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ほどよい恋愛
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「はい、けーくん、あーんして」
昼休みの教室で、俺の目の前にいる笑未(えみ)は卵焼きを挟んだ箸を差し出す。
少し恥ずかしかったが、俺は口を開く。
俺の口の中には卵焼きが入り、俺は卵焼きを咀嚼する。
「どう、美味しい?」
「ああ、美味しいよ」
笑未の問いかけに、俺は言った。
卵焼きは笑未の手作りだ。卵焼きだけでなく色々と俺のために作ってきてくれた。
笑未の料理はどれも美味い。
「あー良かった。けーくんに美味しいって言ってくれて」
笑未は心底嬉しそうに笑った。
俺は景吾(けいご) 、目の前にいるのが俺の彼女の笑未で、付き合ってから一週間だ。
きっかけは一週間前に笑未から告白されたことだった。俺から見た笑未は俺がタイプな性格なので、即OKを出した。
俺は笑未を彼女にして良かったと思っている。
笑未は明るく、よく笑い、料理も美味い。
ちなみに笑未が俺を呼ぶ際の「けーくん」はニックネームだ。
「笑未」
「何?」
「食べさせてくれるのは嬉しいけど、俺は自分で食べたいんだ」
俺は言った。
「えっ、何で」
笑未は困惑の表情を浮かべる。
「俺に食べさせるばかりで、笑未は自分の分の弁当を食べてないだろ」
これは事実だ。笑未の分の弁当は全然手をつけていない。毎回の昼飯もこんな調子で、笑未が自分の分を食べるのは時間ギリギリである。
恋人らしいことをしたい笑未の気持ちは理解できなくもないが、もう少し笑未には自分のことも考えて欲しい。
「けーくんって優しいんだね、ますます好きになったよ」
俺の気持ちが伝わったようで、笑未は薄っすらと笑う。
笑未は自分の分の弁当箱を手に持ち、食べ始めた。
「笑未には感謝してるよ、美味しい弁当を有難うな」
「えへへ、好きな人のためなら頑張れるよ」
笑未は朗らかに言った。
俺は笑未と楽しい昼休みの時間を過ごした。
学校が終わり、俺は笑未と話ながら歩いていた。
そして笑未が使う駅の改札前まで来た。
「じゃあ、また月曜日にな」
俺は言った。今日は金曜日だからだ。
「うん、またね……あっそうだ!」
笑未は思い出したように言った。
「良かったら休みの日も連絡取り合わない? 会えないのも寂しいし」
「休みに?」
笑未の提案に、俺は少し考える。
俺の親は学業を疎かにしない、時間制限を守れれば、スマホの使用には口出しをされない。
「まあ問題ないな」
「良かった! じゃあ明日メッセージを送るね」
笑未は弾んだ声で言うと、俺に手を振り、駅の改札口の中に消えていった。
俺は笑未と距離が縮まったことに、ひそかな喜びを感じた。
次の日、俺は自室を出て、自分のスマホが置いてあるリビング(俺の家でのルールは、自室にスマホを持ち込むのは禁止されてるんだ)に行きスマホを電源を入れて確認する。
「……え」
俺は笑未から送られてきたメッセージの多さに驚きを隠せなかった。
ざっと数えても二十個は送ってきている。
俺への挨拶から始まり、俺がどんな事をしてるのか……などだ。
笑未とのメッセージのやり取りは常にしてはいるが、普段の日に比べて多い気がする。
もしかしたら笑未は休日で会えない寂しさを、メッセージで紛らわせたいのかもしれない。
俺は自分の椅子に座り、メッセージをじっくりと読み、どんな返信をするか考えた。
ある程度考え、俺はメッセージを打ち始めた。
『おはよう、俺は今起きた所だよ、朝食はこれから食べる所だよ』
俺は他愛のないメッセージを書いて送信する。
俺のメッセージにはすぐに既読が付き、笑未から返信が来た。
『そうなんだ。朝食のメニューは何?』
『トーストとコーヒーだよ』
『けーくんって、洋風派なの?』
『ああ、朝からご飯は重いからな、そろそろ食事をするから一旦連絡は止める。また後でな』
『えっ、何で、食べながらできないの?』
『食事中のスマホは禁止されてるから、悪いな』
俺はそこで笑未との会話を止める。
禁止されてるのは本当だが、食事をしながらスマホをいじるとかマナーが悪いだろ。
笑未は平気なのかもしれないが、俺はできない。
そしてスマホを置く場所に戻し、朝食を食べ始めた。朝食を終え、ついでに身仕度をしてから改めてスマホに返信をする。
かれこれ三十分は経ってはいたが、やることはやったので笑未とゆっくり会話を楽しめる。
『すまなかったな、今大丈夫か?』
『全然平気だよ、でもちょっと寂しかった』
