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第一章
プロローグ4
しおりを挟む一歩中へ入り込むと、そこには誰もおらず電気はついていなかった。廊下にいた時よりも中は一層肌寒く、鳥肌が立ちそうになる。取りあえず明かりをつけるため薄暗闇の中、電気のスイッチを手探りしているとどこからか人の気配のようなものを感じとりピタリと動きを止めた。
(なんだろう、どこからか音がするような…。)
耳を澄ますと自分しかいないはずのトイレから微かに音が聞こえてくる。それもすすり泣くような声だ。俺は握りしめた手の平に汗を滲ませ「もしや幽霊か!?」と身を固くした。一度ここで奇妙な体験をしたせいか、あの時よりも更に恐怖心は増し、バクバクと激しく心臓が動く。
(まさかな…本当に幽霊がいるなんてことは…)
ははは…と乾いた笑いを浮かべて電気のスイッチに手が触れるとパチリと電源を入れた。細長い蛍光灯が2本、2回ほど点滅してトイレの中を照らす。先ほどまで見えにくかった視界がはっきりとクリアに見え、恐怖心が少しだけ和らいだ。
(やっぱり誰もいないように見えるけど…誰かいるのか?)
見たところ、左側に並ぶトイレの個室は全て開いている。もう一度よく耳を澄ませてみるとやはり誰かのすすり泣く声が小さく聞こえた。これは紛れもなく幽霊でもなんでもなく、生身の人間の泣き声だろう。得体のしれない恐怖から解放されるように、力んでいた肩の力がふっと抜けた。
幽霊じゃなかったことに安堵の息を漏らしつつ、頭の片隅でこの場に鳴海がいなくて良かったと思った。もしもあいつがこの場に居合わせたら馬鹿にされるのが目に見えている。
俺は恐る恐る音の発生源である一番奥の個室にゆっくり足を進めて、手前の所で立ち止まった。
(間違いない、ここに誰かがいる。)
薄い壁の向こうから誰かが声を押し殺して泣いていた。俺はどうするべきか迷って考えあぐねた。
普通なら空気を読んでこの場から立ち去るのが一番いいのだろう。男と言う生き物は女よりも人に弱い所を見られたくないものだ。それが泣いている所なら尚更のことで常に強く有りたいという男の本能がそうさせるのか、人前で泣くことに抵抗を感じる男は多いはず。
俺自身がそうである為、もしも立場が逆なら「そっとしといてくれ」と思うかもしれない。けれど…そのことを頭で理解していながらもどうしても放っておく気になれなれず、助けてあげたいという気持ちの方が強くあった。
(すげぇ、偽善的だとはわかってるんだけどな…)
ボリボリと後ろ頭を掻き、苦笑を漏らすとそっと中を覗き込んだ。そこにいたのは個室の端っこでうずくまるようにして座り込む暗い茶髪の男子生徒。男は両膝に顔を埋め何かに耐えるように体を震わせている。
足元を見ると淡い若葉色のスリッパを履いていて、それが1年生であることを示していた。
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