11 / 15
警察官青島の場合3
しおりを挟む
……数日が経った。
件の少女の生首の化け物事件は、青島の署内では誰一人知るものはいなかった。例の乗り移られかけた他署から来た警官は当時の事を全く覚えておらず、食中毒による腹痛で失神した、という謎の事故として処理された。当人は化け物が口に入ってきた、などと訴えたらしいが、夢でも見たのだろうと誰も相手にしなかった。
さて青島はというと、こちらは仕事場に来ながら暇を持て余していた。彼の警察署は未だに機能を回復していなかった。例の事件で署に元々所属していた職員は、しばらくの間、日常業務以外の一切の活動を禁止されてしまったのだ。そんなわけで昼出勤の青島の仕事も、書類の整理、作成が終わってしまい、後は上がりの時間まで担当の課の受付業務を行うのみとなっていた。
(暇だ……。やることがない……。)
以前の刑事担当の時と比べると、今の仕事のなんてやりがいのないことか……という考えがよぎったところで、青島は首を振った。
『どんな仕事も立派な仕事。優劣なんてありはしない。』
死んだチョウさんの言葉だった。
(これじゃ、チョウさんに叱られるな。『お前は仕事にケチつけられるほどエラくなったのか!?』なんて……。)
そうして青島は自身の顔を二、三度ひっぱたいた。
「おし!あと少し!頑張りますか!」
(それにしても……。)
青島の中で未だに引っかかることがある。
例の少女の首の事件、あの時の化け物が遺した言葉。
『たすけて。みりあ。』
その言葉をあれから青島は幾度となく反芻していた。
(『助けて、みりあ』。確かに奴はあの時そう言っていた。あの化け物の仲間の名前か、あるいは奴はただの下っ端でもっととんでもない奴がいるのか……。)
ウンウンと唸りながら、青島は腕を組み考え込んだ。
(ミリア。確か井口という会社員の彼女らしき女もその名前だっけ。これは偶然なんだろうか。それとも同一人物なのか。もしそうなら、そいつはあちこちで騒ぎを起こしていることになる。このままにはしておけない。第一、まだケリがついてないままじゃ俺自身収まりがつかない。しかし……。)
「あのう……。」
「ふえ?」
不意に呼びかけられた青島は思わず間の抜けた返事をしてしまった。気づけば目の前に来客がいるではないか。慌てて体裁を整えて一息咳払いをすると、彼は応対を始めた。
「……失礼しました。今日はどういったご用件で?失せ物、あるいは人探し?免許の更新なら一階で……。」
「あの……青島さん……ですよね?」
「え……?」
青島はまたも驚いてしまった。この来客は自分の事を知っている。……しかもよくよく見れば綺麗な女性だ。鼻筋の通った整った顔立ちにすらりと伸びた手足。申し分ない美人が自分のもとにわざわざ訪ねてきた。それだけで青島は胸踊る気分だった。
だが情けない話、女性にはもっぱらこれといった縁のない生活を送ってきた青島には、彼女のような美人の知り合いなど見当もつかなかった。
「……確かに自分は青島ですが、一体どちら様で?」
「よかった!あなたを探していたんです!私、七瀬と申します。あなたに頼み事があって参りました。」
「頼み事……ですか。」
(どうしようか?相手は得体が知れない。人違いかもしれないし…。しかしこんな綺麗な人の頼みだ。聞いてあげてもいいかも……。どうせヒマだし。)
「いいですよ!自分でよければ何でも頼んじゃってください!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
青島が承諾したのを聞いて、その七瀬という女はさも嬉しそうに微笑んだ。愛くるしいその表情に、青島は内心夢見心地だった。
「それで、自分に頼み事というのは?」
「はい。実は人を探して欲しくって。」
「人探し?なら任せて下さい。自分、本職ですから。それで探す人はどんな人なんですか?」
「はい。ミリアというんですが…。」
「ミリア……!?」
その名が、青島を一気に現実に引き戻した。
