11 / 38
第二章 首輪と接吻
5
しおりを挟む5
銅音はこめかみに銃口を当てて引き金に指を掛けた。
遠慮なく注がれる、二対の視線。押し付けた銃口の感触は、溶けだした氷のように冷たく、死の温度を知らせてくれた。
――どうしてこんなことになったのか?
〈パラドクサ〉の地下二階。前回麻雀の勝負をしたあの場所で、またぞろ銅音は得体の知れないゲームに加わっていた。ただ、森下のお使いを済ませて帰るだけだったはずなのに。
「いえね、高くつきましたよ、本来ならば博物館に収蔵されていてもおかしくない代物ですからね」
その銃は、かのガンジーを暗殺しかけた古いベレッタで、ある筋から手に入れたものだというが、奥村に言わせれば浮足立った金持ちがいつも掴まされる出来のいい模造品だ。知らぬが仏。製造番号がどうだ、と蘊蓄を傾けていたけれど、それもでっち上げなのだろうか。
「ロシアンルーレットというのは完璧な様式美だと思わないか?」
安心院剰一は低く囁いた。この男もまた〈パラドクサ〉に巣くう変わり者だった。
「回転するものはなんであれ美しい。そういえばガンジーも糸車で糸を紡いでいたのだったね。そうそう、この部屋の入口も回転ドアだ」
つまらないことをもったいぶって語る典型のような男だ。
「黴臭いゲームだ」と共感性を欠いた物言いで奥村は首を振る。
「映画ディア・ハンターやホーリー・マウンテンで描かれたロシアンルーレットは崇高な儀式だった。現代では失われた魂の錬金術だ」
胡散臭い骨董品だけではない。数々の蘊蓄もこの男の懐から出てくる。
「ホーリー・マウンテンじゃない。ロシアンルーレットが出てきたのは、エル・トポだ」
「え?」
「同じ監督だが、別の映画だよ」
きっぱりと訂正されて安心院は不愉快に顔色を染めた。プライドばかりが高い男はこうやって馬脚を現すのだが、いちいち相手のささいなミスを指摘する奥村も大人気がない。どちらも恋人にも亭主にも隣人にもしたくない、と銅音は思う。
カチリと引き金を引いた瞬間、銅音は思い出す。この様にならないゲームの発端を。
――時は数十分前に遡る。
森下の依頼を果たすために二度と足を踏み入れるつもりのなかった〈パラドクサ〉を訪れた銅音は、見たくもない〈ウェット〉どもの間を潜り抜け、会うべきでなかった男とまた出くわしてしまったのだった。
「よぉ、また会ったな。酒姫」
「聞こえの悪い呼び方はやめて」
「なんだよ、ご機嫌斜めだな」と奥村はカクテルを一気に煽る。
極めて酒の強い人間を昔の日本人は酒豪と呼んだそうだが、この言葉はとっくに死語となって久しい。奥村はその意味でなら、酒豪と呼ばれるべきだろう。酒の強い女を酒姫と呼んだかどうかは知らない。
「話しかけないで、今日はすぐに出る」
銅音の対応は素っ気ない。奥村はカウンターの同じ席に陣取っていた。
「奢るぜ、っと、飲まないんだったな」
「話聞いてる?」
さらに奥村は〈まぬけ〉だの〈膣外射精〉だのといったカクテルを呷った。もちろん今夜の一杯目でもなければ最後の一杯でもない。つまりすでに酔っているのだし、もっと酔うつもりなのだ。
――それからどうしてロシアンルーレットの勝負などをすることになったのか。
「ゲームしませんか、いえね、先日の麻雀の勝負をお見掛けしましてね」
カウンターに並ぶ銅音と奥村の間に割って入るようにして安心院剰一が持ち掛けてきたのは、銅音が二杯目のぶどうジュースを飲み干したタイミングだった。
安心院(あじむ)剰一。
偶然にも男の名前は知っていた。母親の書棚に男の写真集があったのだ。
著名な元戦場カメラマンにして芸術写真家。戦地で負傷を追って以来、報道の道を断念、やがてアート志向の作品を手掛けるようになる。ドライな耽美さとでもいうその作風によってたちまち国内外で人気を博すことになった。カメラマン時代よりも現在の写真の方にこそ濃厚な死の匂いが漂っているとも評されている。
「あなたがたの強運にあやかりたいのです」
