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その夜忍び込んだ姿に深い息を吐きだす。暗い部屋に声だけが響く。
「あの子は一体何に巻きまれたんだ?」
「王宮内を探っていて深入りしすぎて消されそうになった辺境伯令息レオナルド様を別邸に匿っておいでです。」
想定内の内容にまだ安心する。
「追われていた彼を最初に救助したのはリード坊ちゃんの方ですが。」
「は?」
「お嬢様の呆気にとられた顔を見て放っておけなくなったようですよ?」
「あの子はすでに冷めているだろう?」
「ええ。でも思春期の男には見過ごせないところでもあったんではないですか?」
「なるほど。…若いっていいな。」
「そのレオナルド様が。」
「いや、ここでその名前は連呼しないほうがいいだろう。」
「ナル坊が。」
「お前の渾名は本当に独特だよな。」
「マリウスと同じこと言わないでください。」
「悪い、さすが兄弟だと。」
「あの悪ガキと似てると言われても。まあいいです。ナル坊は。」
くすくす笑うと視線で黙らされる。本当に上司だと思われていない。そんなところが気に入っているのだが。
「結構深く探っていたようで、宰相が他国と内通しているところまで掴んでおります。」
「っ!それは…なかなか見誤っていたようだな。」
「まあ、そこを見つかってしまうようではまだまだですが。」
「手厳しいな。…バレているのか?」
「いいえ。しかし、王宮内のほとんどの隠密が動いていることを鑑みれば時間の問題か、と。」
「そうか。」
「おそらく次は宰相家に出向くだろうな。」
「ドリー坊もいることですしね。」
「内通の証拠は手に入れられていたか?」
「いいえ。どこと内通しているのかは掴めておりますが、状況証拠だけでは弱いかと。」
「やはり忍び込ませるほかないな。」
「それでも証拠としては不十分では?」
「使いようはある。それにあのでくの坊なら本物でなくともハッタリが効く。」
「まあそうでしょうね。」
彼女たちが来るとして、流れを詰めておかなければ。通信機は、
その瞬間、手を抑えられる。
「通信機はおそらく傍受されています。我々を使うか、アナログな方法を使うべきかと。」
「ああ…あの面倒な有事の権限か。あの子たちにも。」
「いえ、お嬢様の勘で通信機器は一切使用しておりません」
「本当に…末恐ろしいな。誰に似たんだか。」
「悪い顔されておりますよ。旦那様。」
そこで2人とも静止する。窓の外の気配に集中すると、これは。
「噂をすればってやつか。」
頷く彼にアイコンタクトを送る。一瞬で姿が消えた。
カーテンを開く。縁談で交流を深めた姿に一瞬だけ眉を顰めたが、気付かれるほどではない。切羽詰まった彼の言葉をあらかた聞くと彼はすぐさま去っていった。巻き込まれるのは娘だけでは終われないらしい。やれやれ。明日の会議は荒れるだろうな。
書類に目を通すがどうも集中できない。仕方ない。明日に備えて早く休むことにした。
荒れるとは考えていたが、これはどうにも予想外だ。
こちらに視線が来る。侯爵の目を見つめながら思考は滑らかに巡っていた。
俺の付き人として来ていた影にはすぐさま領地に戻ってもらった。おそらく次は彼らの息子の捕縛命令が来る。あの2領の機能を止めてしまえば…。ここまで容易にたどり着くだろう。そして次は我が身だ。
「あの子は一体何に巻きまれたんだ?」
「王宮内を探っていて深入りしすぎて消されそうになった辺境伯令息レオナルド様を別邸に匿っておいでです。」
想定内の内容にまだ安心する。
「追われていた彼を最初に救助したのはリード坊ちゃんの方ですが。」
「は?」
「お嬢様の呆気にとられた顔を見て放っておけなくなったようですよ?」
「あの子はすでに冷めているだろう?」
「ええ。でも思春期の男には見過ごせないところでもあったんではないですか?」
「なるほど。…若いっていいな。」
「そのレオナルド様が。」
「いや、ここでその名前は連呼しないほうがいいだろう。」
「ナル坊が。」
「お前の渾名は本当に独特だよな。」
「マリウスと同じこと言わないでください。」
「悪い、さすが兄弟だと。」
「あの悪ガキと似てると言われても。まあいいです。ナル坊は。」
くすくす笑うと視線で黙らされる。本当に上司だと思われていない。そんなところが気に入っているのだが。
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「っ!それは…なかなか見誤っていたようだな。」
「まあ、そこを見つかってしまうようではまだまだですが。」
「手厳しいな。…バレているのか?」
「いいえ。しかし、王宮内のほとんどの隠密が動いていることを鑑みれば時間の問題か、と。」
「そうか。」
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「やはり忍び込ませるほかないな。」
「それでも証拠としては不十分では?」
「使いようはある。それにあのでくの坊なら本物でなくともハッタリが効く。」
「まあそうでしょうね。」
彼女たちが来るとして、流れを詰めておかなければ。通信機は、
その瞬間、手を抑えられる。
「通信機はおそらく傍受されています。我々を使うか、アナログな方法を使うべきかと。」
「ああ…あの面倒な有事の権限か。あの子たちにも。」
「いえ、お嬢様の勘で通信機器は一切使用しておりません」
「本当に…末恐ろしいな。誰に似たんだか。」
「悪い顔されておりますよ。旦那様。」
そこで2人とも静止する。窓の外の気配に集中すると、これは。
「噂をすればってやつか。」
頷く彼にアイコンタクトを送る。一瞬で姿が消えた。
カーテンを開く。縁談で交流を深めた姿に一瞬だけ眉を顰めたが、気付かれるほどではない。切羽詰まった彼の言葉をあらかた聞くと彼はすぐさま去っていった。巻き込まれるのは娘だけでは終われないらしい。やれやれ。明日の会議は荒れるだろうな。
書類に目を通すがどうも集中できない。仕方ない。明日に備えて早く休むことにした。
荒れるとは考えていたが、これはどうにも予想外だ。
こちらに視線が来る。侯爵の目を見つめながら思考は滑らかに巡っていた。
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