僕は彼女の代わりじゃない! 最後は二人の絆に口付けを

市之川めい

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求めてしまうもの

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 長い沈黙の後、マシューはこれ以上は耐えられないと思いゆっくりと頷いた。

「どういう内容なんだ?」
「バジルが言っていた、ローレルの最後……です」

 絞り出すような声でマシューは続ける。

「彼女が植物園の中で何か作業をしていて、後ろに誰か見えて……」

 震えた手がそっと包まれる。拒まなければならないと頭では理解しているはずなのに、心が求めてしまう。

「次は場面が飛んで――ローレルが、血を流して倒れていて、そして二人が近くに……」
「顔は見たのか?」

 マシューは首を横に振って否定する。

「そうか。ならまだあの二人とは限らないじゃないか」

 ――そうだけど、あの姿かたちは…… 

「というか、今まで俺はお前が見た記憶というのはローレルの記憶だと思っていたんだが」
「どういうことですか?」
「倒れているローレルを見たってことは、ローレル主観の記憶じゃなく、ローレルに関する夢ってことか? 一体なぜそんな夢を見るのか……」

 マシューは頭の中の記憶を手繰り寄せて考える。

「ごめんなさい、自分でもよく分からないです」
「謝るな。責めていない。」 
「さっきの話に戻るが、お前が俺を拒否したのは父親が犯人かもしれないと思ったからなんだよな」
「……はい」
「繰り返すが、まだ確証を得たわけではない。それに……万が一そうであったとしても、お前は俺がそれだけでお前を嫌いになると思ったのか。俺はそんなに信用できない男なのか」
「それは……」
「ローレルのこともあるし、否定できないか……」

 ギルバートが自虐的に言う。

「違います。殿下ではなくて、僕が自分に自信がないのです」

 マシューはギルバートの目から逃れるように顔を背けた。

「確かに父のことはまだ分かりません。でもそれ以前に、僕は、僕は……ローレルと違って男だ」
「同性同士で関係を持つことは、我が国マルフォニアでは禁止されていないぞ」
「ですが当たり前でもないですよね。それにあなたは王族で……唯一の王位継承者です」
「子を作ることは義務ではない。いざとなればアーサーに継承権を持たせるようにするか、血の繋がりで言えば俺の従兄弟も王弟の子供だから権利はある。法律上王位継承者になっていないだけだ」
「それに正直――マルフォニア王国において、王族と貴族の同性婚なら前例があるが、異性間でも王族と平民の婚姻は今までにない」
「でも……」
「マシュー。こっちに来い」

 命令口調とは裏腹に、甘ったるい感じで言い、それからマシューを抱き寄せ、呟くように話しだした。

「こうしてみると不思議だな」
「何がですか」
「ローレルとは異性だったが身分の違いで戸惑い……お前は侯爵家だからそこは問題ないが、同性という理由で俺から離れようとしている」

 ギルバートがマシューのさらさらとした金色の髪の毛を梳くように触る。 

「もう一度言う。俺はお前が欲しい。心と体、お前の全部、俺のものにしたい。こんな風に思ったのは――欲情したのはお前だけだ。そばにいてくれるか」
「殿下……」
「名前で呼べ」
「名前?」
「そうだ」
「……フィル?」
「お前がそう呼びたいなら構わないが、できればギルバートと」
「ギル……ギルバート様」
「二人だけの時は、敬称はやめろ」
「……ギルバート」
「マシュー」

 ギルバートがマシューを引き寄せ、口付けをする。初めは唇を湿らす程度で、それから舌先を歯をなぞるように滑らせ、絡ませる。
 気持ち良さだけに集中していたら、息継ぎをつい忘れてしまう。
 物理的な酸欠なのかギルバートへの気持ちの昂りなのか――頭がくらくらとし何も考えられない。
 ギルバートの指がマシューの唇をなぞる。長く綺麗だが、軍人らしく剣だこがあるその指が今度は頬を擦り、首筋……鎖骨……と徐々に降りていく。そしてシャツのボタンを外してから胸の突起を弾く。

「んっ……あ」
「マシュー、ここが好きか?」

 捏ねるように摘んだりしながら愛撫され、自然と声が漏れだしてしまう。
 すでに見てわかるほどに膨れ上がっている下肢を、もう一方の手で服の上から撫で始めた。

 ――僕は触れてもらう資格なんてないのに……男だし……

 ズボンの前を開けられそれに直接触れられると、考え事をして少し萎えかけていたそれは、すぐに芯を持ち硬くなっていく。裏筋を親指で擦られ、緩急をつけて上下に扱かれると鈴口から先走りが漏れ、くちゃくちゃと音を立てる。
 人に触れられるのが初めてのマシューはよく分からないが、男同士だからだろうか。的確に気持ち良い箇所を攻められ、あっという間に高みに昇っていく。

 来る――と思った直前、ギルバートの動きが止まり、マシューは驚いて思わず見上げてしまった。

「マシュー、俺も一緒に」

 そう言って服を脱ぎ、己の屹立したものにマシューの手を触れさせる。
 それはずっしりと重く、硬く、そして――初めてのマシューにはこの先どうやってするかなど考えていなかったので実感がなかったが、それでも不可能だと思えるほどの大きさだった。
 ギルバートはマシューに二人の先端を手で包ませ、自身は下側を長い指で握る。溢れた蜜でぬめった手で緩急をつけて動かす。二人のものが擦れ合い、一人でするのとは違う気持ちよさを感じる。その間もまた口付けをし、舌が絡まり呻き声を上げ、唾液が滴り落ちた。

「上手いぞ――マシュー……」
「ん……ギル……」
「その調子だ。さあもっと声を聞かせてくれ」

 上下に強く扱かれ、マシューは声を上げて達した。震えるほどの気持ち良さに、はぁはぁと息をすることがやっとだ。
 高みを迎え解放して敏感になっている陰茎からゆっくりと絞るようにして全てを出された。
 ギルバートはそれを使ってマシューの腹に擦り付けるように動かし、己の欲も放出した。


 

 どうやらあの絶頂感のまま眠ってしまったらしい。翌朝目覚めると、汗や精液で汚れていた体は綺麗に拭かれ、服は着替えさせられていた。
 ギルバートの姿は見えない。寝室の扉を開けると、執務机に座って書類に目を通しているところだった。
 
「起きたか」
「おはようございます。殿下」
「二人きりだぞ、昨日のこと忘れたのか」と、ギルバートは笑う。もちろんギルバートは呼称について言ったのだろうが、行為の記憶が呼び戻されてしまうのは自然なことだ。
 マシューは恥ずかしくなって俯いただけで返事はできなかった。
 
「さて……昨日のことだが」
 
 マシューの反応を楽しむかのように、青い瞳をこちらに向ける。一見温度を感じさせないくらいに整っている容姿だが、昨晩に見せた顔は火傷しそうなほど高ぶった男の顔だった。
 ギルバートが緩めた頬を引き締める、任務について言うようだ。
 
「すでにオルドがダリスの知り合いと連絡を取った。お前は今日の衛生部の勤務については俺からオーウェンに言っておくから、一度自分の屋敷へ戻り両親か古くからお前の家に仕えている使用人にそれとなく尋ねろ」
「かしこまりました」
「朝食を取る時間まで急がなくていいぞ。俺もまだだ、一緒に食べよう――」
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