あの夜の、夫人たちのイカサマを暴いてからのツキは確かに凄まじかった。あれが痩身のカメラマンの眼に留まったのだとしても、それは――写真家としては最悪だが――ピントがズレていると言わざるを得ない。あれは運というよりも才知の勝利だったから。
「運?」奥村の赤らんだ目元が油断なくわずかに吊り上がった。
「ええ、運です。あなたがたの運をね、喰ってしまえれば、明日の大勝負にも負けない気がするのです」
「その勝負ってのが何だか知らないが、運は揺蕩うものだろ。あの夜ならともかく、今夜の俺たちのツキは空っぽかもしれないぞ」
「まさに」
安心院は白いものが混じりつつある髪をかき上げた。顎鬚はすっかり色が抜けており、いぶし銀っての? と銅音に好意的な印象を抱かせるほどには魅力があった。
――幸運を囲い込めると考える人間から運に見放されていく、と安心院は持論をぶった。
「だからこそ、あなたたちには運がある」
「わたしはパスします。用を済ませたら長居はしない」
森下に頼まれた仕事は、あるモノを受け取ることだ。約束の時刻にはまだ時間があったが、危うい暇つぶしにかまけているわけにはいかない。〈パラドクサ〉では、楽観も油断も禁物だと先日嫌と言うほど思い知らされた。
「用というのは……これですか?」
安心院は、小さな赤い封筒をひらひらと振ってみせる。
それこそまさに銅音が受け取るように森下から頼まれたものだった。銅音にそれを渡すように頼まれた人物はどうしたのか?
(もしかして安心院が受け渡しの相手? いいやそうじゃない)
銅音が受け渡しを命じられた相手とは、打ち合わせ通りならパンジャビドレスをまとった異性装者(クロスドレッサー)のはずだった。モッズ風ジャケットの写真家じゃない。
「中身は何に使うものなのかボクにはわかりませんでしたが、彼は割と簡単に手放しましたよ。あなたを待っている手持無沙汰の時間にギャンブルで相当巻き上げられたみたいです。身ぐるみ剥がされる寸前で、ついにこれを賭けた。頭に血が昇ると見境がなくなるタイプだったのか」
「それが誰のモノか知ってる? 悪い事は言わないから返して」
銅音と安心院のやり取りを眺めていた奥村には、くつろいだ姿勢の中にも張り詰めた観察力が漲っている。
「申し訳ありません。正当な方法で得たものです。返すわけにはいきませんね」
賭博で巻き上げた物品を「正当」だとは笑わせる、銅音はそう思ったが、そんな彼女の気持ちを見透かしたのか奥村は歪めた唇のまま笑みを含む。
「いいですか? それはちょっとヤバイやつの持ち物なんです。返さないとたぶん、それなりに面倒なことになりますよ」
「そんなヤバイの奴の使い走りをしている君は? 〝酒姫とモスリン織〟とはどんな関係が?」
安心院の問いかけには奥村も興味津々だったが、どちらにも満足を与えてやるわけにはいかなかった。「さぁね」と銅音はごまかすと、回転式のスツールの上でくるくると回った。
「だったら、どうしたら返してくれんの?」
ぴたりと止まったのは、安心院の真正面だった。ついに銅音は敬語を振り捨てた。
「ロシアンルーレット。ご存知ですよね」
回転式拳銃で命をふるいにかける、時代がかったゲーム。スリルと興奮とちょっとだけの投げやりさに恵まれた、物狂いたちの余興。
それを銅音は知っていた。
それを銅音はやったことがない。
それは銅音を待ち受けていた。
「もちろん、実弾は使いません。ただの運試しです。君たちの運を飲み込めば挑む勇気になる」
「聞いてほしそうだから聞くけどよ。俺たちに勝ったとする。それでどうなる?」
奥村が問うと安心院は不安と興奮がないまぜになった表情で語った。
「成功率の低い手術。ボクが戦場カメラマンをやめるきっかけになった事故を知っていますか」
「ユーゴスラビア紛争で負傷したのは知ってる」
「前線にいたわけじゃない。爆撃を受けたのでもない。老朽化の進んだ市街地で都市ガスの爆発が起きたんです。ボクはいまみたいにバーで酒を飲んでた。衝撃と轟音。フロアの床の半分が抜けた。飛来した金属片が脊椎にめり込んだんだが、痛みはなかった。首の裏側が燃えるように熱かったのは覚えている。誰かに煙草を押し付けられたのかと思った」
