく意識の中、ジャックは心の中で固く決意するのでした。
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