がらくたのおもちゃ箱

hyui

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未来からの使者

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時は数10年後の未来。
A博士によって全く新しいエネルギーが発見された。石油に代わる画期的なエネルギー技術開発に世界から注目され、A博士はたちまち有名人となったのだった。

「博士!各国から博士に面会したいとの問い合わせが殺到しています!」
「うむ…。石油資源も限界を迎えた今、世界中がエネルギー不足に悩んでいる。このエネルギー技術は、やがて人類を救う事になるだろう…。」
「昨今ではわずかに残った石油を奪うために隣国に戦争を仕掛けるといった話も聞きます。」
「そういった話も、この技術が世界中に渡ればなくなるだろう。人類が争い合うことはこれでなくなるのだ…。」
「博士…。」
人類の繁栄を静かに祈る博士。
と、突然側にいた助手が倒れた。
「おい!ど、どうした!?」
「A博士。突然だが、あなたには死んでもらおう。」
博士が見上げると、助手の倒れた先に奇怪な格好をした男が、銃らしき物をこちらに向けて立っていた。
「な…なんだ!あんたは…!」
「私は今からおよそ100年後の未来からやって来た者だ。今から30年後、あなたの作ったエネルギー技術がある国に軍事目的に転用される。」
「なんだと…!?」
「あなたのエネルギー技術は世界各国に伝わっていたため、その他の国も次々と兵器に転用し、争いあった。第三次世界大戦の始まりだ。」
「バカな…!そんな話が信じられるか!私のエネルギー技術は元々平和目的で作られたのだ!それを兵器になどできるものか…!」
「嘘ではない。現にこの銃もあなたの技術を応用して作られたものだ。空気中の微粒子をエネルギー化して弾丸にするレーザー銃。半永久的に使える代物だ。」
「バカな…!」
博士は頭を抱えた。
男から告げられたことが信じられなかったのだ。博士がこの技術を開発したのは純粋にエネルギーの枯渇問題を解消したかったためだった。この技術が世界各国に行き渡れば、貧困に苦しむ発展途上国も例外なく豊かになるはずだと信じていた。
だが目の前の男が持つ銃は明らかに今の科学技術では作れそうもない代物だった。男が未来から来た、ということを裏付けている。博士は男の言葉を信じるしかなかった。
「…一体何故そんなことに…。誰がそんなことを…。」
「我々も全てを知っている訳ではないが…開発したのは途上国のある一国らしい。先進国に反撃できる兵器を手に入れるチャンスを、ずっと待ち望んでいたのだろう。一方の先進国からすれば、攻撃されたことをきっかけに、自国の領土を広げるための口実もできる。今まで条約云々で縛られていた侵略行為が世界公認で行えるんだからな。100年後の未来は、あなたが生み出したエネルギー技術のせいで世界中が滅亡状態にある。我々の時代の人口はこの世界の千分の一まで減った。」
「そんな…。」
博士はまたも頭を抱えた。自身の認識の甘さを呪った。
博士は皆が平等に豊かになれば、争いは消えると思っていた。だが人々の憎しみや欲望の深さは博士の想像を超えていたのだ。このエネルギー技術は、いずれ世界を滅ぼすことになる…。

「…私が死ねば、その大戦は回避できるのか?」
「そうだ。だがそれだけでは足りない。あなたの作ったエネルギー技術のデータ全てを消去するんだ。それで世界は救われる。」
「…わかった。」
データを消去するため、博士は腰をあげる。
と、突然未来から来た男が倒れた。先程と別の助手が、男の後頭部を殴りつけたのだ。
「大丈夫ですか!?博士!」
「あ、ああ…。」
「危ないところでしたね。この男は一体…?」
「未来から来たと言っていた。私を殺すために来たらしい…。」
「そんな…!なんて奴だ。世界を平和にするための技術を潰しに来たなんて、一体何を考えているんだ…!」
「……。」
博士はその場に座り込んで、ため息をついた。
「助手よ…。明日のノーベル平和賞の授賞式、私は欠席することにするよ。」
「え…!?何故ですか!」
「このエネルギー技術も凍結させる。この技術は世に出てはならないんだ…。」
「そんな…!?わたしには理解できません!一体何故…!?」

博士は助手の問いに答えず、エネルギー技術に関する全てのデータを処分した。誰にも決して知られぬように。
「……我々科学者は、人々を幸せにするためにさまざまなものを発明する。だがそれをどのように使うかはあくまでそれを使う人間次第。新しい技術は、結局新しい悲劇を産むだけなのかもしれないな…。」
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