「結構な話だな」
「命に別状はかったけれど、デリケートな位置にそれはあった。取り出すのもリスキーってんで十年も放置してあったんですがね、年々少しずつ移動してとうとう大きな神経を傷つけかねない場所にまでやってきた」
「時限爆弾を抱えている、ということか」
「そう、爆弾処理をしようかって気になってね。このままじゃ生きてる気がしない。いや、誰よりも死を間近に感じてるってことは生きてる実感に満ちてるのかな」
安心院は眼に見えて興奮していた。
勝手に盛り上がられても困る、他人の生死に責任なんて持てない、と銅音は断りを入れるべきだったのだ。いや、そうしようとした。
――しかし、
「いいぜ、やろう」
銅音の同意を待たずして奥村が決めてしまった。
(いつもだ、いつもこの男のペースに乗せられる)
渋々頷く銅音。その口からは、ため息か舌打ちかのいずれかが漏れたのだったが、どちらだったか記憶にない。
「わかったよ、でもお金は賭けないんでしょ。命はもちろん」
「安心院の命は賭けられているみたいだぜ。でもそれは奴さんの勝手だ」
「わたしは赤い封筒を取り戻さなきゃ。でもギャンブルはしない」
ここでまた銅音の頑なな信条が顔を出した。安心院は肩をすくめる。
「わかった。では、この封筒はゲームに賭けられるのではなく、参加報酬として君に渡そう。だったらいいだろう? このゲームは純粋な遊びであって賭博じゃない」
「ええ、それなら」
ようやく銅音は納得したようだ。
自分の命を安心院がまな板に乗せようと、それは彼が彼自身に課したゲームのルールに過ぎない。これで心置きなく銅音はゲームを楽しめるはずだ。
――そうして三人は〈パラドクサ〉の個室に入ったのだった。
【辺獄】
回転ドアにはそんなプレートがあった。
賭博フロアは一般と〈背徳の間〉に分けられているが、一般フロアには、いくつかの個室が用意されていた。各々が持ち寄ったゲームをするための場所だ。
ほぼ正方形の部屋は、警察の取り調べ室を思わせる殺風景さだった。防音に抜かりはないが空調はいまいちだ。窓のない底冷えのする室内には無造作に円卓が置いてあり、その表面には拭い忘れた粉末が散らばっている。
「ルールは簡単。弾は二つ装填される。微量の火薬で音が鳴るだけだ。それを三人で順番に回して引き金を引いていく。弾を発射し死んだ人間から脱落していき、最後にひとりが残るという寸法だね」
6分の2の確率で迫る疑似死。
「本当に危険はないんだよね?」
「ああ、大丈夫だ。命の危険はない。ちょっとびっくりさせる仕掛けがあるだけさ」
穏やかに安心院は説明した。
「さて、どなたからやります。銃はボクが用意したんで順番は公平を期すためにあなたがたが決めてください」
奥村と銅音はそれぞれ言った。
「俺からやろう」
「じゃ、わたしは最後で」
はじめは奥村。
二番目が安心院。
最後が銅音。
この順番で二周、ひとりにつき二度引き金を引くだけの駆け引きも何もない、運を試すだけのゲームだった。
「では、はじめましょう」
安心院は絞り出すように言い、リボルバーのシリンダーをカラカラと回した。
「ふん、これでいいんだろ」奥村は銃口をこめかみに添えた。
――カチッ。
一巡目の初回、奥村はためらいなく引き金を引いた。
「実銃をこめかみに当てるってのは、安全だとわかっててもクルもんがあるな」
「ええ、その凄味に大枚をはたいたんですから。さて、次はボクの番ですね」
奥村を見据えたまま、安心院はテーブルの銃を引き寄せる。芝居じみた緊張感。震える手、喉を落ちる生唾。まるで本物のロシアンルーレットに挑むかのように眼を血走らせている。銃把を持ち上げる動作にも外連味を感じずにはいられない。
――カチ。
長すぎるほど引き延ばされた時間の後、乾いた音が響いた。
