miria

hyui

文字の大きさ
12 / 15

警察官青島の場合4

しおりを挟む
青島の前に不意にやって来た来客。
七瀬と名乗る彼女は人探しをやってもらいたいと言う。しかし、その人物の名が……。
「み、ミリアだって⁉︎」
青島にとって、今最も因縁のある名前だった。
追いかけていた事件の重要人物と思われる女、恩師チョウさんの死、そして先のヤマさんを豹変させた化け物の告げた名前。
それら全てに「ミリア」という名前が関わっていたのだ。
そしてこの時期にまた「ミリア」という名前……。
これは果たして偶然なのか?

ミリアという名前に驚いていた青島の様子を見て、七瀬は小首を傾げた。
「どうしましたか?」
「あ、いや……。」
どぎまぎしながら、青島は考える。
(落ち着け…。“ミリア”って名前が出ただけでまだ例の事件に関わっているかどうか分からないじゃないか。もしかしたら本当に赤の他人のミリアって女性を探しに来ただけかもしれない。)
「失礼しました。じゃ、詳しい話を伺いますので、こちらへどうぞ。」
「あ、いえ。ここで結構です。」
「いやいや、人探しするなら色々と聴いて書類を書かないと。こっちも仕事なんでお願いしますよ。それに手がかり無しじゃ我々警察も動けないですよ。」
「警察の協力はいりません。青島さん。あなたの協力が必要なんです。」
「え…。」
(警察よりも一個人の力の方がいい?どういうことだろう。
そういえば彼女は初めにここに来た時も俺を名指しで呼んできた。なぜ俺の事を知っていたのか。そしてなぜ俺の協力が必要なのか……。)
疑問に思う青島だったが、それで彼女にをかけようだのという考えには至らなかった。元より彼はあれこれと考えを練るのが苦手なのだ。
(うーむ。どう聞き出したもんか。単刀直入に“アイツの仲間か⁉︎”なんて聞いてまともに答えるわけないし……。)
眉間にシワを寄せて青島はまたウンウンと唸る。
「……あのう、もしもし?」
「…へ?うわっ!」
思わず青島は飛びのいてしまった。自分が考え込んでいるうちに、七瀬が自分の顔を覗き込んでいたのだ。それも思っていた以上に近くで。女性に、しかもとびきりの美人にあんな至近距離まで近づかれた事のない青島にはあまりに刺激的すぎて、体が反射的に後ろに飛びあがってしまったのだ。そうして飛びあがった青島は座椅子に乗り損ねて見事に後ろ向きに転倒してしまった。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫……っス……。」
派手に音を立ててしまったので、何事かと後ろの同僚たちも怪訝な面持ちで向こうから青島を見ている。視線を感じた青島は慌てて立ち上がった。
「ええと…警察より俺の協力が必要ってどういうことっすかね?」
「それはその…。警察の方には言っても相手にしてもらえないと思うので…。」
「俺なら相手にすると?」
「はい。それにあなたは、既に“ミリア”に会っている筈です。きっと私の言葉に耳を貸します。」
「!」
「“ミリア”に関する事件を追い、同僚の方を“ミリア”に殺され、そしてご自身も“ミリア”に遭遇した。協力するのにあなたを選んだのはそれが理由です。」
「あんた……。やっぱりあのバケモノの……!」
正体を明かした七瀬を前にして、青島の脳裏に今までの事が浮かんだ。
全身に銃弾を浴びた惨殺死体で発見された恩師チョウさん、その同期であり良き先輩であったヤマさんの変貌、そして“ミリア”の名を呼びながら死んだ異形の存在……。
青島の中で今まで封じ込めていた感情が、ふつふつとまた湧き上がってきた。

「おい!何してる!」
「え……?」
急に背後から同僚の警官が青島の腕を抑えつけてきた。いつのまにか、青島は拳銃を握りしめていたのだ。
「お前!それで何するつもりだ!そこの女性を撃つつもりか!」
「は、放してください!あれは人間じゃないんです!今ここで撃ち殺さないと…!」
「ふざけるな!イかれてるぞ!お前!」
揉めあっている二人を尻目に、七瀬はその場から立ち去ろうとしていた。その背中を青島は呼び止める。
「ま、待て!逃げるな!」
「青島さん……。急に信用しろと言っても無理な話。今日のところは失礼します。ですが私はあなたの敵ではありません。それだけは信じて下さい。」 
「待てっ…!」
「いずれまたお会いしましょう。それでは…。」
警察署から出て行く七瀬。青島は抑えつける腕を振り払い、彼女に銃口を向けた。
「喰らえ…!」
引き金を引こうとした瞬間、強烈な衝撃が青島を襲った。先程腕を振り払った警官とはまた別の警官が、青島の下半身にタックルしてきたのだ。
さしもの青島もこれには堪らず、その場にうつ伏せに倒れてしまった。
「なんて奴だ!取り抑えろ!」
「全く面倒ごと増やしやがって!この忙しい時に!」
そうして一人、また一人と別の警官が現れ、青島を完全に押さえ込んでしまった。それぞれが思い思いの罵詈雑言を青島にぶつけたが、しかしそんな同僚のヤジも罵倒も、青島の耳には入ってこなかった。
「くそっ…!くそっ……!」
もう既にはるか向こうまで行ってしまった七瀬の姿を、青島は歯ぎしりしながらいつまでも睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...