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大学生須藤の場合 2
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「お疲れ様でした~!」
勤務を終えて、彼女は店を出た。
午前4時ごろ。辺りはまだ薄暗い。だがコンビニでの深夜勤務を終えた彼女にとってはなんて事はない見慣れた光景だ。
「はー……。もう、クタクタ。早く帰って寝よっと。」
などと独りごちながら家路を急ぐ彼女。すると……。
「……ならできる僕ならできる僕なら……」
なにやらぶつぶつと独り言を言う男がその前を遮った。……彼女のコンビニの常連だ。その手には包丁が握られている。
「ヒッ……!」
思わず彼女は身を強張らせた。目の前の男は明らかに不審者である。彼女は内心パニックになりかけていた。
「……君は俺の物君は俺の物君は……」
「い、嫌……!誰か……!」
なんとか声を振り絞って彼女は助けを呼ぶ。だが時刻は午前の4時。そんな声が届くはずもなかった。
「……君は俺の物君は俺の物……僕ならできる僕ならできる……」
「嫌っ……!」
身を翻して彼女は逃げ出した。逃げるあてがあったわけじゃない。ただあの男から離れたい。その一心であった。
だが彼女の背後から、男の走る足音が聞こえてきた。あの男が追ってきている!
「どうして逃げる……?どうして……?」
「お願い……!誰か……!助けて……!」
走りながら彼女は助けを求めた。だがいくら叫んでも声は虚空へと消えていくばかり……。
と、前方にトボトボと歩く大柄な男が見えた。
なぜこんな時間に?
彼女はそんなことは疑問にも思わずその男に駆け寄った。
「…お…お願いします……!助けて下さい……!変質者に追われてるんです!」
彼女は男に背中越しに必死に訴えた。男は……
首をゆっくりとこちらへ向ける……
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
……ゆっくりと首が、首だけが、こちら側に回った……
「……っ⁉︎」
彼女は絶句した。
男の身体は向こうを向いているのに首だけがこちらを向いている。
そしてその首は男の、いや人間の顔ではない。まるでフランス人形のような顔だった。
「あ……あ……!」
恐れおののく彼女を認めた人形の無表情の口元がギギギ…と歪む。あたかも笑っているかのように。
……あ、そ、び、ま、しょ……
彼女は目の前の人形の顔をした男に羽交い締めにされた。男の両腕はありえない方向に関節を曲げて彼女の身体をしっかりとつかんでいる。いくら抵抗しても振りほどけなかった。そうこうするうちに、あの包丁を持った男が追いついてきた。
「うふふふふ……。さあ、あなたの待ち望んだ時よ。須藤お兄ちゃん。彼女はあなたの物。全てあなたの物よ。」
「……僕の……もの……。」
「……違う……。……違う……!」
彼女は必死に首を振った。
「……あらあら。この子はこんなことを言ってるわ。しょうがないわねぇ……。」
「……彼女は……僕の……もの……。」
「そうよ。あなたの言う通り。だから証明してあげなさい。あなたの物だってこと……。」
そう言われると、須藤、と呼ばれた男は、包丁を振りかざして彼女にゆっくりと近づいてきた。
「嫌……!嫌……!こないで……!」
彼女の願いも虚しく、男の刃が彼女の身体に突き刺さる。
何度も、
何度も、
何度も……。
彼女の断末魔は、やがてただの肉の裂ける音に変わり、血の流れる音に変わり、そしてその中に混じって、少女の無機質な嗤い声が宵闇を満たしていった……。
……翌日。
そこには二体の遺体が転がっていた。
一つは体内の臓物を全て引き摺り出された若い女の死体。
もう一つは、全身に返り血を浴び、そして自らも首を掻っ切って夥しい血を流す男の死体……。
「……あ……カ……!」
須藤はあの後正気に戻り、あまりのショックに自身の首を切り裂いたのだった。
「……ミ……リ……ア……。なぜ……。」