驟雨を浴びたように汗だくになる安心院、この勝負で命を賭けた手術を行なうかどうかが決まるのだ。考えてみれば、過度に見える緊張も無理はないかもしれない。
「世話バナシするって雰囲気でもないか」茶化すように奥村が言った。
「いや、おしゃべりは気が紛れる。どうぞお気軽に」
そんなセリフとは裏腹に安心院はむっつりと口をつぐんだ。ありありとした拒絶の態度を受けて銅音はチラリと奥村に視線を流すが、奥村はお構いなしに会話を持ち掛ける。
「だったら遠慮なく。安心院さん、あんた情報通だって噂だな」
「それほどでも」
「俺はこう見えてゴジップ好きなんだ。楽しい話はないかい?」
「次はお嬢さん、君の番だ」
スルーされても奥村は気に病む様子はない。短い付き合いだが、この男は本当に図太くて無神経。少なくとも、そう装うのがうまい。
「じゃ、行きます」今度は銅音が奥村の言葉を打ち消した。
安心院から古いベレッタを受け取ると、そのずっしりとした重みにまず驚いた。
銅音の顔から急に血の気が失せた。実弾が込められていなくても、本物の銃から大きな破裂音がするとなれば、慣れない者にとっては飛び上がるほどの迫力になるだろう。
おそるおそる引き金を引く、その指に血管が浮き上がるほどの力みが見える。
お馴染みになった金属音。
どうやら銅音にも疑似死は訪れなかったようだ。
「一巡目は脱落者なし、か」安心院が嘆息する。
「顔色が悪いぜ」
「平気です。さぁ、二巡目と行きましょう」
残り三発分の弾倉に二発の弾丸が込められているとすれば、次は三分の二の確率で死ぬことになる。もちろん本当の死ではないにしても、それは死のシュミレーションではある。
「じゃ、また俺から、だ」
ためらいがちな奥村だったが、こめかみに銃口を当てる前に――パンッという破裂音がして――テーブルに突っ伏してしまう。
(誤射?)
引き金を引いたのは確認できたが、微量の火薬が爆ぜただけでは起こりえない反応に銅音は驚いた。
「当たりだったようですね、いや外れと言うべきか」
うう、と奥村は顔を上げようとする。銅音は無意識に奥村に寄り添う。
「ほう」安心院は興味深げに眼を細めた。
「奥村さん! 大丈夫なの?」
「なんてこたぁねえ、ちょっと腰抜かしただけだ」奥村は青白い顔付きで安心院に食いついた。
「何をしたのよ?!」
銅音が詰め寄るが、
「命に別状はありません。約束は違えていませんよ」
ククク、安心院は愉快そうにくぐもった声を漏らす。
(何かが起きた、それは間違いない。でも何が?)
「ご本人にはご不満の様子はありませんが」
と安心院は厚かましくも言ってのける。
「奥村さん、何が? 本当に平気な――」
銅音の発語を手で制すと、奥村は二度三度と頭を振り、ゆっくりと細い息を吐く。
「問題ねえ、続けようぜ」
青白い顔に喜悦の色が染み拡がっていく。奥村は楽しんでいるのだ。
――やっぱりこの人たちって狂ってる。
「次は安心院、あんただ」
「そうでしたね」
対して安心院の表情は、さきほどとは一転、色濃い恐怖の色と混じり合って醜く濁った。
(密室で青白い中年たちが身悶えしながらニヤニヤしてる。最低な眺めだよね)
ひどく荒い呼吸に肩を上下させる安心院はまるで痙攣を起こした鷺のようだった。眼球が飛び出しそうなほど眼を見開いたまま、左手で銃を構えた。
「さぁ、やれよ」具合の悪そうな奥村はせめて声にドスを効かせた。
――ハァハァ。
激しい息遣い。心臓の鼓動までも聴こえてきそうだ。
すぐに2分の1の確率で勝敗振り分けられる。装われた死のゲーム。にしては安心院の高揚と畏れは真に迫っている。銅音は安心院の頭が撃ち抜かれる幻影を見た。
引き金が引かれた。
部屋を一瞬満たすのは、味気のない金属音だ。安心院は生き延びた。
「やった! やったぞ!」安心院は年甲斐もなく小躍りするかと思えば、すぐにぐにゃりとへたり込む。とてつもないストレスからの一気に解放されて身体に力が入らないのだろう。一気に何歳も老け込んだように見える。
