空に舞う白い羽根

青山ねる

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黒天使の動向

合わない足取り

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診察室のベッドにベリルとコンソーラは横たわる。
サレオスが二人を担いで診察室に運んできたのだ。
「お二人方、訓練は良いですがあまり無茶はいけませんぞ」
黒い羽根を生やした老人・ミルトはベリルにはアルマロス草を、コンソーラにはアルマロス草とラビエス草を煎じた薬を出した。
ミルトは黒天使の治癒に必要な薬草を育成している。
「いつも……すまないな、ミルト爺」
「すみませぇん」
ベリルとコンソーラは謝る。
ベリルは瓶の薬をゆっくり飲み、コンソーラは暗闇に覆われているためミルトに飲ませてもらった。
「そいつらはすぐ治りそうか?」
サレオスが訊ねた。
「いやいやお若いの、体の異常を治すのは簡単ではないですぞ、どんなに早くても一時間は待ってもらわないと」
ミルトはのんびりと言った。
「ちっ、そんなにかかんのかよ」
サレオスは露骨に嫌がった。彼の声にコンソーラは身震いする。
「せめて話くらいは良いよな」
「構いませぬが、くれぐれも乱暴なことはしないと誓って下され、お二方は怪我人ですからな」
サレオスは落ちつきなく体を動かした後に「分かった。誓う」とぶっきらぼうに口走る。
「約束を破ったら、ウコバクの実を飲んでもらいますぞ」
ミルトは釘を差すように言うと、ベッドを後にした。ウコバクの実とは飲むだけで全身に激痛が走り、二十四時間継続する恐ろしい果実で、主に拷問の際に使用する。
 サレオスはコンソーラに近寄る。
「おいコンソーラ、俺は確かにお前に言ったよな、会議が始まるからベリルに伝えて連れて来いと」
サレオスは刺々しい口調で話した。
コンソーラは恐る恐るサレオスの声がした方を見た。顔は暗闇で見えないが、声からして怒っていることは理解できる。
「はぃ……そう聞きました」
コンソーラは恐々と言った。
「この状態からすると、伝えてないんだな」
「ごめんなさい、伝え忘れました」
「ちっ、使えないな」
サレオスは舌打ちして、近くにあった
椅子を蹴った。サレオスは気にいらないことがあると人や物に当たる悪癖があり、一部の黒天使からは敬遠されている。
 会議とは、これから行われる作戦に関わる事を話すのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ」
コンソーラは何度も謝罪を口にする。
ベリルに連絡を怠ったことにより、サレオスの不機嫌を買ったことが怖いのである。
「良いか、お前らのせいで集会が遅れた。それにより迷惑がかかる。分かるな」
サレオスは尖った声を発した。厳しい言い方に二人は反論できない。
サレオスは「ったく」とまだ言いたりないため、ベリルに鋭い目線を向けた。
「根本的な部分がなってないから、手痛い目に遭うんだ。天使にまで救われるなんてみっともないったらありゃしねぇ」
サレオスが言ってるのは先日、ベリルが仲間を連れてブファス派がいる拠点に乗り込んだ事だった。
 結果としては仲間を失った上に、ベリル自身も酷い怪我を負ってしまったのだ。
黒天使にとって、天使に助けられるのは屈辱だと言われている。
「お前がいくら足掻こうが、死んだスヴィエは戻って来ないぞ」
スヴィエの名に、ベリルは表情を歪ませる。
「や、やめて下さいっ!」
コンソーラは勇気を振り絞って叫ぶ。
「とがめるなら、私だけにして下さい! ベリルさんは悪くないです!」
コンソーラは言った。
内心は怖くて逃げ出したい気持ちもあったが、ベリルを庇いたい気持ちの方が強かった。
 このままサレオスに喋らせれば、ベリルがサレオスに掴みかかると感じたのだ。スヴィエの話はベリルの前では
触れてはいけないからだ。
 サレオスはベリルからコンソーラの方を見る。身を屈めサレオスはコンソーラと同じ目線になる。
「そうだったな、お前さえしっかりしてれば延期なんて無かったな」
「そ……それについては弁解しません」
コンソーラは話している中でも足がすくむ。
「俺はウコバクの実を飲みたくないから、手を上げたりはしない、その代わり」
サレオスは人差し指から小さな雷を出現させ、コンソーラの肩に触れる。
「あああっ!」
 コンソーラの全身に痺れが走り、コンソーラは高い声を上げた。
「コンソーラ!」
ベリルがコンソーラの元に駆けつけると、コンソーラは「うう……」と言い、ぐったりした。
「心配すんな、軽く痺れさせただけだ。すぐに収まる」
サレオスは悪びれる様子は無かった。サレオスは主に捕らえた天使の拷問などを行うため、痛め付ける力加減は熟知している。
コンソーラに使ったのも、相手を傷つけずに苦痛を与える拷問の一種だ。
「この野郎っ!」
我慢できずに、ベリルがサレオスに殴り掛かろうとした時だった。コンソーラはベリルの服を掴む。
「やめて……ベリルさん……」
コンソーラはか細い声で止める。
「私のことは……大丈夫ですから……ケンカは……ダメです」
「だけどよ!」
ベリルはサレオスに制裁を加えられず悔しいのだ。
「ベリルさんに……傷ついて欲しくないです……」
コンソーラは精一杯言った。
コンソーラの言葉に、ベリルは怒りを抑えようとした。彼女の気持ちを無視してサレオスを殴ればコンソーラは悲しむからだ。
 そんな時だった。近くから足音がしてミルトと黒髪に同じ目色をした大柄な黒天使の男が現れた。
 コンソーラが慕う人物・イロウである。
 「何しに来たんだよ、兄貴」
 「ミルト爺から話を聞いてな、俺の部下の様子が気になって来た」
サレオスと男の話の間に入る形でベリルが口を開く。
「イロウ様聞いてください、サレオスさんはミルト爺に忠告されたにも関わらずコンソーラを痛め付けたんです」
ベリルの話にイロウの体からは怒りが全身から出た。
「ちょっとした教育だ。時間を守らないと兄貴だって困るだろ」
「お前が人を傷つける方が問題だ!」
イロウはサレオスの胸ぐらを掴む。
「会議もお前が勝手に考えた作戦のためだろ、そんな事のために俺の部下を巻き込むな」
「そんな事じゃねぇよ、俺にとっても譲れねぇんだ」
サレオスは荒々しく言い返した。
ミルトが「うおっほん」と咳払いをして、サレオスは不快な感情を表情に露にする。
ウコバクの実を飲まされると感じたためだ。
「あーあ、分かったよ、二人は兄貴が何とかしろ、他を当たる」
サレオスはイロウの手を振り払い、診察室を後にした。
「大丈夫か?」
イロウは二人を気にかける。
「はい」
「すみませぇん、私が連絡しなかったばかりにイロウ様に迷惑かけました」
ベリルは返事をして、コンソーラはベッドで土下座をした。サレオスの軽い拷問の影響は無くなったのだ。
部下の謝罪に、イロウは困った様子だった。
「顔を上げてくれ、コンソーラ」
「……怒ってませんか?」
コンソーラは確かめるように訊く。
「怒るも何も、会議に俺は関係してないからな、サレオスが単独で決めたことだ」
イロウは言った。
コンソーラにかかった暗闇の影響は薄れてきて、イロウの顔が分かるようになってきた。言葉通りイロウは怒っておらず安心した。
「ええっ、そうなんですかぁ? 私はてっきりイロウ様が絡んでるとばかり思ってました」
コンソーラの声は緊張が緩んだ。

