44 / 44
勝てば官軍
しおりを挟む
侯爵家の遣いと伯爵家の影が伝令でやってくる。報告を聞いて呆れた。
「ねえ、馬鹿なの?」
「頭痛がするよ。」
「あなたの身辺がばれるのは時間の問題だし、辺境伯が国家転覆罪にかけられる可能性も考えなかったとは言わないけど。」
「次は俺の家か。」
「地方の要の辺境伯と武の要の侯爵家を敵に回すなんて何を考えているわけ?」
何も考えていないんだろうな。3人の考えが一致する。
「馬鹿なんだろう。」
「陛下はなぜ止めないのか。」
「それは、やはり昔戦争でご家族を失っているからだろう…国家間の騒動では冷静じゃなくなる。」
「辺境伯が機能できなくなれば、容易に攻め込まれるわね。」
「兵を出さなくても反逆者、兵を出して身を守ったところで今度は命令違反を食らうってか。」
「辺境伯の独立権限…あったわよね? 有事の際は、国に許可を取らなくても兵を出せるってやつ。」
「あるにはあるが…この情勢でそれを行使できるとは思えない。」
「どうあがいても国家転覆罪だ。」
レオはソファにだらんと体を倒す。リードは報告書の端から端まで眺めているが、顔は険しい。
「レオの領地もそうだけどうちの領地が止められるのはまずいな。うちだけでこの国のどれだけの兵力を誇ると思っているんだ。」
「上手くやったわね。敵ながらあっぱれだわ。」
地図上のMのカップを指ではじく。カップはころころと転がって床に落ちた。ソファに寄りかかり、持っていた書類に視線を落とす。誰も何も言わない。かなり行き詰っていた。
捕えられている2人の領主の心配をしないわけでもないが、領主の罪はかなり長い時間をかけて調査される。侯爵と辺境伯なら猶更だ。秘密裡ならともかく、各領主が集まっている今の王宮で消されることはまずないと言っても支障はない。逆にそれがまかり通ってしまったならば王家が断罪されるだろう。
この先のシナリオ、セオリーで行くならば。まずこの2人の捕縛だろう。そしてその2領と親しくしている我が領地にも手が伸びてくる。
「おそらく…次はシアの家だろう?」
「この3家を離反させたらそれこそ内乱じゃないか?」
「内乱を起こさせて、隣国が攻め込んでくると?」
「その前に俺らの領地を取り込もうとしてくるんじゃないか?」
「なるほど。仲間になるか、自国と戦争になるか選べって?」
「うーん。というより、裏切られていることを情報として与えて救いの手を伸ばしてくるんだ。手を取れば丸ごと手に入るし、もし手を取らなくても自国と戦争になって疲弊したところを乗っ取るんじゃないか?」
「どちらにせよいい所取りってわけね。」
Wのカップを上にしてすべてのカップを重ねる。
「マリアは内乱の火種ね。婚約破棄が至る所で起きれば貴族の権力分布は乱れるどころじゃない。」
「それも、どちらが悪いのかはっきりした婚約破棄ならな。」
「娘を傷物にされた父親の怒りは大きい。」
「あれが成功していたとしたら今頃、内乱が起こっていたかもしれないわけね。」
「王家がすぐさま対処したのは、それを懸念したから。」
「各領主が表面上は事を荒立てなかったのはその懸念をしっかり理解できていたからだろう。」
「何らかの補填はあっただろうけど。」
そこらへんは推し量るしかないのだ。
「それに、俺とシアの婚約が流れれば、長年の計画がとん挫しかねない。」
「シアと俺の父親が本来はどういう意図で破棄後婚約を結ぼうとしたのかはわからないけれど。」
「最悪、王家と縁を切るつもりだったのかもしれないわね。最初はともかくお父様が、我が領主が王家の思惑に気づいてないとは思えないもの。」
「辺境伯が味方に付けば余計な手出しはできなくなる。辺境伯にとっても食糧供給の面でメリットがある。」
今の問題はそこではない。
「でも、今の状況ってある意味好都合かもしれない。」
「領主が人質に取られているこの状況が?」
「この事態をきちんと収める舞台がすでに用意されているってことよ。」
力強く言い切る彼女に一瞬止まった。
「君の、その前向きさは本当に感動する。」
「ほめてないわよね?」
「ほめてる。ほめてる。」
「ああ、最大限の誉め言葉さ。」
「まあいいわ。勝てば官軍っていうでしょう?」
私のにんまり顔を見て彼らも笑った。誰もかれも悪い顔をしていた。
やっぱり、それくらいじゃないとね!
