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正月も開けて、世間はもう仕事始め。
サービス業の俺はようやく一息つける頃。
「…とりあえず、今年始めの山は越えたな。」
年末からの連勤も終わり、俺は少し遅めの正月をむかえることにした。
「ふふふ……。やっぱ正月といえばお雑煮だよな。」
普段はコンビニ弁当とかばっかだが、この日だけは譲れない。正月といえば餅の入ったお雑煮だ。この日だけは多少手間でも、俺は鍋を引っ張りだして手料理をする(手料理という程のものじゃないかもしれんが……)。
グツグツと煮立った湯に白味噌を溶かして、豚バラと大根と、あとメインの切り餅を好きなだけぶち込んでしばらく待つ。
すると雑煮のいい匂いがしてくるじゃあないか。
「よし。じゃあそろそろ、いただきますか!」
意気込んで鍋の蓋を開けた途端、身動きが取れなくなった。
ああ、なんて事だ。気づけばもう午前0時。
奴がやって来る時間じゃあないか。
部屋の明かりが消えて、代わりに靄が立ち込めて……。
(ああ、もうじれったい。出るなら早く出てくれ。こっちは雑煮が待ってんだよ。)
しばらくしたらいつものアイツが青白い顔をのぞかせて……。
あれ?
何だ?今日はもう一人いるぞ!
いつものアイツの他に、青白い顔をしたジジイ……いやババア?が恨めしそうな顔で現れた。こんなことは初めてだ。
『……おお。何と嘆かわしい。雑煮だと。お前はまたそんな罪深い物を食べているのか!』
『餅!許すまじ!』
『いいか。雑煮というのは恐ろしい食い物だ。一見、正月を象徴する料理の一つに見えるがとんでもない。その実は人々を誑かして死に至らしめる狂気の料理なのだ。』
『餅!餅!餅め!』
『というのも、毎年雑煮の餅で喉を詰まらせる事故が起こっている。今年も5人のご老人方が重体になったそうだ。おお、何と恐ろしい……。』
『餅!許すまじ!』
『紹介が遅れたが、今日はそんな餅の犠牲になった方を連れてきた。日本餅撲滅協会会長のモチヨさんだ。彼女は生前それはもう大変な餅好きで、毎年自分の年の数だけ餅を食う事を自身の決まりにしていた。だが100歳の正月の時に、丁度100個目の餅を喉に詰まらせて亡くなってしまった。それ以来、餅を憎悪し、幽霊となって餅を滅ぼす為の伝道師となったのだ。』
『あな哀しや!あな恨めしや!ああ餅め!』
『なぜ人は餅を食う事をやめられないのか?それは餅があるからだ。ではやることは一つ。さあ、モチヨさん!』
『餅、滅すべし!破ぁっ!』
婆さんの幽霊が一喝した瞬間、見るからに邪悪な波動が俺の雑煮の餅を跡形もなく掻き消していった。
『これでまた一人、餅の魔の手から一人の若者を救った。ありがとう。モチヨさん。』
『往生せいよ。小僧……。』
そう言って奴とモチヨのババアは満足した顔で消えていった。
「餅…。俺の餅……。」
訳の分からないまま、俺は放心状態で餅の消えた雑煮をぼうっとただ見つめていた。
サービス業の俺はようやく一息つける頃。
「…とりあえず、今年始めの山は越えたな。」
年末からの連勤も終わり、俺は少し遅めの正月をむかえることにした。
「ふふふ……。やっぱ正月といえばお雑煮だよな。」
普段はコンビニ弁当とかばっかだが、この日だけは譲れない。正月といえば餅の入ったお雑煮だ。この日だけは多少手間でも、俺は鍋を引っ張りだして手料理をする(手料理という程のものじゃないかもしれんが……)。
グツグツと煮立った湯に白味噌を溶かして、豚バラと大根と、あとメインの切り餅を好きなだけぶち込んでしばらく待つ。
すると雑煮のいい匂いがしてくるじゃあないか。
「よし。じゃあそろそろ、いただきますか!」
意気込んで鍋の蓋を開けた途端、身動きが取れなくなった。
ああ、なんて事だ。気づけばもう午前0時。
奴がやって来る時間じゃあないか。
部屋の明かりが消えて、代わりに靄が立ち込めて……。
(ああ、もうじれったい。出るなら早く出てくれ。こっちは雑煮が待ってんだよ。)
しばらくしたらいつものアイツが青白い顔をのぞかせて……。
あれ?
何だ?今日はもう一人いるぞ!
いつものアイツの他に、青白い顔をしたジジイ……いやババア?が恨めしそうな顔で現れた。こんなことは初めてだ。
『……おお。何と嘆かわしい。雑煮だと。お前はまたそんな罪深い物を食べているのか!』
『餅!許すまじ!』
『いいか。雑煮というのは恐ろしい食い物だ。一見、正月を象徴する料理の一つに見えるがとんでもない。その実は人々を誑かして死に至らしめる狂気の料理なのだ。』
『餅!餅!餅め!』
『というのも、毎年雑煮の餅で喉を詰まらせる事故が起こっている。今年も5人のご老人方が重体になったそうだ。おお、何と恐ろしい……。』
『餅!許すまじ!』
『紹介が遅れたが、今日はそんな餅の犠牲になった方を連れてきた。日本餅撲滅協会会長のモチヨさんだ。彼女は生前それはもう大変な餅好きで、毎年自分の年の数だけ餅を食う事を自身の決まりにしていた。だが100歳の正月の時に、丁度100個目の餅を喉に詰まらせて亡くなってしまった。それ以来、餅を憎悪し、幽霊となって餅を滅ぼす為の伝道師となったのだ。』
『あな哀しや!あな恨めしや!ああ餅め!』
『なぜ人は餅を食う事をやめられないのか?それは餅があるからだ。ではやることは一つ。さあ、モチヨさん!』
『餅、滅すべし!破ぁっ!』
婆さんの幽霊が一喝した瞬間、見るからに邪悪な波動が俺の雑煮の餅を跡形もなく掻き消していった。
『これでまた一人、餅の魔の手から一人の若者を救った。ありがとう。モチヨさん。』
『往生せいよ。小僧……。』
そう言って奴とモチヨのババアは満足した顔で消えていった。
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訳の分からないまま、俺は放心状態で餅の消えた雑煮をぼうっとただ見つめていた。
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