笑未から返信がすぐ返ってきた。
俺は笑未とメッセージ越しに会話をした。
学校のことや、面白い動画の話など、笑未とのやり取りは楽しかった。まるで笑未が身近にいるみたいだった。
気づいた時には午前十時五十分で二時間が経っていた。そろそろ終わりにしないとまずい。
俺のスマホには時間制限がついていて、休日の午前十一時~午後五時までは使えない仕様になっている。これは俺がスマホを使用しすぎないようするために親が設定したのである。
恥ずかしい話だが、俺は過去にスマホの使用上の約束を破ってしまったために設けられたのだ。
『あのさ、俺、親との約束の時間だから、そろそろ終わりにするよ』
『えーっ、もっと話そうよ』
『本当にごめんな、また今日の夕方にな、俺の方から連絡するから』
笑未が話したがっているのは理解する。俺だってもっと過ごしたいが、こればかりはやむ得ない。
俺はスマホを置く場所に戻した。夕方にはまた笑未と会話できることを楽しみにしつつ、俺は勉強をするために自室へ向かった。
休み明けの月曜日の昼休み。
「私は休みの日でも、もっとけーくんと話がしたいよ!」
笑未は不満げな顔で、文句を言われた。
……そうは言われても、土日を含め六時間は笑未と画面越しだけど話をしたけどな。
「悪く思わないでくれ、前にも言ったけど、俺の家はスマホ制限があるんだ」
「解除してもらえば良いんだよ!」
笑未は無茶なことを言う。
「簡単に言うなよ」
俺は強く言った。そして「それに……」と話を繋げる。
「ある程度距離を置くのも恋愛を続けるのに必要だと思わないか?」
俺は真面目に語った。笑未と付き合うにしてもずっと一緒というのは難しい。
お互い都合というのもあるからだ。俺が良くても笑未の都合が合わないということも、これから起きるかもしれない。
笑未は複雑な顔をする。
「分かるようで、分からないような……」
「つまり俺達が付き合うにしても、メリハリをつけようってことだ」
俺は言った。
「けーくんは私のことを考えて言ってるんだよね?」
「そうだよ」
笑未は黙って少し考えた。そして口を開く。
「……分かったよ、けーくんの都合に合わせるようにするよ」
「分かってくれて良かったよ」
俺は言った。
そして俺と笑未は昼飯を食べ始めた。
好きな人と付き合うのは、お互いの都合を合わせることも大切だと俺は思った。
昼休みの教室で、俺の目の前にいる笑未(えみ)は卵焼きを挟んだ箸を差し出す。
少し恥ずかしかったが、俺は口を開く。
俺の口の中には卵焼きが入り、俺は卵焼きを咀嚼する。
「どう、美味しい?」
「ああ、美味しいよ」
笑未の問いかけに、俺は言った。
卵焼きは笑未の手作りだ。卵焼きだけでなく色々と俺のために作ってきてくれた。
笑未の料理はどれも美味い。
「あー良かった。けーくんに美味しいって言ってくれて」
笑未は心底嬉しそうに笑った。
俺は景吾(けいご) 、目の前にいるのが俺の彼女の笑未で、付き合ってから一週間だ。
きっかけは一週間前に笑未から告白されたことだった。俺から見た笑未は俺がタイプな性格なので、即OKを出した。
俺は笑未を彼女にして良かったと思っている。
笑未は明るく、よく笑い、料理も美味い。
ちなみに笑未が俺を呼ぶ際の「けーくん」はニックネームだ。
「笑未」
「何?」
「食べさせてくれるのは嬉しいけど、俺は自分で食べたいんだ」
俺は言った。
「えっ、何で」
笑未は困惑の表情を浮かべる。
「俺に食べさせるばかりで、笑未は自分の分の弁当を食べてないだろ」
これは事実だ。笑未の分の弁当は全然手をつけていない。毎回の昼飯もこんな調子で、笑未が自分の分を食べるのは時間ギリギリである。
恋人らしいことをしたい笑未の気持ちは理解できなくもないが、もう少し笑未には自分のことも考えて欲しい。
「けーくんって優しいんだね、ますます好きになったよ」
俺の気持ちが伝わったようで、笑未は薄っすらと笑う。
笑未は自分の分の弁当箱を手に持ち、食べ始めた。
「笑未には感謝してるよ、美味しい弁当を有難うな」
「えへへ、好きな人のためなら頑張れるよ」
笑未は朗らかに言った。
俺は笑未と楽しい昼休みの時間を過ごした。
学校が終わり、俺は笑未と話ながら歩いていた。
そして笑未が使う駅の改札前まで来た。
「じゃあ、また月曜日にな」
俺は言った。今日は金曜日だからだ。
「うん、またね……あっそうだ!」
笑未は思い出したように言った。
「良かったら休みの日も連絡取り合わない? 会えないのも寂しいし」
「休みに?」
笑未の提案に、俺は少し考える。