「ねえ、馬鹿なの?」
「頭痛がするよ。」
「あなたの身辺がばれるのは時間の問題だし、辺境伯が国家転覆罪にかけられる可能性も考えなかったとは言わないけど。」
「次は俺の家か。」
「地方の要の辺境伯と武の要の侯爵家を敵に回すなんて何を考えているわけ?」
何も考えていないんだろうな。3人の考えが一致する。
「馬鹿なんだろう。」
「陛下はなぜ止めないのか。」
「それは、やはり昔戦争でご家族を失っているからだろう…国家間の騒動では冷静じゃなくなる。」
「辺境伯が機能できなくなれば、容易に攻め込まれるわね。」
「兵を出さなくても反逆者、兵を出して身を守ったところで今度は命令違反を食らうってか。」
「辺境伯の独立権限…あったわよね? 有事の際は、国に許可を取らなくても兵を出せるってやつ。」
「あるにはあるが…この情勢でそれを行使できるとは思えない。」
「どうあがいても国家転覆罪だ。」
レオはソファにだらんと体を倒す。リードは報告書の端から端まで眺めているが、顔は険しい。
「レオの領地もそうだけどうちの領地が止められるのはまずいな。うちだけでこの国のどれだけの兵力を誇ると思っているんだ。」
「上手くやったわね。敵ながらあっぱれだわ。」
地図上のMのカップを指ではじく。カップはころころと転がって床に落ちた。ソファに寄りかかり、持っていた書類に視線を落とす。誰も何も言わない。かなり行き詰っていた。
捕えられている2人の領主の心配をしないわけでもないが、領主の罪はかなり長い時間をかけて調査される。侯爵と辺境伯なら猶更だ。秘密裡ならともかく、各領主が集まっている今の王宮で消されることはまずないと言っても支障はない。逆にそれがまかり通ってしまったならば王家が断罪されるだろう。
この先のシナリオ、セオリーで行くならば。まずこの2人の捕縛だろう。そしてその2領と親しくしている我が領地にも手が伸びてくる。
「おそらく…次はシアの家だろう?」
「この3家を離反させたらそれこそ内乱じゃないか?」
「内乱を起こさせて、隣国が攻め込んでくると?」
「その前に俺らの領地を取り込もうとしてくるんじゃないか?」
「なるほど。仲間になるか、自国と戦争になるか選べって?」
「うーん。というより、裏切られていることを情報として与えて救いの手を伸ばしてくるんだ。手を取れば丸ごと手に入るし、もし手を取らなくても自国と戦争になって疲弊したところを乗っ取るんじゃないか?」
「どちらにせよいい所取りってわけね。」
Wのカップを上にしてすべてのカップを重ねる。
「マリアは内乱の火種ね。婚約破棄が至る所で起きれば貴族の権力分布は乱れるどころじゃない。」
「それも、どちらが悪いのかはっきりした婚約破棄ならな。」
「娘を傷物にされた父親の怒りは大きい。」
「あれが成功していたとしたら今頃、内乱が起こっていたかもしれないわけね。」
「王家がすぐさま対処したのは、それを懸念したから。」
「各領主が表面上は事を荒立てなかったのはその懸念をしっかり理解できていたからだろう。」
「何らかの補填はあっただろうけど。」
そこらへんは推し量るしかないのだ。
「それに、俺とシアの婚約が流れれば、長年の計画がとん挫しかねない。」
「シアと俺の父親が本来はどういう意図で破棄後婚約を結ぼうとしたのかはわからないけれど。」
「最悪、王家と縁を切るつもりだったのかもしれないわね。最初はともかくお父様が、我が領主が王家の思惑に気づいてないとは思えないもの。」
「辺境伯が味方に付けば余計な手出しはできなくなる。辺境伯にとっても食糧供給の面でメリットがある。」
今の問題はそこではない。
「でも、今の状況ってある意味好都合かもしれない。」
「領主が人質に取られているこの状況が?」
「この事態をきちんと収める舞台がすでに用意されているってことよ。」
力強く言い切る彼女に一瞬止まった。
「君の、その前向きさは本当に感動する。」
「ほめてないわよね?」
「ほめてる。ほめてる。」
「ああ、最大限の誉め言葉さ。」
「まあいいわ。勝てば官軍っていうでしょう?」
私のにんまり顔を見て彼らも笑った。誰もかれも悪い顔をしていた。
やっぱり、それくらいじゃないとね!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
693
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
すごくおもしろいです!こってこての恋愛ものではなくて陰謀だとか色々ストーリーがあって読み応えがすごい…
恋愛パート的にはリードとレオ…リード寄りなのかなとは思いますが、個人的にはレオを応援したい気持ちも合って…どちらのパターンも気になりますね笑
スマホ等の便利道具のナイ時代😅
情報収集や情報操作は、影で暗躍する人達の腕次第!( ̄∇ ̄)クスッ
誰かさんは、優秀な人材みたいだな。若くとも、優秀で度胸のある彼らに一抹の不安が…(^_^;)
お子様達!奢るコトなかれ!
油断禁物ですぞ!ゆめゆめ忘れるコトなき心構えでお願いイタシマス。
ドウナルコトヤラ(>_<)心配だなぁ。😄
🌱🐥🐤💮
ヤバすぎる真実!😅
若輩者には、荷が重い(>_<)
3人の決断は…如何に?
続きが気になる。 🌱🐥💮