コンソーラはイロウに事の詳細を伝えた。サレオスから会議のことや、その際サレオスの口からイロウも参加することも。
「……あいつ、そんな嘘を」
「私は騙されました、だってイロウ様の弟さんですし、有り得る話だと思ったんですぅ」
コンソーラは言った。
イロウは黒天使の階級で熾天使に値し、サレオスは能天使とされ、黒天使でも権力はある。
 コンソーラは自分よりも偉いサレオスが言うことには下手に逆らえないのだ。
「サレオスさんは元々グリゴリ村の警備をするんでしたよね、何でオレ達に同行してるんですか?」
ベリルが訊ねる。
グリゴリ村は黒天使が住んでいる場所で、結界を張ってあるとはいえ、ブファス派の襲撃を考慮し、戦闘経験に長けた黒天使を残してきた。
サレオスも本来は村に残留しているはずである。
ベリルとコンソーラがサレオスの同行を知ったのは艦内で行われた作戦会議の時だった。
ちなみにコンソーラとベリルがサレオスをさん付けで呼ぶのはサレオスに対する細やかな抵抗である。
「それがな出発直前になって、あいつが急にアルシエルに乗り込んできて、俺も行くと言い出したからな、降ろす余裕が無かった」
「つまり、ギリギリの所で駆け込んだんですね」
「そうなるな」
イロウはうんざりした表情だった。弟の身勝手により心労が増してるのは目に見える。
「イロウ様も大変ですねぇ」
コンソーラは心配そうだった。
「どうするんです。移動呪文でグリゴリ村に送り返すんですか?」
「いや、あいつにも今回の作戦に協力してもらう」
「本気ですか、こう言っては失礼ですけど、あの人がイロウ様の命令を聞くとは思えません」
ベリルの意見は一理はある。
何か対策を立てないとサレオスが身勝手に動き作戦が失敗する可能性も否定できない。
「何とか聞かせてみる。あいつもこの戦艦に乗った以上、責任というものがあるからな」
イロウは強い口調で言い切った。
「あの、気になったんですけどぉ」
コンソーラはおどおどした声を発した。
「サレオスさんが会議を開く理由って何だったんですかね」
「それは忘れろ、お前にとってこれから実行する作戦の方が大事だろ」
イロウに言われ、コンソーラの目の色は変わる。
サレオスのことより、与えられた作戦を遂行する方が重要である。
「ラフィアさんを天界から連れ出してネビロス様に会わせるんですね」
ネビロスとは黒天使を束ねる存在だ。
今回の作戦は天使となったラフィアをグリゴリ村に連れていくというのが目的だ。
作戦遂行のために現在は戦艦アルシエルで天界に向かっているのだ。
「天界にいる内通者の話によると、ラフィアは治安部隊に連れていかれたそうだ」
内通者は今の天界に不満を持っている天使達が集まり、黒天使に情報を流している。
 黒天使が天界の現状を把握できるのは、内通者のお陰だ。
「イロウ様の声が効いたんですね」
コンソーラは察した。
昇給の儀式の際に、イロウは仲間の道具を使いテレパシーを飛ばし、ラフィアが力を与えられている中で話しかけたのだ。
 「何か遠回りっぽくないですか?  ガリアさんの道具を使って天界内に入ってラフィアを連れてった方が早いと思うんですけど」
ベリルは意見した。黒天使を寄せ付けない結界を潜り抜ける道具は最近だが完成した。
  それを使えば天使と同じように黒天使も天界に入れるのだ。
しかしイロウは「いや、それはダメだ」と否定する。
「連れていくといっても、ラフィアが本当にネビロス様に会わせるのに相応しいか判断してからだ。やるからには徹底的に追い込む」
イロウの言い方に、コンソーラとベリルの表情は強張る。
イロウの追い詰め方は洒落にならないからだ。
(ラフィアさん、無事であることを願いますよ)
コンソーラは心の中で祈った。







  

 










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