誰に聞かれるでもない恨み言を吐き、須藤は二度と醒めることのない、深い深い闇へと堕ちていった。
勤務を終えて、彼女は店を出た。
午前4時ごろ。辺りはまだ薄暗い。だがコンビニでの深夜勤務を終えた彼女にとってはなんて事はない見慣れた光景だ。
「はー……。もう、クタクタ。早く帰って寝よっと。」
などと独りごちながら家路を急ぐ彼女。すると……。
「……ならできる僕ならできる僕なら……」
なにやらぶつぶつと独り言を言う男がその前を遮った。……彼女のコンビニの常連だ。その手には包丁が握られている。
「ヒッ……!」
思わず彼女は身を強張らせた。目の前の男は明らかに不審者である。彼女は内心パニックになりかけていた。
「……君は俺の物君は俺の物君は……」
「い、嫌……!誰か……!」
なんとか声を振り絞って彼女は助けを呼ぶ。だが時刻は午前の4時。そんな声が届くはずもなかった。
「……君は俺の物君は俺の物……僕ならできる僕ならできる……」
「嫌っ……!」
身を翻して彼女は逃げ出した。逃げるあてがあったわけじゃない。ただあの男から離れたい。その一心であった。
だが彼女の背後から、男の走る足音が聞こえてきた。あの男が追ってきている!
「どうして逃げる……?どうして……?」
「お願い……!誰か……!助けて……!」
走りながら彼女は助けを求めた。だがいくら叫んでも声は虚空へと消えていくばかり……。
と、前方にトボトボと歩く大柄な男が見えた。
なぜこんな時間に?
彼女はそんなことは疑問にも思わずその男に駆け寄った。
「…お…お願いします……!助けて下さい……!変質者に追われてるんです!」
彼女は男に背中越しに必死に訴えた。男は……
首をゆっくりとこちらへ向ける……
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
……ゆっくりと首が、首だけが、こちら側に回った……
「……っ⁉︎」
彼女は絶句した。
男の身体は向こうを向いているのに首だけがこちらを向いている。
そしてその首は男の、いや人間の顔ではない。まるでフランス人形のような顔だった。
「あ……あ……!」
恐れおののく彼女を認めた人形の無表情の口元がギギギ…と歪む。あたかも笑っているかのように。
……あ、そ、び、ま、しょ……
彼女は目の前の人形の顔をした男に羽交い締めにされた。男の両腕はありえない方向に関節を曲げて彼女の身体をしっかりとつかんでいる。いくら抵抗しても振りほどけなかった。そうこうするうちに、あの包丁を持った男が追いついてきた。
「うふふふふ……。さあ、あなたの待ち望んだ時よ。須藤お兄ちゃん。彼女はあなたの物。全てあなたの物よ。」
「……僕の……もの……。」
「……違う……。……違う……!」
彼女は必死に首を振った。
「……あらあら。この子はこんなことを言ってるわ。しょうがないわねぇ……。」
「……彼女は……僕の……もの……。」
「そうよ。あなたの言う通り。だから証明してあげなさい。あなたの物だってこと……。」
そう言われると、須藤、と呼ばれた男は、包丁を振りかざして彼女にゆっくりと近づいてきた。
「嫌……!嫌……!こないで……!」
彼女の願いも虚しく、男の刃が彼女の身体に突き刺さる。
何度も、
何度も、
何度も……。
彼女の断末魔は、やがてただの肉の裂ける音に変わり、血の流れる音に変わり、そしてその中に混じって、少女の無機質な嗤い声が宵闇を満たしていった……。
……翌日。
そこには二体の遺体が転がっていた。
一つは体内の臓物を全て引き摺り出された若い女の死体。
もう一つは、全身に返り血を浴び、そして自らも首を掻っ切って夥しい血を流す男の死体……。
「……あ……カ……!」
須藤はあの後正気に戻り、あまりのショックに自身の首を切り裂いたのだった。
「……ミ……リ……ア……。なぜ……。」
誰に聞かれるでもない恨み言を吐き、須藤は二度と醒めることのない、深い深い闇へと堕ちていった。
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