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第二章 首輪と接吻
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芙蓉祭は盛況だった。銅音たちのクラスのコスプレ喫茶はといえば、ピンクや紫のウィッグで仮装した女子高生目当てに大人までもが詰めかけた。
銅音は、一夜漬けで拵えた『セレステッド』という外国アニメキャラのコスプレで当日に臨んだ。キワどいユーモアが人気なコンテンツだが、日本の高校生には人気がないらしく誰も見向きもしない。古い潜水服のような薬缶型ヘルメット越しにクラスメートを眺めるとみんな見知らぬ他人のように見える。
「これで貸し借りなしね」
多忙を極める仮設キッチンで銅音は安心院から受け取った赤い封筒を取り出した。
「てんてこ舞いだ」エプロン姿の森下は汗だくでチャーハンを作っている。段ボールで成型したトサカと鉤爪をくっつけているが、銅音にはそれがゲームの人気キャラだとはわからなかった。こいつも時流に乗れないタイプだと内心侮っていたが、それなりにウケていたのが憎らしい。
「ほら、受け取りなよ」
「やめろ。真っ赤なラブレターを押し付けてくるヤバい女と何かあると思われたら、俺の高校生活は終了する」
「あんたが取ってこいって――」
銅音は怒りに顔が真っ赤になった。封筒の赤と大差ないくらいに。
「冗談だよ、ご苦労さん」
ちょうどキッチンから他のスタッフが出払った。もしかしたら、早とちりな気遣いで銅音たちを二人きりにしたのかもしれない。森下は銅音から封筒を取り上げた。
「馬鹿がこいつを奪われたらしいな。安心院って野郎に」
少しだけ森下の声色が変わった。
「でも、取り戻した」
「ロシアンルーレットだろ。それで安心院ってのは死んだ。モノの受け渡しに手違いがあったのはこっちのミスだ。済まなかったな」
慣れた手つきでフライパンのピラフを宙に数回舞わせたあと、熱の入ったライスを皿に流し込む。食欲をそそる匂いがキッチンから教室中に漂った。
「手術を受けるだけだよ、死んだわけじゃ」
「その手術でくたばったぜ」
きっぱりと森下が言った。
「まさか!」とうろたえた銅音がすがるように見つめるが、森下はそっけなく片方の眉を吊り上げるだけだ。
「ネットニュースにも出てる。有名写真家の死がな」
「嘘でしょ」正体不明の陰鬱さが銅音にのしかかった。
「死因は詳しく載ってなかったが、その手術ってのが――」
次の注文はオムライス。森下はケチャップを出し過ぎて「おっと」と舌打ちをした。
「あらら、しくじった」手術のことかオムライスのことか、銅音には一瞬分かりかねた。そこへ三国志の武将に扮した麻美がキッチンに顔を出した。
「ふたりともそろそろ交替。せっかくだから回っておいでよ」
「関羽に言われたんじゃ仕方ねえ、行くか」
脱いだエプロンを森下は麻美に押し付けた。
「森下君、これは関羽じゃなくて趙雲だよぉ!」
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