俺の親は学業を疎かにしない、時間制限を守れれば、スマホの使用には口出しをされない。
「まあ問題ないな」
「良かった! じゃあ明日メッセージを送るね」
笑未は弾んだ声で言うと、俺に手を振り、駅の改札口の中に消えていった。
俺は笑未と距離が縮まったことに、ひそかな喜びを感じた。
次の日、俺は自室を出て、自分のスマホが置いてあるリビング(俺の家でのルールは、自室にスマホを持ち込むのは禁止されてるんだ)に行きスマホを電源を入れて確認する。
「……え」
俺は笑未から送られてきたメッセージの多さに驚きを隠せなかった。
ざっと数えても二十個は送ってきている。
俺への挨拶から始まり、俺がどんな事をしてるのか……などだ。
笑未とのメッセージのやり取りは常にしてはいるが、普段の日に比べて多い気がする。
もしかしたら笑未は休日で会えない寂しさを、メッセージで紛らわせたいのかもしれない。
俺は自分の椅子に座り、メッセージをじっくりと読み、どんな返信をするか考えた。
ある程度考え、俺はメッセージを打ち始めた。
『おはよう、俺は今起きた所だよ、朝食はこれから食べる所だよ』
俺は他愛のないメッセージを書いて送信する。
俺のメッセージにはすぐに既読が付き、笑未から返信が来た。
『そうなんだ。朝食のメニューは何?』
『トーストとコーヒーだよ』
『けーくんって、洋風派なの?』
『ああ、朝からご飯は重いからな、そろそろ食事をするから一旦連絡は止める。また後でな』
『えっ、何で、食べながらできないの?』
『食事中のスマホは禁止されてるから、悪いな』
俺はそこで笑未との会話を止める。
禁止されてるのは本当だが、食事をしながらスマホをいじるとかマナーが悪いだろ。
笑未は平気なのかもしれないが、俺はできない。
そしてスマホを置く場所に戻し、朝食を食べ始めた。朝食を終え、ついでに身仕度をしてから改めてスマホに返信をする。
かれこれ三十分は経ってはいたが、やることはやったので笑未とゆっくり会話を楽しめる。
『すまなかったな、今大丈夫か?』
『全然平気だよ、でもちょっと寂しかった』
笑未から返信がすぐ返ってきた。
俺は笑未とメッセージ越しに会話をした。
学校のことや、面白い動画の話など、笑未とのやり取りは楽しかった。まるで笑未が身近にいるみたいだった。
気づいた時には午前十時五十分で二時間が経っていた。そろそろ終わりにしないとまずい。
俺のスマホには時間制限がついていて、休日の午前十一時~午後五時までは使えない仕様になっている。これは俺がスマホを使用しすぎないようするために親が設定したのである。
恥ずかしい話だが、俺は過去にスマホの使用上の約束を破ってしまったために設けられたのだ。
『あのさ、俺、親との約束の時間だから、そろそろ終わりにするよ』
『えーっ、もっと話そうよ』
『本当にごめんな、また今日の夕方にな、俺の方から連絡するから』
笑未が話したがっているのは理解する。俺だってもっと過ごしたいが、こればかりはやむ得ない。
俺はスマホを置く場所に戻した。夕方にはまた笑未と会話できることを楽しみにしつつ、俺は勉強をするために自室へ向かった。
休み明けの月曜日の昼休み。
「私は休みの日でも、もっとけーくんと話がしたいよ!」
笑未は不満げな顔で、文句を言われた。
……そうは言われても、土日を含め六時間は笑未と画面越しだけど話をしたけどな。
「悪く思わないでくれ、前にも言ったけど、俺の家はスマホ制限があるんだ」
「解除してもらえば良いんだよ!」
笑未は無茶なことを言う。
「簡単に言うなよ」
俺は強く言った。そして「それに……」と話を繋げる。
「ある程度距離を置くのも恋愛を続けるのに必要だと思わないか?」
俺は真面目に語った。笑未と付き合うにしてもずっと一緒というのは難しい。
お互い都合というのもあるからだ。俺が良くても笑未の都合が合わないということも、これから起きるかもしれない。
笑未は複雑な顔をする。
「分かるようで、分からないような……」
「つまり俺達が付き合うにしても、メリハリをつけようってことだ」
俺は言った。
「けーくんは私のことを考えて言ってるんだよね?」
「そうだよ」
笑未は黙って少し考えた。そして口を開く。
「……分かったよ、けーくんの都合に合わせるようにするよ」
「分かってくれて良かったよ」
俺は言った。
そして俺と笑未は昼飯を食べ始めた。
好きな人と付き合うのは、お互いの都合を合わせることも大切だと俺は思った。
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