転生悪役令嬢の考察。

13,転生悪役令嬢の嫉妬。

「あなた、浮気しているそうですね？

院の子の一人が、あなたが先日ヒロインと親しく歩いているのを見たと教えてくれましたよ。

ああ、ご安心ください。
私たちは恋人ではないので浮気ではないと訂正はしてあります。

しかし、ヒロインと親しくしているというのは見過ごせず、お聞きしている次第です。

そうですよ。
正直に答えてください。
あなたはヒロインが好きなんですか？

だったら何だと？
そうでしたか……。
あの、
すごく言い辛いんですが、

……。
彼女のことは諦めて下さい。

何故って……。
言えませんよ。

わ、ちょっと、後ろ壁ですよ。
これ以上さがれません。
詰めて来ないで下さい。
気持ちは分かりますので、怒らないで欲しいです。

全然分かってない？
分かりますよ。
身内に恋路を反対されるのが嫌なことくらい。

だから理由が知りたい？

うーん……。
私が嫌だから、
では駄目ですか？

ちょっと、手、離して下さい。
絡めないで。
近い近い、顔がくっつきます。
離れて。

何故嫌か話せば離す？

えっと、大好きな弟が人に取られちゃうのは、サミシイナー、って。

もう一声……って、競りじゃないんだから。

言わないならずっとこのままですか？
分かりました。
言いますよ。
言えば良いのでしょう。
どうか恨まないで下さいね。

あなたがヒロインに横恋慕したっておそらく振られるので、
諦めた方が良いと言っているのです。

はあ。
やっと抜け出せた。

すみません。
ショックですよね。
そんなに脱力して。
だから言いたくなかったんですよ。

何でそうなる？

そう言いたくなる気持ちは分かります。
何せ乙女ゲームのヒロインは基本的に思わせ振りで、たいていの男性が、絶対自分に気があると勘違いするのも致し方ありません。
彼女が悪いわけではなく、物語上そう作られているのです。
だからあなたも、完全に脈ありだと思いだいぶ今浮かれているところだと思います。

でも、相手はヒロインなんです。
ちゃんとパラメータを上げれば、息をするだけでも男性が惚れる存在です。
あなたがしているであろうアプローチは、他の攻略対象からも食事を摂るのと同じ頻度で受けているでしょう。

思い当たる節がある顔をしていますね。
何よりです。

加えてヒロインは超鈍感であることがデフォルトです。
あなたみたいに分かりやすい人があからさまに好き好きビームを出しても、伝わるどころか全て明後日の方向に解釈してますよ。

お前が言うな？
失礼な。
私はあそこまで鈍感じゃありません。

とにかく、この世界でヒロインに振り向いてもらおうとするなら、まず何より攻略対象キャラにならなくてはいけません。

しかし、あなたはこのゲームの攻略対象じゃないんです。
この時点で詰みです。

ワンチャン向こうも転生ヒロインで、非攻略対象のサブキャラとかモブ推しである可能性はあります。
でもあなた、攻略対象としてもモブとしてもわりと中途半端な感じなので、果たして彼女の琴線に触れるかどうか……。

あ、すみません。
つい熱くなって余計なことまで言ってしまいました。
あなたを貶めるつもりは全くないのです。

本当です。
あなたは現実の男性としては十分素敵ですから。
性格は素直で優しいですし、剣術の先生とかで食っていけるくらいの腕はありますし、外見もあなたみたいな顔がすごい好みな層が一定数いる顔をしています。
私だってあなたの顔は好みですよ。

諦める？
本当ですか？
辛いでしょうが、それが懸命です。
無理して笑わなくて良いのですよ。

今回は相手が悪すぎただけですので、あなたにはもっと素敵な女性がいます。

私の言う通りだから、これからも頑張る？
ええ、そうですね。
応援しています。

実のところ、あなたを誰かに取られたら寂しいのは本心ではありますが。」