件の少女の生首の化け物事件は、青島の署内では誰一人知るものはいなかった。例の乗り移られかけた他署から来た警官は当時の事を全く覚えておらず、食中毒による腹痛で失神した、という謎の事故として処理された。当人は化け物が口に入ってきた、などと訴えたらしいが、夢でも見たのだろうと誰も相手にしなかった。
さて青島はというと、こちらは仕事場に来ながら暇を持て余していた。彼の警察署は未だに機能を回復していなかった。例の事件で署に元々所属していた職員は、しばらくの間、日常業務以外の一切の活動を禁止されてしまったのだ。そんなわけで昼出勤の青島の仕事も、書類の整理、作成が終わってしまい、後は上がりの時間まで担当の課の受付業務を行うのみとなっていた。
(暇だ……。やることがない……。)
以前の刑事担当の時と比べると、今の仕事のなんてやりがいのないことか……という考えがよぎったところで、青島は首を振った。
『どんな仕事も立派な仕事。優劣なんてありはしない。』
死んだチョウさんの言葉だった。
(これじゃ、チョウさんに叱られるな。『お前は仕事にケチつけられるほどエラくなったのか!?』なんて……。)
そうして青島は自身の顔を二、三度ひっぱたいた。
「おし!あと少し!頑張りますか!」
(それにしても……。)
青島の中で未だに引っかかることがある。
例の少女の首の事件、あの時の化け物が遺した言葉。
『たすけて。みりあ。』
その言葉をあれから青島は幾度となく反芻していた。
(『助けて、みりあ』。確かに奴はあの時そう言っていた。あの化け物の仲間の名前か、あるいは奴はただの下っ端でもっととんでもない奴がいるのか……。)
ウンウンと唸りながら、青島は腕を組み考え込んだ。
(ミリア。確か井口という会社員の彼女らしき女もその名前だっけ。これは偶然なんだろうか。それとも同一人物なのか。もしそうなら、そいつはあちこちで騒ぎを起こしていることになる。このままにはしておけない。第一、まだケリがついてないままじゃ俺自身収まりがつかない。しかし……。)
「あのう……。」
「ふえ?」
不意に呼びかけられた青島は思わず間の抜けた返事をしてしまった。気づけば目の前に来客がいるではないか。慌てて体裁を整えて一息咳払いをすると、彼は応対を始めた。
「……失礼しました。今日はどういったご用件で?失せ物、あるいは人探し?免許の更新なら一階で……。」
「あの……青島さん……ですよね?」
「え……?」
青島はまたも驚いてしまった。この来客は自分の事を知っている。……しかもよくよく見れば綺麗な女性だ。鼻筋の通った整った顔立ちにすらりと伸びた手足。申し分ない美人が自分のもとにわざわざ訪ねてきた。それだけで青島は胸踊る気分だった。
だが情けない話、女性にはもっぱらこれといった縁のない生活を送ってきた青島には、彼女のような美人の知り合いなど見当もつかなかった。
「……確かに自分は青島ですが、一体どちら様で?」
「よかった!あなたを探していたんです!私、七瀬と申します。あなたに頼み事があって参りました。」
「頼み事……ですか。」
(どうしようか?相手は得体が知れない。人違いかもしれないし…。しかしこんな綺麗な人の頼みだ。聞いてあげてもいいかも……。どうせヒマだし。)
「いいですよ!自分でよければ何でも頼んじゃってください!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
青島が承諾したのを聞いて、その七瀬という女はさも嬉しそうに微笑んだ。愛くるしいその表情に、青島は内心夢見心地だった。
「それで、自分に頼み事というのは?」
「はい。実は人を探して欲しくって。」
「人探し?なら任せて下さい。自分、本職ですから。それで探す人はどんな人なんですか?」
「はい。ミリアというんですが…。」
「ミリア……!?」
その名が、青島を一気に現実に引き戻した。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる