空に舞う白い羽根

青山ねる

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つかの間の静寂

交わらないテレパシ―

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ラフィア達が保健室でイロウと通信している頃、ナルジスとカーシヴは学校に向かっていた。
「全く、治安部隊の人間はろくに戦闘訓練をしてないのか?」
ナルジスは不機嫌だった。彼の服はボロボロで、肩や足も怪我をしている。
二人の男天使は、サレオスとワゾンの足止めをして逃げたのは良かったが、四人の黒天使と戦闘となり、ナルジスは習っていた体術と攻撃呪文を、カーシヴはナルジスの身体を守る補助呪文でナルジスをサポートしたのである。
 お互いの協力もあり、四人の黒天使を退けることができた。
「すみません、ぼくは戦闘より、サポートの方が向いてるんです」
「女々しいことを言うな」
ナルジスはカーシヴが戦わないことが不満な様子だ。
「ナルジスさんのお陰で戦いを切り抜けられたことについては感謝します。
しかし、男だからと言って戦えというのは無茶だと思います」
カーシヴの声には芯が通っていた。人には向き不向きがあり、カーシヴは戦いには向かない。治安部隊の入隊テストでそういう診断が出たのだ。
 ナルジスの表情からして納得していないことが伺える。彼の考えを変えることは難しいようだ。
「それより、早く行きましょう、ナルジスさんの怪我も手当てしないといけませんから」
カーシヴは言った。癒しの呪文を使おうとしたが、大したことじゃないと断られたのだ。
「待て、リンにテレパシーを飛ばして連絡する。お前は黒天使が来ないか見張ってろ」
テレパシーは顔と名前を知っている天使に念を飛ばして会話ができる。
「分かりました。ですが念のために護衛の呪文を張りますね」
護衛の呪文は一帯にシールドを張り、外部の攻撃から身を守ってくれる。急襲に備えてのことだ。
ナルジスは頭に手を当てて、念を飛ばす。

『おい、リン聞こえるか』
リンの心に、ナルジスの声が聞こえてきた。
『ナルジス……』
『きみにはテレパシーで話している。
そっちはどうだ』
『今はメルキ先生が、イロウと交信しようとしている所だよ』
『また随分ややこしい状況になったな、何故だ』
『実は言うとね……』
リンは簡潔に起きた事を伝えた。
ラフィアがベリルと戦うことを避けるために交信すること、戦わせることを提案したのはイロウだということも。
『ラフィを戦わせるだと、そんな馬鹿なことを……』
ナルジスの声は動揺していた。
『君も同じことを思うよね』
『当たり前だ。イロウに雷の呪文を食らわせたい気分だ』
ナルジスは怒っている。
『メルキは上手くイロウを止められそうか?』
『先生をつけなきゃ、僕はメルキ先生を信じたいよ』
リンはナルジスを注意しつつ、自分の考えを述べる。
ナルジスは気に入らない年上の人間を呼び捨てにする傾向があるのだ。
『俺は信じるぞ、事が上手くいくことを、もし止められなかったら俺がラフィに代わって戦う』
『そうだな、僕だってラフィが戦うなんて嫌だから、あ、あと、カーシヴさんはいるかな』
『いるぞ、代わるか』
『お願いするよ』
ナルジスの声が途切れてから間もなく『あの、聞こえますか』とカーシヴの声がリンの心に響き渡った。
テレパシーは一対一のやり取りしかできないのだ。
『はいよく聞こえます。カーシヴさん、貴方のことをメルキ先生に伝えました』
『……メルキ先輩、怒ってましたよね』
カーシヴは怯えた口調だった。
『その辺はラフィと協力してメルキ先生を説得しましたので大丈夫だと思います』
『すみません、ご迷惑をおかけして』
『カーシヴさんの気持ち、お察しします。もしユラや母さんが黒天使に捕まったらカーシヴさんと同じことをすると思いますから』
『ユラさんと言うのは?』
『僕の弟です。悪戯が好きで手を焼かせますが、たった一人の兄弟です』
リンの声は優しかった。
兄が一人前の天使になったにも関わらず、ユラは祝いの言葉に代わり下駄箱に花吹雪が出る悪戯がを仕掛けたのだ。ユラらしいとも言える。
 ユラが黒天使に囚われて交換条件を要求されたら飲むかもしれない。
 ユラはどうしてるんだろう。リンは気になった。無事であることを願いたかった。
 『……本当にすみません』
カーシヴの謝罪でリンは現実に戻された。
『謝るなら、ラフィにして下さい。ラフィは貴方のことを庇ってましたから』
『分かりました。ラフィアさんに念を飛ばしますね』
カーシヴの声はそこで途絶えた。

『ラフィアさん』
心の中にカーシヴの声が聞こえてきて、ラフィアは驚きを隠せなかった。
『カーシヴ……さん?』
『はい、そうです。テレパシーで突然話しかけてすみません』
カーシヴは再度謝った。
『お体の方はどうですか?』
『全然平気です。リン君から事情は聞きましたけど、カーシヴさんのお陰です』
『なら、良かった』
カーシヴの声は安堵していた。
『ラフィアさん、ぼくのせいで迷惑をかけて本当にごめんなさい、謝って許されることではないのも、分かってます』
 黒天使に情報を流していた上に、ラフィアを裏切ったことは確かに許されることではない。
『カーシヴさん、自分を責めないで下さい。カーシヴさんは黒天使に捕まったお姉さんを助けたかったんですよね。だから悪いのは黒天使です』 
ラフィアは穏やかに語りかける。
元を正せば黒天使がカーシヴの姉を人質に取らなければ、カーシヴが黒天使に荷担することもなかったのだ。
 よってカーシヴを責めることを、ラフィアにはできない。
『ラフィアさん……』
カーシヴの声は涙声になる。
リンだけでなく、ラフィアにまで温かい言葉を貰ったため、感動したのだ。
この時点で、ラフィアはリンとカーシヴとのやり取りを知らないが。
『わたしはあのサレオスって人を許せません。戦うならサレオスが良いくらいです』
『お気持ち……嬉しいです……』
カーシヴは声を潤ませる。
『ああ、すみません。ぼくとしたことが泣いたりして……』
『大丈夫ですか?』
『もう大丈夫です。泣くなんてみっともないですね』
カーシヴは気持ちを整えようとしていた。
『あっ、何かナルジスさんがラフィアさんと話したがってるみたいですけど……』
『ナルジスが?』
ラフィアは眉をひそめる。
『どうしても話したいようです』
本心としては、ナルジスと会話するのは断る所だが、リンが言っていた幼稚園の話が本当なら確かめたかった。
『分かりました。ナルジスと話します』
『了解です。ぼくのテレパシーは一端終わりますね』
カーシヴの声が消えて間もなく、ひねくれ天使の声がラフィアの心に語りかけてきた。
『ラフィ、調子はどうだ』
「ラフィって言うな!」
自分の愛称を呼ばれ、ラフィアは思わず大声を出し、メルキが振り向く。
  ラフィアはメルキに何度も頭を下げる。
大切な場面を邪魔してしまい、ラフィアは気恥ずかしくなる。
『どうした?』
『ラフィって呼ばないで!』
ラフィアははっきり言った。
テレパシーは心と心で会話するもので、声に出しても念を飛ばしてきた相手には届かないのだ。
 ちなみにラフィアのことを愛称で呼んで良いのはラフィアが心を許した相手のみである。
『すまない……そうだったな』
『分かればいいよ、リン君からあなたのことは聞いたけど、正直信じられない』
ラフィアは苛立った声になった。ナルジスから受けてきた数々の暴言が過ったのだ。
例えリンに流せと言われたとしても、そうはいかない。
『あなたが変な呪文を使ってリン君をあなたの味方にしたんじゃないかって勘ぐっちゃうよ』
『……俺のことを、信用できないか?』
『当然だよ』
『俺がきみにしてきた事を考えれば、そうなるよな』
ナルジスはどこか悲しそうだった。
『これからはきみを傷つけることは言わないと誓う、だから今までのことは許してほしい』
『今の言葉、嘘じゃないよね?』
『ああ、本当だ』
『なら今の事態が落ち着いたら、カンナちゃんに謝って、あなたのせいで学校来られなくなったんだから』
カンナとはラフィアの友人で、ナルジスの言動が原因で不登校になった。天使昇給の試験も受けられず今でも見習い天使のままだ。
『分かった。約束する』

三人の天使と、一人の黒天使は廊下を歩く。
「ラフィアちゃん、大切な話の時は静かにしようね」
「……はい、すみません」
音封じの呪文を解除されたラフィアは先程のことをメルキに注意されていた。
「ラフィも二人と話したんだね」
「うん」
リンの問いかけに、ラフィアは頷く。
二人とはナルジスとカーシヴのことである。
「お二人は、こちらに来るんですね」
「そうなるね」
コンソーラの疑問にリンは答える。
二人はもうすぐ学校に来るので、四人で迎えに行こうという話になった。
というのも、ラフィアとリンはナルジスに、メルキはカーシヴに会うため、コンソーラは保健室に残すのは他の先生に見つかると厄介という理由である。
「イロウへの通信は、また後でやろうね」
「はい……」
イロウとの通信は別の黒天使が出て、イロウは手が離せないとのことで、一端諦めざる得なかった。
 ラフィアは気になった。ナルジスの変化を。テレパシーより直接会わないと分からないこともあるからだ。

同じ頃、リンの弟・ユラが動き始めていた……




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