「あんたの勝ちだな」と面白くなさそうに奥村が肩をすくめた。
目論見通り、安心院は奥村と銅音を負かし、彼自身の理論によれば、その運を見事に奪ったことになる。緩慢な死に立ち向かう覚悟が――それとも無謀なゲームに飛び込む体のいい言い訳が――手に入ったのだろうか。
「おめでとう。手術の成功祈ってる」目的を果たした銅音はそれだけを告げて部屋を出ようとした。
「待て」不甲斐なく座り込んだままで安心院が叫ぶ。「まだ、ゲームは終わっていない。最後の引き金を引け」
振り向いた銅音、しかし、言葉を返したのは奥村だった。
「必要ないだろう? もう結果は出た。あんたの勝ちは決まった」
「ゲームの流儀を踏襲するべきだ」
「本物のロシアンルーレットなら、こいつは100%死ぬ。でも、このゲームは偽物だ。わざわざ、大きな音を耳元で鳴らして鼓膜を傷つけることはないだろう」
「大した所縁もない小娘を守るのか?」
「ひとつ聞きたい。最後の一発は俺が喰らったのと同じか?」
貫くような奥村の視線にさすがの安心院もひるんだ。
「ああ、それが? 無害で上品な趣向だったろ?」
引きつった二つの笑みが向かい合った。
「とにかくゲームは幕だ」そっけない言いぶりには気迫がこもっていた。「悪いことは言わない。退けよ、安心院」
「わたしなら、やるよ、最後までやり通さなきゃ寝覚めが悪い」
と銅音はリボルバーを手に取ろうとするが、奥村がその手を捻り上げ、銃を取り上げる。
「ガキは黙ってろ」
「本人がその気なんだ。保護者気取りもほどほどにしないと嫌われますよ」
「これ以上、お喋りを続ける気はねえ、手術台の上で死ぬか、ここで俺にぶちのめされて死ぬか選べ」ここまで怒りをあらわにする奥村を銅音ははじめて見た。
わかりましたよ、と降参するように小さく両手を掲げて安心院は背を向けた。
「ああ――そうだ」
「なんだ?」
「もしボクが死んだら、骨拾ってくださいね。ちなみに大腿骨は高価なセラミックです」
「いるかよ、そんなもん」
乱暴に奥村が吐き捨てる。
【辺獄】に残された奥村と銅音は、同じく取り残された銃に眼を落とす。
「あの野郎、忘れていきやがった」
「どうしてあんなに止めたの?」
確かに奥村の強情さは、少し度を超えて銅音の眼には映った。女子高生といえども、自分の選択の責任を取らせる。それが奥村らしく思えた。
「さぁな、もうこんな茶番に付き合うのも飽きただけだ」
「奥村さん、あの時どうしたの?」
銅音が言うのは二巡目で奥村が脱落した際のことだ。破裂音とともに奥村は机に突っ伏していかにも具合が悪そうだった。いまもまだ顔は青ざめている。
「別に。飲み過ぎたらしい」
「嘘だ」銅音の肩が小刻みに震えている。こうなったら厄介だぞ、と奥村は気疎げな顔をしてみせる。銅音は分限を超えることをためらわない。誰よりもお人よしで騙されやすいくせに一切の誤魔化しが通用しない。
「やめろ、触れるな」銃へ手を伸ばそうとする銅音を奥村は押し止める。「そいつは危険だ」
「だったら教えて」
「わかった。わかったから手を引っ込めろ、俺が喰らったのはフレイ効果(FE)弾だろう。特殊なマイクロウェーブで聴覚に変調を起こす。眩暈、あるいは平衡感覚の喪失。奴は命に危険はないと言ったが、安全が確認されているわけじゃない。こいつは暴徒鎮圧用に開発されたが、実用化は見送られたままでデータが少ないんだ」
「妙なことに詳しいんだね」銅音は薄く笑みを浮かべる。「でも、わたしを庇ってくれたのならありがとう」
「安心院の振舞いが本物のロシアンルーレットの参加者さながらだったのは、FE弾を喰らう恐怖がそう見せたんだろうな。確かに最低の気分だぜ。ま、今夜のことは忘れちまえ。君は欲しいものを手に入れたんだろ?」
「うん」赤い封筒は銅音の懐にある。
「俺の戦利品はこれだ」
奥村は危険だと銅音を遠ざけたリボルバーを手に取った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる